ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年3号
特集
その後の物流ベンチャー 自転車メッセンジャー――ティーサーブ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2002 36 ――まず池谷社長のキャリアから教えてください。
大学を中退して、そのまま今の仕事を始めました。
もと はと言えば、在学中に外資系のPR代理店でメッセンジ ャー・ボーイのアルバイトをしていたのがきっかけです。
最初は地下鉄やタクシーなどを使って頼まれたものを届け ていたのですが、そこに私が自転車を持ち込みました。
単 純にサボるためだったんですけどね。
ちょうどその頃、ニューヨークには自転車便のメッセン ジャーが三〇〇〇人いるという話を聞きました。
それで、 これはビジネスになるなと思ったんです。
――それで一気に起業に踏み切ったのですか。
うーん、起業とかそういうことは全く考えていませんで したね。
これは八八年ぐらいの話ですが、当時はバイト料 が時給八〇〇円の時代です。
そのときに初めてバイク便 の価格を知って驚いたんです。
三キロ、三〇〇〇円ぐら いだったんですが、「えーっ高いな」と思いましたね。
三 キロを自転車で走れば、だいたい一〇分か一五分あれば いい。
自分がもらっていた時給八〇〇円で計算すると、半 額の一五〇〇円で請け負っても十分に成り立つ。
そこから始まったんです。
ただし、自分で起業して、会 社を大きくするなんてことは考えてもいませんでしたね。
バイトで使われているよりは、自分で直接仕事を受けるほ うが、楽に稼げるんじゃないかと思ったに過ぎません。
――バイク便の近距離輸送を取り込むというのが最初の狙 いだったわけですね。
三キロ、三〇〇〇円はあまりにも高すぎますからね。
当 時、たまたまバイトで世話になっていたPR代理店の上司 が、他のPR代理店に移ったんですよ。
そのときに個人的 にメッセンジャーをやってくれないかと頼まれたんです。
周りの人達に意見を聞くと、「どうかなぁ」という反応 が多かったんですが、とりあえず声をかけてくれた上司に 何をすればいいかを尋ねたんです。
すると、まずは伝票を 作って、ポケベルを一個買えと言う。
それで必要なものを 用意して、三キロ、一五〇〇円という価格で個人的に仕 事を請け負い始めたんです。
――その後、正式に独立されたわけですが、また何か転機 があったんですか。
最初は専属だったんですが、彼の仕事をやっているうち に口コミで広がってしまったんです。
そのPR代理店に出 入りしている間に、「最近、会社にきてる若い彼、誰?」 と聞く人が出てきて、その上司の方も「あー彼ね、自転車 便だけど安いよ」と宣伝してくれた。
そうこうしているう ちに、だんだん仕事が増えていったんです。
そして、とうとうアルバイトの方に手が回らなくなってしまった。
それで自然の成り行きで独立しました。
八九年 三月の話です。
最初は会社を作るわけでもなく、個人的 にやっていただけですけどね。
成り行きまかせで年商五億円 ――独立してからしばらくは一人だけだったんですか。
独立してから三カ月後に、いま副社長をやっている田 中が加わりました。
仕事が増えて一人ではさばききれなく なっちゃって、相方を見つける必要があったんです。
そこ で外資系の証券会社に勤めていた田中に声をかけました。
彼とは高校の同級生なんですがね。
――その頃には法人化というのも考えていたのですか。
いやいや、まだ「ホージンて何?」てな感じですよ。
そ の程度の認識ですから、有限会社を作るのにいくらかかっ て、株式会社がいくらかかるのかすら知らなかった。
まっ たくの成り行きです。
ただ実際に仕事をしているうちに、 自転車メッセンジャー――ティーサーブ 池谷貴行 社長 「いずれは地域密着型の BtoCに挑戦したい」 ティーサーブ 池谷貴行 社長 ビジネスモデル 東京都心部(千代田区、港区、中央区、渋 谷区)を中心に、企業から出る緊急書類を自 転車で運ぶ。
料金は三キロ、一六〇〇円が基 本。
主な顧客は広告代理店、PR代理店、外 資系企業など。
「メッセンジャー」と呼ばれる 一四〇人の自転車部隊を、「ディスパッチャー」 と呼ぶ運行管理者が二〇人を一チームとして 管理している。
単にA地点からB地点に荷物 を運ぶだけでなく、複数のメッセンジャーによ る引き継ぎ配送などを行うことで生産性を高め てきた。
目下の最大のライバルはバイク便。
沿 革 八九年の創業以来、バイク便の近距離配送 ニーズを、小回りの利く自転車便で取り込んで きた。
オーダーの電話から一五分以内に書類を 37 MARCH 2002 だんだんと考えるようになってきましたね。
大きな証券会 社と付き合うのに、まったくの個人では具合が悪いんじゃ ないかとかね。
――ティーサーブがはじめて事務所を構えたのは、いつだ ったのでしょう。
九二年に新橋に借りたのが最初です。
家賃は月額五万 円ぐらいだったと思いますが、たった二坪の事務所です。
このとき初めて登記もして有限会社を設立しました。
よう やく会社の住所をおおっぴらに出せるようになったんで、 求人広告を出したりもし始めました。
それから二年後には 株式会社にしたんですが、事務所を構えるようになってか らは毎年、スペースを拡張し続けています。
――仕事が順調に増え続けたということですね。
我々の仕事は頭で稼ぐわけじゃありませんから、売り上 げの拡大に応じて人が増えてきます。
それに、いろいろな 機能も必要になってきた。
必然的に事務所も拡張せざる を得なかったんです。
ですから最初に借りた新橋の二坪の 事務所が手狭になると、その隣を借りて、それでも狭くな ったら赤坂のマンションの一室に移りました。
次は借りる マンションの部屋数を増やしたりという感じで、とにかく 毎年、拡張し続けてきました。
実はうちには営業部隊がいないんです。
チラシを播いた りも一切しません。
すべて口コミです。
あとはうちのメッ センジャーが、どこかに届け物をすると、その荷物に付い ている伝票を見て連絡をくれるケースも少なくありません。
今年こそ少し売上高の伸び率が落ちましたけど、ずっと前 年比一三〇%ぐらいで成長していますよ。
ラストワンマイルのデリバリー ――御社は自転車便としては圧倒的なトップ企業です。
ラ イバルに対する優位性は何なのでしょうか。
結局、この仕事は人海戦術なんです。
一人の人間が一 日にいくら売り上げるかで勝負が決まります。
価格は安く なる一方ですから、件数をこなさなければ当然、売り上げ は伸びません。
効率を上げる必要があるんです。
そのため に何をするかですよ。
うちの場合は、独自に開発した情報システムと、「ディ スパッチャー」と呼ぶ運行管理者の存在が他社にはない 強みになっています。
技術という点では、うちに匹敵する 仕組みを持っている自転車メッセジャーは世界中探して もいないでしょうね。
そのぐらい自信がありますよ。
――これまでは、企業の緊急書類を中心に運んできました。
今後もその方針は変わらないのでしょうか。
私は二年ぐらい前から?地域密着型のメッセンジャ ー〞という構想を持っています。
これは皆さんが住んでい る地域の半径三キロ以内において、頼めばメッセンジャー がいろいろなモノを持ってきてくれるというサービスです。
インターネットで受注を受けることを前提とするB to Cの ビジネスです。
例えば、Aさんがネット上でレンタルビデオを借りる手 続きをしたとします。
その情報を受けたティーサーブが、 ビデオをピックアップしてAさん宅に届ける。
牛乳屋や、 クリーニングでも考えられます。
いわばラストワンマイル のデリバリーですよ。
――しかし、自転車で運べる荷物というのは重さや大きさ に制約があるのでは。
そんなことありません。
トレーラーを引けばビール二ケ ースとか米一〇キロでも運べます。
現にアメリカではやっ てますよ。
今はね、本当は自分の住んでいる地域で売って いる商品を、わざわざ遠くで購入することによって物流を 増やしているんです。
それがインターネットを使えば地域 内の機能をもっと活用できるようになる。
従来は来店があ ってはじめて売り上げにつながった店舗が、来店しないお 客さんのニーズにも応えられるようになる。
――そうなると、かなり物流やロジスティクスを意識した 話になってきますね。
まだ、あくまでもアイデアとして私の頭の中にあるだけ です。
お金もかかりますから、投資でもしてもらわなくて は自分達だけではできません。
ただビジネスモデルとして、 やってみたいという気持ちはありますね。
ピックアップし、それから一時間以内でスピー ド配送するサービスを謳い文句にしている。
創 業者の池谷貴行社長は、早稲田大学在籍中に メッセンジャーのアルバイトをしながら自転車 便に着目。
大学を中退して起業した。
九〇年代を通じて、ほぼ一貫して前年比三 割増で売り上げを伸ばしてきた。
二〇〇一年 三月期の売上高は五億円、経常利益は四〇〇 万円。
全国で一〇社弱あるといわれる自転車 便の実質的なパイオニアで、圧倒的なトップ企 業でもある。
ここ数年間で六〇〇〇万円を投 じてきた独自開発の情報システムと、運行管理 のノウハウが武器。
自転車便による宅配ビジネスは、自転車メッ センジャーの発祥地であるニューヨークでは既 に一般的だ。
現在では四〇〇社、五〇〇〇人 のメッセンジャーが活動しているといわれる。
また、九九年に公開された日本映画「メッセン ジャー」は、創業当時のティーサーブをモデル に作られた。
http://www.t-serv.co.jp 。
特集その後の物流ベンチャー 運行管理を担うディスパッチャー。
彼らの瞬時の判断が生産性を左右する メッセンジャー「アヤノ」。
彼女のユニ フォームはスポンサーのアパレルメーカ ーから支給されている

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