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メーカー販社から転換
今年二月二二日、マイクロソフトの次世代
ゲーム機「Xbox」が日本で発売された。
玩具卸最大手のハピネットが、その物流を担
った。 同社は業界二位のデジキューブに売上
高で倍以上の差をつける玩具流通のガリバー
だ。 二〇〇一年三月期の連結売上高は一二六
六億円、経常利益二〇億九〇〇〇万円。 過去
三年にわたり増収増益を続けている。
これまでもハピネットはソニー・コンピュ
ータエンタテイメント(SCE)のゲーム機
「プレイステーション1」「プレイステーショ
ン2」を始め、テレビゲーム関連の物流を積
極的に扱ってきた。 CIO(最高情報責任者)
を務める作田隆執行役員副社長は「『Xbo
x』の受注によって今期はついにテレビゲー
ム関連の売上げが五〇%を超える見込みだ」
と説明する。
もともとハピネットは大手玩具メーカー・
バンダイの系列卸三社の合併によって九一年
に誕生したメーカー販社だった。 現在もバン
ダイ商品の約七〇%はハピネットが取り扱っ
ている。 しかし、同社の全売上高のうち従来
型の玩具が占める割合は今や四分の一に過ぎ
ない。 玩具市場が子供向けのオモチャから、
テレビゲームや映像ソフトなどに中心をシフ
トさせたのに合わせて、同社は自らの業態を
変化させることで生き残りを図ってきた。
九八年四月からの中期経営計画(第二次)
53 MAY 2002
マテハン&ソフトだけで13億円投入
玩具業界のプラットフォームを目指す
玩具卸最大手のハピネットが昨年の10月、
業界最大規模となる物流センターを千葉県市
川市に稼働させた。 土地と建物をリースして
初期投資を抑える一方、マテハン機器とITには
自ら13億円を投じた。 同社はそれをバンダイ
の販売会社から業界共通の流通基盤へ、業態
革新を図るための戦略投資と位置づけている。
ハピネット
―― センター新設
MAY 2002 54
トバンクと共に「イー・ショッピング・トイズ」を立ち上げ、自ら玩具のネット通販ビジ
ネスに乗り出した。 また今回の「Xbox」
では小売店からの注文を三六五日二四時間処
理できるウェブサイト「HCCWebSystem
」を
立ち上げている。
こうした業態革新のために同社は九八年四
月から二〇〇一年三月までの三年間で、情
報・物流インフラの整備に約四三億円の投資
を実施している。 さらに二〇〇一年四月から
の第三次中期経営計画でも三〇億円以上の投
資を予定している。 そして「これら一連の戦
略投資の集大成といえるのが、東日本ロジス
ティクスセンターだ」と作田副社長はいう。
十万分の一のミス率目指す
東日本ロジスティクスセンターは昨年一〇
月一五日に稼働したばかりの同社最大の物流
拠点だ。 それまで千葉県・船橋にあった物流
センターとその周辺に六カ所借りていた営業
倉庫を、千葉県市川市の同センターに集約し
た。 敷地面識は一万三〇〇〇平方メートル。
延べ床面積は二万四七〇〇平方メートル。 二
〇〇二年三月の同センターの出荷実績は、七
〇〇万ピース/月、総出荷店舗数は六万五〇
〇〇件となっている。
土地と建物はリースだが、マテハン機器と
IT設備には総額一三億五〇〇〇万円を投じ
ている。 「当社にとって決して小さな投資額で
はない。 しかし、目標とする物流サービスレ
で初めて、バンダイ以外の商品も扱うフルラ
イン化を経営方針として明確に打ち出した。
この計画に沿う形で昨年九月には静岡の玩具
卸のトヨクニ、また今年三月に大阪の松井栄
玩具を吸収。 これによって新たに任天堂の商
品を扱うことができるようになった。 現在は
親会社の販売拡大を使命とするメーカー販社
という役割を離れ、「玩具業界において、流
通をトータルでサポートできる業界販社機能
を持ったビジネスプラットフォーム」(同社)
に変身することを目指している。
玩具市場には長い間、古い商慣習が根強く
残っていた。 小売りチャネルの中心は商店街
の小規模専門店か百貨店のオモチャ売り場で
あり、そこでは定価販売が当たり前だった。 メ
ーカー販社から二次、三次卸と続く中間流通
は多段階で、その営業スタイルもライトバン
に乗った営業マンが自分で納品までこなす
「商物一体」が常識だった。
そんな玩具業界にあってハピネットは早く
から「商物分離」と、新たなチャネルへの対
応を進めてきた。 実際、同社は八九年に日本
に上陸したトイザらスや、大手量販店の主要
調達先としていち早く名乗りを上げ、彼らが
シェアを拡大させるのに合わせて自らの業績
も伸ばしてきた。
インターネットを利用したeビジネスにも
積極的に取り組んできた。 「プレステ2」では
SCEの「プレイステーション・ドットコム・
ジャパン」に出資。 九九年にはヤフーやソフ
ベルを実現するには必要な投資だった」とセ
ンターの設計を担当したハピネット・ロジス
ティクスサービスの岩井哲夫物流システム企
画部リーダーは説明する。
自動倉庫の導入も検討した。 しかし、入庫
後すぐに出荷される物量が多いこと、採算が合わないことから、センターの効率化には寄
与しないと判断した。
もともと玩具は物流泣かせの商品だ。 製造
リードタイムが長く、ライフサイクルは非常
に短い。 キャラクターグッズなどは、平均三
カ月で商品が入れ替わる。 物量の変動も激し
い。 一番の稼ぎ時であるクリスマスの一週間
前には、通常時の八倍以上が集中するという。
反対に正月以降の二月までは閑古鳥が鳴く。
そのうえ商品の形状は多種多様でピース単位
の出荷が多い典型的な多頻度小口物流だ。
それをこれまでは人手と現場担当者の経験
に頼って何とか処理してきた。 しかし、今日
の量販店は玩具ベンダーにも厳しい納品レベ
ルを突きつけてくる。 従来の同社の物流セン
作田隆執行役員副社長
ターのミス率は約一万分の一。 それでも業界
ではトップクラスだったが現在、量販店は一
〇万分の三程度の精度を要求している。
「そこまでいくと人手に頼った作業では実現
できない。 もちろんコスト削減も重要だが、そ
れ以前の問題として顧客のニーズに応えるために作業のシステム化、自動化によるサービ
スレベルの向上が不可欠だった」と岩井リー
ダーは説明する。
新センターの設計に当たって、同社はミス
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率の精度を量販店の要求をさらに上回る一〇
万分の一に設定した。 将来の検品レスを睨ん
だ水準だ。 このほかペーパーレス化、二四時
間受注三六五日出荷、量販店別値札の自動発
行、波動への柔軟な対応など、意欲的な目標
を立てた。 その結果、できあがったセンター
は次のような仕組みになっている。
二種類の自動仕分け機を導入
入荷はまずトラックで商品が届く前にメー
カーから東日本ロジスティクスセンターへ入
荷予定情報(ASN:Advanced Shipping
Notice
)が送信される。 このデータを元にセ
ンターでは入荷ラベル?を予め発行しておく。
実際に荷物が到着すると、入荷ラベルをパレ
ットやカートンの右下に貼り、携帯用スキャ
ナーで読み込んで検品する。
入荷ラベルにはロケーション情報が印刷さ
れている。 その指示に従い、すぐに出庫する
ものは一階のラックで一時保管、在庫するも
のは垂直搬送機に乗せて四階の保管エリアへ
移す。 一階はフリーロケーション。 フォーク
マンが空いている棚に荷物を格納し、無線端
末で棚のバーコードを読み込むことでロケー
ション情報を確定する?。
出荷作業は一八〇店舗分を一括してバッチ
処理する。 各バッチに必要な数だけ、はじめ
にまとめて商品をピッキングし、ケース用と
ピース用の二種類の自動仕分け機で店舗別に
分類する。 まずハピネット本部から送信され
商品は基本的にパレットごと透明のビニールでラッピン
グされた状態で入荷される。 1つのパレットに対して1枚
の入荷ラベルを発行する。 入荷担当者はこのラベルをパレ
ットの右下に貼って検品する。
ラベルには「廻し6×段2=12」というように、予め商
品ごとに1パレットに積載するケース(カートン)数と積
み付けの方法が決められている。 その単位通り入荷する商
品の入荷ラベルには右下に「パレット」と白抜きで記載し
てある。 それより少ないケース数のパレットの場合には
「カートン」と記載されている。 「カートン」の場合は検品
時に積み付け方から数量を確認する。
?入荷ラベル
?物流ラベル
出荷指示書と自動仕分け機等のマテハン機器用ラベルを兼ねた「物
流ラベル」を使用している。 ケースピッキング用とピースピッキング
用の2種類のラベルがある。 ケースピッキング用のラベルにはロケー
ションコードが指示されている。 作業者はその指示に従い、ピッキン
グ作業を行う。 ピースピッキング用の物流ラベルは、ピース用自動仕
分け機のシュート口のオリコンに差し込んで使う。 物流ラベルには
「荷合わせロケーション」も記載されている。 これは自動仕分け機を
使えない長尺モノやデリケートな扱いを必要とする商品と、最終的に
荷合わせをするための場所を指示している。
?フォーク車載端末
フォークリフトには全て車載端
末が配備されている。 4Fの在庫エ
リアの入庫作業は、入荷ラベルに
記載された「入庫ロケーション指
示」通りにパレットを格納する。 1
Fの一時保管エリアに入庫するパ
レットは、フォークマンの裁量で
空いたスペースに格納。 棚に添付
されたバーコードラベルと入荷ラ
ベルを端末で読み込んで、ロケー
ションを確定する。
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た注文情報を元に、配送先、数量、商品コー
ドなどを記載した物流ラベル?を発行する。
ケース単位のピッキングは、担当者が物流
ラベルを持って商品が保管されているロケー
ションへ行き、棚からケースを取り出し、ラ
ベルを貼ってコンベヤへ流す。 ここで投入さ
れたケースのうち、そのまま出荷されるもの
はケース用自動仕分け機へ、一部はピース用
自動仕分け機の投入部分へ運ばれる。
ピース・ピッキングにはデジタルピッキン
グシステムを使う?。 棚のデジタル表示器の
数だけ商品を取り出して、表示器横のボタ
ンを押すことで検品。 商品は物流ラベルを貼
った折り畳みコンテナ(オリコン)に投入し
てコンベヤへ。 その後、オリコンはピース用
自動仕分け機の投入部分へ運ばれる。 こう
してピース用自動仕分け機の投入部分には
必要な数の商品が、ケースとオリコンの形で
届く。
ピース用自動仕分け機は皿(トレイ)の上
に商品を載せるタイプのトレイ式で、一八〇
シュートが二台導入されている。 各シュート
口に仕分けられた商品を担当者は、納品用の
オリコンに投入?。 オリコンを再びコンベア
で加工梱包エリアへ運ぶ。 その途中で、オリ
コンに差し込まれた物流ラベルを、コンベア
に備え付けたスキャナーが読みとり、出荷先
のPDラベルと商品コードや運送業者名など
物流情報が記載された荷札を印刷、オリコン
に自動的に投入する?。
?デジタルピッキングシステム
デジタルピッキン
グシステムの導入に
よって、ピッキング
ミスの防止、作業時
間の短縮、作業の単
純化を図っている。
自動仕分け機に投入
するものは水色のオ
リコン、そのまま荷
合わせエリアに運ぶ
ものは黄色のオリコ
ンを使う。
?加工梱包エリア
量販店指定の値札付け作業では、ハピネッ
トが独自に開発したサトー製の値札自動発行
システムを導入した。 値札発行端末に出荷検
品と値札の自動発行という2つの機能を組み込
んだ。
?荷札とPDラベルの自動発行
システムが仕分け済みのオリコンに添付され
た物流ラベルをコンベヤ上で読みとり、荷札と
出荷先が使うPDラベルを自動発行、オリコン
に投入する。 荷札は運送業者の配送ステッカー
として使用する。 貨物問い合わせ番号や商品コ
ード、運送業者名、運送費、荷受人、個数、配
送予定日といった情報が、3つのバーコードと
ともに記載されている。
・投入口
バッチごとに一括してピッキングした商品が、ケースもしくはオリコン
で投入口まで運ばれる。 これを1つずつ取り出し、商品のバーコードを読
み込んでラインに投入。 仕分け機のトレイの上にひとつずつ商品が乗せら
れる。
・仕分け機
椿本チエイン製のトレイ式仕分け機2台をピース用仕分けに使用してい
る。 180シュート×2台で計360店舗分の商品を一度に処理できる。 コン
ベアの速度は最大分速85メートル。 一時間に最大2万6000ピース、1日
に50万ピースを処理する能力を持つ。
・シュート口
デリケートな扱いをする必要のある商品が多いため、商品はトレイから
いったん柔らかいゴム製のベルトに落とし、シュート間口に落とすまでに
スピードを減速させる。 オリコンが商品でいっぱいになると、間口横のラ
ンプが点滅、担当者が新しいオリコンを用意する。
?ピース用自動仕分け機
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加工梱包エリアではハピネットが独自に考
案した値札自動発行、検品システムを使って、
顧客の要請に応じた処理を施す?。 その後は
ケース用ソーターでケース商品と共に店舗別
に仕分ける。 それを協力運送会社に渡して全
工程が完了する。
無線LANシステムによって、庫内の作業
情報は全てリアルタイムで把握されている。 各
エリアの作業進捗を見ながら、スタッフの配
置を柔軟に変更することで全体の処理スピー
ドを調整している。 同時に経験のないスタッ
フでも直ぐに仕事に取りかかれるように、一
つひとつの業務を徹底して単純化した。
新センターの稼働によって、ミス率は「事
実上ゼロ」。 受注から納品までのリードタイム
は最短で受注翌日の午前中、最長でも受注四
八時間後を実現することができた。 「当社の
物流サービスレベルは格段に上がった。 コス
ト面でも拠点の集約効果と生産性の向上によ
り、従来とトントンかむしろ低く抑えること
ができている。 今後はこのセンターを単なる
物流拠点ではなく当社のサービスレベルをアピールするショールームとしても活用してい
こうと考えている」と作田副社長は説明する。
営業マンにロジスティクス教育
流通プラットフォームとしての能力は、販
売システム、情報システム、そして物流シス
テムの三つのかけ算で決まる。 三つのうち一
つでも欠ければ全体の能力は高まらない――
それが同社の経営トップの考え方だという。
実際、そのために同社はそれぞれの機能強化
に、これまで多くの資金と手間をかけきた。
販売店には独自開発のPOSシステムを提
案。 受発注のEDI化と市場動向の把握を進
めている。 同時に全営業マンにモバイル端末
を配備し、顧客先で受けた注文をリアルタイ
ムに本部で把握する仕組みを構築した。 機能
別、取引先別の物流コストを随時、算定でき
るシステムも整備し、毎月の締め日には取引
先別のコスト明細を発行している。
二〇〇〇年四月からは「セールスアカデミ
ー」と呼ぶ営業マンの教育カリキュラムを開
始した。 社内外から講師を招き、一年間かけ
て卸の営業マンに必要な知識を叩き込む。 最
終的な狙いは顧客に企画を提案できる営業の
育成だが、そこでは納品条件が物流コストに
与える影響や、受注の取り方などロジスティ
クス教育が中心テーマの一つとなっている。
「こうして積み重ねてきたことが東日本ロジ
スティクスセンターの稼働によって、ようや
く実を結ぶ」と作田副社長は笑顔を見せる。
四月現在、同社の物流拠点は同センターの他
に、札幌、仙台、船橋、品川の大井、沼津、
そして大阪、福岡に二拠点ずつある。 それを
六月には大阪にある二つの物流拠点を統合し、
沼津と仙台の拠点は東日本ロジスティクスセ
ンターに移管する予定だ。 この時点で拠点の
集約化が完了する。
その後は「まだ詳しいことは発表できない
が、六月から東日本ロジスティクスセンター
を舞台に当社にとっての新たなビジネスを開
始する計画だ」と作田副社長は意気込んでい
る。
(夏川朋子)
ハピネット・ロジスティクスサー
ビスの岩井哲夫物流システム企画
部リーダー
東日本ロジスティクスセンター
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