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APRIL 2002 66
純粋に評価されない倉庫業界
倉庫業界は不動産賃貸事業に支えられた
相対的に安定した収益構造、土地や有価証
券等の含み益の多さなどを理由に、株式市
場ではディフェンシブストックとして、折に
触れて注目されることがある。 市場環境が
良くない時に、資金の逃げ道的な考え方か
ら倉庫株へシフトするという動きも見受け
られる。 物流事業者としての競争力が純粋
に評価されていないし、事業の成長性を理
由に積極的な投資が行われているとは言い
難い面もある。 こうした評価が定着するこ
とは、この業界にとって好ましくない。
倉庫事業者の中で、三井倉庫はいち早く
本業回帰、すなわち物流事業の強化施策を
掲げ、変化への一歩を踏み出した。 二〇〇
二年三月期を初年度とする中期三カ年計画
を策定し、その実現を試みている。 「企業価
値、資本コストを意識した経営施策の実践」
という経営目標を掲げている。
本稿では、過去一年あまりを振り返って、
同社がどのような施策が講じてきたのか。 さ
らに今後どのような施策を検討しているか、
について整理する。 大きく?既存事業にお
ける利益の拡大、?グループ経営の効率化
の推進、?既存事業の質的転換及び新規事
業の開発促進――の三点に区分して、話を
進めていく。
まず「既存事業における利益の拡大」だ
が、ここでは物流事業における生産効率、人
件費構成・労務単価など全てのコストの見
直しを行い、価格競争力の強化を図ること
で、取扱数量の拡大と利益率の向上を同時
に目指す、としている。 二〇〇一年初旬は、
地域密着の営業推進を目的とした九州支社
の分社化、事業効率化と競争力強化を目的
とした国内外の子会社解散などを実施した。
現在は、米国や東南アジア地域の現地法人
における事務所等の統廃合、人員削減等に
よって、コストの適正化を進めている。 物
流設備については、埼玉県加須市、常陸那
珂港、マレーシアでの倉庫新設および増設
に着手した。
また、不動産事業では自社保有の芝浦ビ
ル(八階建て、延床面積約一万坪)を情報システム対応のインテリジェンスビルにする
リニューアル工事を行った。 同ビルにはセ
キュリティー、バックアップ体制を持つデ
ータセンターが設置されている。 今年一月
には本社、関東支社、グループ各社も同ビ
ルに移転した。 テナント誘致が進めば、将
来の安定的なキャッシュフローも期待でき
る。
情報武装化を推進中
第二の「グループ経営の効率化の推進」
では、営業コストのみならず、経営に関わ
る全てのコスト削減を目的として、管理部
門業務の統合、資金運用管理の一元化、資
第13回
三
井
倉
庫
三井倉庫は二〇〇一年度にスタートした新中期経営計画の中でコスト削減
や子会社再編などの合理化策を進めることに重点を置いている。 すでに海外
現地法人拠点の統廃合、物流情報システム分野の子会社再編と業務提携・資
本提携を実施した。 同業他社に比べ業績が堅調に推移することが期待されて
いるが、市場は一連の施策に満足しているとは言い切れない。 不動産業から
IT物流業への業態変革が求められている。
北見聡
野村証券金融研究所
運輸担当アナリスト
67 APRIL 2002
産の有効活用推進を目指す、としている。 不
動産事業では、子会社で行ってきた不動産
賃貸業務を親会社に吸収し、事業の効率化
を進めている。 金融関係では、グループ全
体の資金効率化の向上と有利子負債の圧縮
等を目的として、金融子会社を設立した。 余
剰資金を抱える子会社から資金を吸い上げ、
資金不足の子会社への貸付を進めて負債を
圧縮したり、資金調達窓口を一本化するな
どして、金融コストを抑制している。 また、
新人事制度の導入も行い、生産性の改善に
努めている。
第三の「既存事業の質的転換と新規事業
の開発促進」では、現在開発を進めている
物流情報システムを軸に、国内外の物流拠
点・物流機能を有機的に組み合わせ、顧客
にとって利用価値の高い物流サービスの提
供を目指す、としている。
昨年七月には、物流情報システム分野の
子会社再編と業務提携・資本提携を実施し
た。 一〇〇%子会社のサン・ビジネスサポ
ート(SBS)のIT事業部門とコールセ
ンター事業部門を分割し、新設する「ロジ
スティクス
システムズ
アンドソリュ
ーションズ(LSS)」に承継。 さらに、新
会社はアイエックスナレッジ(店頭公開企
業)に対する第三者割当増資を行う。 結果
として新会社の資本金九〇〇〇万円を三井
倉庫八〇%、アイエックスナレッジ二〇%
で保有することになる。
同社は中期的な事業戦略として輸送・保
管・通関などを一括管理するLIT(ロジ
スティクス・インフォメーション・テクノロ
ジー)サービスの構築・拡充を掲げており、
今回の新会社設立は具体的施策の一つであ
る。 外部のリソースを有効に使い、効率化
していく方向性はポジティブに捉えられよ
う。
?不動産の三井〞から脱却を
ここまでの方向性、すなわちコスト削減
や子会社再編などの合理化施策は奏功し、同
業他社と比較すれば堅調な短期業績が期待
できる。 しかし、業界環境の悪化以上に、会
社が変化していくかという点で、株式市場
はまだ完全な回答を同社から得られていな
いと受け止めている。 同社の掲げた経営目
標「企業価値、資本コストを意識した経営
施策の実践」の最終的な数値目標などにつ
いては、試行錯誤の途上にあるように認識
されるからである。
経営改革やIR活動の改善などの定性的
な評価だけではなく、株式市場への訴求効
果を高めるだけの実績を伴うことが不可欠
であり、それが同業他社との差別化につな
がると考えている。 物流情報システムの開
発・運用や、流通加工などを伴う物流の一
括管理業務など、従来型の保管業務に依存
しない新しいサービスの拡大を図っている
が、こうした新事業により業界内での評価
が固まるかが中期的なポイントであろう。
「不動産の三井倉庫」、「倉庫事業の三井倉
庫」などの標語ではなく「LITの三井倉
庫」と呼称されるようになるか、というの
がポイントになるのではないだろうか。
きたみ
さとし 一橋大学
経済学部卒。 八八年野村
証券入社。 九四年野村総
合研究所出向。 九七年野
村証券金融研究所企業調
査部運輸セクター担当。
社団法人日本証券アナリ
スト協会検定会員。
プロフィール
三井倉庫の過去5年間の株価推移
(円)
(出来高)
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