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MARCH 2002 32
――エスビーエス(SBS)のようにサプライチェーンの
全てのプロセスをグループ内に取り込むスタイルは、現在
の経営のトレンドである「集中と選択」とは逆行します。
なぜコア・ビジネスに特化しようとはしないのですか。
基本的に飽き性なんだね。 (笑)ただね、光通信がそう
だったし、今のユニクロもそうかも知れないけれど、特定
のビジネスを大きくし過ぎると、いつか頭打する時がくる。
市場競争は、一本調子では勝たせてもらえない。
――しかし、東京圏中心に密度の高い配送ネットワークを
作ることに成功した関東即配を他のエリアに拡大すること
は可能でしょう。
物理的に距離が離れると目が届かない。 これまで僕は
自分の目が届くところでビジネスをやってきました。
社員と夢を共有する
――そのままでは個人商店の域を出ないことになる。
格好良く言うと、ランチェスターの法則ですよ。 今とな
ってはともかく、これまで当社は大手物流業者から見れば
弱者でした。 だから戦いの局面を広げたくなかった。 また
現状では首都圏市場を掘っていったほうが、地方展開す
るより需要が大きい。 経営効率もいい。
――もう一つ疑問があります。 物流以外の分野に横展開し
ていく時に、SBSはなぜ必ず資本を入れるのか。 それぞ
れの分野には既存のプレーヤーが存在します。 彼らとの提
携という形もあり得たはずです。 そのほうが成長のスピー
ドも速い。
当社も提携は実施していますよ。 ただ、単なる提携と
資本を入れる提携とでは大きな違いがあるのも事実です。
単なる提携であれば結ぶのは簡単ですが、実際にプロジェ
クトを進める段階ではテンポが遅くなる。 別の仕事が忙し
くなると、そっちに行ってしまうとかね。 資本を入れた血
の通った結びつきのほうが、やはり強力に機能する。
――ベンチャーで大きな制約となる人材の問題には、これ
までどう対処してきましたか。
優秀な人材を外部から採ってきました。 彼らが入社す
ると必ず僕の横に机を置いてもらう。 そして議論したり飲
んだり食ったり、とにかく四六時中いっしょに話をする。
信頼関係ができるまで徹底的にやります。 そうやって僕の
ファンになってもらい、夢を共有してから、色んな分野に
出していく。 そうした人材の定着率はとても高い。 それが
経営者としての最大の仕事だと考えています。
――時間がかかりますね。
だから成長が遅いんですよ。 (笑)
――SBSは近々、株式の公開を目指していますね。
はい。 ただし、SBS本体は公開しますが、その下に非
公開で安定してキャッシュを生み出せる会社をたくさん網
羅していくグループ展開を想定しています。 オペレーショ
ンはそうしたグループ会社に任せ、SBSはグループ戦略
やファイナンスの機能を担う。
――現在もSBSは事業持ち株会社の形態ですよね。
今はそうですが、将来的には現場を保たない純粋持ち
株会社の形になっていくかも知れません。 オペレーション
の部分をどんどん傘下企業に落としていくと、SBSの
役割はファンドマネージャー的な機能に収れんされていき
ますから。
――そもそも株式を公開する理由は。
やはり直接金融が目的です。 銀行からの資金調達には
限界があります。 数十億円規模のファイナンスを銀行借
り入れだけで処理すれば、総資産が膨らむし、金利リスク
も高い。 それよりも株式市場からの調達のほうが有利です。
地域密着の3PL――
エスビーエス
鎌田正彦
社長
「グループ企業100社、
年商2000億円を目指す」
エスビーエス
鎌田正彦社長
ビジネスモデル
「宅急便並の価格で専用便並のサービス」を
売り文句に、軽トラックによる密度の濃い自社
配送網を構築。 一都三県の即日配送サービス
を開発した。 その後、倉庫、メール便、静脈物
流、人材派遣、情報システム開発、コールセン
ター、ウェブマーケティングなど、機能別のグ
ループ企業を次々に設立。 営業エリアを首都
圏に絞って広範囲なアウトソーシングを請け負
う地域密着の3PLを展開している。
沿 革
鎌田正彦社長は一九五九年、宮崎県生まれ。
県立延岡高校卒業後に上京して佐川急便に入
社。 八八年に独立し、軽トラック運送の関東
即配を創業。 その後、物流隣接市場に積極的
に進出し、グループ規模を急拡大させた。 現在、
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当社の総資産は現在、四〇億円程度です。 資産が年間
に四、五回転する。 普通は一回転ぐらいですから、かなり
効率がいい。 しかも総資産の中身は売掛金や自己資本、投
資有価証券です。 身軽なんです。 ただし、土地を持って
いないから銀行から融資を受ける際の担保がない。 当社
の担保はキャッシュフローだけです。 そのことも市場から
資金調達する理由の一つです。
――逆にこれまでも公開しようと思えばチャンスはあった
と思いますが、なぜ今まで引っ張ったのですか。
以前はそもそも株式を公開しようとは思っていませんで
した。 自分の能力の範囲、自分で許せる資金の範囲内で
経営してきた。 基本的には銀行からの借り入れでやってき
た。 確かにその気になれば公開できたかもしれない。 ベン
チャーキャピタルなどから公開を勧められたことも何度も
ある。 しかし、他人の出資を入れたくはなかった。 他人の
資本が入ると、経営判断のスピードが遅くなる。 返さなく
ていい資金が入ってくると、ワキも甘くなってしまう。
それよりも個人で連帯保証した上で銀行から金を借り、
返す責任があるからこそ、会社が強くなると考えてきまし
た。 実際、田舎から出てきて一人で信用金庫へ行ってお
金を借りて、それを返す。 そのうち都市銀行が貸してくれ
るようになって、それを返す。 この繰り返しでした。 誰の
金にも頼らなかった。 その結果、成長のスピードが遅れた
ことは否定できません。 しかし、それでもいい。 会社の経
営というのは一生続く長い戦いですから、それでいい。
公開利益でM&A図る
――そんな鎌田さんが株の公開を意識し始めたのはいつの
頃からですか。
五年ぐらい前ですね。 当社がメーリング事業を始めた時
に都市銀行から無担保で一億円を借り入れることができ
たんです。 その資金で事業展開に弾みがついた。 事業規
模が一気に大きくなった。 その経験から当社がこのまま成
長を続けていくには、やはり資金調達力が必要だ。 株式
を公開して会社をパブリックなものにしていかないと、こ
れ以上の成長は難しいと考え方を改めたんです。
実際、僕自身の役割もだんだんと変わってきました。 創
業当初は関東即配の一点を社長としてずっと堀り進んで
きたわけですが、途中からは色々な会社を設立し、そこに
経営者として責任者を置いて、彼らをハンドリングする形
に変わってきた。 経営者というより投資家に近い役割が
増えてきた。
――上場後に何をやるんですか。
グループを二〇〇〇億円規模に持っていきたい。 その
ためにはM&Aが必要です。 M&Aなしには一〇〇〇億、
二〇〇〇億という規模は達成できない。 既に私の頭の中
には買収したい会社があります。 そのための資金を調達す
るわけです。
同時にベンチャー企業の支援も行う。 現在、ボランテ
ィアでベンチャーの塾を手がけています。 彼らに出資をし
て起業を支援する。 それも当社の事業の大きな柱になり
ます。 そうやって出資したベンチャー企業や買収した企業
で、合わせて一〇〇社ぐらいをSBSの傘下に置く。 そ
の一〇〇社が平均二〇億円を売り上げれば全体で二〇〇
〇億円のグループができあがる。
――珍しいグループ展開ですね。 なぜSBS自体を大きく
しようとはしないのですか。
本体で全ての業務をやれば、本体がおかしくなると全部
ダメになってしまう。 しかし、グループ展開であれば、ダ
メになった企業を切り離すことができる。 売却することが
できるからです。
ヤマト運輸の小倉昌男さんのように経営者が「宅急便」
という一つのテーマに集中して会社を大きくしていくより
も、小さな会社が一杯まとまってグループを結成したほう
が強力だとも考えました。
――つまり、グループ企業を淘汰させることで、環境の変
化に自由に適合できる。
その通り。 本体はグループ会社の経理・財務機能だけ
を受けていればいい。 後は一〇〇人の社長が経営すると
いう形です。
グループの本部は一万人のパートスタッフを抱
えるエスビーエスに置いている。
二〇〇〇年十二月期のグループ連結売上高
は一四五億円。 経常利益約五億円。 二〇〇一
年十二月期は前年比二〇%増の約一七五億円
となった模様。 今期は二〇〇億円を見込んで
いる。 現在、エスビーエスは株式公開準備を進
めている。 エスビーエスを持株会社として、傘
下にオペレーションを担うグループ会社一〇〇
社を配置するグループ展開を目指している。
http://www.sbs-group.co.jp/top.htm
特集その後の物流ベンチャー
軽トラ配送から出発し、機能別にグループ企業を設
立して事業の多角化を進めてきた。 一般廃棄物収集
運搬業の許可も取得。 静脈物流も手掛けている
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