ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年4号
特集
実録!中国物流 国内市場が新たな主戦場に

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2005 8 中国政府が外資系企業に国内市場を開放した。
日系企業各社 はいずれも強気の販売計画を立てている。
その裏付けとなる国内 の物流ネットワーク構築も佳境に入った。
そこでは従来の輸出入 物流とは全く異なるマネジメントが求められている。
これに合わ せて物流市場の競争も新たなフェーズに入っている。
(大矢昌浩) 構築している。
政府系企業と並んで、宅急送や大田 集団といった民間の物流ベンチャーもそこに含まれる。
こうした現地系企業は数年前まで輸送品質の点で外 資系荷主の利用には耐えないとされていた。
しかし最 近では評価が変わってきた。
しかも料金は日系を始め とした外資系物流企業に比べて三割近く安い。
実はソニーは既に一部の業務で地元の物流企業も 使っている。
昨年、上海・外高橋の保税倉庫に関し て、ライセンス取得や施設の確保から通関処理、庫内 オペレーションに至るまで、一括して上海市政府系の 上海実業外高橋連合発展国際物流に任せた。
これが 予想した以上に上手く回っている。
地元政府系だけに役人には顔が利く。
同社の取り 回しで、通関業務を一定期間分まとめて集中処理す る、いわゆる?後通関〞や、時間のかかる空港ターミ ナル内での通関を避け、直接保税倉庫内に運びこんで 通関処理するといった工夫をしたことで、それまでは 輸入した製品を出荷するのに三日程度かかっていたも のが翌日になった。
「とりわけ保税倉庫での通関処理は外資系企業には、 なかなか認めてもらえないものだと聞いている。
税関 からも当社だけに認めたとの説明を受けた」と中山 総経理。
今後は彼らのアドバイスを受けながら、増 値税(日本の消費税に似た税金で基本税率は現在一 七%)の還付をすぐに受けられるなどのメリットのあ る物流園区を、輸出用に利用することも検討してい るという。
同様にキヤノンも、これまで中国国内では日系を始 めとした外資系物流企業をパートナーとしてきたが、 今後は現地の有力物流企業も選択肢として考えてい く方針だ。
当面、中国では毎年物流コンペを開催して、 パートナーの見直しを継続的に行っていく。
第1部 国内市場が新たな主戦場に 現地企業もパートナー候補に浮上 ソニーは現在、中国国内の物流プラットフォーム構 築に取り組んでいる。
ライバルの松下電器産業は二〇 〇三年度に約四七〇〇億円だった中国の国内販売を 二〇〇六年度には一兆円にする計画だ。
これに対して ソニーも、二〇〇三年度の二〇〇〇億円強という販 売額を今後二年間で一気に巻き返そうと狙っている。
その裏付けとなるのが中国全土を網羅する販売物流の ネットワークだ。
ただしメーカーが中国で自ら物流資産を所有しよう というわけではない。
そのため「中国ではパートナー の選定が最大のポイントになる。
誰と組んで、それを どうソニー流に鍛え上げるのか。
それをできずに丸投 げするのであれば、我々のような物流担当者を中国に 置く意味もない」と、ソニー中国の中山忠久物流本 部総経理はいう。
これまでソニーは中国の国内物流では三菱商事をメ ーンのパートナーとしてきた。
三菱商事はソニーの要 請に応じて九六年に上海に約二万平方メートルの大 型物流センターを建設。
そのオペレーションはもちろ ん、中国全土への配送まで各地の物流企業を組織す ることでコントロールしてきた。
「三菱商事は良くやってくれている。
商社マン特有 の腰の軽さがあり、料金的にもマーケットレートに合 わせる努力をしてくれる」と中山総経理は評価する。
しかし、そろそろ地元の物流企業も使えるようになっ てきたのではないかとも考えている。
とりあえず、現 地資本の大手宅配会社「宅急送」を一部の配送で利 用してみるつもりだ。
現在、上海だけでも六〇〇〇社近くの集配業者が あると言われる。
そのうち一〇社程度は全国ネットを 9 APRIL 2005 輸入した商品を国内市場で販売する権利、いわゆ る貿易権を、二〇〇四年末までに外資系企業に開放 するという中国政府の公約を受けて、キヤノン中国は 二〇〇二年五月に中国国内における直接販売を開始 した。
これに先立つ半年前に同社の大石弘美物流部 総経理は国内物流ネットワーク構築の命を受けて北 京に赴任した。
それまで中国の国内市場には香港系の販売代理店 を通じて商品を供給していたため、物流ネットワーク は全く白紙の状態だった。
ただし目標とするサービス レベルだけは経営層からはっきりと指示されていた。
注文から二日以内の中国全土への配送だ。
二日とい う数字に明確な根拠があったわけではない。
「広い中 国で全国翌日配送は無理というだけ。
とにかくスピー ドを上げろという指示だった」と大石総経理はいう。
世界的にはトップシェアを誇るキヤノンだが、中国 国内の複写機市場では出遅れた格好になっている。
中 国の複写機市場は日系メーカーがほぼ独占している。
しかし、そのシェアは日本市場では二番手グループの シャープ、ミノルタ、東芝テックが中国市場では先行 し、国内で?御三家〞とされるキヤノン、リコー、富 士ゼロックスは下位に置かれていた。
今のところ中国国内の市場規模は全体でも二五〇 〇億円程度と、グローバルベースで見れば、それほど 大きな重みはない。
しかし年率三〇%のペースで市場 は拡大を続けており、将来的には一兆円市場にまで成 長するのは必至と目されている。
そのためキヤノンも 手遅れにならないうちにシェアを握っておこうという 計画を立てた。
それだけに物流ネットワークには他社と差別化でき るだけの高いサービスレベルが求められた。
もちろん コストはかかる。
それでも商品単価が高いため同社の 対売上高物流コスト比率は中国であっても一%程度 に過ぎない。
物流で差別化することで販売力が向上す るのであれば多少のコストアップは吸収できる。
注文 してすぐに届くことが分かれば、ディーラー側の在庫 の持ち過ぎも予防できる。
つまり短いリードタイムに は中間在庫を減らすという狙いもある。
確実性を重視して最初の物流パートナーは従来から つき合いのあった日系物流企業を中心に選ぶことにし た。
日本では日通がキヤノンの物流の約八割を担って いる。
中国物流でも日通は日系最大手とされる。
当 然、パートナー候補の一つにあがった。
しかし調べて みると当時、日通を始め中国に強いと言われる日系物 流企業でも実績があるのは輸出入物流ばかりで、国内 物流の経験はどこも乏しかった。
唯一、三菱商事だけ が、ソニーを主要荷主として国内物流に関するハード を自社で持ち、オペレーションまで手掛けていた。
中国全土を平均一・七日で配送 三菱商事と二年間の包括的なアウトソーシング契 約を結ぶことにした。
そのサービスには概ね満足でき た。
「当初三〇都市で始まった配送先が事業の拡大に よって、あっという間に二〇〇都市・約七〇〇ディー ラーにまで拡がった。
相当に無理をかけていたはずだ がよく対応してくれた。
トラブルらしいトラブルも なかった」と大石総経理はいう。
しかし二年契約が切 れる二〇〇四年七月に改めて九社に声をかけ、コンペ を実施することにした。
理由の一つは、リードタイムの点で目標に達してい なかったからだ。
配送に三日以上かかってしまうエリ アが、まだかなり残っていた。
「今のところ当社が必 要とするリードタイムを全国規模でクリアできる物流 企業は中国には存在しない。
管理の手間はかかるが当 ソニー中国の中山忠久 物流本部総経理 キヤノン中国の大石弘美 物流部総経理 大田集団はフェデックスの中国国内における集 配も手掛けている。
写真左は大田集団の王生 董事長、右はフェデックスのフレデリック・ス ミス会長 APRIL 2005 10 分の間は、方面別に物流企業を使い分けていくしかな い」と大石総経理は判断した。
横軸に華南、華北、華東の「エリア」。
縦軸に倉庫、 輸送、輸出入の「機能」をとったマトリクスを作り、 エリア×機能ごとに最も優れた物流企業をはめ込んで いった。
パートナーの評価基準としてはもちろんスピ ードを重視した。
選考の結果、三菱商事もメーンとし て残ったが、他に日通、近鉄エクスプレス、佐川急便、 OOCLの四社を利用する形になった。
これに並行して国内七カ所に完成品の保管用倉庫 を設け、約四〇カ所に補修パーツ用のデポを作ってイ ンフラを整えた。
その結果、目標の二日以内配送は航 空輸送の場合はもちろん、陸送する場合でも物量の八 二%までが実現できるようになった。
平均配送リード タイムは今や一・七日だ。
同社の昨年度の売上げは約五〇〇億円。
直接販売 開始から三年で、メーカー別シェアで三位にまで巻き 返した。
北京オリンピックの開催される二〇〇八年に は国内販売一〇〇〇億円を実現し、トップに立つ計 画だ。
物量も飛躍的に伸びる。
そのため「これまでは 信頼性・確実性を重視して外資系を使ってきたが、今 後はコスト面も考慮して国内物流企業も同じ土俵で 比較していくつもりだ」と大石総経理はいう。
こうした動きに現地資本の有力物流企業も敏感に 反応している。
中国全土を専用コンテナ列車でネット ワークする民間物流企業、遠成集団は今年三月、日 本に現地法人を設立した。
狙いはもちろん中国国内の 配送ニーズを持つ日系荷主企業の開拓だ。
宅急送も 日中間輸送を開始。
近く日本に拠点も設ける計画だ。
これまで中国物流市場は、外資系荷主企業と外資 系物流企業、そして国内荷主企業と国内物流企業と いう組み合わせにハッキリと二分されていた。
二つの 市場は料金水準からサービスレベル、商習慣まで全く かけ離れていた。
しかし外資系企業の主戦場が国際物 流から国内市場にシフトしてきたのに伴い、二つの市 場はクロスし始めている。
日通・三菱商事連合の算盤勘定 これに伴い日系物流企業も新たな展開を迫られてい る。
二〇〇〇年以降、日系物流企業の中国ビジネス は急成長を続けている。
しかし利益を出しているのは 輸出入に関わる国際物流に限られる。
国内事業では 各社とも苦戦を強いられている。
とりわけ倉庫事業は どこも赤字で、かろうじて利益の出る輸送事業でそれ を穴埋めしているのが現状だ。
そこに今後は現地物流 企業も競争相手として加わってくる。
人件費の安い現地企業と互して、外資系の物流企 業が国内の物流事業で利益を上げるのは容易ではない。
「外資系物流企業にとって中国の国内物流は自分で手 間をかけるほど収益性が悪化する構造になっている。
今後、競争はますます激化する。
従来と比べて利益率 はさらに低下していくことが避けられない」と三菱商 事の大矢隆司物流事業ユニットユニットマネージャー はいう。
ソニーやキヤノンが頼ったように三菱商事は中国の 国内物流ではパイオニア的存在だ。
同社がこれまで国 内市場向けの物流インフラに投資した総額は二〇億 円を超える。
こうした展開は総合商社の物流事業とし ては異例といえる。
港湾など国際物流のインフラに投 資し、それを長い時間をかけて回収するというのが商 社の通常のビジネスモデルだ。
国内市場にこれほど深 く入り込んでオペレーションまで担うケースは他に例 がない。
現在、三菱商事傘下の現地法人は数字的には全て 遠成集団の黄遠成総裁三菱商事の大矢隆司 物流事業ユニット ユニットマネージャー 11 APRIL 2005 黒字だ。
しかし日本人駐在員のコストは主に日本持ち。
それを含めれば収益は良くてトントン、なかには赤字 になる法人も出てくる。
それも今後は外資系同士だけ でなく現地企業との競合が予想されるとなると、収益 構造の転換は三菱商事にとって必須課題だった。
その 解決策をライバルとの提携に求めた。
三月九日、日通と三菱商事は中国の国内物流事業 に関する資本提携で合意したと発表した。
今年六月 をメドに日通五一%、三菱四九%の比率で共同持ち 株会社を設立。
両者が中国各地に構える物流企業を その傘下に治める。
中国国内に三四都市一〇六拠点 のネットワークを有する日系物流企業が誕生する。
これまで日系企業による中国物流事業は、?御三家〞 と呼ばれる日通、山九、日新の物流専業者と、総合 商社で先行した三菱商事の四社が中心的なプレーヤ ーだった。
このうち日通と三菱商事が組んだことで、 同グループは頭一つ抜けた存在になり、市場の勢力図 は塗り替えられる。
この提携によって三菱商事は従来の強みを維持した まま、国内市場の競争に深入りしないで済むことにな る。
一方の日通は課題としてきた国内ネットワークを 獲得し、他の物流専業者との差別化を実現する。
今 回の提携をテコにして同グループは今後五年間で中国 国内事業の売り上げを現状の二倍にする計画だという。
中国物流の「現場力」 もっとも事業規模の拡大が直接、利益に結びつくと いう保証はない。
それでも商社と違って物流を本業と する日通に他の選択肢はない。
国内物流のニーズを満 たせなければ、いずれ国際物流も失う。
既にDHL、 UPS、フェデックス、エクセルといった欧米系の有 力3PLは、日系企業以上に積極的な投資を国内市 場向けに行っている。
「アジア?1の総合物流企業」を経営ビジョンに掲 げる佐川急便も北京と上海で宅配便事業を展開する 他、今年一月には韓国でも宅配便事業を開始した。
台 湾も二〇〇五年度中にはスタートする計画だ。
規模が 求められるインフラビジネスであるだけに、各地とも 当面は収益的に苦しい戦いが避けられない。
しかし「当社が主要な顧客層とする日本の中堅クラ ス以下の企業であっても、今や中国から東南アジアに かけて事業展開が拡がっている。
そのニーズに応えら れなければ当社は生き残っていけない」と佐川急便の 鳥海志郎国際事業本部海外事業部部長は背水の陣で 臨む。
最大の課題は現地化だ。
中堅物流企業ながら九〇年代初頭の段階で中国国 内の物流事業に乗り出した遠州トラックは、日本人 駐在員の数をできる限り絞り、徹底的に現地化を進 めることで事業を軌道に乗せている。
現在、同社の中 国国内の売り上げは約一五億円。
その中で日本人駐在員の人件費も吸収し利益を確保している。
同社の中国事業を牽引してきた落合岐良取締役は 「中国では物流マンの社会的地位が日本と比べてもず っと低い。
完全な肉体労働という認識で学歴のあるも のはまず避ける。
しかし家が貧しくて学校には行けな かったが、頭はいいという人間が中国にはたくさんい る。
そうした人材をどんどんひっぱり上げて責任のあ る仕事をさせる。
それが当社の収益性の秘訣だ」とい う。
中国物流市場は新たなフェーズに入った。
各種のラ イセンスを取得するための政治力や資金力、企業規模 などの要因から、国境を越えて現地に深く入り込み、 事業を定着させるための、泥臭い「現場力」に競争条 件は移っている。
特 集 佐川急便の鳥海志郎 国際事業本部海外事業部部長 遠州トラックの 落合岐良取締役

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