ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年4号
特集
物流業の倒産と再建 運送業の倒産パターン分析

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2002 26 過去最悪になりかねない二〇〇二年 帝国データバンクの調べによると、二〇〇一年の運 送業界の倒産(負債一〇〇〇万円以上)は五五二件 発生した。
前年の五二七件を四・七%上回り、集計 を開始した八七年以降では最悪だった九八年の五七 五件に次いで、過去二番目の高水準となった。
負債 総額も前年実績を大幅に上回る三四九五億五〇〇万 円(前年九五五億三五〇〇万円)となり、こちらは 集計開始以降、最悪だった。
倒産の増加傾向は二〇〇二年に入っても変わらな い。
すでに一月だけでも六五件(負債総額二九七億 八六〇〇万円)の倒産が発生し、前月・前年同月と もに上回ってしまった。
業界を問わず、世は大倒産時 代に突入している。
今後の景気動向次第では、二〇 〇二年は運送業界の倒産が過去最悪を更新する可能 性が十分にある。
零細業者が非常に多い運送業界では、負債一〇〇 〇万円未満の倒産や、倒産はしていないが事業から撤 退し廃業するケースも多く存在すると推測され、「事 業者数に比較すると相対的に倒産が少ない」と言われ た従前の常識はすでに過去の話となっている。
国内運送業界の現状、そして今後の動向は厳しい と言わざるを得ない。
依然として個人消費は伸び悩み、 回復の兆しさえ見えない状況が続いており、消費関連 貨物の取扱高は低調に推移している。
公共事業の削 減や住宅関連投資の減少などの影響から、建設関連 貨物の取扱高も低迷を余儀なくされている。
さらには荷主企業の業績が落ち込むなかで、多くの 荷主がリストラの一環として物流コストの大幅削減を 始めている。
なかでも物流コストに占める割合の大き い輸送コストは格好の的で、輸送単価の引き下げ要 請が輸送業者を直撃している。
特に自動車輸送では、 主力の特別積み合わせトラックと一般トラックの輸送 量がともに二〇〇一年一月以降、前年実績を下回る ケースが多く、現状の厳しさを如実に物語っている。
九〇年代に進められた運送業の規制緩和措置は、業 界への新規参入を容易にした。
これによって業者間の 競争は激化し、限られたパイを多くの業者で奪い合う 構図が、事業者の淘汰につながるという事態を引き起 こした。
多くの運送業者が受注減、価格破壊、競争 激化などに見舞われ、これが売り上げと利益の減少を 招く大きな原因となっている。
投資に失敗したフットワーク 近年の運送業者の倒産原因を分析すると、そのほ とんどが販売不振、不良債権の蓄積、売掛金回収難 などに起因するいわゆる「不況型倒産」であることが 分かる。
全産業において二〇〇一年に発生した倒産 総件数の一万九四四一件のうち七五%強がこれに該 当し、運送業においてもその傾向は変わらない。
もっとも、個々の企業について細かく見ていくと、 その原因は千差万別であるという興味深い事象が浮き 彫りになってくる。
以下に、二〇〇一年の運輸業者の 大型倒産を中心にいくつかの事例を挙げて、傾向と対 策を探っていく。
運送業界の倒産を語るうえで、フットワークエクス プレスについて論じないわけにはいかない。
「ダックス フンド」がトレードマークの大手運送業者フットワー クエクスプレス (株) (資本金一五億円、大阪府大阪市 中央区北久宝寺町四 ―四―二、登記面=兵庫県加古川 市加古川町溝之口五〇七、代表大橋渡氏)(代表者な どは申請当時のもの。
以下同じ)は二〇〇一年三月 四日、大阪地裁に民事再生手続きの開始を申請した。
運送業の倒産パターン分析 帝国データバンク情報部 情報取材課宇津木靖司 かつて運送業は倒産しにくいと言われていたが、もはや過去の常 識に過ぎない。
2002年には運送業者の倒産件数は過去最悪を記録す る可能性が高く、今後は倒産リスクを前提に経営の舵取りをする必 要がある。
破綻企業の実態を検討することが、大倒産時代を生き抜 く知恵につながる。
第3部 特集 物流業の倒産と再建 27 APRIL 2002 負債総額が約一六四三億円にも上るこの倒産劇は、そ れまで大型倒産とは無縁だった運送業界を激震させた。
同社は、一九三八年一〇月に兵庫県加古川市周辺 の運送業者によって、戦時下の企業整備により東播 運輸の商号で設立された。
一九五〇年九月に日本運 送に商号を変更し、さらに九〇年一月に現商号に変 わった。
茨城県から鹿児島県までの二八都道府県を 営業区域として、二四三運行系列を展開。
九四カ所 の直営店と二五カ所の取扱店を設置したほか、各地 域の運送業者をグループ化することによって全国ネッ トを構築した。
「うまいもの便」と称するサービスでは、関連会社 であるフットワークインターナショナルから各地の名 産品などを仕入れて販売する業務が、業界の大きな話 題になった。
九一年十二月期には約一〇〇二億四〇 〇万円を売り上げて、業界を代表する大手業者の一 社へと成長してきた。
前述した通り八〇年代までの貨物運送事業は、特 積み事業と区域事業に分けられており、相互参入が 厳しく制限されていた。
しかし、九〇年十二月に規制 緩和の一環として「物流二法」が施行され、相互参 入が可能になったことから、新たに特積み事業に進出 する事業者が増加した。
一方で九〇年代の運送業界は、バブル崩壊後の不 況の長期化もあって企業間物流の物量そのものが減 少し、業界内で厳しい料金値下げ競争が繰り広げら れた。
元来、特積み事業を主体としていたフットワー クエクスプレスは、不況の影響に加えて区域事業への 参入が遅れたこともあり、二〇〇〇年十二月期には 売上高が約七五七億九二〇〇万円にまで落ち込んで しまった。
さらに負担になったのが投資の失敗だった。
フット ワークインターナショナルは八九年から九一年にかけ てF1チームに出資、運営していた。
また、ドイツの 大手運送会社ハリーハマハーグループを約一〇〇億円 で買収。
さらにはアメリカ、タイなどへの海外投資に も積極的で、投資金額は合計で約四〇〇億円に上っ た。
しかし、それらの多くが最終的には損失を計上。
投下資金や支援資金の大半を金融機関から調達して いたことから、金利負担の増加など財務面の一層の悪 化を招く結果となった。
同社の売り上げの落ち込みが顕著になった九六年 以降は収益性も低迷。
とりわけ二〇〇一年に入って からは資金繰りが著しく悪化し、ついに決済資金調達 の目途が立たず民事再生手続き開始を申請した。
こ のときフットワークインターナショナル(神戸市、負 債二三七億円)、フットワークエクスプレス北海道(札 幌市、負債七四億円)の二社もまた、連鎖する形で 同法を申請した。
荷主業界の不振に泣いた中部運輸次は中部運輸のケースを見てみる。
地場の大手運 送業者である中部運輸 (株) (資本金一億円、愛知県名 古屋市港区川間町一 ―一五、登記面=愛知県名古屋市 中川区昭和橋通三 ―九―一、代表綱島彰氏)は、二〇 〇一年八月二八日に名古屋地裁へ民事再生手続き開 始を申請した。
負債は、保証債務約一〇〇億円を含 む約三一三億円。
同社は一九六〇年一〇月の設立。
鋼材メーカーな どを中心に地元大手企業の運送業務を受託していた ほか、倉庫業および梱包荷役などを手掛けていた。
国 内各地に配した事業拠点を通じて、有力荷主約五〇 〇社から安定した受注を確保し、鋼材四〇%、一般 貨物六〇%の比率で事業を展開。
中部運輸グループ 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 90年以降の運輸業者の倒産件数と負債総額の推移 (陸運、海運、鉄道などを含む) 800 700 600 500 400 300 200 100 0 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 倒産件数 負債総額 倒産件数 負債総額 (件) (億円) APRIL 2002 28 数十社の中核企業として、九一年九月期には好景気 を背景とした旺盛な荷動きから約一四五億一三〇〇 万円の売り上げを計上していた。
九三年に新たな物流センターを、九四年に東京支 店を相次いで開設したが、主要荷主である鉄鋼業界 の停滞と景況の悪化から荷動きが鈍化。
荷主からの 運賃値下げ要請などもあって、二〇〇〇年九月期の 売上高は約一一四億一七〇〇万円にまで落ち込み、収 益も低下してしまった。
こうしたなか過去の物流セン ター用地の取得に伴う借入金が重荷となり、資金繰 りに行き詰まって自力再建を断念した。
借入金依存度が高すぎた日商陸運 中部運輸とほぼ同時期に経営が行き詰まった日商 陸運の場合はどうだろうか。
日商陸運 (株) (資本金四 五〇〇万円、大阪府羽曳野市西浦一一九四 ―三、代表 松本堯雄氏)は、二〇〇一年七月二六日に取引金融 機関で二回目の不渡りを出して銀行取引停止となっ た。
その後、破産を申請。
負債は二〇〇〇年三月末 で約一〇〇億円となっている。
同社は一九六七年九月設立の旧・日商陸運の営業 基盤を継承して、新たに一九八四年二月に設立され た。
大型トレーラーを含む自社車両を約五〇〇台所 有して、一般・長距離輸送(四〇%)を行うほか、家 電製品、日本酒、家具、食品、菓子類などの小口混 載の共同輸送(六〇%)に強みを持っていた。
過去に はJR貨物のウイングコンテナによる鉄道路線利用な ども手掛けた。
八九年以降は仙台、千葉、名古屋、福岡などに営 業所を設置するほか、大阪府松原市や福岡県大川市 などに物流センターを開設して営業エリアを全国に拡 大。
九七年三月期には売上高約七九億円を計上して いた。
同社の場合は借入金への依存度の高さが問題だっ た。
九〇年一月に開設した本社兼配送センターの不 動産取得資金、約四〇億円を旧・住専(住宅ローン サービス)などからの借入金に依存。
同様に、営業所 や物流センターの開設資金、および車両購入のための 資金も借入金でまかなった。
その結果、多額の借入金 が年間売上高を上回り、資金の固定化を招いた。
さ らにメーンバンクだった信用組合の破綻もあって、近 年は余裕のない資金繰りを続けていた。
また、長引く景気低迷による荷動きの鈍化を受けて 業績は伸び悩み、二〇〇〇年三月期の売上高は約六 四億八七〇〇万円にまで減っていたほか、断続的な 受注単価値引き要請などから収益性も低調に推移し ていた。
このため、利便性の高い小口混載運送に注力 し受注拡大に努めたものの、金利負担が資金繰りを 圧迫、資金調達難から一回目の不渡りを出して以降 は動向が注目されていた。
貸し渋りで破産した手塚運送 最後に、金融機関との間に深い亀裂があったといわ れる手塚運送のケースを見てみる。
手塚運送 (株) (資 本金一億円、東京都港区芝浦二 ―一四―一三、代表小 林修男氏)は、二〇〇一年二月二八日に東京地裁へ 自己破産を申請した。
負債は約二四億円。
同社は一九四九年六月に創業し、五三年三月に法 人改組した地場中堅の運送業者である。
大手ゼネコ ン向けの鋼材・機械・建設資材などの貨物輸送八〇%、 建設車両の輸送二〇%を手掛け、創業者は東京都港 区陸運事業協会の理事長を務めるなど人望が厚く、ピ ーク時には全国に一〇店舗の営業所を設け、九五年 三月期には売上高約二九億七二〇〇万円を計上して 1996年から2001年までの運輸業者の主な倒産 2001年8月 7月 3月 3月 2000年5月 3月 2月 2月 1999年11月 10月 6月 1998年11月 10月 8月 6月 1997年12月 9月 4月 3月 1月 1996年12月 12月 1月 1月 中部運輸 日商陸運 フットワークエクスプレス フットワークエクスプレス北海道 ダイドウトランスプラネット ワールドネットニジュウイチ 横浜急便 池添産業 中川 栗駒商事運輸 梅田ラインズ 国際運送 山元仲 新日本運輸 産興運輸 藤田陸運 中野海陸運輸 進和運輸 丸源エキスプレス ビー・エス・エー 東京オクト物流 カンナナ運輸 朝日運送 安芸重機工業 民事再生法 破 産 民事再生法 民事再生法 民事再生法 破 産 破 産 和 議 破 産 破 産 破 産 破 産 和 議 破 産 破 産 任意整理 破 産 任意整理 破 産 任意整理 破 産 破 産 破 産 和 議 313億円 146億5300万円 1643億円 74億円 38億8500万円 16億円 33億3200万円 29億円 20億円 20億円 33億3200万円 48億2400万円 32億円 25億円 20億円 55億円 25億7400万円 20億円 22億4000万円 40億円 78億2300万円 26億5000万円 19億7400万円 18億円 運輸・倉庫 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 貨物運送・倉庫 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 貨物運送・倉庫 納品代行業 一般貨物自動車運送 貨物運送・倉庫 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 バイク宅配便 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 一般貨物自動車運送 重機運送・販売 1億円 4500万円 15億円 1億5000万円 2億円 9800万円 8250万円 5000万円 2000万円 4000万円 8500万円 8100万円 2000万円 5000万円 2700万円 1000万円 4000万円 1600万円 9600万円 7億5500万円 8250万円 1500万円 500万円 4450万円 愛知県 大阪府 大阪府 北海道 神奈川県 静岡県 東京都 福岡県 東京都 東京都 大阪府 東京都 滋賀県 神奈川県 大阪府 千葉県 東京都 東京都 岐阜県 東京都 東京都 埼玉県 徳島県 広島県 倒産年月 企業名 態 様 負債額 業 種 資本金 所在地 特集 物流業の倒産と再建 29 APRIL 2002 いた。
しかし、主力取引先にゼネコンが多かったことから 建設不況のあおりを受けて、ここ数年の連続赤字によ って債務超過に転落していた。
当初、金融機関は従 来通りの支援を続け、回収には慎重だった。
しかし、 二〇〇〇年八月三一日に同社が八〇%を出資してい る (株) テヅカエレクションが事実上倒産し、出資金を含 む数千万円の回収不能が表面化した頃から本格的な 回収が始まった。
金融機関による回収は、社有不動産の売却による 融資圧縮や人員削減の要請をはじめ、代表の個人資 産の担保提供や定期預金による融資相殺の提案など 徐々に厳しいものとなっていった。
いったんは弁護士 と相談して、民事再生法の申請によって再建する道を 模索したが、金融機関から申請後の運転資金の提供 を拒絶されたことにより再建を断念。
自己破産の申請 を余儀なくされ、五〇年余の歴史に幕を閉じることと なった。
本業さえ強ければ再建できる 以上、二〇〇一年に発生した運輸業者の主な倒産を 振り返ってみたが、各々のケースに共通するのは、や はり、景気悪化の影響を受けた受注減による売り上げ の減少と、値引き要請を受けての利益率の低下である。
しかし、個々の企業の倒産事情は微妙に異なる。
本 業以外への過剰投資と多角化で破綻したフットワーク。
荷主企業・業界の業績悪化と物流センターなどへの 設備投資で失敗した中部運輸。
旧・住専やメーンバ ンクの破綻と、過剰債務によって行き詰まった日商陸 運。
手塚運送の貸し渋り――。
まさに倒産原因のオン パレードだが、それぞれの問題を抱えて苦悩する企業 の姿がそこにはある。
もっとも、これらの事象は運送業界固有の問題では なく、日本企業全体が抱える問題でもある。
その意味 では運送業界は、倒産という観点から見ると、比較的 個性が薄いという言い方もできるかもしれない。
一般論になるが、現在の企業再生のキーワードは本 業回帰である。
たとえ業歴の永い老舗でも、金融機関 からの資金調達が可能な企業でも、本業での売り上げ と収益があがらなければ淘汰の対象となってしまう。
場合によっては規模を縮小してでも、売り上げと収益 の柱を構築することが重要である。
二〇〇〇年四月に施行された民事再生法はすでに 市場に浸透した。
従来の会社更生法と並ぶ同法の浸 透によって、再建型の法整備は進んできている。
仮に 過去の失敗から法的申請を余儀なくされても、本業さ えしっかりしていれば、再建への道は閉ざされてはい ない。
ギリギリまで頑張ったが結局は破産、という最 悪の事態は回避できるのである。
具体的な対応策は業界によっても違うし、業界内においても個々の企業によって異なる。
運送業界であ れば、月並みではあるがサードパーティー・ロジステ ィクス事業のノウハウや提案力を獲得することや、需 要の底堅い小口多頻度物流の強化、今後さらに注目 が集まるであろうリサイクル物流に活路を見出すとい った対応策が挙げられよう。
もちろん環境問題やIT 化など、急速に変化する時代の流れに対応し続けるこ とが前提なのは言うまでもない。
独自の得意分野と、 強い競争力なくして生き残りは図れない。
運送業界の状況が厳しいことは言うまでもない。
し かしながら運送業というのは、あらゆる業界と取り引 きがあって、日常生活にも欠かせない、ある意味でた くましい業界であることもまた事実である。
業界各社 の奮起に期待したい。
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 90年以降の全産業の倒産件数と負債総額の推移 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 倒産件数 負債総額 倒産件数 負債総額 (件) (億円)

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