ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年4号
特集
物流業の倒産と再建 業界再編のトリガーを引く

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2002 14 物流アセット・マネジメント業 ――ノンアセットの3PLというビジネスモデルを選 んだ理由は。
「創業当初からノンアセットで行こうと考えていま した。
もともとお金がなかったということもあります が、例え資金が潤沢にあったとしても、当社が後発組 である以上、アセットを持つことにメリットはないと 考えました。
またエリアとしては地元の大阪から始め よう。
業態としては、インターネットを活用した『e ― ロジスティクス』のブランドイメージを確立できるク ライアントとお付き合いするようにしよう、といった ことを創業時の事業計画に盛り込みました」 「創業する前、私は花王ロジスティクスに在籍して いました。
その時代に拠点集約を実施したことがあり ます。
それによって物流は合理化できましたが、協力 業者との契約打ち切りや、現場スタッフの人減らしを するのはとてもツライ仕事だった。
トラックや人を抱 えることのしんどさをイヤと言うほど味わった。
その ため、自分で会社を経営するようになったら、現場の オペレーションに必要なリソースは案件ごとに協力業 者と契約する形で確保するようにしようと当初から考 えていました」 ――ノンアセットの3PLとなると最初は純粋なコン サルティング業に近い商売にならざるを得ない。
「最初はそうでしたね。
そうするしかなかった。
その 後、会社が安定してきた段階で物流のアセットマネー ジャー的な役割を果たそうという計画でした。
そうし たタイプの物流業者は周りにはありませんでしたが、 過去の経験から、そこに物流のニーズがあると分かっ ていた」 ――既存の運送会社や倉庫会社のビジネスモデルを、 どう評価していたのですか。
「陳腐化するのは間違いないと思っていました。
こ れだけ海外シフトが進めばB to Bの物流市場が縮小 していくのは明らかです。
同時に従来の輸出型から 輸入型にモノの流れが変わることもはっきりしている。
一方でヤマト運輸の宅急便のような、消費者のライ フスタイルを提案していくタイプの物流ビジネスには 膨大な設備投資がかかる。
今さら当社が参入して敵 うわけがない」 「結局、当社はB to Bで生きるしかない。
そうであれ ば、これから伸びる可能性のあるインターネット物流、 eビジネスのブランドイメージを持ったクライアント と仕事をしたかった。
それがアスクルであり、ユニク ロ(ファーストリテーリング)だったんです」 ――なぜ、それほどeビジネスにこだわったのですか。
「当社のサービスを特徴付けるブランドとして分か りやすいからです。
ワールド・ロジという会社がどの ようなイメージを持つべきかには強くこだわった。
既 存の運送業や倉庫業のイメージでは仕事にならない。
そう思っていました」 ――しかし、消費者物流市場でない限り、物流業の 看板として重要なのは信頼性ぐらいであって、ブラン ドイメージそのものがそれほど重要だとは思えません が。
「いや、私は大事だと思う。
とくにロジスティクス、 3PLというサービスでは重要になる。
そういうブラ ンドを持つことで、金融スキームなど既存の物流業者 にとっては敷居の高かった事業展開がスムースにでき るようになる」 ――既存の物流業者とは狙う市場自体が違う? 「違いますね。
だから競争相手にもならない」 ――営業スタイルはどうですか。
「業界再編のトリガーを引く」 名門フットワークの再建に手を挙げたのは創業わずか5年 足らずの物流ベンチャー、ワールド・ロジだった。
資産を持 たないノンアセット型3PLを展開する同社は、フットワー クの再建を契機として物流業界の再編を先導し、今後数年 内に自らを年商1000億円規模のプレーヤーにまで成長させ ようという青写真を描いている。
ワールド・ロジ上井健次 社長 Interview 15 APRIL 2002 特集 物流業の倒産と再建 「営業はしていません。
当社には営業部隊自体がな い。
ホームページを開設しているだけです。
だからこ そブランドが大事なんです。
また当社がクライアント を選ぶのは、このビジネスではプロジェクトを失敗さ せたら、その後一五年ぐらいにわたってずっと後ろ指 を指されることになると知っていたからです。
当社の ビジネスの基本はセンターの新設です。
仕事の結果が 長い間、残る。
逆に一つ成功させたら一五年間、褒め 続けてもらえる。
実績がブランド力になって信頼を勝 ちとることができる」 「センターの新設プロジェクトを成功させるのは容 易ではありません。
世間では一〇あれば九のセンター が何らかの形で失敗している。
クライアントの経営者 自身、そのことをよくご存じです。
立ち上げの難しさ は十分理解している。
そこに当社の強みがある。
花王 での経験がその裏付けになっています。
私が花王で率 いていたチームは過去にも決して失敗しなかった。
そ のときのチームメンバー八人がそのまま独立して立ち 上げたのが当社です。
それだけの自信がある」 ―― 花王で培った物流ノウハウは普遍的に使える? 「実際に花王を飛び出して、とくにそう感じました。
それまで社内で考えていた以上に花王の物流の考え方、 段取りは優れていた。
それは様々な業界に適用でき る」 特積みモデルは陳腐化した ――九七年十二月の創業以来、業績は倍々ゲームで 伸びていますね。
「お陰様で昨年六月期の売上高が約五二億円。
今年 は七二〜七三億円を見込んでいます。
しかし、一〇〇 億円で一つの壁にぶつかる。
その規模までいくと組織 の運営、意志決定のスピードが課題になってくる。
こ れから四〜五年のうちに、どうやって売上げ規模を一 〇〇〇億円クラスまで成長させるか。
それを中長期的 な目標にしています。
一〇〇〇億円規模を実現するこ とで、当社は業界再編のトリガーとなり、プレーヤー としての存在感を出せるようになる」 ――それだけの規模がないと存在感がない? 「ないですね。
当社以外の物流ベンチャー企業も同 じことを考えていると思います。
どこがそれを早く実 現するかが勝負です。
売上高でちょうど三〇億円を超 えた頃に今後、どこまで規模的な成長を続ける必要が あるのか、社内で議論しました。
その時の結論が一〇 〇〇億円でした」 ――一〇〇〇億円規模になってもノンアセットという 業態は維持するつもりですか。
「基本的には維持したい。
数字的には資産を持たな いほうがデリバリーにしてもオペレーションにしても 効率がいいのは明らかです。
しかし、ある程度のアセ ットは持たざるを得なくなるかも知れません」――日本の物流業の規制緩和が実施されてから既に一 〇年以上が経過しましたが、今のところ業界大手の顔 ぶれはほとんど変わっていません。
大型の倒産もフッ トワーク以外には出ていない。
「そろそろだと思います。
これから数年で再編が本 格化する。
大型の倒産も出てくるはずです。
バブル崩 壊と規制緩和から一〇年経って、大手物流業者の体 力は既に限界に達している。
米国の物流市場のように 大手の名前が消え、新しい会社が出てくる。
基本的に 大手の運送会社はヤマトと佐川の二社に喰われる。
伏 兵がメーカーの物流子会社。
そして独立系が出てきて、 覇権を争うという形の再編を想定しています。
当社も そんな会社の一つを目指している」 ――ヤマト、佐川以外の特別積み合わせ業者は現在、 ワールド・ロジノンアセット型3PLを展開する物 流ベンチャー。
ロジスティクス計画の立案とセンター のオペレーションに強みを持つ。
アスクル、ファース トリテーリングのパートナー企業として急成長を続け ている。
2001年6月期の売上高は約52億円。
創業者 の上井健二社長は1960年、大阪生まれ。
花王ロジス ティクスを経て独立。
ワールド・ロジを設立し現在に 至る。
会社概要 APRIL 2002 16 軒並み経営不振に陥っていますが、そうした大手特積 みの経営をどう見ていますか。
「かなり危険な状態にあると思います。
ここ一〇年 余りの物流市場で何が起こったのかといえば、何より 小規模業者が増えた。
六〇〇〇社から一万社ぐらい 増加した。
大手特積みの売上げは、彼らにどんどん吸 い取られている。
しかし大手はアセットを持っている から運賃水準を崩せない。
路線便は定期バスのような ものですから固定費がかさむ。
採算は悪化の一途を辿 っている」 ――特積みのビジネスモデルは既に陳腐化した? 「それははっきりしている。
大手特積みの本籍地が どこにあるか。
大部分は繊維産業の集積地です。
産地 に本籍地を置いている。
もしくは鉄です。
しかし、既 に日本の繊維産業や鉄など、かつての基幹産業は終わ りかけている。
大手特積みには過去から蓄積してきた アセットを維持する力がなくなっている」 ――それに対してワールド・ロジはノンアセット型の 3PLを目指しているわけですが、米国の3PLとの 違いはありますか。
「米国の3PL自体が現在、過渡期に来ていますよ ね。
生き残るところと、そうでないところがハッキリ してきた。
4PLや、サードパーティー・フルフィル メントという新しい言葉も出てきた。
また米国では陸 上輸送でも五〇〇〇キロの距離がある。
これに対して 日本は地理的に狭い。
管理対象となる範囲はせいぜい 三〇〇キロ圏内です。
土地のコストも全く違う。
五〇 〇〇坪のセンターを作っても米国では二〇億円もかか らない。
企業スキーム自体が違う。
使うハードも違う。
そこでのロジスティクス計画はおのずと米国のそれと は違ってくる」 ――日本の3PL市場ではワールド・ロジや物流子会 社のほか、どのような会社が台頭してくると予測しま すか。
「当社のクライアントであるアスクルのような会社 だと思います。
彼らは次世代の流通業者です。
アスク ルの業態は今のところB to Bですが、その仕組みは限 りなくB to Cに近い。
そのうちヤマト運輸と競合する ことになっても全く不思議はない」 ―― ワールド・ロジが想定する3PLとは、卸業務、 いわゆる帳合いまで含めた流通サービスの提供ですか。
「そうです。
我々がそうしたビジネスモデルを作ろう と考えています。
ロジスティクスをベースにした『ブ リッジビジネス』です。
単なる物流業者ではなく、卸 であり、商社であり、サプライヤーでもある。
金融ス キーム・プラス・ロジスティクスというモデルです」 フットワーク再建の労務管理 ――ワールド・ロジの資本構成を見るとベンチャーキ ャピタルやプライベートファイナンスが株を持ってま す。
当然、これから株式公開を目指していくわけです ね。
「そうです。
会社を設立した翌年には株式の公開を 意識し始めました。
株式公開で調達した資金でIT インフラを整備し、後は買収を進めようと考えていま す。
買収をしない限り、数年内に一〇〇〇億円規模 まで成長することなどできない」 ――物流会社を丸ごと買うことで荷主を確保するわけ ですね。
フットワークの再建に名乗りを上げたのも、 そのためだと考えていいのですか。
「フットワーク一社で二万五〇〇〇もの荷主を持っ ています。
それをカテゴリーやクラスや機能で分類し て、適切なサービスを提供する。
それこそが3PLの 機能だと思います。
先ほど当社には営業部隊がいない 17 APRIL 2002 とご説明しましたが、それは荷主を獲得する方法を変 えようということなのです」 「もっとも、フットワークを買収した最大の狙いは 荷主の獲得ではありません。
当社は既にアスクルさん と全国ネットワークを作った。
別にユニクロさんとも 作った。
しかし、今後も荷主別に全国ネットワークを 作ろうとは思わない。
それでは効率が悪い。
全国網と いっても運送だけであれば、パートナーに専業者がい ればいい。
それがフットワークの買収に乗り出した理 由の一つです」 「もう一つは、(ワールド・ロジと共にフットワーク に資本を投入した)シンガポールのセムコープロジス ティクスと組めることが大きかった。
セムコープはシ ンガポールだけでなく中国やインドにネットワークを 持っている。
ちなみにセムコープは半官半民の国内最 大手企業で、日本でいえば日通のような会社です」 ――フットワークは結局、ワールド・ロジとセムコー プ、そしてオリックスによって再建されることになっ たわけですが、それが決定するまでの間には、多くの 特積み会社や外資系物流会社がスポンサーとして候補 に上がりました。
しかし皆、手を引いたのはフットワ ークの複雑な労使関係を嫌がったためだと言われてい ます。
その点はどうお考えになっていますか。
「フットワークの再建に当たって組合問題が最大の 課題になることは私も十分に承知しています。
実際、フ ットワークには一連の労組が全て揃っている。
しかし、 労務管理はフットワークだけの問題ではなく、物流市 場の今後の再編を考えたときカギになるテーマです」 「そうであるのなら、物流会社のなかでもとりわけ 労使関係が複雑なフットワークの再建に成功すれば、 他の会社はどこでも再建できるということになる。
一 番難しいところから入れば後は楽に進められる。
逆に それができないのであれば当社に力がないわけだから、 過大な夢を見てもしょうがない。
そう考えたのです」 ――フットワークは結局、今年の六月に新会社に営業 を譲渡して再出発することになりましたが、トップに は物流業界出身者ではない方が就かれるとか。
「現時点で詳しいことはまだお話できませんが、フ ットワークは今後、新しい流通業に挑んでいく。
しか もグローバルな展開をすることなる。
そうであるなら 物流業界の出身者でないほうが僕はいいと思う。
大事 なのは経営センスです。
それにふさわしい人がトップ に就けばいい」 ――かつてのフットワークに対して我々が持っている 率直な感想とは、宅配市場の負け組であり、他社の嫌 う長尺モノなどの荷物を安く請け負っているというイ メージです。
「その通りです」 ――それを再建するのは容易ではないはず。
「だからこそビジネスモデルを抜本的に変える必要がある。
それができるメンバーが今回集まったと自負 しています」 ――今後もフットワークのような形で破綻する物流業 者は出てくるはずです。
その場合にもフットワークと インフラが合致するものであれば吸収することも考え られる。
「条件が合えば、そうなりますね。
ただし民事再生 法で処理される会社は避けたい。
今回は民事再生法 が使われましたが、そのことでかなり再建がやりにく くなっている。
経験して初めて分かったことですが、 会社更生法のほうが再建はスムースに進む。
民事再生 法はやはり中小企業向けの法律であって、大企業には 合わないようです」 特集 物流業の倒産と再建

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