ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2002年5号
メディア批評
アフガンに根を下ろす中村医師からの報告復讐の萌芽を伝えていない日本のメディア

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

「本会の名称をペシャワール会とする」 「本会は、中村哲医師のパキスタン北西辺境 州ならびにアフガニスタンでの医療活動を支 援し、必要な情宣・募金活動とともにボラン ティア・ワーカーの派遣を行うことを目的と する」 以下は略すが、こうした会則を持つペシャ ワール会の『ペシャワール会報』がある。
中 村医師と対談して、その七〇号(二〇〇一年 十二月十九日発行)をもらった。
この小冊子はPMS(ペシャワール会医療 サービス)院長、中村哲の「はびこる虚構の 陰で」から始まる。
これを読むと、私達がい ま持っているアフガニスタン像とはずいぶん 違う。
中村によれば、私達はアメリカのメデ ィアによって、かなり偏ったイメージを植え 付けられているのである。
空爆の後、タリバン政権が崩壊して、アフ ガニスタンには落ちつきが戻ったと報道され ているが、果たしてそうか。
「東部のニングラハル州では、飢えた人々の 頭上に爆撃が加えられ、突如現れた北部同盟 からの武装集団が略奪を行っている。
わがP MSとデンマーク系の事務所以外は、国連と 外国系の組織が全て襲撃され、ほとんど完全 に物品が持ち去られた。
ジャララバードはか つてなく無秩序が横行している」 中村はこう指摘する。
「権力の真空状態」が 生まれ、さらなる困難の中で中村らの救援・医療活動は続けられているのである。
中村は中国の作家、魯迅に似ていた。
それ を言うと、朴訥な中村は「私も魯迅が好きだ」 と顔をほころばせた。
一番好きなのは宮沢賢 治だという。
現地に根を下ろした彼の眼からは、アメリ カ経由の日本のメディアは非常に歪んでいる と映る。
決して声高く批判しているのではな いが、中村の報告は一つ一つ、そうした歪み を撃つのである。
「世界の報道がゲーム感覚で戦局を論じ、一 種異様なフィクションの中にあった。
ニュー ヨーク多発テロ事件の死者・行方不明数の発 表が六〇〇〇人から三〇〇〇人に減る一方、 テロリストだけを壊滅する予定だった『無限 の正義』は、殺傷を欲しいままにして予想を 上回る市民の犠牲を増やしている」 冷静に考えれば、「無限の正義」などあり得 るはずがない。
それは独善的正義であり、そ うした主張をなす者が絶対的力を得れば、現 在のアフガニスタンのように、とてつもない 悲劇が生まれる。
そして、中村の怒りは、「心 ないメディア」に向けられる。
「『解放されて自由を喜ぶカブール市民の姿』 が映像に流され、米国人が喝采する。
『タリバ ン後の自由なアフガニスタン』が討議され、 あたかも突如として新秩序が現出するかのよ うな錯覚を与える。
だが現在進行しつつある 恐るべき事態は、心ないメディアの話題性か らは遠い。
もっと恐ろしいのは、このような 虚像に基づいて私たちの世論や世界観が作ら れてゆくことだ」 当初はその指導力に疑問をもたれていたブ ッシュが攻撃を始めるや、圧倒的支持を得て しまったアメリカ。
それに鋭い批判の矢を放 ちつつ、文明論で報告を結ぶ。
「『文明の正義』の名においてこのような蛮 行がまかり通ること自体、私には理解できな い。
私たちの文明はひょっとして何かの虚構 に基づいているのであるまいか。
そうだとす れば、本当に怖い話だ。
少なくとも、わが文 明は原始社会から続いてきた野蛮さを克服し ていない。
『アフガニスタン』は一つの終局の 序章に過ぎない。
日本もまた、遠からずその ツケを負う日がくるだろう。
おそらく復讐と テロの予備軍が、空爆下で逃げまどった無数 の飢えた子供たちである」 とくに最後の指摘は、言われてみればその 通りだが、単細胞のブッシュとそれに追随す る小泉は、そうは考えないのだろう。
佐高信 経済評論家 69 MAY 2002 アフガンに根を下ろす中村医師からの報告 復讐の萌芽を伝えていない日本のメディア

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