ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年3号
特別寄稿
実践から学んだ日本型在庫管理法(後編)

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2002 56 実践から学んだ日本型在庫管理法(後編) ムダな在庫が発生してしまう最大の原因は受発注にある。
受発注を なくせば在庫も減らすことができる――そんなコンセプトに基づいて、 ライオンは独自の卸向け自動補給システム「IMS(Inventory Management Based Supply)」を開発した。
ライオン流通機能開発センター関口寿一 副主席部員 受発注なんかいらない流通は基本的にメーカー、卸、小売りの三層から 成り立っています。
この三つの層のつなぎ目で、相 互に重複する作業や在庫などの無駄が発生していま す。
これをなんとか改善する手立てはないか。
一〇 年ぐらい前から、私はそう考えてきました。
特に問題視するようになったのが発注・受注です。
これまでは、店頭に近いところがお客様の動向をそ れだけよく把握しているのだから、そこでの判断が 一番正しいと考えていました。
そのために川下側に 発注してもらっていたのです。
しかし市場に商品が 溢れてくると、この考え方が必ずしも正しいとは言 えなくなってきました。
発注には「売れそうだ」「品薄になりそうだ」と いった人間の思惑が入ります。
思惑は基本的に需要 情報を増幅させる傾向があります。
その結果、正し い情報がメーカーまで届かなくなっている。
メーカ ーには真の市場が見えなくなってきたのです。
店頭で売れた分だけ作るのが本来はメーカーの理 想です。
しかし、実際には生産設備の制約や予測で きない需要変動といった要因に制約を受けます。
店 頭の状況が見えたからといって、それをストレート に生産活動に反映することは事実上、難しいのです。
だからこそ卸の存在理由があるのだとも言えます。
問題は流通構造にあるわけではない。
要は人間が 発注するから、在庫に偏りが生じ、必要な時に必要 とする場所に供給できなくなってしまっているので はないか。
受発注というプロセスの存在こそ、大き な無駄を生む原因になっているのではないか。
流通 三層の受発注をなくし、メーカーが商品供給に関し て責任を持って自動補給すれば課題は解決できるは ずだ、と考えるようになりました。
受発注作業をなくすことができれば実際、ずいぶ ん無駄が省けるはずです。
その効果は単なる処理業 務の省力化だけではありません。
「注文を受けて、そ れに応える」という今までの仕事の仕組み自体が一 変するのです。
必要な量を川上側で決めて供給する 形になり、「店頭で売れた分だけ作る」という本当の 意味での消費起点の供給システムに近づくわけです。
管理手法が各社でバラバラ ただし、受発注をなくすには小売店や卸店の代わ りに、メーカーが責任を持って必要量を判断できる 仕組みが必要です。
これが口で言うほど簡単ではあ りませんでした。
メーカーが卸に自動補給するには、メーカーと卸 で在庫管理ロジックを共有する必要があります。
と ころが、卸店の在庫管理を調べてみると、これが一 つとして同じものがないくらい各社各様、バラバラ でした。
そのままでは当社が自動補給したくても、 卸ごとにシステムを開発しなければ実施できないこ とになります。
全ての卸に納得してもらえる在庫管 理ロジックとシステムが必要でした。
従来から自動発注と呼ばれるシステムは存在しま した。
しかし、それはコンピューターが提案した発 注勧告を、最後に人間が見て判断し、最終的な発 注量をコントロールするというものでした。
相変わ らず人の経験やカンに頼っていたのです。
メーカー側で発注量を自動計算しても、実際の発 注量には手が加えられるわけですから、この仕組み では結局、自動補充はできません。
メーカーで計算 した発注量を取引先が完全に信用し、「計算結果= 在庫補充量」にならないと自動補充システムは機能 57 MARCH 2002 しないのです。
既存の自動補充システムは商品の売れ行きに合わ せて補充量を自動メンテナンスするようになってい ませんので、結局は人手に頼ることになってしまう。
それが世間で多くみられた現実でした。
皮肉なこと に「教科書」で述べられているような在庫管理や発 注の仕組みを、その通りにシステムとして作り上げ ると、そうなってしまうのです。
人手を全く介さないで発注する仕組みが必要でし た。
しかし、我々が求める自動補充システムは世の 中には存在しませんでした。
そうであれば自分たち で作るしかない。
そんな背景のもと、在庫に関する 全く新たな考え方を持ち込み完成させたのが、これ から説明する自動補給システム「IMS(Inventory Management Based Supply )」です。
ABC分析の落とし穴 IMS=イムスというネーミングは英語の頭文字 をとったものです。
読んで字の如く在庫管理をベー スにしながら自動的に商品を供給する仕組みです。
具体的には?補給量計算の基になる在庫管理システ ムと、?自動計算で補給を行う仕組みの二つから成 り立っています。
そのうち今回は?在庫管理システ ムについて説明します。
前回、在庫は「金額」と「量」の二面性を持って いることを説明しました。
実際の在庫管理では、活 用するシーンに合わせて二つの指標を使い分けない といけません。
ところが現実には「金額」と「量」 という在庫の二面性をカバーし、実用面でも活用で きる在庫管理の方法論はありませんでした。
少なく とも在庫管理の教科書やマニュアルでは説明されて いなかったのです。
例えば金額を基準にした金額ベースのABC分析 は、これまでの在庫管理で広く活用されていた分析 手法です。
ところが、現実にABC分析を実施した 結果を調べてみると、実はそこに大きな問題が潜ん でいることが分かりました。
重要度の高いAランク品に区分されているものに は、どんな商品が含まれているのか。
その中身を良 く吟味してみますと、単価の高い商品(紙おむつ・ 高額シャンプー等)や、単価の低い商品(洗剤・漂 白剤等)が混在していました。
それでも現場ではこ れらのA商品を同じ性格の商品として一つに括って 管理していたのです。
同じA商品でも当然、出荷量や頻度は商品ごとに 違います。
にも関わらず同じ対応方法で処理してい たため、実際の売れ行き動向とはリンクしない管理 になっていました。
結果として在庫過剰や品切れを 多発させるという状態でした。
一方、管理上はさほど重要とは考えられていない Cランク商品の中に、必ずしもそうとばかりは決め つけられない商品があることも分かりました。
売上 貢献度は低いけれど、毎日のように出荷されていて、 店頭での品揃上も重要な商品、例えば歯ブラシや爪 楊枝といったものがCランク商品には含まれていま した。
ここから、やはり金額の括りだけで在庫を管理す るのは不充分だという結論に達しました。
「金額」の 面だけでなく「量」的に多いか少ないかという面も 合わせて考慮することが重要であり、この二つの側 面をカバーしないと在庫管理は上手くいかないと考 えるようになったのです。
この問題をクリアするには、今までのABC分 析=金額面だけの分類に加えて、量の要素を入れ込 IMSとは 自動補給 自動計算 在庫管理システム ・卸店からの発注によらずに当社から必要と思われる商品  を補給する仕組みのこと ・補給量は、両社(メーカー・卸)で定めたロジックで自  動計算、補給量は必要に応じて絶えず変動する ・卸店側に精度の高い在庫管理システムが必要。
必要なら  ば当社から新たな仕組みを提供 内容 方法 要件 MARCH 2002 58 んだ管理基盤が必要になってきます。
そのツールとして縦軸と横軸を活用する二次元のマトリックス表 を作ることを思いつきました。
マトリックス表に具体的に現実の商品を当てはめ て試行錯誤を続けるうち、標準的な商品だけでなく、 単価が高いが売れない、もしくは単価は低いけれど 良く売れるといったイレギュラーな商品まで全てカ バーした、新たな管理方法が作れそうだということ が見えてきました。
改めて在庫を分類する IMSでは在庫管理を進める上での「管理基盤」 として縦に金額、横に量をとったマトリックスを使 用します。
このうち縦軸の金額分類はこれまでのA BC分析を使用します。
問題は横軸の「量」という 基準の分類です。
これには少し苦労しました。
流通センターの出荷量は一日ごとに変動します。
そのため、単純に在庫の量が多いか少ないかだけを 押さえただけでは運用実態とかけ離れてしまいます。
一般にチェーンストアの受注処理は曜日のパターン (月・水・金、火・木・土など)で決まっています。
そのため曜日ごとに出荷量が変動することに配慮し て量の分類を考える必要がありました。
単純に量が多いか少ないかで分析するのではなく、 もう一ひねり加えて出荷量を出荷の頻度に置き換え て、対象営業期間内にどの位の頻度で出荷したかと いう基準で横軸の量をカバーしたらどうだろうか、 という考えに到りました。
具体的には上にあるよう に縦五マス、横五マスの計二五通りに在庫を分類す るマトリックス表を考案しました。
この分類表の読み方として、それぞれのマスに入 るグループの性格を、学校の成績と出席態度に置き 換えてみると分かりやすいと思います。
金額の軸は 成績であり、量の軸は頻度ですので出席回数と言う ように置き換えて考えてみましょう。
実際、多数の生徒を受け持つ教師は自分のクラス の生徒を、パターンに分類して教育方針や指導を行 っているそうです。
それと同じように二五通りの管 理基盤に合わせて、それぞれのグループが属する生 徒の性格を大きく四つに分けて、左上を?として右 回りに???の順で分けます。
そのグループそれぞれの性格は、?は授業態度も まじめな秀才タイプ、?はたまにしか学校にこない 問題児で成績も良くないタイプといったように分け られます。
この二つののタイプは実は教師としては扱いやす く、典型的な標準型のタイプということになります。
毎日学校に来て成績も良い優等生が扱いやすいのは もちろんですが、逆に成績も出席態度も悪いという のも一種の標準型であり、実は扱いやすいというわ けです。
問題は残る二つのグループ。
すなわち?成績は優 秀なのに、たまにしか学校に来ないという超問題児 グループ。
そして?逆にまじめに毎日学校に来てい るのに理解が悪いグループです。
教師にとって扱い がやっかいで、対応を誤ると大変なことになるグル ープです。
実は在庫管理も同様で、この二つのグループの管 理方法が一番難しいのです。
在庫管理とは基本的に 在庫量と商品確保のバランスです。
その観点から四 つのグループのそれぞれの性格と管理のポイントを 説明します。
まず?のグループは安定的に一定量が出荷されま すので四〜五日分の在庫を確保しておけば良いとい 商品別管理基盤テーブルの作成 金額ランクと日数ランク 日数ランク 金  額 日  数 S A B C D 1 2 3 4 5 金額ランク S A B C D ?標準的な  優等生 ?成績のい  い不良 ?標準的な  不良 ?まじめな  劣等生 〜20% 20〜40% 40〜60% 60〜80% 80〜 金額 ランク 出荷金額 √上位 S A B C D 営業日の80%以上(ほぼ毎日) 50〜80%(週2〜3回) 20〜50%(週1〜2回) 5〜20%(月1回〜週1回) 〜5%(月1回以下) 日数 ランク 出荷日数 59 MARCH 2002 うことが分かります。
これに対して?はたまにしか出荷されないわけで すので、?と同じ基準で在庫を確保すると過剰にな ってしまいます。
?は出荷してから次回分の商品を 確保すれば間に合いますので、出荷量の一〜二日分 を在庫として持っていれば充分出荷に対応できます。
?グループは月に一回程度しか出荷されませんの で量としてはほんの少しの在庫を持っていればよい 商品です。
しかし、アイテム数が多く、過去にはヒ ットした時期のあった商品もこの中には多数含まれ ています。
その結果、実際には在庫が一年分あると いった商品がざらに存在します。
本来であれば、緻 密に管理すべきですが、どうしても後回しになり、 なかなか手が回らないというタイプの商品です。
品 切れよりも在庫過剰に気をつけなければいけないグ ループです。
?は売上は小さいけれど、安定的に毎日出荷され る商品です。
金額的な貢献度は低くても、?と同様 四〜五日分の出荷に耐える量を確保しておく必要が あります。
そうしないと結局、毎日入荷処理をしな ければならなくなります。
品切れの多発を引き起こ す危険の大きい、非常にやっかいなグループです。
このように在庫を「金額」と「量」という二つの 側面からグループに分けて、そのグループの性格に 合わせた管理をすれば過剰在庫や品切れといった問 題がコンピューターでも適切に解決できるようにな ります。
つまり人手を介すことのない自動処理が実 現できるのです。
もちろん、商品の売れ行きは日々変化しますので、 管理基盤は毎週メンテナンスする必要があります。
IMSは商品が管理基盤上でどのポジションにいる のかを把握することで問題が眼に見える仕組みにな っています。
在庫に関するこうした考え方こそIM Sの特色であり、新しさだと自負しています。
現在、当社の取引先卸十数社がIMSを活用し ています。
その効果として在庫金額二二%削減、欠 品率半減という数字が確認されています。
同時に当 社側では商品供給面での予測が立てやすくなりまし た。
今後は自動補給の対象を拡大して、IMSの算 出した供給量を生産活動に反映させたいと考えてい ます。
あと一〜二年でそれが実現できるところまで きました。
やっと当面のゴールが見えてきたところ です。
まとめ 在庫とは企業経営の根幹をなすものであり、客観 的に経営実態を把握できるもっとも重要な指標であ るはずです。
しかし、一般には在庫管理というと倉 庫に商品がいくつあるかを管理するといった程度の 認識しかないようです。
在庫管理のデータは、財務 や経理面で活用する在庫データとは全く別ものとし て捉えられていたように思います。
本来の在庫管理システムは企業内の各階層が必 要とする情報を瞬時に引き出して誰にでも把握でき るものでなければならないはずです。
そのためには 在庫の「金額」と「量」という二つの側面を必要に 応じて自由に変換する仕組みが必要です。
それがI MSなのです。
もっとも、私のような考え方をしている実務家は 現状では少数派でしょう。
IMSの考え方を普及さ せるには、まだまだ多くのエネルギーと時間が必要 だと覚悟しています。
しかし、今日のように在庫問 題が大きくクローズアップされるようになると、そ れも案外近い将来なのかなと期待しています。
(せきぐち・としかず) 1974年ライオン油脂入社。
14年 間、家庭品の営業を担当した後、現 職に異動。
主に卸店の物流機能強化 支援を担当し現在に至る。
現場での 支援を行う中から「イムスシステム」 を開発し、その普及に努めている。
PROFILE

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