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APRIL 2005 22
便利屋から出発して通運業へ
――「宅急送」という社名は、日本の「宅急便」をヒ
ントにしたそうですね。
「その通りです。 日本に宅配便というサービスがあ
ることを知り、これを中国に持ち帰ったら成功するに
違いないと考えたのです。 そこで九四年に車両三台で
宅急送を立ち上げました。 当初は私自身もハンドルを
握っていました。 しかし日本と全く同じビジネスモデ
ルを展開しようとしたところ、あまり上手くいきませ
んでした。 当時の中国はまだ宅配便のサービスが受け
入れられるような環境ではなかった。 実際、一〇年前
の中国の商慣習、ビジネス習慣を日本と比較すると、
三〇年ぐらいの遅れがありました」
――宅配事業が上手くいかなかったとすると、どんな
仕事を行っていたのですか。
「何でもやりました。 例えばお客さんが、冷蔵庫が
壊れたと言えば、それを修理工場まで持っていって、
直してもらって、また持ち帰ってくる。 モノを運ぶだ
けではありません。 プロパンガスのボンベを交換した
り、買い物を代行したり。 とくに女性に花束をプレゼ
ントするというのは、よくやりました(笑)。 当時の
北京には私のような便利屋がたくさんいたのです」
――数ある便利屋の中から、なぜ陳さんだけが抜け出
すことができたのですか。
「便利屋をやっていて一つ発見したことがありまし
た。 当時、依頼を受けて、よく鉄道の貨物駅に荷物を
受け取りに行っていました。 すると、荷物が駅で山積
みになっている。 鉄道会社にはそれを捌く能力がない。
駅で貨物が滞留しているわけです。 そこで鉄道会社と
提携して、駅で荷物を受け取ってお客様のところまで
届けるというサービスを始めました。 すると今度は届
け先のお客様から発送処理を頼まれるようになる。 そ
うやってビジネスが大きくなっていきました」
――日本で通運事業と呼ばれているビジネスですね。
「そうです。 通運です。 当時、中国には通運事業が
確立していませんでした。 鉄道輸送は国営で、しかも
駅から駅に運ぶだけ。 民間企業で通運的な事業を行
っているところは多少あったようですが、北京にはそ
うした業者もいなかった」
――宅急送の当初の主要荷主には外資系企業が多か
ったようですが、その理由は?
「当時、国内企業には物流を外注するという認識が
なかったからです。 物流は自分でやるものでした。 そ
のために創業当初は売上げの九〇%以上が外資系企
業の仕事でした。 しかし今は違います。 中国企業も物
流をアウトソーシングするようになりました。 今や当
社の扱う物量の七〇%が国内企業の仕事になりまし
た」
――しかし外資系の荷主企業がアウトソーシング先に
選ぶのは、通常なら外資系の物流企業では?
「当時、外資系物流企業が合弁で手掛けていたのは
国際物流だけでした。 国内には手を出していませんで
した」
――その後、通運だけでなく小口配送全般に事業を展
開したのはいつ頃からですか。
「九八年からです。 もっとも、当初は自社の資本で
全国ネットを組織するだけの力がなかったので、各地
の物流企業との提携でネットワークを作りました。 そ
の後、少しずつ自社の拠点を増やしていきました。 現
在は中国全土に約三〇〇の自社拠点を構えています」
――ネットワークを自社化した狙いは。
「北京から発送した荷物を全国各地に届けることで、
納品先から様々な問い合わせが来るようになったのが
「物流サービスに国籍は関係ない」
宅急送陳平総裁
裸一貫、車両3台で北京に運送会社を立ち上げた。 日本の
「宅急便」に範をとり、社名を「宅急送」と名付けた。 創業
から約10年で同社は国内有数のネットワークを誇る小口混載
企業へと急成長を遂げた。 今年から日本向け輸送を始めとし
た国際物流にも進出するという。 (聞き手・大矢昌浩)
Interview
23 APRIL 2005
特 集
キッカケです。 お客様の問い合わせ先が当社ではなく、
現地の提携先企業であれば上手く対応できません」
――対象となる荷物のターゲットも絞ったのですか。
「かつては貨物の大きさや重さにはとくに制限を設
けていませんでした。 中国の場合、五〇キログラム以
下の貨物が最も利益率が高い。 そのことに気が付いた
ので二〇〇〇年頃から、五〇キログラム以下の貨物を
中心に営業を展開してきました。 重量と距離で料金を
設定していたのですが、二〇〇四年には二〇キログラ
ム以下なら全国均一の料金の新サービスも発売しまし
た。 この新サービスは発売一年間で二五〇〇万個を
扱いました。 現在の当社の扱い貨物の平均は一件当
たり三二キログラム。 一カートンでは十三キログラム
ぐらいです」
――そうなると消費者物流、C
to
Cの物流も入ってく
るのでは?
「現状ではB
to
Bがほとんどです。 B
to
CやC
to
C
の市場については、ずいぶん調査をしてきました。 欧
米の小口市場では全体の一五%〜三〇程度がB
to
C
かC
to
Cのようです。 日本はもっと多くて四〇%程度
だと聞いています。 しかし中国では、せいぜい八%〜
一〇%程度。 最近は中国でもインターネット通販など
が伸びてきているためB
to
Cまでは視野に入れていま
す。 C
to
Cに関しては当面考えていません」
決済サービスも展開
――エリア的には中国国内限定ですか。
「今年から国際業務も開始しました。 まずは日本、そ
して香港・マカオです。 日本向けには、カシミア製品
や雲南省の椎茸などを輸送しています」
――今後の展開は?
「国内の配送ネットワーク構築は二〇〇四年で一段
落しました。 現在、中国国内ではEMS(中国郵政
局の宅配部門)に次ぐネットワークを持っているとの
評価を受けています。 もちろん事業規模では、CRE
中鉄快運(中国鉄道部の小口宅配部門)や航空宅配
(中国民用航空総局の宅配部門)のほうが大きい。 し
かし彼らは各地の物流企業との提携でネットワークを
組織している。 自分でコントロールすることができて
いない。 それに対して当社のネットワークは一〇〇%
当社の資本です。 そのために代金回収や決済など、付
加価値の高いサービスを提供することができる」
――規制緩和によって今年から外資系企業でも中国国
内で自由にビジネスができるようになりました。 そこ
では決済が一つの課題になっていますね。
「その通りです。 当社はそうしたニーズに対応でき
ます。 他の欧米系企業と違って日系企業は日系の物
流企業にしか指名しない傾向にあります。 かつては日
立や松下、ソニーといった日系メーカーは皆当社のお
客様でした。 しかし日系の物流企業が中国国内に参入すると皆、そちらに移ってしまった。 欧米系の場合
はそんなことはありません。 実際、コダックやノキア、
モトローラといった欧米系メーカーはエクセルやDH
Lといった欧米系物流企業が進出した後も、ずっと当
社を指名し続けてくれています」
「外資系物流企業と当社を比べれば、コスト的には
確実に当社のほうが安い。 そして今やサービスもほと
んど変わらないレベルになっている。 四年前と比べれ
ば明らかに違います。 さらに二年後にもう一度、中国
の物流を取材してみてはどうでしょう。 だいぶ変わっ
ていると思います。 中国に限らず、今やビジネスにお
ける国境はだんだんとなくなっていきます。 その物流
企業がどこの国の資本なのかということなど、あまり
意味がなくなっているのではないでしょうか」
2000 2001 2002 2003 2004
8.82
15.4
32.2
50.4
78.4
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
(単位・億円)
各種資料を基に本誌が推定
一元=14円で計算
宅急送の売上高推移
(年)
事業概要(2004年末時点)
総資産……………3億元
拠点数……………約300カ所
従業員数…………約8000人
車両台数…………1200台
年間貨物取扱数…3000万件
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