ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年6号
特集
最新3PL理論 3PLの限界と4PLソリューション

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2002 20 欧米のロジスティクス市場では、3PLの普及が進むと同時にその 限界も明らかになってきた。
そこでアクセンチュアでは3PLの課題 を克服するソリューションとして「4PL(Fourth Party Logistics)」 という新たな業態を開発し、実際に成果を上げている。
アクセンチュア前田健蔵 SCM統括パートナー 中村基樹シニアマネジャー 3PLへの期待と限界 ロジスティクスが企業の競争優位を大きく左右する ようになった今日、3PL業者への期待はますます増 大している。
欧米では現在、日用雑貨、食品、コンピ ュータ業界などを中心に七割を超える企業が3PLを 活用している。
多くの企業が3PLを活用する背景に は以下のような期待がある。
?戦略面 ・コアコンピタンスに集中できる ・顧客へのサービスレベルを向上できる ・より迅速に、より低コストで新市場・新サービスに 参入できる ・生産や販売のグローバル化に対応できる ?財務面 ・自ら物流拠点やトラックなどを所有することで発生 する多額の投資を回避できる ・3PL業者のスケールメリットにより、コスト削減 ができる ?業務オペレーション面 ・最新の情報技術や管理スキルにより、業務効率が 向上できる しかし、3PL業者がこのような期待に本当に応え られているかと言えば、必ずしもそうとは言えない。
まず、戦略面においては、サプライチェーン全体でみ ると、3PL業者のスキル・カバー範囲が限定的であ ることが挙げられる。
グローバル化へ対応するために は、サービス対象地域の拡大や輸送手段の多様化に 取り組む必要がある。
しかし、これを一企業でまかなうのは現状では不可 能だ。
有力な3PL業者は、競合との提携や買収な どを通じた取り組みを行っているが、それでもクライ アント企業の要求を満たすのは困難である。
また、3 PLが求められる役割も単なる物流サービスからサプ ライチェーン全体の計画、管理へと変化しつつあるが、 この領域ではスキル不足の感が否めない。
このように、実際にはサプライチェーン全体を統合 できる3PL業者が存在しないため、クライアント企 業は自社でもケイパビリティを持ちつづけ、同時に複 数の業者を使い分ける必要があり、コアコンピタンス へ集中することができないでいる。
財務面においては、コスト削減を実現した際の収益 配分方法が明確でないということもあり、コスト削減 へのインセンティブの低下が挙げられる。
クライアン ト企業は、3PL業者が真剣にコスト削減に取り組 んでいないと感じ、一方で3PL業者はクライアント 企業に買い叩かれていると感じる?悪循環〞に陥って いるケースも見受けられる。
業務オペレーション面においても、eビジネスの進 展などビジネスや技術革新の変化が早く、最新の情報 技術や管理スキルを使ったサービスの提供に苦慮して いる3PL業者も多い。
このように現実の3PLは多くの問題を抱えている。
アクセンチュアではこれらの問題を克服するソリュー ションとして4PLを提唱している。
4PLソリューション 4PLとは、コンサルティング会社や3PL業者、 ソフトウエア業者などが保有しているケイパビリティ、 テクノロジー、リソースなどを統合することでクライ アント企業に対しサプライチェーン全体を対象とした 最適なサービスを提供する業態である(図1)。
3PLの限界と4PLソリューション 21 JUNE 2002 4PLの成功にとって最も重要なことは、「best of breed 」のアプローチでクライアント企業にサービス を提供することである。
コンサルティング会社や3P L業者、ソフトウエア業者各々が保有するケイパビリ ティ、テクノロジー、リソースを組み合わせることで、 クライアント企業からみるとあたかも一つの業者が最 適で広域なサービスを提供しているようにみえる。
実際に、4PL業者に必要なケイパビリティ、テク ノロジー、リソースには以下のようなものがある。
?サプライチェーンに関する目標設定などビジョンの 提示、関連業者間の資金負担や利益配分などのビ ジネススキームの構築、ビジネスプロセスの改善、 競争力と革新性のある最新コンセプトの発案と実 現に向けたコーディネートなど、インテグレーター、 チェンジリーダーとしてのケイパビリティ。
これは コンサルティング会社などが得意とする分野である。
?優秀で経験のある物流管理者が行う、日々の物・ 情報・金の流れを最適化するための計画立案や意 思決定支援、複数の3PL業者を管理しつつ継続 的な改善活動など実務上のコントロールルームとし てのケイパビリティ。
コンサルティング会社と3P L業者が協同で行うことで付加価値の高いサービ スが提供できる分野である。
?クライアント企業や4PLに属する複数業者が保有 する様々な情報システムを連携・統合するなど情報 の流れをリアルタイムで共有するテクノロジー。
ソ フトウエア業者が得意とする分野である。
?物流拠点やトラックなどの物の流れに必要なリソー スや庫内作業やクロスドックなどの物流サービスを 提供するケイパビリティ。
3PL業者が得意とする 分野である。
4PLのビジネス形態 4PLのビジネス形態は、個々のクライアント企業 のビジネス環境やニーズによって、様々な形態を取り 得る(図2)。
「パートナー型」は、4PL業者と3PL業者の各々 がクライアント企業にサービスを提供するモデルであ る。
4PL業者が複数の業者を統合するといった組 織化の難しさは無いが、クライアント企業がサービス によって複数業者を使い分ける必要があり、大きな効 果は期待できない。
「プロバイダー能力補完型」は、4PL業者が、サ プライチェーンに関連するサービスのうち、3PL業 者が不得意とするサービスを提供することで、3PL 業者と協同で複数のクライアント企業に対し最適なサービスを提供するモデルである。
このモデルの場合、 4PL業者が3PL業者の配下となるため、3PL 業者が大部分のサービスを提供し4PL業者がそれを 補う形態でなければ両者の関係構築は難しい。
「統合ソリューション提供型」は、4PL業者が、コ ンサルティング会社や3PL業者、ソフトウエア業者 など複数の業者がそれぞれ得意とするサービスを統合 することで、クライアント企業に対し最適なサービス を提供するモデルである。
これは、4PLの特性を十 分に生かしたモデルと言える。
「業界ソリューション提供型」は、統合ソリューシ ョン提供型の発展系であり、4PL業者が、業界グ ループ全体を対象にサービスを提供するモデルである。
対象となるクライアント企業数が多いため、大きな効 Client 3PL業者 ITサービス プロバイダー ビジネスサービス プロバイダー Client 3PL業者 TM Registered trademark of Accenture. 図1 4PLソリューション 4th Party LogisticsTMは最適な3PLプロバイダーやITサービスプロバイダーを統括し、 クライアントのサプライチェーンの企画から運用まで一括管理する アウトソーシング 4PLTMソリューション +サプライチェーン全体の統合 4PLTM Client 社内の物流部門や 物流子会社 自  前 JUNE 2002 22 果が期待できるが、一方で複数企業の異なる要求を 纏めて最適解を導き出す必要があり、実施に向けては 最も難易度が高い。
4PLの提供価値 4PLが3PLなど従来のアウトソーシングと決定 的に異なるのは、サービスの提供範囲をサプライチェ ーン全体としているところである。
これにより、クラ イアント企業の売上増加、サプライチェーンコスト削 減、運転資本圧縮、固定資本圧縮を実現し、二〇〜 三五%もの企業価値増大をもたらす(図3)。
販売機会損失の低減、顧客サービスレベルの向上 などにより一〜三%の売上増加が期待できる。
4P L業者は、倉庫管理の効率向上や輸送費の削減とい った特定領域に留まらず、サプライチェーン全体を視 野に入れた活動を行うため、顧客サービスレベルを劇 的に向上させることが可能となる。
これにより、顧客 満足度が飛躍的に向上し、顧客の増大や売上の増加 へとつながる。
業務効率の向上などにより、一〇〜一五%のサプ ライチェーンコスト削減が期待できる。
サプライチェーン関連業務の全てを4PL業者へア ウトソースすることで大きなコスト削減効果が期待で きるが、対象業務が限定された場合は、逆に効率が落 ちるケースもある。
庫内作業や輸送業務などの物の流 れに関連する業務のみならず、計画業務などサプライ チェーン全体の情報の流れ、物の流れが整流化して初 めて大きなコスト削減効果へとつながる。
在庫の削減や受注から代金回収までの期間短縮な どにより、二五〜三〇%の運転資本圧縮が期待でき る。
情報技術を活用し、サプライチェーン全体で、情 報の流れ、物の流れ、金の流れを整流化することで、 在庫の削減と販売機会損失の低減を同時に実現した り、代金回収のスピードを早めることができる。
物流拠点数の削減や輸送効率の向上、物流拠点や トラックなどの輸送媒体の4PL業者への売却などに より、一〇%以上の固定資本圧縮が期待できる。
ま た、ビジネス拡大時にも、必要に応じて物流拠点や情 報システムなど4PL業者が所有する固定資本を活 用することが可能となり、大きな投資が必要とならな い。
これは、バランスシートに大きなインパクトを与 える効果である。
欧米市場の動向 欧米市場においては、九五年以降様々な4PLが 設立されている。
その特徴は大きく、対象企業が一社 か、業界グループを巻き込んだものか、対象サービス が主としてロジスティクスか、調達やサプライチェー ン全体の統合を含んだものか、という視点で分類され る。
対象企業が一社で、ロジスティクスを主なサービス とした4PLには、Compaq や Motorola などが設立し たものがある。
調達やサプライチェーン全体の統合を 含んだサービスを対象とした4PLには、Ford 、 GE Medical 、 Fiat などが設立したものがある。
英国テム ズ水道局の一〇〇%子会社のConnect2020 もその一つ である。
また、業界グループを巻き込んだ4PLには、英国 の医薬大手三社や大手石油会社が設立したものや、e マーケットプレースに付随するロジスティクスサービ スなどがある。
これらの中で、4PLの草分け的存在である Connect2020 と、業界グループを巻き込んだ事例とし て英国医薬品業界について説明しよう。
図3 4PL の提供価値 4PL は、以下のような提供価値をもたらすことで、20 〜 35%もの企業価値増大をもたらす 企業価値増大 収益改善 資本効率向上 売上増加 サプライチェーン コスト削減 運転資本圧縮 固定資本圧縮 ●売上増加 1 〜 3% 顧客サービスレベル向上 機会損失低減 輸送品質向上 ●サプライチェーンコスト削減  10 〜 15% オペレーション効率向上 調達費用削減 ●運転資本圧縮 25 〜 30% 在庫削減 受注〜代金回収期間短縮 ●固定資本圧縮 10% 以上  固定資本売却 物流拠点削減 輸送効率向上 クライアント企業への提供価値 図2 4PL のビジネス形態 4PLTM ソリューションは、目的や契約に応じてさまざまな形態を取り得る 業界グループ = Client = 4PLTM = サービスプロバイダーまたは3PL 4PL 4PL 4PL SP SP C C C SP1 SP2 SPn SP1 SP SP2 SPn C1 C2 C3 Cn C1 C2 C3 Cn 4PL 4PL パートナー型 統合ソリューション提供型 プロバイダー能力補完型 業界ソリューション提供型 23 JUNE 2002 ◆ケーススタディ――Connect2020―― 前掲の通り「Connect2020 」はテムズ水道局の一 〇〇%子会社であり、水道業界にロジスティクスと 調達サービスを提供する目的で設立された。
テムズ 水道局は、英国で最も大きな水道局であり、一〇〇 〇万以上の顧客を抱え、年間の事業収入は二〇〇〇 億円を超える。
年々高まる顧客からの値下げ要求に 応えるために、4PLを活用することとした。
事業形態は、Connect2020 が大部分のサービスを アクセンチュアにアウトソースし、アクセンチュアが Connect2020 と共同で3PL業者やソフトウエア業 者などを統合した4PLサービスを提供している。
ま た、参入・成長戦略としては、まずテムズ水道局をク ライアントとしたソリューション提供型で成功事例を 築き、やがては水道業界全体へとサービス提供範囲を 広げ、業界ソリューション提供型へと転換することを 狙っている(図4)。
これまでに、Connect2020 がテムズ水道局へもたら した効果には以下のようなものがある。
・物流拠点削減などにより、倉庫管理コストや輸送コ ストの三〇%削減   ・九七年〜九九年の三年で累計一〇四億円の支出削 減(削減額は年々増加傾向にある) ・調達〜物流に至るトータルリードタイムの三〇%削 減 ・三〇%以上の在庫削減 このケースでは、サービスの提供範囲が、ロジステ ィクスのみならず、調達も含めた広範囲なものであっ たため、削減効果も大きかった。
しかし、目的として いる業界ソリューション型への転換には壁がある。
業 界全体の効率アップを訴える一方で、Connect2020 に対するテムズ水道局の出資比率を減らし、各水道 局やパートナー企業が貢献度に応じた出資を行うこと で中立性を保証するなどの取り組みが必要である。
◆ケーススタディ――英国医薬品業界―― 英国の医薬品業界は、卸への依存度が高いために 多段階な物流構造となっており、トータルでみると物 流拠点が多く、メーカーも多くの在庫を抱えなければ ならなかった。
また、工場から病院、薬局へのダイレ クト配送も開始したが、一社では物量が少なくコスト 高になっていた。
そこで、英国製薬大手3社とアクセンチュアが共同 で4PLを設立し、共同のロジスティックインフラを 構築することで以下のような効果を実現し、年間ロジ スティクスコストの三九%削減に成功した(図5)。
・五つの物流拠点を廃止し、中央物流センターで受 注・輸送・在庫の一括管理を行うことで、倉庫管 理コストと業務オペレーションコストを五〇%削減 ・共同配送による病院、薬局へのダイレクト配送を実 現することで、三四%の輸送コスト削減 ・工場内の無在庫化 このケースでは、業界全体の効率アップに関し競合 企業間の課題認識が一致し、アクセンチュアが中立的 にコーディネートすることで業界ソリューション型の サービスを実現した。
今後の展望 九五年からの流れの中で4PLの成功要因が見え てきた。
キーワードは、「Think Big,Start Smart,Scale Fast 」だ。
つまり将来像を明確にしつつも、参入時は 欲張らず収益への貢献度が低くとも難易度が低く確 実に効果がでるサービスから手がけ、実際の効果をバ ネに急激な成長を遂げるやり方だ。
図4 ケーススタディ―Connect2020― アクセンチュアはテムズ水道局の100%子会社であるConnect2020 と共同で4PL を設立。
将来は水道業界全体へのソリューション提供を狙っている 現 状 Connect 2020 テムズ水道局 水道局 A 水道局 B 水道局 C 統合ソリューション提供型 今 後 = Client = 4PL = サービスプロバイダーまたは3PL C SP 4PL 4PL アクセンチュア 3PL 業者 IT 業者 業界ソリューション提供型 JUNE 2002 24 英国医薬品業界の事例は三社の課題認識が見事に 一致した例だが、このようなケースは多くはない。
通 常は各々異なる課題認識を持っており、不特定多数 を対象としたeマーケットプレースの苦戦が物語って いるように、総花的な課題認識で事業を開始しても成 功にはつながらない。
Connect2020 のケースは歩みが遅く見えるが、テム ズ水道局に対しては確実に効果を上げており、その実 例をもとに参加企業を増やしていくやり方のほうが成 功の確度が高いと思われる。
欧米市場において、今後 も4PLの設立は続くであろうが、その成り立ちは一 攫千金を狙った総花的なものではなく、地道だが確実 なものとなるであろう。
日本市場における4PL 残念ながら日本においては、現在のところ本格的な 4PL業者は存在しない。
一部で有力な3PL業者 や総合商社がクライアント企業とジョイント・ベンチ ャーを立ち上げサービスを提供しているケースも見受 けられるが、eビジネスへの対応を狙った宅配サービ ス事業などサービス範囲が限定されているものが多い。
また、一時期ロジスティクス・マーケットプレース を標榜する業者も現れたが、サービスが求貨・求車と いう限られた範囲に限定されたものが大半だったこと もあり、期待されていたような効果は得られていない。
それでは、日本において4PL業者が存在していな い理由にはどのようなことが考えられるのか。
答えは サプライチェーンの構造にある。
日本企業のサプライチェーンに関するこれまでの取 り組みは、企業内、企業グループ内の連携を強化する ものが中心であった。
しかし、業績が低迷している企 業が多いなかで欧米企業に負けない競争優位を実現 するためには、各領域の最強企業同士がネットワーク を会して一企業のように連携するネットワーク型のサ プライチェーン構造へと変貌を遂げていく必要がある。
例えば、生産現場では、これまでのように製造工程 の一部を外注化する方法から、生産に関わる全ての業 務をEMSへ委託したり、工場自体を売却するなどで 競争力を強化しようとしている。
これと同様のことが今後、ロジスティクス分野にお いても起こる可能性が高い。
一部業務を複数の3P Lへ委託する方法から、サプライチェーン全体の業務 を4PLへ一括して委託する方法へと変化を遂げてい くと考えられる。
また、単に一企業の競争力を向上さ せるだけでなく、企業を超えた業界全体の構造改革へ と繋がるものも出てくるであろう。
図5 ケーススタディ―英国医薬品業界― アクセンチュアは英製薬大手3社と共同でジョイントベンチャーを設立、英国医薬品業界の物流インフラを提供し年間ロジスティクスコストの39% を削減 4PL モデル 注:残りの20% は製薬会社営業マンによる直接配送 共同配送 病院 薬局 薬局 共同配送 普通便 緊急便 小ロット便 A 社 B 社 C 社 卸 卸  少量配送(2%) 少量配送(5%) 工場在庫 大量配送(73%) 病院 薬局 薬局 卸 卸 4PL 工場直送 各企業独自の物流 まえだ・けんぞう 84年、早稲田大学大学院理工学研究科 卒業。
同年、アクセンチュア入社。
89 年、マネージャー。
98年、パートナー。
2000年、サプライチェーン・マネジ メント・グループ統括パートナー。
現 在に至る。
「成功するロジスティクス」 (日経BP出版センター)、「サプライチ ェーン戦略」(東洋経済新報社)などロ ジスティクスおよびSCM関連の著書 多数。
なかむら・もとき 戦略グループ通信・ハイテク産業本部 シニアマネジャ。
1992年電気通信大 学電気通信学部卒業。
同年アクセンチ ュア(旧アンダーセンコンサルティン グ)入社。
99年より現職、製造業、輸 送業を中心に新規事業戦略立案、サプ ライチェーン戦略立案、業務革新等の コンサルティングに従事。

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