*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
APRIL 2005 24
?使えない〞代理店を活用する
――現在は日系企業をターゲットとしたコンサルティ
ング会社を経営しているそうですが、以前は中国にお
けるユニ・チャームの営業責任者だったそうですね。
「慶応大学に留学して経済学を学び、卒業後にユニ・
チャームに入社しました。 私は日本で学んだ中国人留
学生として、日中の『文化の翻訳者』として活躍でき
る場を求めていました。 内定をもらった日系企業五、
六社の中からユニ・チャームを選んだのは、同社がち
ょうど中国に進出しようとしていて、自分がイメージ
しているような仕事ができそうだったからです。 入社
後はすぐに中国に派遣され、マーケティングや営業の
担当として中国全土を駆け回る毎日が続きました」
――中国では認知度ゼロのユニ・チャーム製品を販売
していくのは容易ではなかったはずです。 中国国内の
流通網はどうやって整備していったのですか?
「中国に進出する外資系メーカーの多くは最初に、小
売りとの直取(直接取引)を模索します。 代理店(卸)
は物流や販売、情報システムなどあらゆる面で能力が
劣る。 『彼らは使えない』という判断からです。 確か
に中国の代理店は欧米や日本のそれに比べて経営のレ
ベルは低いかもしれません。 これに対して、私はまっ
たく逆の手法をとりました。 代理店の力を借りたほう
が商売はうまくいくと考えたのです。 ただし、代理店
にすべてを任せるのではなく、最初は代理店の優れた
機能だけを利用することにしました。 具体的には代理
店が持つ配送機能と人脈だけに目をつけました」
「北京や上海といった大都市では昼間、配送トラッ
クが市内の中心部に入れません。 渋滞緩和のための交
通規制が存在するためです。 この規制が流通にどんな
影響を及ぼすのか。 例えば、直販を選んだメーカーは
工場や物流センターから製品を出荷する場合、夜間で
ないと小売店舗に製品を納品できません。 大型店なら
ともかく、地場の小さな商店などは夜間納品をとても
嫌がります。 これに対して、代理店は市内で自由に活
動できるため、店舗から『すぐに製品を持ってきてく
れ』と頼まれれば、迅速に対応することも可能です。
このように代理店には代理店ならではの特権のような
ものがあります。 小売りは融通の利く製品とそうでな
い製品のどちらを一生懸命売ってくれるでしょうか?
その答えは簡単です」
――中国には中国特有の流通の仕組みやルールがある。
日本流や欧米流を無理に押しつけようとしなかったこ
とが、トップシェア確保に結びついたのでしょうか?
「代理店を味方につけなければ、無理だったでしょ
うね。 私は代理店を切って捨てるのではなく、代理店
を自分たちが使いやすいように教育していくことに重
点を置きました。 代理店には在庫管理の方法や小売
店からの代金回収方法など商売の基礎を徹底的に指
導しました。 もちろん時間も掛かりました。 しかし、
そうやっていくうちに代理店との信頼関係が徐々に深
まっていきます。 代理店は『これだけ熱心にやってく
れるのだから、彼らの商品を一番に売ってやるか』と
いう気持ちになってくれたのでしょう」
「中国は一人あたりの年間国内総生産(GDP)が
一〇〇〇ドル程度の国です。 一〇〇〇ドルの国と、欧
米諸国や日本のような数万ドルの国ではマーケティン
グの手法がまったく異なります。 欧米や日本で売れて
いる商品を、中国にそのまま持ち込めば売れるとは限
りません。 流通の仕組みについても同じことが言えま
す。 数万ドルの仕組みは一〇〇〇ドルに国には当ては
まらない。 確かに日本や欧米のノウハウはあらゆる面
で優れている。 しかし、ここは中国です。 文化や習慣
「文化を軽視するから失敗する」
元上海ユニ・チャーム張 晟
上海アイクションマーケティングコンサルティング董事長
日本の大学を卒業後、日雑メーカーのユニ・チャームに入
社。 すぐに中国に派遣され、約7年間営業責任者として活躍
した。 中国全土に流通網を構築し、同社の生理用品を中国
ナンバーワンブランドに押し上げたマーケティングのプロが、
中国ビジネスで成功するための秘訣を披露する。
(聞き手・刈屋大輔)
Interview
25 APRIL 2005
特 集
などがまったく異なります。 中国でビジネスを成功さ
せたければ、自国での成功体験を捨てて中国に合った
仕組みを一から作り込んでいく必要があるでしょうね」
エリアマーケティングが不可欠
――著書「中国人をやる気にさせる人材マネジメント」
では、中国でビジネスを成功させるためには、中国の
文化や歴史というものをきちんと理解しなければなら
ないということを強調しています。
「中国でビジネスを立ち上げたい、と私を訪ねてく
る人々には中国の一般家庭で生活することをお勧めし
ています。 中国人はティッシュペーパーをどのように
使うのか。 朝、昼、晩で何を食べるのかなど、中国人
の生活スタイルをきちんと把握してから、ビジネスに
取り掛かるべきだとアドバイスしています。 中国全土
でビジネスを展開したければ、北と南、大都市と地方
都市など色々な地域で生活してみる必要があります」
――中国人はみな同じ、という発想だと失敗する?
「エリアマーケティングの概念が不可欠でしょうね。
欧米系の小売業が中国ビジネスで苦戦を強いられてい
るのは中国を一つの国として捉えているからです。 彼
らの問題点はまず店舗での品揃えにあります。 中国で
は上海や北京のような大都市と、内陸部の中堅都市
では購買力に大きな差があります。 地域によって、甘
いものが好きだったり、辛いものが好きだったり、消
費者の嗜好も大きく異なる。 にもかかわらず、彼らは
大都市の店舗と中堅都市の店舗でほとんど同じ商品
を並べ、しかも同じ値段で販売しています。 エリアマ
ーケティングがまったくできていません」
「本来、マーケティングが違ってくれば、求められ
るロジスティクスの機能も違ってくるはずです。 例え
ば、購買力のある大都市の消費者は商品の値段より
も、商品の鮮度などにこだわるようになってきました。
こうした消費者が集まる店舗には新鮮な商品を毎日
供給できるようなロジスティクスが必要になります。
ところが、彼らは大都市の店舗向けと、中堅都市の店
舗向けのロジスティクスを同じ仕組みで処理してしま
っている。 うまくいくはずがありません」
――日本企業はどうでしょうか?
「残念ながら、考え方が甘いと言わざるを得ない面
もあります。 『いまはブームだから、とりあえず中国に
進出してみる』という意識の企業が少なくない。 日本
でヒットしている商品をそのまま中国に持ち込む。 そ
して売れないと『中国は特殊な国なんだ』といって簡
単に片付けてしまう。 繰り返しになりますが、成功し
たければ、より綿密なマーケティングが欠かせません」
「例えば、日本ではコンビニで数千円の化粧品が売
れますよね。 しかし中国のコンビニでは売れません。
日本で数千円の化粧品は、中国では数万円の価値に
なります。 月収よりも高い数万円の商品を中国人がコンビニで気軽に買うと思いますか? やはり高価なも
のはデパートや専門店などしかるべき場所で買いたい。
これは日本人も中国人も同じだと思いますよ」
――中国で成功している日本企業もあります。
「商売の勘がいいのは六〇〜七〇代の年配の方々で
すね。 彼らは日本がどういう道のりで経済発展を遂げ
てきたのかを知っている。 そのため、どのような手順
を踏んで中国でビジネスを展開していけば、成功を収
めることができるのか、商売のツボをよく心得ていま
す。 これに対して、日本経済の歴史を知らない三〇〜
四〇代の若い人たちは、現在の日本での仕組みをその
まま中国に移植しようとして失敗しているケースが多
い。 中国にはベテラン社員を送り込んだほうが成功す
る確率は高いでしょうね」
PROFILE
1967年中国上海市生まれ。 95年慶応義塾大学経済
学部卒業。 同年ユニ・チャームに入社。 上海ユニ・チ
ャーム営業部副部長、上海ユニ・チャーム北京分公司
総経理などを経て、99年上海ユニ・チャーム営業本
部長に就任。 2003年に同社を退社後、上海アイクシ
ョンマーケティングコンサルティング有限公司
(www.i-ction.com)を設立。 現在に至る。 上海商業
職業技術学院国際経済貿易学部客席教授などを務める。
『中国人をやる気にさせる
人材マネジメント』
(ダイヤモンド社)
定価1600円
著書紹介
|