ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年4号
特集
実録!中国物流 園区と海運が拓く日中間物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2005 18 香港系の大手海運会社、OOCLグループの子会 社、OOCLロジスティクス(ジャパン)の棚田隆憲 取締役は、日本のホームセンター業界ではちょっとし た有名人だ。
同社は、中国や韓国から物品を調達す る国際物流に強い3PLとして、複数の大手ホームセ ンターの物流管理を請け負っている。
ホームセンターの店頭に並んでいる商品の八割方は 海外からの輸入品だ。
にもかかわらず、リスクを嫌っ て海外産品を国内卸から調達する小売りが少なくない。
こうした小売りに対して棚田取締役は、海外で直接、 商品を買い付け、自ら在庫を管理してこそ粗利を拡 大できる、と説き続けている。
さらに日本国内の中間流通にまで踏み込めれば大き な成果を期待できる。
直接購入を実現するために、小 売りのバイヤーと一緒に中国の工場にまで赴くことも 珍しくない。
そうやって生産拠点から小売りの店頭に 至る流通過程の効率化に取り組んできた。
グローバル競争を勝ち残った外航船の運賃は、いま や条件が同じであればほぼ横並びだ。
しかも日本の国 内流通まで含めた総物流費のうち、海上運賃が占め る割合は二%にも満たない。
仮に一〇%の運賃値下 げを勝ち取ったとしても大勢にはほとんど影響しない。
それなのに「オーシャン・フレート(海上輸送運賃) やトラック運賃を叩くのが、物流担当者の仕事だと思 っている人が少なくない」と棚田取締役は嘆く。
実際の効果を考えれば国内の流通も含めた国際物 流全体の仕組みをシンプルにする方が、よほど現実的 だ。
こうした前提に立って「もしお客さんが在庫で一 番困っているのであれば、どうすれば在庫回転を良く できるかを我々は考える。
こうした取り組みが成功す るかどうかは荷主のトップ次第だが、一部の企業はす でに成果を挙げている」(棚田取締役) 複雑な要因が絡みあう国際物流では、在庫リスクと の見合いで輸送モードを使いわける必要がある。
ただ でさえ日中間の国際物流は急速に変化している。
新し い制度や輸送モードを、いかに上手くサプライチェー ンに組み込むかが物流マンの腕の見せ所になる。
上海スーパーエクスプレスの実力 二〇〇三年十一月、日本通運、住友商事、商船三 井、上組の四社は、上海・博多間で高速貨物フェリ ーの定期運行を開始した。
「上海スーパーエクスプレ ス」(SSE)と名付けられたこのサービスは、船便 でありながら、航空便に近いトータルリードタイムを 実現したことを売り文句にしている。
通常のコンテナ船の場合、上海・博多間のドアツー ドア輸送には最低でも一〇日間かかる。
これがSSE では最短四日まで短縮された。
航空便の約三日には 及ばないものの、運賃は格段に安い。
現状ではまだ週 二便のシャトル運航に過ぎないが、将来的にはデイリ ー化も視野に入っている。
船の高速化による海上輸送時間の短縮と、貨物を 積んだトラックやシャーシを車両ごと運ぶRORO船 の投入が大幅なスピードアップにつながった。
さらに JR貨物との連携によって、海上輸送をした十二フィ ートコンテナ(五トン積み)のまま日本国内で鉄道輸 送できる点も総リードタイムの短縮に寄与した。
工業用ミシンで世界一位のJUKIは、このサービ スにいち早く目をつけた。
同社で貿易業務に携わって いる生産・物流管理本部の荻原克郎課長は、その効 果を次のように説明する。
「五トンコンテナに積む貨 物の量は約四トンになる。
航空便で上海から運んでい たときには、国内の主力工場である大田原(栃木県) まで約一〇〇万円かかった。
これをSSEとJR貨 園区と海運が拓く日中間物流 先駆者たちの視線が中国国内へとシフトしても、多くの荷 主にとって日中間の国際物流は依然として大きな課題だ。
高 速フェリーの就航や中国物流園区の登場で、ユーザーの選択 肢は増えている。
日本の港湾事情の変化も見据えながら、日 中間の物流全体を最適化する必要がある。
(岡山宏之) 第3部 19 APRIL 2005 特 集 物による輸送に切り替えたことで約二〇万円にできた。
通常のコンテナ船の十三、四万に比べれば高いが、航 空便に引けをとらないリードタイムを思えばコストメ リットは非常に大きい」 JUKIは日本企業としてはかなり早い段階の九 〇年に、中国国内に本格的な生産拠点を構えた実績 を持つ。
工業用ミシンの主力ユーザーである縫製業者 が、人件費の安い国にどんどん移動するのを追いかけ てきた結果そうなった。
現在、同社が中国工場で作っ ている製品のうち六五%は中国国内で販売している。
残り三五%は全世界に輸出しているが、このうち日本 向けは一%にも満たない。
縫製大国の中国には、ミシンメーカーや部品サプラ イヤーがひしめいている。
ミシン部品のかなりの部分 を中国国内で調達することが可能で、これをJUKI は日本向けに輸出している。
こうして大田原工場に運 び込んだ部品と、付加価値の高い日本製部品をセッ トして高級ミシンに仕立てる。
この上海・日本間の緊 急輸送に航空便を使っていた。
これを可能な限りSS Eに移行して目覚ましい成果をあげた。
ただし現状では、上海から博多に向かう便しか利用 していない。
博多から上海にむかう輸出業務について は、現状では中国側での通関手続きなどが手間取るこ とがあって、トータルの輸送リードタイムが一週間以 上かかってしまうケースがあるからだ。
このため基本 的にはコンテナ船を使いながら、急ぎの荷物は航空便 で運ぶという従来通りの体制を維持している。
同じ航路を通るシャトル便でありながら、往路と復 路でリードタイムが様変わりしてしまうところに国際 物流の難しさがある。
各国の輸出入の手続きの違いな どに起因するのだが、こうした条件は税関の姿勢次第 で変わる。
その好例がSSEだ。
SSEが生まれた背景には、国際物流港としての 機能を強化しようとした博多港の存在がある。
同港の 協力があったからこそ迅速な輸入手続きが実現した。
土曜日の早朝に博多港に着いた荷物は、すぐに税関 の臨時開庁を利用して通関手続きを受ける。
そして、 その日のうちに福岡の貨物ターミナルから鉄道で全国 配送する。
複数の関係者による連携プレーが、画期的 なスピードアップにつながった。
ネットワークで差別化する日通とヤマト もっとも日本通運・海運事業部の小川正志チャイ ナ・ロジスティクス・セールス・チーム専任部長は、 SSEの特徴はスピードだけではないとアピールする。
「通常の海コンより小さい十二フィートの五トンコ ンテナを投入することで、多頻度小口化を志向するS CMに適するようにしてある。
さらに、このサービス の本当の強みは日本国内のインフラとスムーズにつな がる点だ。
港から内陸に離れた拠点に運ぶケースほど有利になる」 SSEには日通の総合力が活かされている。
JR 貨物との連携だけでなく、博多についた貨物を福岡航 空支店に横持ちすれば日本各地への素早い空輸も容 易だ。
博多港で内航海運につなぐこともできるし、S SEと同様のコンセプトで博多・釜山(韓国)間を 就航中の関釜フェリーとの相乗効果も見込める。
こう した多様な国内ネットワークと結びつけることで、日 通は日中間物流の勝ち組をめざそうとしている。
日通のような派手さはないが、ヤマト運輸の子会社、 ヤマトロジスティクス(YLC)も虎視眈々とビジネ スチャンスを伺っている。
宅急便ネットワークの海外 展開には背を向けたヤマトグループだが、第二の柱と 位置づけているロジスティクス事業では積極的に海外 OOCLロジスティクス (ジャパン)の 棚田隆憲取締役 JUKIの 荻原克郎課長 博多 上海 博多 上海 航海時間 26h 上海 博多 東京 月曜日 水曜日 木曜日 木曜日 土曜日 日曜日 ●上海スーパーエクスプレス(SSE) APRIL 2005 20 展開を図る方針だ。
当然、中国物流への本格参入も 視野に入っている。
同社で国際物流を牽引する前田健次海外戦略部長 は、中国での営業展開をこう説明する。
「昨年、発効 したCEPA(経済貿易緊密化協定)を使えば中国 事業を格段に早く展開できる。
まず四月に広州に現 法を立ち上げる。
その後、北京や大連など中国国内の 七カ所に設置してある駐在所を順次、広州ヤマトの支 店に格上げしていき、営業基盤を一気に整える」 YLCは、日通がSSEで実現した五トンコンテナ より、さらに小口化した物流にターゲットを絞ってい る。
中国に生産拠点を置く日系メーカーの部品サプラ イヤーのなかには、東京都大田区の町工場のような中 小企業が少なくない。
彼らは日本国内でしか作れない 部品や技術を供給している不可欠の存在だが、現状 では物流管理などがネックになって進出メーカーの要 望に応えられずにいるケースがある。
こうした中小企業の輸出物流を一手に引き受けて、 中国国内に設置するVMI倉庫からメーカーの生産 拠点に部品を供給するビジネスをYLCは狙っている。
中小企業の経営規模に合わせてカゴ車単位で貨物を 動かすことで、ヤマトならではの強みを発揮できるよ うに、海コンに適合するカゴ車も試作中だ。
これをヤ マト本体の「ボックスチャーター便」と組み合わせれ ば国内外の一貫輸送が実現する。
中国物流の先行組と同じ土俵に乗るつもりはない。
「我々の強みはあくまでも日本国内のネットワーク。
こ れを活かせれば、中国国内で差別化できなくても勝機 はある」とYLCの星野芳彦取締役。
国際物流の本 格化をテコに、ヤマトグループは向こう三年間でロジ スティクス事業を一二〇〇億円近く伸ばそうと計画し ている。
ほどなく結果がみえてくるはずだ。
日中間物流を巡って海運、陸運、航空貨物、3P Lなどの各分野から主要な物流業者の顔ぶれが出揃 いつつある。
過去に国際複合一貫輸送と呼ばれてきた 事業分野では、こうした物流業者が競合するケースは ほとんどなかった。
今後は、フォワーディング業務が 中心だったこれまでとは異なるレベルで、各社が物流 サービスを競い合うことになる。
注目される物流園区の可能性 物流事業に関する中国側の制度も目まぐるしく変 化している。
なかでも注目すべきは、昨年七月に上海 で設置された「物流園区」だ。
これは香港やシンガポ ールと同様の自由貿易港が中国本土にも設置された と理解すると分かりやすい。
園区では、従来の保税区 で可能だった行為に加えて、多くの規制緩和がなされ ている。
園区を利用する最大のメリットは、ここに貨物を持 ち込んだ時点で「増値税」の還付手続きを始められる 点にある。
増値税とは中国国内で行う商取引にかかる 税金で、日本の消費税に似ている。
輸出のために中国 国内で調達する物品は最終的に税率ゼロになる仕組 みだが、実際に海外に持ち出さない限り増値税の還付 手続きは始められない。
基本税率が一七%と高いため、 中国に進出した外資系企業の悩みのタネだった。
増値税の還付手続きを早めるために、中国に進出 した外資系メーカーの多くはこれまで、中国国内で購 入した部品をいったん香港に持ち出し、また中国の組 み立て工場に持ち込むといった工夫を施してきた。
こ のようにムダなことをしてでも増値税の還付手続きを とれるようにしなければ、調達先の部品サプライヤー の資金繰りが悪化してしまうためだ。
これが園区を使 えば不要になる。
Day2 Day3 Day4 Day5 Day6 Day7 Day8 上海発 中部着 輸入通関 WBLZ搬出 CY搬入 国内配送 センター WBLZ搬出 CY搬入 WBLZ搬出 CY搬入 日本港着 輸入税関 WBLZ搬出 上海発 WBLZ搬出 Day1 航空便 上海スーパー エキスプレス 上海フェリー コンテナ船 上海発 国内配送 センター 海上輸送 海上輸送 海上輸送 国内配送 センター 日本港着 輸入税関 国内配送 センター 出典:商船三井ロジスティクス CY搬入 CY搬入 上海発 上海港の略図 East China Sea The Yangtze River WBLZ 外高橋保税 物流園区 外高橋CY 外高橋保税区 ●上海→博多経由で名古屋までコンテナ輸送する場合の  輸送モード別リードタイム比較 ※WBLZ=外高橋保税区物流園区 日本通運・海運事業部 の小川正志専任部長 商船三井 ロジスティクスの 一志崇登執行役員 21 APRIL 2005 さまざまな特典を与えられているだけに、園区の賃 料は保税区の二倍程度と高い。
それでも日本国内で 保管するのに比べれば格段に安い。
荷姿の自由な変更 が許されている点も物流業者には魅力だ。
昨年七月に スタートした上海外高橋保税物流園区(WBLZ)の 第一期には既に四社が進出した。
日系企業としては 唯一、商船三井ロジスティクスが審査を通り、前掲し たOOCLロジスティクスも拠点を構えた。
「園区を利用すれば、中国国内に会社を持たない日 系企業が、中国で購入した商品を在庫しておくことが 現実的な選択肢になる。
ただし、そのためには施設・ 人材・ITが欠かせないため当社は日本国内の施設 にも劣らない拠点を用意した。
場合によっては、欧州 から日本に輸入する大型家具などを上海の園区に在 庫しておくといった使い方もできる」と商船三井ロジ スティクスの一志崇登執行役員の鼻息は荒い。
今年一月にスタートした第二期では、日通、近鉄エ クスプレス、山九、アルプス物流などの日系物流業者 がこぞって園区に進出した。
中国の当局は、新たに青 島、寧波、大連などへの園区の設置も発表している。
今後は、賃料の高さを吸収できるモデルを構築できる かどうかで物流業者の命運が分かれることになる。
近鉄エクスプレスの現地法人、北京近鉄の稲村寿 通董事長は航空フォワーダーならでは構想を描いてい る。
「日本に工場を構えるメーカーが海外調達する部 品を園区に保管しておけば、ここをVMI倉庫として 使える。
エアであれば上海から東京の輸送時間は短い。
ここから必要に応じて部品を供給すれば、過去になか ったビジネスモデルを実現できる」 変わりはじめた日本の港湾 園区に象徴されるように、中国側の物流インフラは 急速に進化している。
その一方で、中国に在庫拠点を 移すといった新しいビジネスモデルに、日本側の制約 が赤信号を灯す可能性も出てきた。
日本の港湾におけ る輸入通関の手続きは、現状では航空貨物よりはるか に時間がかかる。
日本の輸入通関には「一括搬入」という慣習があ って、コンテナ船が入港したときに、全コンテナの搬 入が完了するまで通関手続きを始めない。
全量を保税 地域に移動し終えた時点で、はじめて手続きがスター トする。
こうした昔ながらのやり方が輸入手続きに時 間を要する一因になっている。
だが最近では日本の輸 入通関にも変化の兆しがみえる。
たとえば「一括通関」というのがある。
日本の荷主 が中国の現地企業から商品を直接買い付けて、これを 中国で在庫しながら小ロットで輸入しようとすると、 一本のコンテナに複数の取引先からの購入商品を混 載することになる。
本来の日本の通関ルールでは、決 裁相手の数だけインボイス(送り状)を添付する必要があるため、多頻度小口化のために複雑な混載をする ほど、輸入通関の手続きが煩雑になってしまう。
つまり中国国内で園区のメリットを活かして仕分け などの流通加工を手掛けても、一方では日本での輸入 手続きが煩雑になるという新しいマイナス要因につな がりかねないのである。
こうした制約があると結局、 荷主は日本国内でも在庫を持たざるをえず、中国側の 規制緩和が進んでもメリットを活かせない。
しかし、この輸入通関の手続きにも柔軟な対応が出 てきた。
既に中国国内で売買契約が成立している以 上、取引の実態としては荷主は自分の荷物を運んでい るに過ぎない。
この点に着目して、一コンテナ当たり 一枚のインボイスでOKとする一括通関が増えている のだ。
日本の港湾も変わりつつある。
特 集 ヤマトロジスティクスの 星野芳彦取締役 ヤマトロジスティクスの 前田健次部長 北京近鉄の稲村寿 通董事長 ヤマトロジスティクスの上海現法 北京近鉄の園区内倉庫

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