ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年5号
特集
物流IT 先進企業はココが違う 物流業者の情報投資戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2002 24 不動産からITへ 今年一月、三井倉庫は東京・芝浦埠頭に情報シス テムを集中管理するデータセンターを開設した。
も ともとアパレルメーカーの流通センターとして機能 していた自社施設をインテリジェントビルに改装。
そ の一階部分にデータセンターを設置した。
これによ って、三井倉庫は自社の情報システムと顧客企業の 情報システムを二四時間三六五日体制でバックアッ プする体制を整えた。
同センターの運用、管理は、昨年一〇月、システ ム開発会社のアイエックス・ナレッジとの共同出資 で設立した子会社のロジスティクスシステムズアン ドソリューションズ(LSS)に任せている。
LS Sは同センターに入居し、ソフトのバージョンアッ プやサーバーの管理といった情報システムの裏方部 分を支えている。
情報システム子会社の設立、そしてデータセンタ ー開設といった一連のIT関連投資はいずれも、三 井倉庫が目下売り出し中の「LIT(ロジスティク ス・インフォメーション・テクノロジー)サービス」 の機能拡充を狙ったものだ。
LITサービスとは輸送、保管、流通加工といっ た物流のオペレーションと、それに付随する情報シ ステムの運用を融合させた3PLサービスだ。
これ を利用することで、顧客企業は物流の実務に加え、 情報システムの開発とその運用まで丸投げできる。
二〇〇〇年にサービスの提供を開始して以来、B to B分野の取引を中心に受注を順調に伸ばしてきた。
主要顧客は輸入アパレル、飲料、素材・原材料など となっている。
「保管や運送といった単機能サービスの提供だけで はもはや荷主は満足しない。
輸出入貨物の受発注シ ステムや在庫管理システムなど情報システム機能を 含めたトータル物流サービスの提供を求めている。
こ うしたニーズに対応するために開発したのがLIT サービスだ。
物流とITがパッケージ化された商品 と考えてもらえばいい」と笹尾新一郎LIT推進部 長は説明する。
同社は今後も引き続きIT関連への投資の手を緩 めない方針だ。
「物流情報システムのハード、ソフト の整備にメドはついた。
次は決済だ。
三井住友銀行 と共同で企業間商取引の決済と物流を一括で請け負 うサービスを提供する。
これを支える新システムを どう構築するかが当面の課題となる」と笹尾部長は 説明する。
同様に東芝物流も二〇〇一年から二〇〇三年にか けて、設備投資予算の大半を情報システムの整備に 注ぎ込む。
その額は約五〇億円に上るという。
倉庫 管理システムを軸に、輸配送システム、在庫管理システムなど複数のシステムで構成されている統合物 流情報システム「LIGNS」の機能強化を主な目 的としている。
もともと同社ではこの「LIGNS」を物流パッ ケージとして、外部の物流企業などに販売する予定 だった。
ところが、現在ではその方針を改め、3P Lを受注するための武器として自社で活用するかた ちに転換している。
今回の機能強化の目玉は現行の「LIGNS」に 新たに顧客企業の受発注業務を代行するための情報 システムを加えることだ。
「顧客企業のアウトソーシ ングのニーズは物流管理から販売管理の領域にまで 拡大しつつある。
今後はコールセンター機能の有無 が3PL受注のカギを握るようになってくる」と横 物流業者の情報投資戦略 物流業者の投資の矛先は、車両や土地などのハードか らITを中心としたソフトへ移っている。
しかも、情報化の テーマが従来の社内業務の効率化から顧客サービスの向 上へとシフトし始めている。
先行した企業が3PL市場 で有利に競争を進めているのを目の当たりにして、物流 業界の情報投資に火がついた。
第2部 3PLに訊く  25 MAY 2002 先進企業は ココが違う 特 集 山直人物流技術部長は見ている。
今年六月には新シ ステムの実際の運用が開始される予定だ。
山九の「見える物流」システム 物流に対する顧客企業のニーズがネットワークの きめ細かさといったインフラの充実度から、情報シ ステムを含めた総合的なソリューションの提供へと 変化している。
それに伴い、物流企業の投資の矛先 は従来の車両や土地といったハードから、ITを中 心としたソフトへと移行してきた。
さらに、今日で はIT投資の狙いが社内業務の効率化から顧客サー ビスの向上へと進化している。
山九は「見える物流」をコンセプトに3PL向け 情報システムを構築している。
荷物がいま何処に、ど ういう状態にあるのか。
その情報を顧客企業に何時 でもどこへでも提供することで、物流を見えるよう にする、という意味が込められている。
顧客企業は インターネットを通じて山九の情報システムにアク セスすれば、荷物の現在位置や在庫状況などをリア ルタイムに把握できる。
今までの物流情報システムは物流企業自身が作業 の進捗などを把握するために開発されたものが多か った。
これに対して、山九のシステムは「どういう 仕組みであれば、顧客にとって使いやすい情報シス テムになるのかを追求した。
従来のシステムとは出 発点から異なる」と伊津見一彦経営企画部IT推進 グループマネージャーは説明する。
山九の3PL向け情報システムは大きく分けて二 種類ある。
国際物流をマネジメントする「EDI ―S ANCS。
そして、国内物流向けの「S ―LINC S」だ。
いずれも輸送、在庫管理、通関など複数の 物流情報システムで構成されている。
この二つのシ ステムによって、調達から生産、販売に至るまでの サプライチェーン全体のロジスティクスをカバーす る。
現在、製造業を中心に約一〇〇社がこのシステム を利用しているという。
最近ではとりわけ中国に進 出する際に「EDI ―SANCS」を活用する企業 が増えてきた。
山九の中国現地法人が持つ倉庫など の物流インフラと「EDI ―SANCS」を組み合 わせることで、「極端な話、顧客企業は物流関連投 資ゼロで中国でのオペレーションが始められる」(伊 津見マネージャー)という。
ある組み立てメーカーは中国工場での部品のJI T納品に「EDI ―SANCS」を利用している。
山 九の役割はベンダーから部品を調達して、生産ライ ンに投入するまでの物流と情報をコントロールする ことにある。
具体的には、メーカーの工場近くに物 流センターを置き、ベンダーへの発注や検収、工場 ラインへの納入などの部品在庫管理業務を請け負っている。
IT武器に外部荷主百社を獲得 日本の物流市場で最も早い時期に、IT武装によ る営業拡大を成功させたのは日立物流だ。
同社が3 PL事業の核となるITインフラ「トライネット(T RINET)」を開発したのが八六年。
その後、現 在までに一〇〇社近くの荷主をトライネットによっ て獲得している。
これによって従来二〇%だった同 社の外部販売比率は今や五〇%を超えるレベルにま で拡大した。
トライネットを利用する荷主の多くは、自社では 実行系の情報システムを保有せず、日立物流のシス テムを他の荷主と共有する形で機能をカバーしてい 三井倉庫の 笹尾新一郎LIT推進部長 山九のEDI-SANCS活用事例:調達物流システムによる代行教務 概 要 P/O情報 P/O情報 ベンダー1 ベンダー2 ベンダー3 ベンダーN インターネット 顧客(S社)は中国工場で使用するパー ツを商社経由で調達していた。
この調達を物流会社にまかせることで 物流コストの削減を計画した。
改善点 調達物流システムによりS社のパーツオ ーダー(P/O)をベンダー毎に切り替え、 納品管理(追出し)を行うとともにその 物流全体をコントロールし、工場への JIT納品を図った。
セールスポイント パーツの混載輸送による輸送コスト削減 ↓ 輸送管理機能のアウトソーシング ↓ 調達コストの削減 P/O情報 新物流情報システム(SANCS) 山九物流センター S社 入 庫 在 庫 仕 分 ミックスアップ JIT納品 輸出入 MAY 2002 26 る。
しかも実際の管理業務は日立物流から実績報告 を受けるだけ。
ロジスティクスのオペレーションに 加え、その管理業務まで完全に日立物流に委託して いる。
「トライネットでアウトソーシングのベースになっ ているのは受注代行システムであって、物流ではな い。
実際、在庫管理はもちろん、オーダーエントリ ーから出荷、納品、請求書の管理までの一連の事務 管理を全て当社が代行している」と、同社の神田佳 治ロジスティクスソリューション統括本部システム 開発事業本部IT部部長は説明する。
実は親会社の日立製作所自身、物流管理部門と物 流情報システムを社内に保有していない。
日立製作 所はおよそ四半世紀前の七八年の時点で、グループ の日立工機、日立冷熱、日立照明(当時)と共に、 物流情報システムと物流管理機能を全て日立物流に 移管した。
このアウトソーシングに合わせて日立物流ではリ アルタイムの在庫情報を荷主に提供するオンライン システムを東西で立ち上げている。
同社の物流セン ターと情報システムを複数のグループ会社でシェア する、今日でいうシェアードサービスを導入したこ とになる。
グループ内での重複投資を避け、共同化 による集約効果を得ようという狙いだ。
「それに加えて当時の日立製作所は、リアルタイム に物流を把握するには、モノと情報を同じフィール ドに置いたほうがいいと考えていた。
物流センター にコンピュータを置いて、そこで受注を引き当て、モ ノを動かしたほうが、小回りが利く。
荷主としては 統計情報さえキチンと把握できれば構わないという 判断だ。
現在にも通用するコンセプトだと思う」と 神田部長は振り返る。
グループのシェアードサービスをアウトソーシン グ事業として軌道に乗せた日立物流は、同じ仕組み を外部荷主の獲得に使おうと考えた。
それに弾みを つけたのが八五年の通信自由化だ。
これを機に同社 は情報化のテーマを従来の社内業務の効率化から外 販拡大へ、大きく舵をきった。
業種別ソフトウェアを自社開発 通信自由化の翌八六年に販売物流システムのトラ イネットを開発したのを皮切りに、国際物流システ ムの「ハイグロス(HIGLOS)」、そしてインフ ラとしての「HB ―INS」を構築。
当時は3PL という言葉もなかったため「システム物流」という サービス名称で外部荷主を口説いて回った。
営業のターゲットにしたのは、それまで同社が得 意としてきた重厚長大産業とは全く正反対の、東 京・青山界隈の中小アパレル会社だ。
物流ネットワ ークが整備されている重電や家電業界では、既存の情報システムやスタッフの存在がアウトソーシング 導入のネックになる。
「そこでシステムを自前で構築することが難しい、 もしくは自分では投資したくないと考えている荷主 を担った。
それがファッション業界だった。
当社の インフラをシェアしませんかという提案には多くの 荷主が耳を傾けてくれた。
ただし、ファッション業 界の物流はそれまで当社が手がけてきたビジネスと は全く異なっていた。
当初は試行錯誤の繰り返しだ った」(神田部長)という。
ファッション業界の物流は季節変動が極端なうえ、 色サイズなどアイテム数が膨大で、煩雑な流通加工 業務も避けられない。
それに対応するためには色サ イズ別SKU(ストック・キーピング・ユニット: 東芝物流の 横山直人物流技術部長 先進企業は ココが違う 特 集 27 MAY 2002 在庫管理の最小単位)の管理、専用値札や荷札の処 理、さらには売れ筋動向などの各種管理指標を把握 できる情報システムが必要だ。
基本的に製品コード だけで管理できた日立グループの物流とは対照的な 仕事だった。
しかし、管理が複雑で難しい分だけアウトソーシ ングへのニーズも大きいことは確かだった。
しかも、 いったんシステムの作り込みに成功すれば、後は同 じ業種を横展開することで、シェアードサービスの メリットが加速度的に拡大すると算盤を弾いた。
狙いは当たり、プロジェクト開始から九〇年まで の四年間で一五社のアパレル企業からアウトソーシ ングを受託することができた。
その後もアパレル業 界の荷主は増え続け、現在約三〇社が同社のファッ ション業界向けトライネット「ファッションNET」 を利用している。
他にもメディカル、食品、建材、生活関連など、 まずターゲットとする業界を絞り、そこで業種別の ひな形をソフトウェアのパッケージとして開発。
そ れを顧客別にカスタマイズするというアプローチで、 親会社とは全く異なる業種の外部荷主を次々に攻略 することができた。
IT部門は物流プロパー その実働部隊として同社のIT部門は営業活動に もフル回転した。
実際、大部分の物流企業がIT部 門をコーポレート部門として位置づけているのに対 し、同社の場合は営業とITを組織上、同じロジス ティクスソリューション統括本部に配置している。
神 田部長はその理由を「3PLは営業とITが一緒に 動かない限り受託できないからだ」と説明する。
今年二月現在、同社のIT部門のスタッフ数は五 三人を数える。
ほかに同社が七五%の株を所有する 子会社・日立物流ソフトウェア(DIC)に二〇九 人のスタッフを抱えている。
両者の役割分担は、日立物流が企画提案と計画。
その後の実施計画から設計、開発、保守、運営をD ICが担当している。
コンペや営業提案を通して日 立物流が受注した仕事の運営をDICにアウトソー シングする格好だ。
また日立物流が依頼を受けたも のの物流のオペレーションが伴わず、システムだけ 利用したいという顧客の場合には直接、DICが受 注することもあるという。
日立物流ではアプリケーションを全て社内で開発 している。
「当社のスタンスははっきりしている。
ビ ジネスアプリケーションについては、パッケージは 一切、使わない。
逆に当社がシステムをパッケージ ングして荷主が使いやすい形で提供する。
それが3 PLとしての当社の武器だ。
物流は生き物だ。
テー ラーメイドの仕組みでないとオペレーションは動かせない。
そう結論付けている。
ただし、社内の管理 系の部分についてはレガシーよりも、パッケージの 恩恵を受けたほうが賢いと判断している。
実際、基 幹系にはERPを導入する方向で進めている」とい う。
こうして同社がITを武器にできているのは、コ ンピュータ・メーカーでもある日立製作所を親会社 に持つためと考えるのは間違いだ。
確かに他の物流 子会社の例に漏れず、同社のスタッフにも親会社出 身者は少なくない。
しかし、トライネットを支える IT部門のスタッフに関しては、従来から日立物流 のプロパー社員による?純血主義〞が貫かれている。
つまり3PLのITを担っているのは?IT屋〞で はなく生粋の物流マンなのだ。
250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 90年 (H1) 97年 (H9) 98年 (H10) 99年 (H11) 00年 (H12) 75 25 53 47 52 48 48 52 46 54 49 50 51 54 (年度) (百万円) 170,285 218,414 204,042 190,510 211,304 日立グループ 一般(日立グループ以外) システム物流(3PL) ※一般に含まれる ※□内は構成比(%) ※○内は一般におけるシステム  物流の割合(%) 顧客別営業収入(単独) 日立物流の神田佳治ロジスティ クスソリューション統括本部シ ステム開発事業本部IT部部長

購読案内広告案内