ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年5号
特集
物流IT 先進企業はココが違う 人手に頼ればいつかは破綻する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2002 22 全センターにフルラインで在庫 ――カタログに載っている一万二五〇〇アイテムを、 すべてアスクル自身で在庫しているのですか。
「全品、在庫しています。
受注当日もしくは翌日配 送ですので、基本的に全ての物流センターがフルライ ンで在庫していないと対応できない」 ――在庫は完全に買い取っている。
「そうです。
当社が発注をかけた時点で、買い取る ことが確定します。
一部の小売りがやっているように、 預かり在庫のようなことをすれば在庫を減らすのは簡 単です。
しかし、流通全体を考えたときに、それでは 絶対に効率的ではない。
当社はアイテム別の販売数 量を正確に把握しています。
販売予測もできる。
当 社が適切な発注をかければ、それが一番いいに決まっ ています」 ――現在、六カ所ある物流センターの情報システムは 統合されているのですか。
「今はまだ分散しています。
これを統合して、一つ の大きい商品データベースにまとめているところです。
大元の商品データベースを更新すれば、すべてが連動 する仕組みを作っています」 ――各物流センターの在庫データを、基幹システムに 反映させるところはどうなっているのでしょう。
「毎日、バッチで情報を吸い上げています。
それで も発注をすべて基幹システムから出していますので、 物流センターごとの商品の入庫情報さえ反映させれば、 全社の在庫情報を一元的に管理することができるよう になっています」 ――基幹システムにはERPを使っているのですか。
「いいえ。
自社開発したシステムです。
当社のビジ ネスモデルはとてもユニークですので、ERPではカ バーできない業務がたくさんある。
やはり自社開発の システムの方が使い勝手がいい。
WMSも自社開発の ソフトを使っています」 「基本的に当社の場合、必要に応じて自社開発のシス テムと、パッケージソフトを使い分けています。
パッ ケージを入れることで業務が制約されたり、カスタマ イズにかえって工数がかかるものについては自社開発。
一方、標準的に処理できるもの、例えば需要予測は 自社開発する必要がないので既存のパッケージを導入 しています」 ――昨年九月にSCPを導入しました。
需給システム の改革に手をつけたのはいつからですか。
「二年ぐらい前です。
それまで二カ所だった物流セ ンターを四カ所、五カ所と増やしていったときに明確 に在庫の問題を意識するようになりました。
センター が二カ所だけだったときは二週間分程度だった在庫が、 ピーク時には一カ月分まで膨れあがったためです。
パ ッケージソフトを導入して、それを改善しました。
直 近の在庫量は〇・七カ月分ぐらいです」 ――ソフトウェアの導入で何が変わったのでしょう。
「発注管理です。
当社の場合はアイテム数が極めて 多いのに加えて、毎シーズン二〇%程度のアイテムが 入れ替わる。
これだけのアイテムの欠品を抑えたうえ で、在庫量は極限まで少なくする必要がある。
また同 じ商品でも物流センターによって必要な在庫水準は違 います。
つまり一万二五〇〇アイテム×六カ所(七五 〇〇〇通り)の発注をダイナミックにコントロールす る必要がある」 「それをこれまでは担当者が手作業に近い形で処理 していました。
在庫水準をどのぐらいのレベルにして、 いつまでにどれだけの商品を発注するか。
商品ごとに 発注してから届くまでのリードタイムは異なるため、 「人手に頼ればいつかは破綻する」 昨年9月、オフィス用品通販のアスクルは3億円を投じてSCP 最大手i2テクノロジーズ社の需要予測ソフトを導入した。
その 結果、在庫を約3割削減すると同時に欠品率を4分の1に低減す ることに成功した。
在庫情報を一元管理する体制が事前に整っ ていたことで、ITツールが効果的に機能した。
アスクル鈴木博之 ECR担当シニア・ヴァイスプレジデント 第1部荷主に訊く Interview 23 MAY 2002 先進企業は ココが違う 特 集 そうしたこともすべて担当者が管理していました。
本 当によくやっていたと思います。
繁忙期などは夜中の 二時、三時まで残業していましたからね。
しかし一万 数千の商品すべてを管理しようと思ったら人間だけで 処理できるわけがない。
いつかは破綻します。
そこで、 その部分を自動化したんです」 実売データの把握が前提 ――SCPソフトを導入したのに、肝心のデータがな いため機能しないという話をよく耳にします。
「当社がメーカーであったら、恐らく(SCPを)導 入しなかったと思います。
というのも、当社はインタ ーネットとファクスで直接、ユーザーから注文を受け ている。
単品ごとのデータを全て把握しています。
中 間流通がないため本当の需要が読める。
実際、それま でエクセルで処理していても、かなり当たっていまし たからね。
エクセルで当たらないのであれば、恐らく SCPを使っても当たらないでしょう」 ――SCPでは特売やキャンペーンの扱いが難しいと いう話も聞きます。
「そこは確かに今でも人間の判断が必要な部分です。
しかし、運用実績が蓄積されてくればだんだんと上手 く回せるようになるはずです。
人間だけで処理するよ りは良いですよ。
もっとも一回だけ失敗しましたけど ね。
キャンペーン効果を大きく見積もり過ぎて発注を 出し過ぎてしまったんです。
これも経験です」 ――現在の在庫水準が約二〇日。
これに対して最終 的な目標は一四日と聞いています。
この一週間分の在 庫の違いが、経営にどの程度の影響を及ぼすのでしょ うか。
「もちろんキャッシュフローには直接影響しますし、 長期的な影響も出てくると考えています。
だんだん必 要とする倉庫面積が広くなっていけば、さらに物流セ ンターを分散させなければならなくなる」 「ただし、当社が扱っているのはファッション業界 のように、すぐに陳腐化するタイプの商品ではありま せん。
必ず売り切ることができる。
また現状では物流 センターがパンクして、他の倉庫を借りているわけで もない。
在庫を最適化する必要があるのは当然なので すが、その意味から言えば、当社の場合は一般的なメ ーカーと違って在庫を減らすことがサプライチェーン 効率化の最大の目的ではありません。
いかにして、商 品の欠品をなくすかが重要なんです」 「品切れをしない、在庫切れを起こさないというの が、当社のロジスティクスの一番のテーマです。
それ については、すでに前年同月比で過去の四分の一ぐら いにはなっています。
販売ロスに至っては、一万分の いくつというレベルです。
現在ではこれを一〇万分の いくつという段階まで持っていこうとしているところ です」――場合によっては在庫を減らすばかりではなく、増 やすこともあり得るということですか。
「そうですね。
少なくとも二〇日分まで削減した現 在は、そんなにおかしな状態ではないという認識はあ ります。
それでも、やはり一度、極限状態まで持って いきたいという気持ちもある。
今は適正在庫の下限を 見極めることで、次のステップにつなげようという狙 いがあります」 「この二年間は商品調達の強化にずっと取り組んで きました。
昔は配送の強さに比べて、調達面に課題が ありましたからね。
ところが調達がだいぶ改善されて くると、今度は配送の部分が色あせて見えるようにな ってきた。
これからは再度、配送面の強化を進めてい く方針です」 物流センターの中に入居している アスクルの本社

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