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JUNE 2002 48
小売りも認めた自前のCRPシステム
滋賀県の中堅量販チェーン、平和堂は先進
的なロジスティクスで知られる。 九七年に日
本
で
初
め
て
C
R
P
(
C o n t i n u o u s
Replenishment Program:
商品の連続自動補
充方式)の取り組みを本格化し、対象商品の
在庫管理をメーカーに委ねた。
CRPの対象アイテムについては、平和堂
はメーカーへの発注を行わない。 週に一度、平
和堂が店舗での販売実績や特売情報などをメ
ーカーに伝え、これに基づいてメーカーが自ら
必要な在庫量を算出して平和堂の物流センタ
ーに納品する。 輸送方法やタイミングも基本
的にメーカーに任されているため、物流コス
ト削減の有効な手段になっている。
現在、平和堂のCRPには、加工食品・菓
子の分野では一六メーカーが参加している。 こ
のうち十二社は日本IBMが提供する情報サ
ービス「CRS(Continuous Replenishment
Service
)」を使って在庫管理をしており、残
り四社はそれぞれ独自に開発したシステムで
対応している。 キッコーマンも自社開発のシ
ステムを使っている会社の一つだ。
キッコーマンの松浦宏信物流企画課長は、
「IBMのCRSを使うより、システムを自社
開発した方が導入コストは安いし、日常的な
作業負担も小さい。 それでも平和堂の物流セ
ンターでの当社の実績は、在庫水準こそ一六
社中、九位か一〇位ぐらいだが、納品遵守率
利用者本位の物流ITを自社開発し
コスト削減の次はSCMを本格化
90年代を通じて物流改革プロジェクトを繰
り返し、工場直送化の実現などにより年間20
億円相当の物流コスト削減を実現してきた。
今年4月からスタートした新プロジェクトでは、
サプライチェーン・マネジメント(SCM)を
強化し、在庫削減に本腰を入れる。 自社開発
した情報システム「KOLS」が、その有効なツ
ールになると期待している。
キッコーマン
―― 情報システム
さらに社内に?在庫アナリスト〞と呼ばれる担当者を配置し、一日三〇分ぐらいは平和
堂向けの商品補充に費やさなければならない。
このような担当者は従来のキッコーマンの受
注体制の中には存在せず、まったく新たに配
置する必要があった。 こうしたコスト増を嫌
って、キッコーマンはCRPシステムの自社
開発に踏み切った。
他社の三〇分の一の労力で処理
システムを開発するにあたってキッコーマン
は、コストを抑え、かつ作業負担を軽減する
ため、根本からCRPの考え方を見直した。
IBMの「CRS」では、過去の販売実績
や需要予測、特売などの情報を基に、まず最
初にコンピューターでなるべく精度の高い需
要予測を行い、必要量を計算。 ここにメーカ
ーの宣伝活動の効果などを加味して?在庫ア
ナリスト〞が最終的な補充量を決定する。 コ
ンピューターの処理能力をフル活用して、作
業の自動化を図るという発想である。
これに対してキッコーマンは、「予測精度は
そこそこで構わない。 コンピューターは欠品に
なりそうなアイテムだけを探し出してくれれば
いい」(松浦課長)という立場をとった。 あえ
て需要予測の仕組みを大まかなものにするこ
とで、情報システムへの投資を抑えた。 在庫
水準についても、極小化を追求するのではな
く、必要に応じて適正在庫を持てばいいと割
り切った。
はいつもトップクラスにいる」と胸を張る。
実際、平和堂からの評価も高い。 同社でC
RPの構築を進めてきた島田恭一物流事業部
長は、「キッコーマンの商品はほとんど欠品し
ない。 食品分野のCRPに参加している一六
社の納品遵守率は年間平均で九九・七%ぐら
いだが、キッコーマンの実績はそのなかでも優
れている。 最近三カ月は一〇〇%の納品率を
維持している」と太鼓判を押す。
CRPによる在庫管理は、もともと米P&
Gがウォルマートと共同で開発した仕組みだ。
このノウハウをIBMがP&Gとともにパッ
ケージ化したのが前述の「CRS」である。 い
わばCRPの本家だけに機能は折り紙付きだ
が、当然のことながら、サービスの利用には
相応のコストを支払う必要がある。
「CRS」の費用は物流センターの数や対象
アイテム数によって異なるが、平和堂に数十
アイテムを納品しているキッコーマンがこれを
導入すると仮定すれば、初期コストは約五〇
〇万円、毎月のサービス利用料が三〇万円程
度かかることになる。
49 JUNE 2002
キッコーマンのシステムでは?在庫アナリ
スト〞の日常業務も他社とは違う。 通常、補
充量の最終判断を下す担当者は、生産にも営
業にも属さずに中立的な立場にいるケースが
多い。 ところがキッコーマンは、この業務を
平和堂を担当する営業マンに一任してしまっ
た。 「日常的に平和堂と商談をしている営業マ
ンが一番、正確に需要を予測できるはず」と
いう理屈である。
さらに、営業マンがコンピューターに情報
を入力するのは現実的ではないと考え、あえ
て紙ベースで情報をやりとりするようにした。
コンピューターが算出した商品の補充予定を、
定期的にプリントアウトして営業マンに渡す。
担当の営業マン以外はこの書類を見ないルー
ルになっているため、修正作業を怠って欠品
や過剰在庫を発生させれば、結果的に営業マ
ン自身の首が締まることになる。
こうして運用ルールまで工夫したことで、担
当者は確実に情報をチェックするようになっ
た。 しかも紙ベースのやりとりのため、営業マ
ンは移動中でも、昼食を食べながらでも気軽
に業務を処理できる。 その結果、担当者の拘
束時間は圧倒的に短くなった。
「『CRS』を使えば一日に三〇分ぐらいの
作業が必要だ。 当社のシステムでも最初の頃
は一日一〇分ぐらいかかったが、仕組みの見
直しを繰り返したことにで、ほぼ自動化でき
た。 今では一カ月累計でも三〇分あれば足り
る」と松浦課長。 従来の発想を転換し、利用
「次は在庫削減に取り組む」と
キッコーマンの松浦宏信物流
部物流企画課長
自開発した情報システムの総称である。
九八年五月に本格稼働した「KOLS」は
三つのサブシステムからなる。 「KOLS
―CR
P」、生産管理のための「KOLS
―WP(ウ
ィークリー・プラン)」、物流拠点での在庫管理
と輸配送を管理する「KOLS
―DEPO(デ
ポ)」である。 いずれも、流通の川下の情報を
活用して、メーカーの物流管理を高度化すると
いうコンセプトに基づいて設計されている。
従来のキッコーマンは、顧客(主に卸や酒
販店)からの注文情報や、営業部門の販売計
画に基づいて生産や物流を管理していた。 し
かし、このやり方では営業部門や物流部門、生
産部門といった組織の間に?壁〞ができてし
まい、調整業務が不可欠だった。 それぞれの
部門が部分最適を進めた結果、需給ギャップ
が発生し、これを埋めるための在庫も持たざ
るを得なかった。
これに対して「KOLS」では、川下の販
売情報をオンラインで入手し、一つの情報に
基づいて各セクションが判断する。 同じ情報
を基に、各セクションが能動的に業務をこな
すようになれば、調整業務の必要性は格段に
少なくなる。 結果として需給ギャップを埋め
るための在庫も減らせるという論法である。 サ
プライチェーン・マネジメント(SCM)の
定石通りの取り組みといえる。
従来、キッコーマンの需給調整の手順は、ま
ず営業が作る月次の販売計画を基に、物流が
需要を予測して翌月分の生産量を決定。 ここ
から、生産部門が翌月分の生産日程を決めて
いた。 これが「KOLS
―WP」の稼働にとも
ない大きく変わった。
まず計画周期を月次から週次に見直すこと
で、情報の精度を高めた。 具体的な作業手順
についても、これまでは物流部門が主導して
決めていた生産計画を、生産部門が直接、販
売動向を見ながら判断する体制に改めた。
物流部門の役割は需要予測を立て、適正な
JUNE 2002 50
者本位のシステムを構築したことで、ローコ
ストと顧客満足の両立が可能になった。
川下情報でメーカー物流を管理する
平和堂のCRPに参加するために開発した
情報システムを、キッコーマンの社内では「K
OLS
―CRP」と呼んでいる。 KOLSとは
「キッコーマン・オーダーレス・システム」の
頭文字をとったもので、物流管理のために独
図2 KOLS―WPとは ―製造部門が自ら市場を監視―
for Weekly Planning
ForcastPRO
全国各工場
リアル出荷実績
物流サーバー
責任分担
の明確化
プラスの循環
ホストコンピュータ
《需要予測担当者》
売り予測を補正
《工場内生産調整担当者》
適正在庫維持のための
詰め計画補正
適正在庫水準値(日数)の提示
(上限在庫日数と下限在庫日数)
供給必要量の提示
(売りの見込み)
適正在庫水準値内での在庫維持
(上限と下限値内における生産効率の追求)
物流センターの担当責任者分担
工場生産調整担当者の責任分担
特売情報入手
図1 KOSLの概念
生産管理の領域 物流の領域 得意先の領域
製造プロセス
製販の壁 企業の壁
在庫準備 輸送・配送 卸物流 店 頭
KOSL―WP KOSL―DEPO KOSL―CRP
壁を破る=調整業務を無くす、指示待ちから能動へ
1. 販売状況をリアルに見て工場現場が日程計画を立案(WP)
2. 販売進捗に連動して全国各地の在庫を準備する(DEPO)
3. 得意先在庫を売れ行きに合わせて連続補充する(CRP)
KOLS=Kikkoman Order Less System
在庫水準の上限と下限を提示するだけ。 最終
的な生産計画は工場の担当者が作る。 「製造
部門が自ら市場を監視しながら生産計画を作
ることによって、従来のように営業部門の販
売計画に振り回されることもなくなった」と
松浦課長はいう。
さらに、これと同じ情報に基づいて「KO
LS
―DEPO」で在庫を移動することで、部
門間の作業のギャップを排除した。 キッコー
マンのこうした物流管理の考え方は、ライバ
ル企業からも注目されてきた。 ある大手加工食品メーカーの物流担当者は、「キッコーマン
の考え方は面白い。 話を聞いていて勉強にな
る」と素直に認めている。
コスト削減に邁進した九〇年代
もっとも、こうした独創的な管理によって、
キッコーマンの在庫がどんどん減ってきたかと
言えば、そうではなかった。 卸流通を基本と
する同社にとって、川下の販売情報をオンラ
インで入手するのは簡単では
ない。 「KOLS
―CRP」に
ついても、現状では平和堂向
けと、イオン向けの一部のエ
リア、それと協力的な一部の
卸との間で実施しているだけ。
キッコーマンの全物量に占め
る割合は二%に過ぎない。
そもそも従来のキッコーマ
ンは、SCMによる在庫削
減よりは、輸配送ネットワー
クの見直しなどによる物流コ
スト削減に重きを置いてきた。
バブル期に膨らみ、九二年に
は年間一〇〇億円を超えて
しまった物流コストを圧縮す
るために、九〇年代を通じて
トップダウンの物流改善プロ
ジェクトを繰り返してきた。
九三年から九五年まで三
カ年の「DP
95
(
Delivery Project
)」では、
物流ABC(Activity Based Costing
)の導
入によって配送運賃の算出方法を抜本的に見
直した。 九六年から九八年までの「LP
98
(
Logistics Project
)」では工場直送型の配送
システムを構築。 さらに、九九年から二〇〇
一年までの「ECR
21
(
Efficient Consumer
Response
)」では、実際に工場直送比率を高
めることで、従来は三〇カ所近くあった工場
倉庫以外の在庫型センターを三カ所まで減ら
した。
九八年には関東エリアの七カ所に分散して
いた在庫拠点を集約するため、野田工場の物
流センターに、二三億円を投じて大規模な自動
倉庫を導入した。 キッコーマンの社内には当
時、自動化に懐疑的な声もあったが、デポ七カ
所分の配送業務を代替するためには機械化に
よるスピードアップが欠かせないという判断だ
った。
充分に検討を重ねて導入した自動倉庫だっ
たが、稼働してから気付いたこともあった。 「商
品によっては自動倉庫で管理しにくいものも
あった。 計画では七〇〇アイテムを管理する
つもりだったが、現状では五三〇アイテムと
当初設計の七割ぐらいでしかない。 それでも
ミスが無いし、処理スピードが早いため導入
は正解だった」と松浦課長は振り返る。
一連の物流プロジェクトを通じて、情報シ
ステムや受注業務の見直しも進めてきた。 全
国二七カ所に点在していた受注セクションは
51 JUNE 2002
キッコーマンの野田工場内にある物流拠点
搬出コンベヤからパレット単位の製品を受
け取ったフォークマンは、所定の位置もし
くは無線LANの指示する場所へ移動。
隣接する工場から伸びるコンベヤ(写真右
上)上を、作られたばかりの製品が流され、
自動パレタイザーで積み付けられる。
自動倉庫から搬出された製品は10本ある
搬出口へ。 荷受けするフォークマンが一目
で分かるよう、行き先が表示されている。
23億円を投じた自動倉庫の中を無人の搬
送台車が走り回っている。 処理を高速化す
るためには欠かせないマテハンだった。
JUNE 2002 52
集約を繰り返し、現在では東京と大阪の二拠
点しか残っていない。 受注業務に携わってい
た数十人分の正社員の業務を、より少ない派
遣社員でこなせるようになった。
川下の情報を基にメーカー物流を管理する
という「KOLS」の考え方も、「LP
98
」の
なかから生まれた。 そして、川下の情報を効
率よく入手するためにはIT化が欠かせない
ため、キッコーマンはEOS(Electric
Ordering System:
コンピューターと通信回
線を利用した受注システム)による受注比率
を高めようとしてきた。
さらに導入コストのかさむEOSが難しい
顧客に対しては、従来の電話をファクスに、フ
ァクスをファクスOCR(ファクスによる注文
を光学機器で自動読み取りする仕組み)に置
き換えるよう積極的に働きかけてきた。
その結果、キッコーマンが物流改善プロジ
ェクトを開始した九二年当時、八〇%を占め
ていた電話による受注は、現在ではまったく
なくなった。 一方で、EOSによる受注比率
は五〇%まで高まり、二〇〇三年度の目標と
して掲げた数値をすでに達成している。
相乗効果を狙って独自ITを外販
受発注のオンライン化を進めれば、キッコ
ーマンと顧客の双方の業務を効率化すること
ができる。 ただし、そのためには、顧客にシス
テム投資を負担してもらう必要がある。 情報
化の余力のない中小企業にとっては、EOS
の導入は現実的な選択肢ではない。
そこでキッコーマンは、二〇〇〇年春に、食
品業界で初めてインターネットを使ったWe
b
―EDI(Web発注システム)の仕組みを
立ち上げた。 同社がNECとともに開発した
この専用ソフトを使えば、顧客は手持ちのパ
ソコンから専用サイトに接続し、マウス操作
だけで発注業務を行うことができる。 ソフト
は無料のため、顧客はインターネットに接続
できるパソコンさえ持っていればいい。
このシステムのサーバーはNECの運営す
るインターネット接続サービス、BIGLO
BEの中に置かれている。 顧客が注文を送信
すると、サーバーで自動的に必要なコード変
換を済ませたうえで、キッコーマンの受注シ
ステムへと転送される。 つまりキッコーマンに
とっては、EOSで受注するのと同様の効率
化が実現する。
同社のユニークなところは、最初からこの
ソフトを複数のメーカー(最大二七社まで)が
同時に利用できるように設計してしまった点
だ。 しかも、実際に、システムを共同開発し
たNECを介して外販している。 ユーザーに
とっては、キッコーマン向けの発注にしか使
えないソフトでは意味がないという判断だ。
キッコーマンのこうした発想は、「我々は醤
油以外は弱いメーカー」(松浦課長)という意
識から生まれている。 現在の同社のアイテム
数は季節商品まで含めると約二〇〇〇あるが、
強いブランド力を誇る一部の主力商品を除け
ば、市場での競争力は限られる。 顧客に支持
してもらうためには、何らかの工夫が必要と
考えているのである。
だからこそ、データの通信手順にも日本加
工食品卸協会が定める方式を採用した。 競合
メーカーへの情報漏れに対する備えにも万全
を期している。 BIGLOBEの中にあるサ
ーバーは各社別々に管理されているため、こ
こで情報が他社に漏洩する心配はないという。
実際、このシステムの評価は高い。 すでに
アサヒビールが、NECを介して採用し、二
〇〇〇年夏から運用している。 こうして同じ
システムを複数の食品メーカーが採用すれば、
顧客は複数メーカーへの発注業務を簡素化で
0% 20% 40% 60% 80% 100%
80(電話) 15
5
20
40(通常FAX) 20 20
5 25 35(FAX-OCR) 35
3 22 37 38(EOS)
2(Web)
14 34 50
1件の平均
処理時間
発注側
メーカー側
8分
10分
6分
5分
4分
2分
3分
30秒
―
30秒
電 話 通常FAX FAX-OCR EOS Web
1992年
1995年
1998年
1999年
2002年
キッコーマンの受注形態の返還(オーダー行数換算)
電 話 通常FAX FAX-OCR EOS Web
53 JUNE 2002
きる。 将来的に参加メーカーが増えて食品業
界のポータルサイトに育てば、参加者の利便
性はますます高まる。 そうなれば受発注のオ
ンライン化は一気に進むはず、というのがキ
ッコーマンの読みだった。
しかし、現実は厳しかった。 Web
―ED
Iによる受注システムを立ち上げた当初、キ
ッコーマンは二〇〇三年をメドにWeb受注
の割合を三〇%まで高めるという目標を掲げ
た。 ところが二〇〇二年三月現在、キッコー
マンがWeb
―EDIで受注している比率は
全体のわずか二%に過ぎない。
新プロジェクトの狙いは「在庫」
当初の期待ほどWeb―EDIの導入が進
まなかった理由は、いくつかある。 対象になる
と想定していた中小規模の卸には、まだキッ
コーマンが考えていたほどインターネットに
接続できるパソコンが普及していなかった。 同
じ時期に、加工食品業界のVAN会社である
ファイネットや、野村総合研究所が、似たよ
うなシステムを立ち上げた影響も大きかった。
ただし、嬉しい誤算もあった。 顧客である
卸のところにWeb
―EDIの導入を薦めに
いったところ、どうせ情報化に踏み切るので
あれば一気にEOSを導入してしまおうとい
う顧客が少なからずいた。 このことはEOS
による受注が、早々と目標数値をクリアして
いることと無縁ではない。
キッコーマンとしては、「そろそろ本腰を入
れてWeb発注の拡大を図りたい」(松浦課長)と考えている。 受発注のオンライン化は、
ファクスやファクスOCRで不可欠の情報の
再入力や、コード変換の作業をなくしミスの
防止やコスト削減につながる。 さらに、下流
の情報を基にメーカーが需給を管理するとい
う「KOLS」の取り組みを高度化していく
ためにも欠かせないステップになる。
今年四月、キッコーマンは新たな物流プロ
ジェクトとして「SCM
04
」をスタートして
いる。 サプライチェーン・マネジメントとい
う言葉を標榜していることからも分かる通り、
今回の三カ年計画の最大の狙いは、在庫削減
によるキャッシュフローの改善だ。 そのため
にも、顧客とオンラインで情報をやりとりで
きる体制を整える必要がある。
前掲の通り九〇年代のキッコーマンの物流
管理の主眼は、サービスレベルを向上させな
がらコスト削減を実現することに置かれてき
た。 だからこそ平和堂とのCRPでも、顧客
から「在庫水準を六・五日ぐらいにして欲し
い」と要請されても、「欠品防止には九日分
程度が適正」と反論して、現実にその程度の
在庫を物流センターに置いてきた。
在庫に対するキッコーマンの考え方は、主
力商品である醤油の商品特性にも関係してい
る。 醤油という商品はきちんと保存すれば、
一日や二日で品質が落ちるわけではない。 し
かも同社には圧倒的なブランド力があるため、
そうそう売れ残ることもない。 だから苦労し
て在庫を削減するよりも、生産効率を高めて
コスト競争力を追求するという考え方になり
がちだった。
しかし、「現在のキッコーマンは、まだまだ
生産を管理しきれていない」(松浦課長)こと
も充分に自覚している。 実際、主力商品の在
庫日数は約〇・四カ月と高い管理レベルにあ
るが、季節商品や回転率の低い商品について
は改善の余地が大きい。 このことは同社の有
価証券報告書の棚卸資産の推移からも明らか
だ(上図)。
社内の方向性を、どうすれば在庫削減に向
かわせることができるのか。 物流部門の手腕
が問われる。
(岡山宏之)
売上高(単体)
棚卸資産回転期間
160,000
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
1.20
1.00
0.80
0.60
0.40
0.20
0.00
91
年
12
月
92
年
12
月
93
年
12
月
94
年
12
月
95
年
12
月
96
年
12
月
97
年
12
月
98
年
12
月
99
年
12
月
00
年
12
月
01
年3月
売上高(百万円)
棚卸資産回転期間(カ月)
キッコーマンの在庫と売上高の推移
有価証券報告書より本誌が作成
※2001年に決算期を変更
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