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JILSが開発したのは荷主企業向
けの「SCMロジスティクス・スコア
カード」、物流企業向けの「3PLロ
ジスティクス・スコアカード」の二種
類。 加工食品業界のECRスコアカー
ド、アパレル業界のQRスコアカード
など現存するSCMスコアカードの中
から共通の評価項目をピックアップし
て汎用化するかたちで作成した。 東京
工業大学の圓川隆夫教授らの協力を得
た。
二つのスコアカードにはそれぞれ、
?戦略・組織、?計画・実行力、?パ
フォーマンス、?情報技術――の四つ
の大項目の中にそれぞれ五つずつ計二
〇の設問が用意されている。 診断を希
望する企業はそれに対して五段階(レ
ベル1〜5)で回答すればいい。 JI
LSがそのデータを点数化して企業の
ロジスティクスの実力を様々な角度か
ら評価し、レーダーチャート、散布図
といった数学的データや、アドバイス
コメント入りの診
断レポートなどを
提供する。 診断料
は無料。
評価の指標は?
情報技術活用力、
?在庫管理能力、
?SCM実行力、
?顧客対応力、?
市場変化対応力――の五つ。 自社
の得点が産業界全
体の平均値や業界
平均値を上回って
いるのか、それと
も下回っているの
かを把握できるほ
か、各指標ごとの
業界内での順位も
分かる。 さらに、
「情報技術活用力
が劣っている。 こ
れを強化するため
にはEDI、バー
コードの活用、社
内システムの整備
と、それを有効活
用するための業務
のシンプル化等の
改革などが必要が
ある」といった具
合に、改善すべき
FOCUS
日本ロジスティクスシステム協会(以下、JILS)はこのほど、
企業のロジスティクスの実力を診断するためのツール「ロジスティク
ス・スコアカード」を開発した。 自社のロジスティクスのレベルがど
こに位置しているのか、同業他社の診断結果と比較分析できるのが特
徴だ。 荷主企業はSCM(サプライチェーン・マネジメント)の成果
を確認するのに、物流企業は3PL(サードパーティー・ロジスティ
クス)を展開していくうえでどんな機能が足りないのかを点検するの
に、一度活用してみては如何だろうか。
SCMの達成度を他社と比較できる
ロジスティクス・スコアカードを開発
KEY WORD
SCM
図1 レーダーチャートによるロジスティクススコアカードの診断例
0
1
4
5
?企業戦略の明確さと
ロジスティクスの位置付け
?取引先(サプライヤー)との
取引条件の明確さと情報共有化
?納入先(顧客)との取引条件の
明確さと情報共有化
?顧客満足の測定とその向上ための社内体制
?人材育成とその評価システム
?資源、 在庫・拠点の最適化
(コンソリデーション、DFL等)戦略
?市場動向の把握と需要予測の精度
?企業内SCMの計画
(受注から納品まで、または需要予測、販売、
製造、物流まで)の情報帯域と調整能力
?在庫・進捗情報管理(トラッキング情報)
精度とその情報の共有
?プロセスの標準化・可視化の程度と体制
?ジャストインタイム
(フロア・レディの活用度)
?在庫回転率または
キャッシュツーキャッシュ
?顧客(納入)リードタイムと積載効率
?納期・納品遵守率/物流品質
?トータル在庫の把握と機会損失
?EDIのカバー率
?バーコード(ADC)の活用度
?PC、業務・意思決定支援シフト
(ERP、SCMソフト等)の有効活用
?オープン標準・
ワンナンバー化への対応度
?インターフェイスコストの
定量的把握とその活用
全体平均
医薬品平均
自社
2
3
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点を具体的にアドバイスしてくれる。
既に製造業や物流子会社などを中心
に約一〇〇社の分析を済ませている。
JILSでは「スコアカードを通じて
自社のロジスティクスの現状やライバ
ル企業との相違点を認識することで、
業務改革に役立ててほしい」(佐藤修
司関西支部担当部長)と期待している。
現段階では、ヒアリング回答による
定性的な分析が中心だが、将来は在庫
回転率など財務データを用いたベンチ
マーキング手法も採り入れるなどスコ
アカードのバージョンアップを図り、
評価の精度を高めていく方針だ。
(刈屋大輔)
自社の得点
業界最大値
業界平均
製造業平均
全体平均(製造業+3PL業者)
業界内順位(8社中)
製造業内順位(74社中)
全体順位(103社中)
偏差値(全体)
評価(全体)
評価(業界内)
−0.96
0.46
0.01
−0.06
0.00
8
60
84
40.4
情報技術活用力 在庫管理力
−1.53
1.33
0.13
0.08
0.00
8
68
95
34.7
SCM実行力
−0.46
1.75
0.46
0.15
0.00
8
58
77
45.4
顧客対応力
−1.40
1.01
0.10
0.05
0.00
8
67
94
36.0
市場変化対応力
−1.23
1.11
−0.01
0.20
0.00
7
67
88
37.7
業界の特徴
各項目においてほぼ平均か、それ以上の値を示している。 この業界におい
てはその業種形態から、目標となるSCMのゴールは他業種と異なると思わ
れる
貴社のロジスティクスは改善の必要があります。
情報技術活用力が劣っています。 この指標は企業の収益性やキャッ
シュの流動性に関係しています。
これを強化するためにはEDI、バーコードの活用、社内システム
の整備と、それを有効活用するための業務のシンプル化等の改革や、
取引先支援の強化をする必要があると思われます。
在庫管理力が劣っています。 この指標は在庫回転率やキャッシュの
流動性に効いて来ます。
これを強化するためには、SCM計画の共有や管理精度の向上、在
庫やモノの流れの可視化。 さらにそのための人材育成を図る必要があ
ると思われます。
平均レベル以上です。 更なるレベルアップを目指してください。
顧客対応力が劣っています。 この指標はROA、在庫回転率やキャ
ッシュの流動性に関係しています。
これを強化するためには、顧客リードタイムを短縮し納期遵守率を
高めるとともに物流品質を向上する必要があると思われます。
市場変化対応力が劣っています。 この指標はROAや経年的な在庫
削減成果に関係しています。
これを強化するためには、市場動向の把握や需要予測の精度向上、
ロジスティクス全体をトータルで見た拠点の見直しが必要と思われま
す。
偏差値とは,各企業の得点を平均が50点,標準偏差
が10点となるように換算したものである。
また、今回はこの偏差値を用いて各指標をA〜Eの5
段階で評価した(下図)。 ちなみに、
・評価A(偏差値65以上)で上位約7%以上
・評価B(偏差値65〜55)で上位7〜30%位
・評価C(偏差値45〜55)で中位30〜70位
・評価D(偏差値35〜45)で下位7〜30%位
・評価E(偏差値35以下)で下位約7%以下
短 評
情報技術活用力
在庫管理力
SCM実行力
顧客対応力
市場変化対応力
各指標の得点について
・平均点は0点
・+3点で最高レベル
・−3点で最低レベル
偏差値と評価(全体)
については下の説明を
D E C D D 参照のこと
劣っている 劣っている 劣っている 劣っている 劣っている
図3 ロジスティクススコアカードによる診断例
各指標別アドバイスの例
※偏差値について
50
35 45 55 65
偏差値
E D C B A
図2 同業種における自社のレベルの診断例
(情報技術活用力と在庫管理力の散布図)
−2
−1.5
−1
−0.5
0
0.5
1
1.5
−1.2 −1 −0.8 −0.6 −0.4 −0.2 0 0.2 0.4 0.6
情報技術活用力
競合他社
自社
在庫管理力
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譲渡先延ばしも
四月三〇日、フットワークエクスプ
レスが大阪地裁に会社更生法の適用を
申請した。 昨年三月に民事再生法の適
用を申請し、経営再建を目指してきた
が、再生計画案の提出期限である同日
までに担保権者である金融機関すべて
の同意が得られず、更生法への切り替
えを余儀なくされた。 落合章男社長ら
七人の取締役は退任。 今後は保全管理
人に就いた天野勝介弁護士の指揮の下、
再建を模索していくことになる。
同社は今年一月末、オリックス、セ
ムコープロジスティクス、ワールド・
ロジの三社が設立した受け皿会社「オ
ー・エス・エル」と営業譲渡契約を締
結した。 更生法適用申請後も引き続き、
「受け皿会社への営業譲渡を中心に再
建案を検討する」(フットワーク経営企
画室)方針に変わりはないが、民事再
生法下での再建を断念したことで、当
初六月一日に予定されていた営業譲渡
は先延ばしとなる公算が大きい。
「フットワークは会社更生法の下で再
建を目指すべきだった」
ワールド・ロジの上井健次社長は、
今年三月の本誌インタビューで、こう
漏らしていた。 同氏は再生計画案提出
に向けて最終的な詰めの作業を行って
いた時期と重なっていたこともあって、
その理由についての明言は避けた。 だ
が、「経験してはじめて分かったことだ
が、会社更生法のほうが再建はスムー
スに進む。 民事再生法はやはり中小企
業向けの法律であって、大企業には合
わないようだ」と指摘していた(本誌
四月号特集記事参照)。
民事再生法は、主に中小企業の再建
に利用されていた和議法に代わる法律
として二〇〇〇年四月に施行された。
その特徴は?会社更生法に比べ手続き
が簡単で、再建に漕ぎ着けるまでの期
間が短くて済む、?会社更生法は経営
陣の退任が前提だが、民事再生法の場
合は申請後も経営陣が引き続き経営の
主導権を握り、再建にあたることがで
きる――など。 比較的容易に自主再建
の道を探れることもあって、施行後に
は多くの破綻企業が同法に駆け込んだ。
フットワークもそのうちの一社だった。
ただし、この民事再生法には大企業
にはそぐわない面があるのも事実。 例
えば、「抵当権等の担保権はいわゆる別
除権に相当し、担保権者は再生手続き
とは無関係に権利を実行できる。 その
ため、再建に不可欠な資産に担保権が
設定されている場合は、すべての担保
権者との間で別除権の受戻しの合意に
漕ぎ着けなければならない」(天野勝介
弁護士)という決まりがある。 つまり、
すべての担保権者から再生計画が認められなければ、再建を前に進めること
ができないのだ。
中小企業のように担保権者がごく少
数に限られている場合は別除権受戻し
の合意に達しやすい。 だが、多額の負
債があり、しかも複数の担保権者が存
在する大企業の経営破綻のケースでは、
担保権者それぞれの思惑もあって、足
並みが揃いにくい。 実際、フットワー
クもすべての担保権者から同意を得る
ことはできなかった。
これに対して、会社更生法には銀行
などが持つすべての担保権の行使を制
限できるという利点がある。 そのため、
更生法を申請した企業は担保権者の意
向に左右されることなく、より実行力
のある再建計画を立案できる。
とりわけ、フットワークのようにタ
ーミナル拠点などの資産が事業継続に
不可欠な場合は、その資産に設定され
ている担保権を会社更生法によって制
約すべきだと言われている。 資産の競
売など担保権が行使されて輸配送ネッ
トワークが崩れると、再建そのものが
おぼつなかくなってしまうからだ。
にもかかわらず、フットワークがま
ず最初に民事再生法を選択したのは何
故か。 民事再生法の申立代理人を務め
た宮崎誠弁護士は「申請二日前に関係
会社であるフットワークインターナシ
ョナルの株価に異常な動きが見られる
など経営の情報が外部に漏れているこ
とが分かった。 放置しておくと経営不
安説がさらに拡がり、事業継続に支障
が出て、自主再建の道を探れなくなっ
てしまう可能性があった。 申請準備に
時間が掛かる会社更生法では間に合わ
ないと判断した」と説明する。
これに対して、ある関係者は「当時、
会社更生法という選択肢も用意しなが
ら、水面下でスポンサー探しを進めて
いたが、銀行に粉飾決算の事実を知ら
れ、口座を止められる事態に陥り、慌てて民事再生法に駆け込んだ」と打ち
明ける。
いずれにせよ、今回の一件でフット
ワークの再建が一歩後退したことに変
わりはない。 初めから会社更生法を選
択していれば、違う展開が見られた可
能性もある。 民事再生法と会社更生法
のどちらが物流企業の再建に適してい
るのか結論は出せない。 フットワーク
の迷走は前例なき大型倒産ゆえの試練
であるとも言えるだろう。 (刈屋大輔)
フットワークの経営再建
民再法から会社更生法へ切り替え
KEY WORD
トラック運送
FOCUS
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