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MAY 2002 32
小売りが標準化を阻害している
――リアルタイムで在庫が把握できるようになるなど
物流系の情報システムがここ数年で一気にレベルアッ
プした印象を受けます。
「確かに在庫管理システムなど個別のシステムのレ
ベルは上がっています。 ただし、SCMという観点か
らすると、まったく進歩は見られない。 メーカー、卸、
小売りがコラボレーション(協働)できるような情報
システムにはなっていない」
「SCMを成功させるための前提条件は二つありま
す。 一つは情報開示。 これは文字通りメーカー、卸、
小売りが同じ情報を共有することです。 そして、もう
一つがEDIです。 同じデータを三者で使うことで無
駄な作業をなくすのが目的です。 しかし、日本の場合
はEDIの標準化すら進んでいないのが実情です。 そ
ういう意味では日本企業のSCMはまだスタートライ
ンにも立っていないと言えるでしょう。 SCMソフト
を導入する以前の問題です」
――プラネットは日雑業界のVAN(付加価値通信
網)会社として、長年にわたってEDI標準化の必要
性を訴えてきました。 しかし、現実にはそれがまった
く進んでいないということですか。
「日雑業界でいえば、メーカー〜卸間のEDI標準
化はかなり前進したと自負しています。 EDIをベー
スに、VMIやCRPなどに取り組む企業も増えてき
ています。 ところが、肝心の卸〜小売り間ではほとん
ど進んでいない」
――なぜですか。
「小売りは独自のEOSを整備するのにかなりのコ
ストを費やしてきた。 その関係もあって、EDIの標
準化には抵抗があるようです。 ベンダーは自分たちの
言うとおりにやればいい、という発想です。 全体最適
という視点が欠けている」
「EDIでやり取りされるデータには発注データ、着
荷確認データ、返品データなどがあります。 しかし、
それらの定義は小売りごとにバラバラです。 また、商
品の分類の仕方も小売りによってまったく違う。 例え
ば、シャンプーがA会社では雑貨というカテゴリーに
含まれているが、B社では化粧品として扱われていた
りする。 そうなると結局、商品を供給する側の卸は取
引のある小売りごとに情報システムを用意しなければ
ならなくなる。 明らかに無駄です」
――しかし、日本では小売りから無理難題を押しつけ
られてきた結果、卸の物流情報システムのレベルが上
がったという指摘もあります。
「情報システムの中でも特にマテハン関連の部分に
ついては、小売りの要請に対応してきた結果、卸のシ
ステムが進化してきたという側面はあります。 例えば、
ピースピッキングシステム。 普及のきっかけはコンビ
ニエンスストアが始めたバラ物流でした。 コンビニは
店舗が小さくバックヤードを用意できない。 だから、
商品をピース単位で毎日持ってこいと卸に指示する。
そしてピース商品の納品ミスをなくすために卸が開発
したのが、デジタルピッキングシステムでした」
「これは世界に冠たる日本独自のシステムです。 ケ
ースやパレット単位の物流が基本である欧米企業から
すると、日本ではなんて無駄なことが行われているん
だ、という話になるのでしょうが、今では日本の卸は
こうした細かい部分にも対応できるということを営業
上の武器としています」
――欧米ではすんなりと小売りのEDI標準化が達
成されたように見えます。 日本とは違って、欧米では
小売りの寡占化が進んでいる。 だから標準化に向けた
「日本のSCMは前進していない」
日本企業の多くはまだSCMのスタート地点にも立っていない。
経営トップがEDI(電子データ交換)標準化の重要性を理解して
いないことが、SCMの進展を妨げている。 企業エゴのぶつかり合
いでコラボレーションが実現できない。 その間にもITの技術革新
だけが着々と進んでいる。
プラネット玉生弘昌 社長
第3部ITプロに訊く Interview
33 MAY 2002
先進企業は ココが違う
特 集
プロジェクトも進めやすかったのでしょうか。
「(日米の寡占化の違いが)関係ないとは言い切れま
せん。 ただし、寡占化が進む前から欧米の小売りには
標準化を進めようという意識がありました。 標準化を
先行させてから各社が情報システムを整備するという
手順の意味を皆がよく分かっていた。 実際、欧米では
大手のライバル企業同士でも標準のフォーマットを使
っています」
――日本でEDIの標準化が進まない理由の一つと
して、技術的な問題を指摘する声もあります。
「EDIプロトコルの世界標準であるEDIFAC
Tだと漢字が載らないという問題点があったのは事実
です。 しかし、要は業界で統一ルールを決めて、それ
に準拠するかたちでデータを交換するようにすればい
いだけの話です」
トップの意識改革が不可欠
――結局、欧米と日本とでは何が違うのですか。
「経営トップがEDI標準化の重要性を理解してい
るか、そうでないかの違いです。 トップの方はSCM
で全体最適を図ると口ではおっしゃいますが、現実に
は行動が伴っていない。 例えば、小売りはPOSのデ
ータ提供で川上から情報料を徴収するでしょう? し
かもデータのやり取りに掛かるコストの原価に何円か
を上乗せするかたちで。 悪名高いセンターフィーと同
じ発想なんです。 会合などでトップの方にお会いした
時に、そんなことをしているうちはサプライチェーン
の全体最適なんて無理ですよ、と説明しているのです
が、ほとんど興味を示してもらえない」
――小売りの意識が変わらない限り、EDIの標準
化は進まない。 その結果、サプライチェーンの全体最
適も実現されないというわけですね。
「日本の小売りに危機意識が全くないわけではない
のです。 標準化の重要性を頭では分かっている。 しか
し、具体的には何一つ前に進まない。 本来であれば、
チェーンストア協会あたりが音頭をとって、EDIの
標準化に取り組むべきなのですが、未だに実行に移さ
れていません。 日本でも電子部品の世界では業界団体
が中心となって標準化に取り組み、成功を収めたとい
う事例もあります。 もっとも、日本の小売りの場合、
おのおのの企業色が強すぎて、一つにまとめることは
非常に難しい作業になるでしょうが」
――標準化されていない環境下でも、メーカー、卸、
小売りの情報システムの連携は何となく取れているよ
うな気がします。
「交換機などを使って、何とかごまかしながら動か
しているというのが正しい表現でしょう。 しかし、標
準化されていないので、いずれ不都合が生じるはずで
す。 無理矢理つなぐくらいなら、既存のシステムをい
ったん捨てて、新しいシステムを構築したほうがいい。 その際には新たな投資が必要になりますが、全体最適
化によって得ることのできるメリットのほうが大きい
ので、トータルではプラスになるはずです」
――こうした状況は今後改善されそうですか。
「引き続き、プラネットでは標準化の重要性を訴え
ていくつもりですが、啓蒙活動をしている間に、情報
技術がどんどん進歩して、オンラインの時代からとう
とうインターネットの時代になってしまった。 情報シ
ステムの担当者がどの言語を使ってEDIをやろうか
と検討している間に新しい技術が次から次へと開発さ
れていく。 その結果、担当者は仕組みづくりを一から
やり直さなければならなくなる。 これの繰り返しです。
結局何も前に進まない。 日本企業のSCMはだいぶ
遅れを取っています」
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