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MARCH 2002 18
――日本には存在しなかった「棚卸代行サービス」と
いうビジネスに目を付けた経緯から教えてください。
小売業者にとって、店舗の商品の数をすべて数え直す
棚卸は大変、面倒な作業です。 一年に二回か四回、その
ためだけに普段はやらない作業をやる必要がある。 だから
こそ米国では、六〇数年前に棚卸代行サービスという業
態が生まれたんです。 ところが、かつての日本には、棚卸
を外注するという考え方そのものがなかった。
約二五年前に、千葉県のある小売チェーンのオーナー
が、棚卸代行サービスの会社を新設するために社内にプ
ロジェクトチームを作ったんです。 このオーナーは自分の
会社で棚卸作業の大変さを実感していたため、米国にこ
れを代行するサービスがあると知ると、いずれ日本でも必
要とされる時代が必ずくるだろうと考えたんです。
――そのとき芦部社長はどういう立場だったのですか。
もともと私は、この小売りチェーンとは別の会社で貿易
関係の仕事をしていたのですが、新しい会社を設立するプ
ロジェクトに参加するために転職してきました。 そして七
八年には、プロジェクトに参加していた五人の社員の一人
として、米国ロサンゼルスのマスコリーノ・インベント
リ・サービス社に勉強に行ったんです。
マスコリーノ社は、当時すでに三〇数年の歴史を持つ
棚卸し代行サービスの老舗企業で、今でもカリフォルニア
のスーパーマーケット(SM)を中心にサービスを提供し
ています。 ここで私達が四カ月間の研修を受けている間に、
日本ではオール・ジャパン・インベトリー・サービス(現
エイジス)が設立されたんです。
コンビニと共に成長
――日本で御社のことを最初に認めてくれた顧客は?
そもそも我々はSMのノウハウと、マスコリーノ社のノ
ウハウを武器に業務をスタートしました。 しかし、最初に
大口の顧客になってくれたのはコンビニエンス・ストア
(CVS)でした。 ちょうど当時はセブン・イレブンやロ
ーソンが大きくなっていた時期です。 彼らが全国展開する
勢いに乗って、我々も成長してきたという面がある。
ただ当時、CVSは、もの凄い勢いで数が増えていま
したから、とても我々一社だけではカバーしきれなかった。
それに当社としては米国で学んだノウハウを活かして、大
型店を手掛けたいという希望もあった。 ちょうどそんなと
きに、セブンで我々の営業窓口だった方が独立して自分
で棚卸代行サービスの会社を立ち上げたんです。 それで
我々は、大型店への営業を強化するようになりました。
――CVSが最初に認めてくれた背景には、何か特別な事情でもあったのですか。 CVSというのはフランチャイズ契約ですから、利益の
中から何%かを配分するというやり方をしています。 その
ためには管理を厳正にする必要がある。 ですから棚卸を外
部に出すというのは、監査の意味もあったんです。
――大手総合量販店(GMS)はどうだったのでしょう。
まるまる一店舗を外注するようになったのは、確か五年
ぐらい前の話です。 ジャスコ(現イオン)さんから受注し
ました。 それ以前にも店舗の一部を依頼されるケースはあ
ったんです。 例えば、書籍売り場とか手芸売り場のように
面倒くさいところについては外部に出すことは少なくなか
った。
そこに我々の方から、バックヤードを含めて多層階の店
舗を全館やりますという提案をしていきました。 店舗の規
模にもよりますが、GMSを一店舗やると一〇億円分ぐ
らいの商品がありますからね。
米国発・棚卸業代行
――
エイジス
芦部克生
社長
「人手を集めることではなく
生産性にノウハウがある」
エイジス
芦部克生社長
ビジネスモデル
小売業の棚卸業務を代行する。 全国を直営
三八営業所とフランチャイズ三社で網羅してお
り、約二〇〇人の正社員が小売業者への営業
とマネジメント業務を担当。 実際の棚卸作業は
約二五〇〇人いる「登録社員」が行う。 サー
ビスの価格体系は「人時ベース」と「数量ベー
ス」の二通りあり、業態や店舗規模によって決
まる。 最近では陳列代行サービスなどの新分野
の開拓を進めている。 物流倉庫に保管中の製
品の棚卸を依頼されるケースも増えている。
沿 革
七八年設立のエイジスは、米マスコリーノ社
の専門ノウハウを携えて、日本にはじめて棚卸
代行サービスという概念を導入した。 エイジス
によると現在の日本の棚卸マーケットは、小売
19 MARCH 2002
――エイジスの業績を見ると、非常に経常利益率が高い
のに驚かされます。
だいたい十一%ぐらいはあります。 これは我々としても
毎年、生産性を高めてきた結果です。 現在の日本の状況
では、人件費水準が大幅に下がることはあり得ません。 コ
ストを下げるには生産性を向上させるしかない。
――具体的にはどんなことをしてきたのですか。
一つはトータル人件費の問題があります。 例えば、お客
さんから一〇万円をもらっていて、現場で作業をする人件
費が五万円かかるとする。 これをどうすれば、四万五〇〇
〇円に抑えられるかという工夫があります。
あるいは個人の生産性という意味においては、一時間
で二〇〇〇個数えているのを、どうすれば二一〇〇個に
できるかということを考えるわけです。 社内では『ブロッ
ク・カウンティング』と呼んでいるのですが、いちいち商
品をさわって数を確認するのではなく、目で見るだけでカ
ウントできるようにならなければ高い生産性は得られませ
ん。
――棚卸という業務の性格上、波動性が非常に大きいと
思うのですが、そのあたりの工夫はどうしているのですか。
当社には「登録社員」という制度があって、一度、う
ちで研修を受けた人達をデータベースに登録するようにな
っています。 我々の仕事は専用の端末を使いますので、い
きなりできるものではありません。 テンキーボードを見ず
にブラインドタッチで機械を操作できるというのが、現場
で棚卸に携わる際の最低条件です。
また、性格的にこの作業に向いているかどうかもありま
すので、研修でそれを見極めておくことも生産性を高める
ことにつながります。
――しかし、登録社員の管理というのは、先方の都合もあ
って簡単ではないのでは。
きちっと管理しています。 繁忙期が終ると、すぐに次の
繁忙期にあわせてスケジュールを組んでもらうようにする
んです。 登録社員のなかには当社専業でレギュラーで働い
ている人と、繁忙期だけ来てもらう人がいます。 学生は結
構いますが、主婦はほとんど使っていません。
うちの場合、パートタイマーというわけにはいかないん
です。 棚卸作業の終了時間を約束できるとは限りません
から。 場合によっては、予定時間を過ぎても、作業が完
了するまでは帰れません。 そういう場合は、現場のスーパ
ーバイザーの判断で、見通しが立った段階で一部の人か
ら徐々に業務を終了させるように工夫することによって、
人件費をコントロールしています。
人材派遣会社には真似できない
――事業が成功した一番のポイントは人の使い方ですか。
そもそもね、人の使い方が重要なのは、それで生産性が
変わってくるからなのですが、他社を見渡しても生産性が
どうのなんて管理をしているところは稀なんです。 うちの
従業員のなかにも同業他社から移ってきた人がいますが、
生産性なんてこれまでは言われたことがないという。
ある店舗に棚卸に行くことが決まったとします。 そうし
たら、その店舗の規模などから棚卸作業にどれくらいの労
力がかかるのかを試算します。 そして、翌日の開店時間ま
でに確実に作業を終了するためには、どれくらいの人数を
派遣すれば足りるかを決めるわけです。 こうしたノウハウ
は一朝一夕に真似できるものではありません。
――人材派遣会社がライバルになってくるということはな
いのですか。
実際、二年ぐらい前に何社か進出してきたことがあり
ますよ。 しかし、ほとんど撤退してしまいました。 人材派
遣会社が軽作業を請け負うような場合は、事前に研修を
するわけではありませんからね。 ただ人を集めてくるだけ
です。 聞くところによると、当社のシステムを分析して、
これはダメだと諦めてしまったところもあったようです。
人材派遣の場合は、人をたくさん投入することで商売
をしています。 恐らく彼らにとって二月は閑散期になるた
め、それを埋めるために参入してきたのでしょう。 しかし、
ただ単に人を集めてきてもダメなんです。 やはり棚卸とい
うものを知らなければ、絶対にこの仕事はできません。
業の事業規模から算出すると約一〇〇〇億円
あるという。 このうち既に専門業者に外部委託
されているのは推定一〇〇億円。 エイジスが約
七割のシェアを握っている。
エイジスの業態別の主な売上構成は、コンビ
ニが二六・五%、スーパーマーケットが一四・
七%、ホームセンター・ドラッグ・ディスカウ
ントストアが一二・七%、ブックスが十一・
一%、GMSが一五・六%。 セブンをはじめほ
ぼ全ての大手CVS、イオンやイトーヨーカ堂
などのGMS、さらにユニクロやダイソーとい
った勢いのある流通業者と取り引きがある。
七八年の創業以来、常に前年を上回る売り
上げを記録し続けており、二〇〇一年三月期
の業績も売上高六七億四九〇〇万円(前年比
二一・九%増)、経常利益八億三一〇〇万円
(同五〇・〇%増)。 高い利益率を確保し続けて
いる。 九六年十一月にジャスダックに上場した。
http://www.ajis-group.co.jp
特集その後の物流ベンチャー
棚卸作業を行う登録社員は、事前にエイジスの社内に
再現された店頭で研修を受ける。 ここで専用端末の使
い方をマスターしたうえで現場に派遣される
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