ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年7号
ケース
富士コカ・コーラボトリング――拠点集約

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2002 44 「コーラシステム」の崩壊 コカ・コーラのサプライチェーンには一般 の清涼飲料水とは異なり卸が介在しない。
日 本コカ・コーラ社がコーラなどの原液を製造。
ライセンス契約を結んでいる全国のボトリン グ会社(ボトラー)がその原液を購入し、瓶 (缶)詰めをして直接小売りに供給する仕組み になっている。
販売および物流は「ボトラーマン」と呼ば れるドライバー兼営業マンが赤色のオリジナ ルトラックで一軒一軒小売店舗を回り、製品 を納品しながら注文も取る体制。
同社が「コ ーラ・システム」と呼ぶ、この「商物一体」型 のサプライチェーンによって、コカ・コーラは 戦後の日本市場で清涼飲料最大手としての地 位を築いた。
得意先の大半を零細規模のパパ・ママスト アが占めていた時代には、コーラ・システム は販売力の源泉として機能した。
ところが、八 〇年代前半に量販店やコンビニエンスストア などのチェーン小売業が台頭してきたのに伴 い、チャネルの維持が難しくなってきた。
チェ ーン小売業は、個店への製品の本部一括購入 と物流センターへの一括納品などをベンダー 側に求めてきた。
しかし、小売チェーンの物流を別扱いすれ ば、その分だけ既存の配送ネットワークのボ リュームが減る。
積載効率などの悪化は避け られない。
また「商物一体」のコーラ・シス センター納品の増加から商物分離 営業所の在庫を新センターに集約 従来の店舗納品に代わり、小売りのセンタ ーに納品するケースが増加したことで、既存 の配送ネットワークに軋みが生じた。
セール スドライバーによる商物一体型のネットワー クを改め、商物を分離。
出荷機能を備えた大 規模物流センターを新設し、約30カ所の営業 所に分散していた在庫を集約した。
富士コカ・コーラボトリング ――拠点集約 主導権が逆転。
コカ・コーラグループといえども、チェーン小売りの「商物分離」の要請 を無視できなくなってしまった。
これによって 各地のボトラーは、ネットワークの再編とい う大きなテーマに直面することになった。
同グループで神奈川・静岡・山梨の三県を 担当する富士コカも例外ではなかった。
従来、 同社のサプライチェーンは神奈川(海老名市)、 静岡(清水市)の二工場で瓶詰めした製品を 地域の営業所(物流拠点)に供給。
そこで在 庫をして注文に応じて得意先に配送する、と いう仕組みだった。
営業所は担当エリア三県 に約三〇カ所を配置していた。
当初、チェーン小売りの一括物流センター への納品分も既存の営業所から出荷していた。
しかしボトラーマンによるルートセールスを前 提に設計された営業所の物流現場では徐々に 混乱が生じるようになっていた。
現場は人手 による作業が中心。
店舗別に仕分けた商品を 短いリードタイムで納品するよう依頼してく る小売りチェーンのニーズに対応するのは難 しかった。
しかも「チェーン小売りへの販売量はどん どん増えていき、逆に個店配送の必要性が徐々 に薄れていった。
従来の物流体制のままでは 作業の生産性が上がらず、コストが膨らむ一 方だった」と岡田部長は述懐する。
三タイプの物流拠点 こうした課題を解消するため、富士コカは テムには末端の小売店の売れ行きをダイレク トに掴めるなどのメリットがあったが、店舗で はなく小売りのセンターに納品することにな れば、そうした販売情報の入手も難しくなる。
ボトラー側としては受け入れられない要請 だった。
実際、当初はボトラー各社も強いブ ランド力を楯に「商物分離」の要請をはねつ けた。
「チェーン小売りからの商物分離に対す る要請に最後まで抵抗できたのは、コカ・コ ーラグループと花王だった。
それだけ両社の 製品のブランド力は当時強大なものだった」と 富士コカ・コーラボトリングの岡田眞三物流 部長は振り返る。
しかし、抵抗も長くは続かなかった。
マー ケットが急激に変化し、メーカーと小売りの 45 JULY 2002 九六年に「物流ネットワーク構想」という物 流改善プロジェクトを立ち上げた。
まず営業 所と物流機能を分離。
さらに物流拠点を機能 別に、工場隣接型のLC(ロジスティクスセ ンター)、在庫拠点のDC(ディストリビュー ションセンター)、無在庫拠点のTC(トラン スファーセンター=配送デポ)の三つに分けた。
LCの担当は生産在庫の管理とDCへの大 ロットでの製品供給、そしてチェーン小売り の一括物流センター向け製品出荷。
DCは得 意先別や配送ルート別に製品を仕分けしてミ ックスパレット(得意先別の仕分けを済ませ て製品を積み付けてある状態のパレット)を 作り、それをTCに供給する役割と、得意先 へ直接製品を配送する役割を担う。
一方、TCは小売店および自販機への製品 供給を行うための拠点。
原則として在庫は持 たず、DCから送られてきたミックスパレット をそのままトラックに積んで、個店配送を行 うのが主な仕事だ(図1)。
これを担当エリアである三県に再配置。
具 体的にはLCを一カ所、DCを二カ所、TC を十数カ所置いて、新たな物流ネットワーク を形成することで、パパママストアとチェーン 小売りの双方のニーズに対応できる体制を目 指した。
同時に在庫拠点を集約するとで、全社的な 在庫水準を引き下げることも狙った。
前述し た通り、富士コカでは三〇カ所の営業所がそ れぞれに在庫を持っていた。
消費者の嗜好の 図1 富士コカのサプライチェーン 従来 新体制 工場 工場 LC DC TC 自販機 一般小売店 チェーン 小売店 営業所 店舗・自販機 協力会社 協力会社 協力会社 協力会社 チェーン小売り の協力会社 ボトラーマン ボトラーマン ボトラーマン CVS・量販店 一括物流センター ことができるのが特徴だ。
工場から製品が入荷されて、得意先および TCに向けて出荷されるまでの作業フローは 以下の通り。
まず大型トラックで運ばれてき た製品はパレットのまま、入庫ラインにある搬 送台車に載せられる。
そのままパレット自動 倉庫に向かうが、その途中で二次元コードを 使って自動的に入荷検品されてから格納され る。
続いて出荷作業。
自動倉庫から出されたパ レット単位の製品はまずデパレタイザーでケ ース単位に分けられる。
その後、回転率の高 いA製品はスペースストレージに、回転率の 低いB・C製品はケース自動倉庫にそれぞれ 一時保管される。
出荷指示に従ってA製品、B・C製品はそ れぞれ自動的にTC別、得意先別にピッキン グされ、プレローダーが置かれているスペース までコンベアで搬送される。
プレローダーは搬 送されてきた順番に合わせて、パレットにケ ース製品を積みつけていく。
こうしてTC別、 得意先別のミックスパレットが作られる。
最後にパレットに積みつけられたケース製 品にストレッチ梱包機で荷崩れ防止の処置を JULY 2002 46 変化に合わせて製品アイテムの数を年々拡大 していった結果、製品在庫が増加していく傾 向にあったという。
これに対して、新体制では「在庫を持つの はLCとDCのみ。
在庫拠点が集約されるの でその分製品在庫を減らすことができる」と 岡田部長はにらんでいた。
新体制への移行はLCとDCを設置するこ とから始まった。
まず九八年に海老名LCと 秦野DCを稼働。
これに合わせて、翌九九年 には山梨県下の各営業所のTC化、二〇〇〇 年には横浜・川崎地区の自販機向け営業拠点 のTC化に踏み切った。
在庫拠点であるDC を立ち上げ、そのDCが管轄するエリアの営 業所を統廃合してTC化する、という手順で ネットワークを整備していった。
そして、今年三月には横浜DCを稼働させ た。
横浜DCは延べ床面積約九五〇〇平方メ ートルの二階建て。
横浜市鶴見区の国道一号 線沿いに位置する。
投資額は約一九億円。
パ レット自動倉庫、ケース自動倉庫、デパレタ イザー、プレローダー(棒積装置)、ストレッ チ包装機などのマテハン機器が揃う最新鋭の 物流センターだ。
一時間当たりの処理能力は三八〇〇ケース。
年間に一八〇〇万ケースを扱う。
秦野DCの 約二倍の出荷能力を誇る。
ペットボトルやア ルミ缶製品の入荷から出荷までのオペレーシ ョンは自動処理される仕組みで、オーダーを 受けてから最短で一時間で出荷準備を終える パレット倉庫で保管されていた製 品はデパレタイザーでケース単位 に分けられる 工場から送られていた製品を入庫 ラインに置く。
その後製品は搬送 台車でパレット倉庫まで運ばれて 格納される B、C商品はケース倉庫で一時保 管された後ピッキングされる A製品はスペースストレージで一 時保管された後ピッキングされる 得意先別仕分けが済んだ状態のミ ックスパレットをトラックに積み 込み、TCへ向けて出発する プレローダーでパレットに積み付 けられた製品は、ストレッチ梱包 機で荷崩れ防止の処置が施される 横浜DCの機能 入庫ラインデパレタイザー スペースストレージケース倉庫 ストレッチ梱包機出荷 施し、出荷仮置き場に搬送して作業が終了す る(四六ページ写真および図2参照)。
横浜DCがカバーする神奈川県東部地域は、 同社が管轄するエリアの中でも最も出荷量が 多い。
その地域の物流がDC〜TCというか たちに整理されたことによって、今後は間接 人件費など年間約一億円のコスト削減効果を 見込めるという。
「横浜DCは『物流ネットワーク構想』の総 仕上げとも言える事業だった。
末端の物流拠点を統廃合する作業が一部残っているが、稼 働に漕ぎ着けたことで再配置はほぼ完了した と言っていい。
多頻度小口配送を求めるチェ ーン小売りへのニーズにも十分対応できる体 制が整った」と岡田物流部長は胸を撫で下ろ している。
中京コカと経営統合 ただし、もう一つの狙いであった在庫削減 については、思うような成果を上げられてい ないというのが現状だ。
拠点集約で流通在庫 は減少傾向にある。
だが、肝心の生産在庫が 減らない。
新製品の需要予測の精度が上がら ず、大量の不良在庫を抱えてしまったことが 原因だ。
さらに当初は想定されていなかった事態に も直面している。
コカ・コーラのボトラー各 社はこれまで一社がそれぞれ三〜四県を担当 し、エリア内で製品を販売するブロック需給 体制をとってきた。
しかし、全国規模の小売 りチェーンは購買窓口を一つに集約する傾向 にある。
これに対する窓口として、コカ・コーラ側 でも日本コカ・コーラを始めとして各地のボ トラーが共同出資するコカ・コーラナショナ ルセールスを設立し、対応に当たっている。
そ の結果、商流は集約されたものの、実際の商 品供給は各地のボトラーから納品するという 「ねじれ現象」が起きているのだ。
こうしたブロック需給による弊害を解消し ようと、現在、コカ・コーラグループではボト ラー同士の経営統合や業務提携などが盛んに 行われている。
九九年には山陽コカ・コーラ ボトリングと北九州コカ・コーラボトリング が合併して、コカ・コーラウエストジャパンが 発足した。
また、経営統合にまでは至らない ものの、隣接するボトラー同士で生産、販売、 情報のインフラを相互利用するといった動き も活発化している。
富士コカ自身も昨年六月、愛知、岐阜、三 重の三県を担当する中京コカ・コーラボトリ ングと経営統合を果たし、共同持ち株会社「コ カ・コーラセントラルジャパン」を設立した。
両社は事業会社として独立性が保たれている ものの、生産、販売、物流など幅広い分野で 協力関係を築くことで、規模のメリットを追 求していくという。
「これまで富士コカと中京コカはそれぞれに 物流の見直しを進めてきた。
両社の取り組み をうまく融合させて、セントラルジャパンとし ての最も効率の良い物流ネットワークに仕上 げていくことが今後の課題だ。
中京コカとは 新しい物流体制をどう構築していくべきかに ついて話し合いを続けている。
具体的な内容 がまとまるのはもう少し先になりそうだ」と岡 田部長は説明する。
これまで五年越しで取り組んできた「物流 ネットワーク構想」は富士コカにとって通過 点の一つにすぎないようだ。
(刈屋大輔) 47 JULY 2002 図2 横浜DCの作業フロー 入荷 出荷 保管 デパレ 切出 人手ピッキング パレット単位 積付 出荷ストレージ 海老名ロジスティクスセンター パレット自動倉庫 デパレタイザー スペース ストレージ ケース 自動倉庫 プレローダー(棒積装置) 出荷仮置場 パレット自動倉庫 (一時仮置) 人手 ステーション 平置 ミックス パレット

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