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MAY 2002 20
必要な人材をスカウト
――花王のロジスティクス部門はITをフルに活用し
ているのが特徴です。 組織を作り上げる上で、最大の
ポイントは何だったのでしょう。
「人材ですよ。 それに尽きます。 我々は普段やって
いる仕事を常に評価して、仕事の仕組みをより良い方
へと変えています。 そのためには仮説を立てなければ
ならないし、実行力も必要です。 コンピューターに指
示を出すための思考とか、解析する能力も欠かせない。
こうした作業はコンピューターにはできないし、ソフ
ト屋さんもやってくれない。 結局、それをやり切る人
材がいるかどうかが最大のポイントになります」
――そういう人材をどうやって育ててきたのですか。
「来てもらったんです」
――具体的にはどのようなスキルを求めたのでしょう。
「論理的思考ができるのが前提で、実際にコンピュ
ーターのデータ処理などをこなす能力のある人。 統計
的処理を含めてね。 また、我々はお客に売るために運
ぶわけですから、販売がらみの話しに詳しい人も必要
でした。 私自身は研究所と工場務めが長かったため、
そのへんは詳しくありませんからね。 幸いにして、そ
うした人材を配置してもらえました」
――ロジスティクスに熱心な企業のなかにはIT部門
と物流部門を一体化しているケースが少なくありませ
ん。 花王はまったく別の組織ですが、それでもロジス
ティクス部門の要望にかなうIT活用は可能ですか。
「うちの場合、アプリケーションのプロトタイプぐら
いはロジスティクスのチーム内で作ってしまいます。
システムエンジニアがいて、小規模のものだったらパ
ソコン上ですぐに実現してしまう。 ちょっと試してみ
たいというものでもIT部門に頼めば、どうしてもお
金と時間がかかってしまう。 ところがチーム内でやれ
ば、翌々日なんてことも可能なんです」
予測が当たれば組織は動く
――花王は九七年ぐらいからデータを使った需要予測
を本格化しました。
「我々のやっているのは『未来の情報、先々の情報
をどうやって得るか』ということに尽きます。 従来の
やり方と一番大きく違うのは、それまでは営業部門の
販売予定を頼りに動いていたのを、過去に蓄積された
データからの予測に基づいて動くように変えた点です。
トライアルをしながら進めてきたため、いっぺんに全
部を変えたわけではありません。 いろいろとやってみ
た結果、人が予測するよりも、過去のデータを使う方
が精度がいいということがハッキリしたんです」
――そこで利用しているロジックは最先端のSCPソ
フトで採用されているものと同じなのでしょうか。
「同じでしょうね。 統計的な手法そのものは何も新
しく発明されたものではありませんから。 教科書をみ
ると多くの手法が載っています。 そのなかから我々の
商品に一番あっている手法を選択する必要があったの
ですが、その作業を我々が手掛けています」
――需給調整のための具体的な作業手順とは、どうい
うものなのでしょう。
「まず過去の出荷実績などのデータを基に、トレン
ドやイベントを考慮して、さらにバラツキも考えなが
ら出荷予測を作ります。 これに生産側の計画、物流
拠点まで運ぶ輸送計画、どこにどれだけの在庫を持っ
ておくべきかという在庫計画などを同期させていく。
しかも、日々更新するという形で、すべての計画を連
携して動かしています」
――なぜ生産部門は、ロジスティクス部門の出す需要
「ロジスティクスの構造を解く」
93年頃から取引実績に関する詳細なデータをコンピューター
に全て蓄積してきた。 このデータを基にロジスティクス部門が
需要を予測し、需給調整を行っている。 需給調整に強権は必要
ない。 皆がデータを信頼するようになれば、おのずとサプライ
チェーンは同期するという。
花王 松本忠雄 取締役ロジスティクス部門統括
第1部荷主に訊く Interview
21 MAY 2002
先進企業は ココが違う
特 集
予測を信じるようになったのでしょうか。
「当たっているからですよ。 ほらねって実績を示し
て当たっていれば、みんなが納得する。 決定的に信じ
ているかどうかは分かりませんが、ちゃんと同期して
動くようになってくる。 こうした連携がうまくいけば
いくほど、在庫は減ります」
――もしロジスティクス部門の予測を信じて欠品が発
生したとすると、それは誰の責任になるのでしょうか。
「予想以上に売れそうな状況になれば、予測そのも
のをどんどん修正していきます。 当然、これに対応し
て生産側も急いで作る。 確かにある日突然、それまで
全国ベースで一〇〇売れていた商品が二〇〇売れまし
たとなれば生産も困る。 ただよほどの新製品でもない
限り、そんなことにはならない。 過去の実績データが
全くなければ読み違うこともありますが、実績を検証
していけばそんなことは起こりません」
――需要予測の正しさを、まずは小規模に証明する。
そこにじわじわと皆の信頼を集め、最終的に各部門が
同期して動く体制を作る。 かなり戦略的ですね。
「主観をぶつけ合えば、ロジスティクス部門は力関
係でいつも負けてしまいます。 ところがデータには主
観は入っていない。 論理的に考えることができる。 し
かも双方が確認できるため、仕事を進めるうえでは一
番わかりやすい方法なんです」
原因を徹底して追う
――松本さんがロジスティクス部門にきてから一〇年
目になります。 当初、課題として感じていたことは解
決できましたか。
「一〇年前に物流にきたときには、工場でモノを作
ってからお店にいくまでのプロセスが見えていません
でした。 誰が指示して、どういうふうにやっているの
かという仕事のフローがなかなか見えなかった。 です
から、当初は『ロジスティクスの構造を明確にしよう』
というのが当部門の目標でした」
「当時は、結果として欠品とか在庫増があるだけで、
細かいデータまでは分からなかった。 現象を追いかけ
るだけで精一杯で、情報そのものが足りなかった。 そ
れでは手の打ちようがないため、因果関係を明らかに
しようとしたんです。 原因はなんであれ、なぜそうい
うことが起こったのかを徹底して追いかける作業を最
初にやりました」
――それが現在では1テラバイト(テラ=兆)にも及
ぶ膨大なデータベースになったわけですね。 実際にデ
ータを集め始めたのは、いつ頃からでしょうか。
「データを蓄積すべきだと言い出したのは九三年ぐ
らいからです」
――それ以前には、そうは考えていなかった。
「データを蓄積するという意志が弱かったんです。 だ
から残っていたのは、合算した月別の売り上げはいくらといったデータだけ。 今日このお店に何をどれだけ
売ったとか、運んだという、いわば伝票一枚一枚のレ
ベルでのデータは蓄積していなかった。 コンピュータ
ーのハードのコストが、今とは桁違いに高いという理
由もありました」
――そのデータベースはロジスティクス部門が構築し
たのですか。
「ロジスティクス部門にそこまでの力はありません。
データを蓄積すべきだという思いがあっただけです。
私も蓄積しましょうと言った一人ではありますが、実
際に作業をしたのはシステム開発(情報システム部
門)のスタッフ達です。 ただ最初の頃は、データの検
索をしたり、並べ換えたりというのが、なかなか上手
くいかないシステムだったようですけどね」
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0
花王の家庭品の在庫金額と欠品率の推移
在庫
欠品率
在庫金額比率(
97
上期基準)
自動品件数欠品率(%)
0.24
0.20
0.16
0.12
0.08
0.04
0
97
上
97
下
98
上
98
下
99
上
99
下
00
上
00
下
01
上
12
月
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