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25 JUNE 2002
物流子会社が自立を果たすためには、3PL化が有効な手
段になる。 まずは実態を熟知する親会社へのコンサルティン
グ事業で経験を積み、そこで培ったノウハウを活かして3P
L事業を進めればいい。 そのためには、親会社の理解と協力
が欠かせない条件になる。
カサイ経営河西健次社長
生き残りの条件は「貢献」か「自立」
最初に、私がコンサルティングやセミナーの講師を
していて見聞きしたことから紹介しよう。
今年三月、ある団体に頼まれて、「提案からコンペ、
受託までを演習で学ぶ物流事業者のための3PLセ
ミナー」という勉強会の講師を務めた。 二日間のセミ
ナーのうち講義の時間はわずか九〇分間。 残りの一〇
時間余りは、すべてケーススタディーの検討に費やさ
れた。
物流コンペへの参加表明から、一次コンペ(書類
審査)への入札、二次コンペ(最終)におけるプレ
ゼンテーション――。 現実のコンペを三段階に分けて
再現し、実践さながらの討議と発表が繰り広げられ
た。 参加者二三人のうち過半数の十三人が物流子会
社の関係者で、人材のレベルの高さと熱意が強く印
象に残った。
また私は、3PLパートナーを募る物流コンペにも、
委託側(荷主)と受託側(物流業者)の双方の立場
から数多く接してきた。 最近、携わった六社のコンペ
のうち、五社のケースで物流子会社が応札していた。
あるコンペでは参加企業の三分の一が物流子会社だっ
た。 こうした事実は、3PLに対して物流子会社が大
きな期待を寄せていることを示している。
そもそも物流子会社の使命と存在意義には、「貢献」
と「自立」という二つの側面がある。 親会社に対して、
よりよい物流サービスを、より安いコストで提供する
ことで「貢献」する。 もしくは物流専門企業として
「自立」し、グループ収益の向上と発展に寄与する。
「貢献」は物流のプロ集団として親会社の物流シス
テムを改善、改革することによってなされる。 また
「自立」は、一般荷主の獲得によって親会社から経営
的に独立し、利益を稼いでグループ収益の向上に寄与
することによって成立する。 そのため、私が物流子会
社の診断を行うときには、この「貢献度」と「自立
度」の両面をチェックし、そのうえで総合点をつけて
評価するようにしている。
最近では親会社への「貢献」も「自立」も見込めな
い物流子会社は、次第に淘汰されつつある。 相次ぐ物
流子会社の廃止や売却の動きが、それを如実に示して
いる。
3PL化は物流子会社の使命
従来の物流子会社は、どちらかというと親会社への
「貢献」を重視されてきた。 しかし、二〇〇一年に日
本にも国際会計基準が導入され、連結会計への移行
が決まると、物流子会社は親子間の利益の調整弁的
な役割を失った。 現在では、グループ収益の向上に寄
与する「自立」を優先させざるを得なくなっている。
親会社から「自立」するためには、一般荷主の開拓、
つまり外部販売比率(外販比率)を高める以外に道
はない。 そして外販比率の向上には、今後の成長が期
待できる3PL事業への進出が有効な手段になる。 も
はや3PL事業者として成功することは、物流子会
社の使命といっても過言ではない。
幸い、多くの物流子会社は、3PL事業者の要件
を充分に備えている。
■包括的に物流業務を受託できる
ほとんどの物流子会社は、総合物流業者もしく
は総合物流事業者を目指している。 最近、相次い
でいる子会社同士の合併も、その流れに沿うものだ。
■コンサルティング力、提案力をもっている。
コンサルティングや提案をできる企画スタッフ、
「物流子会社の3PL転換」
JUNE 2002 26
SE、エンジニアなどの人材を確保でき
る体制を有している。
■経営面での体力がある
荷主に提案するコストダウンを保証で
きるだけのリスクを負担する体力をもっ
ている。
それ以外にも物流子会社は、とりわけ親
会社に対しては「パートナーシップ」、「情報
開示」、「機密保持」、「ゲインシェアリング」
など、3PL化を進めるうえで欠かせない
要件を数多く満たしている。
したがって物流子会社は、まずは物流の
実態を熟知している親会社に対するコンサ
ルティング提案を行い、そこで実績を上げ
ながらグループ企業に拡大していくことが
望ましい。 そうして培ったノウハウを活かし
て、次のステップとして3PL事業を核に
外販比率の向上に努め、「自立」の道を歩ん
でいけばよいのである。
過去五年間で生じた変化
では3PLを志向する物流子会社は、具
体的にはどのような施策をとっていくべきな
のか。 この点を、筆者の会社で行った実態調査を基に
明らかにしていきたい。
カサイ経営は物流子会社のコンサルティングを行う
目的で開発した「物流子会社診断」というツールを持
っている。 この「物流子会社診断」では、用意してあ
る五〇の質問に答えると、その子会社の「貢献度」と
「自立度」が評価できるようになっている。
診断結果は図1のようにまとめられる。 横軸に「貢
献度」、縦軸に「自立度」をとり、それぞれ一〇〇点
満点で評価する。 それぞれを五〇点で区切ることによ
り、物流子会社を四つのタイプに分類したうえで、具
体的に評価するという手法をとっている。
四つのタイプは、親から見た子供に例えて類型化し
ている。 その背景となった親の教育方針(子会社政
策)についてもカッコ内に示してある。
?
スープのさめない距離の別居タイプ
(知育、徳育、体育バランス型)
?
立志、親離れタイプ(かわいい子に旅型)
?
親がかり同居タイプ(子離れ不足型)
?
ドラ息子タイプ(放任、無責任型)
図1は、ある団体が主催している物流子会社交流
会の会員に対して行った、二度の「物流子会社診断」
の結果である。 一回目の調査は九六年三月で対象企
業数は二〇社。 二回目は二〇〇〇年十一月で二二社から回答が寄せられた。
図中に書き込まれている丸印が回答会社の評価を
表しており、白丸は九六年、黒丸は二〇〇〇年の状
況を表している。 また、一回り大きい白丸と黒丸は、
各年度の平均値を示している。 回答数そのものは決し
て多いとは言えないが、同じ会員だけを対象に調査し
ているため、その傾向と推移を把握することができた。
結果的に明らかになった傾向としては、九六年には図
中左下の「放任・無責任型」に分類された子会社が
多かったのだが、二〇〇〇年には右上の「知育・徳
育・体育バランス型」へ全体として移動していた。
各年度の平均値を示す点をみると、その傾向はよ
り顕著に現れている。 「貢献度」の平均値は九六年に
は三二・六点だったのが、二〇〇〇年には六一・三
? ?
? ?
スープの冷めない距離の
別居タイプ
(知育・徳育・体育バランス型)
立志・親離れタイプ
(かわいい子に旅型)
親がかり同居タイプ
(子離れ不足型) どら息子タイプ
(放任・無責任型)
項 目
自立度
貢献度
総 合
得 点
点/100点
点/100点
点/100点
《診断結果》
●2000年調査22社平均
● 2000年調査個別企業
○1996年調査20社平均
○ 1996年調査個別企業
自
立
度
貢献度
0
50
0 50 100
100
図1 「物流子会社診断」にみる物流子会社の実態
親から見た子ども(ムスコ)のタイプ
( )内は、子に対する親の管理(教育)の型
27 JUNE 2002
点に向上。 「自立度」についても九六年に四八・二点
だったのが、二〇〇〇年には五八・〇点と向上して
いる。 少なくとも、この会に参加している物流子会
社は、約五年間の経営環境の変化に対応して「貢献
度」と「自立度」ともに格段の進歩を遂げているこ
とが分かる。
成功する子会社・失敗する子会社
この「自立度」の調査を通じて、3PL化に「成
功する子会社」と「失敗する子会社」の施策面の違
いも明らかになった。 「自立度」を高めていくための
施策と、3PLを育成するための施策が、ほぼ一致し
ているためだ。
以下では、主に「自立度」に関する個別の質問項
目(施策)について、「自立度」の高いグループ(六
〇点以上)と低いグループ(五〇点以下)の実施状
況を比較してみた(図2)。
ただし、サンプル数が二度の調査で異なる関係上、
高いグループは二〇〇〇年のデータから一〇社、低い
方のグループは九六年から同じく一〇社を選んで比較
した。 各グループの平均外販比率は、高いグループで
三〇%以上、低いグループで一〇%以下と推定され
た。
なお、比較にあたっては、施策を次の三つの項目に
分類して、分析を行った。
(1)
自立化(外販)戦略
親会社が自立化を促進する子会社政策をとってい
るか
(2)
外販体制の強化
営業組織と商品や情報システムの開発体制はどう
なっているか
図2 物流子会社の自立化施策(外販比率向上)の実施状況
出典:カサイ経営「物流子会社診断」調査
?長期ビジョン(社長が交替しても変わらない長期経営戦
略)は、社員ならびに親会社に開示されている
?売上50%以上の外販方針をとっている
?子会社単独で、次年度の利益計画を編成している
?親会社(出資者)に対して配当している
?倉庫・輸送など少なくとも複数の物流業務を担当してい
る
?社長と親会社のコミュニケーションは十分である
?子会社の社長は後継者人事に発言権をもっている
?親会社の出向者に対して拒否権をもっている
?親会社に必要な人材を要請できる
分 類
質 問 項 目
(施 策)
自立度による実施施策の差
低い10社 高い10社
30
30
10
30
70
30
10
30
50
10
20
20
30
50
20
30
30
0
10
20
100
100
100
90
100
70
70
100
90
70
100
100
80
80
80
70
80
80
70
50
50
30
95
60
90
65
35
35
60
65
65
55
35
65
60
65
45
25
15
45
(90
82
36
100
82
100
86
45
45
86
73
86
91
73
73
82
86
73
68
45
36
96年3月
00年11月
時系列比較対象のすべて
?社長が率先して外販活動をしている
?外販のための営業組織(課以上)をもっている
?外販用の営業案内書をもっている
?新しい物流商品を開発するための組織(課以上)をもっ
ている
?自社独自で配車管理、WMS等の情報システムを開発し
ている
?自社で情報システムを開発できる要員(SE)をもって
いる
?親会社に新しい物流サービスのセールスをしている
?社長は物流業を理解するために専門団体の研修
(延10日間以上)をうけている
?社員教育のための物流カリキュラムがある
?荷主業界と交流する定例研究会等(月1回以上)に参加
している
?プロパーの役員がいる
(プロパーの社員がいる)
(2)外販体制の強化
(1)自立化戦略
(親の子会社政策)
(3)人材育成
(80)
(90)
95)
% % % %
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(3)
人材育成
社員のスキル向上とモチベーション対策はあるか
まず最初に、
(1)
の「自立化戦略」について、「自立
度」の高いグループ一〇社すべてが実施していると
答えた施策を、重要度の高い順に示す。 (文末のカッ
コ内は「自立度」の低いグループ一〇社における施
策の実施率)
?長期ビジョン(社長が交替しても変わらない長期経
営戦略)は社員ならびに親会社に開示されている
(三〇%)
?売上の五〇%以上という外販方針をとっている
(三〇%)
?子会社単独で次年度の利益計画を編成している
(一〇%)
?倉庫、輸送など、少なくとも複数の物流業務を担
当している
(七〇%)
?親会社の出向者に対して拒否権をもっている
(三〇%)
「自立度」の高い物流子会社では、自立化を奨励する
親会社の子会社政策と、子会社が五〇%以上に設定
している外販比率の達成目標とが一致し、使命(目
的)と目標が共有化されていることが分かる。
上記以外でも、「?社長と親会社のコミュニケーシ
ョンが十分である」という施策は、「自立度」の高い
グループの七〇%が該当するのに対し、低いグループ
では三〇%しか該当しない。 また、「?親会社に必要
な人材を要請できる」「?親会社に対して配当をして
いる」といった施策でも顕著な差がついた。
次に、
(2)
の外販体制の強化について見ていく。 「自
立度」の高い会社が一〇〇%実施していると答えた
施策は、次の通りだ。
?外販のための営業組織(課以上)をもっている
(二〇%)
?外販用の営業案内書をもっている
(二〇%)
これは当然のことと言えるだろう。
注目すべきは、「?社長が率先して外販活動をして
いる」という施策を、自立度の高いグループでは七
〇%が実施しているのに対し、低いグループにおける
実施率は一〇%でしかない点だ。 このことからは、3
PLに欠くことのできない営業組織やトップセールス、
商品開発、システム開発の推進体制が、自立度によ
って大きく違うことが分かる。
(3)
の人材育成については、「自立度」の高いグルー
プと低いグループとの間で、実施率の差が大きい順に
施策を並べてみる。 ?社員教育の物流カリキュラムがある八〇%(〇%)
?荷主業界交流する定例研究会に参加(月1回以上)
している七〇%
(一〇%)
?社長は物流業を理解するために専門団体の研修(一
〇日間以上)をうけている八〇%
(三〇%)
?プロパーの役員がいる五〇%
(二〇%)
これらの回答からは、「自立度」の高い子会社ほど、
サービス業の本質である人材教育や人材登用制度、外
部企業との交流などに力を入れていることが分かる。
3PL化の成功と失敗の分かれ目
最後に、筆者がコンサルティングで関わった事例の
1 事業部管理方式 (物流部管理)
2 職能部門別管理方式 (労、経、企各部が分担)
3 一元的管理方式 (関連事業部管理)
4 複合的管理方式 (物流部と関連事業部が分担)
図3 物流子会社を管理する親会社の組織
出典:三本義雄著「関係会社管理の知識」日経文庫
29 JUNE 2002
なかから、成功例と失敗例を紹介して、本稿のまとめ
としたい。
《自立化に成功したケース》
A社は九七年に、二〇〇〇年を最終年度とした極
めて高い外販拡大目標を掲げた。 当初は達成を困難
視されていたが、計画の一年遅れの昨年、目標を達成
することができた。
九七年当時、新任の社長が、自立化を柱とする長
期ビジョンを策定した。 その実現に向けた機関として、
管理者以上が参加する合宿研修会を催し、これを最
大限に活用した。 研修会の大きな特色は、子会社だ
けでなく、親会社の物流部長他スタッフも参加してい
た点だ。 これによって、全社どころか親会社も含む関
係者全員が、自立化の目標、戦略、戦術を共有でき
たことが、成功の最大の要因となった。
一年目の研修ではコア事業の再確認と強化策を練
り、3PL事業進出の中期計画を立案した。 二年目
以降は、戦術面のテーマを選んで、輸送事業強化と
システム開発(求貨求車、配車計画支援システムな
ど)、センター事業の競争力向上のためのWMS(倉
庫管理システム)の導入、新物流センターの建設に
よる共配事業の拡大などをテーマに採り上げ、決定
後はスピーディに実行した。 社長や常務による率先
したトップセールスも、外販の拡大に弾みをつけた。
こうした積極的な施策の遂行により、A社はシステ
ム開発や、SEの増強、営業・コンサル部隊の人材
育成などの先行投資を吸収しながら、「自立化」の長
期ビジョンを軌道に乗せることができた。
《自立化に失敗しているケース》
B社は、創立後一〇年以上を経過している物流子
会社だが、いまだに社長を親会社の物流部長が兼務
している。 ちなみに物流子会社を管理する親会社の組
織は「事業部管理方式」が理想に近いとされているの
だが、B社の場合は「複合的管理方式」を採用して
いる(図3)。
この複合的管理方式とは、親会社の物流部が荷主
の立場で現場に密着しながら、目先の利益(コスト)
追究などの要求を子会社に出す。 その一方で親会社
の関連事業部が施策の立案などを担当する、という立
体的な管理方式である。
B社の場合、親会社の業績が好調な間は、それで
も良かった。 しかし、経営環境が厳しさを増すにつれ
て、子会社に対する親会社の物流部からの協力要請
は、無理難題とまではいかないものの、日増しに強ま
っていった。
B社は現在、親会社依存の閉塞感を打開するため、
外販の拡大と3PL事業への進出を意図している。 し
かし、これに必要な先行投資、人材育成、システム開
発などに遅れをとってしまった。 「貢献」を重視すれ
ばするほど十分な先行投資ができず、「自立」が進ま
ないという悪循環に陥っている。
以上、A社とB社のケースを比較すると、親会社が
「物流子会社の自立化政策」をとっていること、つま
り子会社と目標を共有化しているかどうかが両者の明
暗を分けている。
親会社と子会社が自立化の目標を共有できれば、必
要な人、物、金、情報、時間などの経営資源を投入
できるため、3PL事業への進出も可能になる。 「子
供は親の背中(教育方針)を見て育つ」というのは、
物流子会社の3PL化にも当てはまる言葉なのであ
る。
(かさい・けんじ)
1948年旭硝子入社、販売、経理、工
場、物流、調達とロジスティクスの全
領域の業務に従事、82年物流部部長補
佐にて退社、カサイ経営を設立し物流
コンサルタントとしての活動を開始、
83年には全国能率大会最優秀論文通産
大臣賞を受賞、主な著書に「物流コス
ト削減マニュアル」(PHP)、「新実践
物流管理読本」(成山堂)など多数。
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