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41 MAY 2005
外部委託倉庫の管理を一元化
ハンバーガー専門店チェーンのモスフード
サービスは、フランチャイズ方式で全国に一
四五〇余りの店舗を展開している。 同社のチ
ェーン本部は、店舗で販売するメニュー(商
品)の企画開発を手掛ける一方で、必要な食
材をメーカーから直接仕入れて店舗に供給す
るサプライヤー機能も持っており、サプライ
チェーンの中核を担っている。
食材を全国の店舗に配送するために、モス
は北海道から沖縄まで十三カ所の配送センタ
ーを設けている。 いずれも外部の物流会社の
倉庫で、庫内オペレーションも外部委託して
いる。 ただし、センターでの在庫管理や店舗
配送など、物流拠点に食材が納入されたあと
の管理については、すべてモスの商品統括本
部が責任を負っている。
モスでは原則として、配送センターの運営
費を仕入先ではなく同社自身が支払う考え方
をとってきた。 センターに入荷した商品は同
社の在庫となり、庫内作業や保管・配送の費
用を同社が物流会社に支払う。
その理由をモスの上席執行役員の堀田富雄
商品統括本部長は、「仕入先がセンターフィ
ーを支払うかたちにすると、そのコストがど
ういう形で仕入れ価格に上乗せされるのかわ
かりにくくなる。 仕入れ価格の構造をクリア
にするためにこちらで支払っている。 我々自
身が物流を管理することで、どうすればコス
ASPでリアルタイム在庫管理を実現
生産履歴情報もWEBで入手へ
モスフードサービスは今春、外部委託
しているすべての倉庫の管理システムを
ASP(アプリケーション・サービス・プ
ロバイダー)方式による運用に切り替え、
これによって在庫のリアルタイム管理を
実現した。 今後は、食材メーカーからイ
ンターネット経由で原料・生産履歴の付
与された出荷予定情報を入手し、トレー
サビリティーの実現をめざす。
モスフードサービス
――情報システム
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トを圧縮できるかもわかるようになる」と説
明する。
このため商品統括本部では、商品管理グル
ープに専任の実務担当者を置いている。 業務
委託先の物流会社との緊密なパートナーシッ
プのもとに在庫の管理を行い、店舗や仕入先
と連携を取りながらITの活用によるSCM
(サプライチェーン・マネジメント)を進めて
きた。
倉庫管理については、九九年に、全国十三
カ所の配送センターすべてにWMS(倉庫管
理システム)を導入した。 中堅ソフトベンダ
ーのシーネット製のパッケージソフトを自社
仕様に改良した「Mariana」と呼ぶソフ
トで、これによって全センターの管理の標準
化を実現した。
それ以前の体制では、センターによって業
務委託先が異なることもあって、各センター
は個別の倉庫管理システムで運営されていた。
在庫管理の手順も業務委託先によって異なり、
モスに対する在庫情報の報告などが一律では
なかった。 これが結果として在庫管理担当者
のミスを誘発し、在庫数の差異がたびたび生
じていた。
とりわけ賞味期限の管理に問題があった。
地域間の販売数量にバラツキがでて在庫偏在
が起きた場合、センター間の在庫移動によっ
て調整をおこなう。 その際にセンターでは、
日付の逆転が起こらないよう、商品の入荷日
ではなく、賞味期限で入出庫を管理する必要
がある。 だが九九年以前にはセンターごとに管理方法が異なっていたため作業が煩雑にな
っていた。
そこで賞味期限による一元管理の実現を最
大の眼目としながら、九九年に「Mariana」
を導入した。 各センターの業務委託先に管理
用のサーバーを貸与し、クライアントサーバ
ー方式により共通のシステムとして運用して
もらうことにしたのだ。
このときのシステムの一元化によって、狙
い通り管理精度は上がった。 在庫の偏在も減
り、センター間の無駄な横持ち輸送は少なく
なった。 モスが扱う食材は冷凍品だけでも、
九九年当時の五〇品目から、現在では八〇品
目にまで増えている。 こうしたコストアップ
要因があったにもかかわらず、物流コストは
上がっていないという。
実在庫との差異を解消
もっとも、WMSを一元化した後も、在庫
数の問題は完全には解決されなかった。 入出
庫のたびに変わる実在庫の数字と、モスが管
理しているコンピューター上の数字との差異
が相変わらず見過ごせないレベルで発生して
いた。
「Mariana」では配送センターの入出
庫・在庫管理をリアルタイムで行っている。
ところがこれまでは、「Mariana」が管理
するリアルタイムの実在庫が、商品統括本部
の在庫管理データにはそのまま反映されてい
なかった。
モスフードサービスには、「GENESI
S」という販売管理基幹システムがあり、店
舗管理システムや倉庫管理システム「Mar
iana」との連携によって売り掛け買い掛け
管理を行っている。 「Mariana」の在庫情
報は日に一度のバッチ処理で「GENESI
S」に転送され、棚卸資産が確定する。 商品
統括本部では、この確定後の数字をもとに在
庫を管理していたのだ。
「GENESIS」の情報は毎日、正午過
ぎに更新され、商品統括本部の在庫担当者は
この情報をもとに、品切れしそうな商品があ
ると翌日にセンター間で在庫移動による調整
を行っていた。 だが配送センターでは情報更
新後の夕方から翌日の午前中にかけて出荷や
入荷が行われており、担当者が移動の指示を
出す時点では管理上の在庫と実在庫との間に
明らかに差異が生じてしまっていた。
そこで同社は、今年三月に「Mariana」
を従来のクライアントサーバー方式から、A
SP方式(業務ソフトをインターネット経由
堀田富雄上席執行役員
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で期間借りする方式)による運用に切り替え、
それぞれの配送センターはネット上のサーバ
ーを利用して入出庫や在庫管理を行うように
した。 「もっと鮮度の高い生きた数字を実務
に取り入れるために」(堀田本部長)、商品供
給に必要な在庫の管理を販売管理の基幹シス
テムから切り離したのだ。
「Mariana」の在庫情報をバッチで処理
して「GENESIS」で債権債務管理を行
うのは従来通りだが、商品統括本部では「G
ENESIS」を経由せずに、ASPサーバ
ーから情報を直接とれるようにした。 これで
すべてのセンターの在庫をリアルタイムで一
元管理できるようになり、管理上の在庫と実
在庫との差異は完全に解消した。
それまでは十三カ所の配送センターにサー
バーを置き、それぞれバックアップも用意し
ていた。 ASP方式ならパソコンだけあればすむ。 メンテナンス費用もかからず、業務委
託先の物流会社にとってもコストメリットが
出るようになった。
メーカーの計画生産を支援
一方、モスでは仕入先との情報システムの
連携も着々と進めている。 二〇〇二年四月に
は食材メーカーとの間で「MOS
―Nile」
と呼ぶWEB
―EDIシステムを稼動。 仕入
先と販売・在庫情報、生産情報を共有して、
取引先の生産や在庫の最適化を支援し、サプ
ライチェーンを効率化してきた。
一般に外食チェーンの販売数量は、シーズ
ンや天候などの要因やプロモーション活動に
よって大きく変動する。 メニューの大半はチ
ェーン独自のPB(プライベートブランド)
商品のため、メーカーではチェーンごとに生
産や在庫計画を立てているが、その際、販売
数量の変動による急な生産依頼に備えて安全
在庫を多めに持つ傾向がある。 それでも変動
が大きく欠品の恐れのある時には、定時外に
生産を行って対応している。 だがこの状況は
サプライチェーン全体のコストアップを招き、
またチェーン本部にとっては、食材を店舗に
安定供給するうえでの不安材料となる。
そこでモスは、同社の販売・在庫実績をメ
ーカーに提供することによって、メーカーが
過剰在庫や品切れを起こさず計画的に生産を
行い、食材を安定供給できるように、生産計
画の立案をサポートするシステム「MOS―N
ile」を開発した。
「MOS
―Nile」では、モスから食材メ
ーカーに対してネット経由で在庫情報と店舗
の販売情報、および販売予測情報を提供する。
また、食材メーカーからモスに対しても「生
産予定情報」と「生産確定情報」が開示され
る。
同社から提供する情報のうち、在庫情報は
言うまでもなく、前述の「Mariana」で
管理する配送センターの在庫情報だ。 一方、
店の販売情報というのは、厳密には店で販売
したメニューに使われた食材の使用量のこと
を意味する。
同社の販売管理基幹システムである「GE
NESIS」では、POS(販売時点情報管
理システム)による各店舗のメニューごとの
売り上げ情報をもとに、そのメニューに使わ
れているすべての食材の補充数量を割り出す
ことができる。
POSで管理するのは、例えばAという店
で「モスチーズバーガー」というメニューが
何食売れた、という情報だ。 「GENESI
S」では、「モスチーズバーガー」一食分に
使用するパンやパテの肉・やさい・チーズ、
ソース、マヨネーズなどすべての食材の分量
を登録しておき、この分量に、POSで管理
する「モスチーズバーガー」の販売数量を掛
け合わせることによって、販売実績に応じた
食材ごとの補充数量を店舗別に算出できる。
実験期間中にモスの店頭では原料情報などの表
示も行った
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この機能を使って同社では、まず店舗との
間でPOSと連動した自動発注システムを導
入した。 各店舗が設定する店の基準在庫をも
とに、毎日の販売実績から食材の補充数量を
計算して店が自動発注を行うシステムである。
これと同じように、「MOS
―Nile」で
はメーカーに対して、店の販売情報を「GE
NESIS」で算出した食材の使用量に置き
換えて提供している。 そのメーカーが納品す
る食材の数量だけを、配送センターごとに、
「Mariana」で管理する在庫情報と一緒に
提供する。
店の販売実績と配送センターの在庫実績が
わかれば、店の理論上の在庫を割り出すこと
が可能になる。 この結果、メーカーでは店舗
と配送センターの流通在庫全体を見ながら、
適正な生産計画を立てることができるように
なる。
「Nile」では毎日の販売・在庫情報の
ほかに、三カ月先までの販売予測情報もメー
カーに提供している。 食材によってはメーカーが海外から原料を調達しているケースもあ
り、計画の立案には長期的な予測も必要にな
るからだ。 従ってこの情報は、メーカーが原
料調達や生産のライン組みを行う際に、あく
までも目安として使うためのものだ。
メーカーでは、同社が提供するこれらの情
報をもとに生産計画を立て、「Nile」の
画面に「生産予定情報」を開示する。 ただし
販売数量は日々変動するため、販売実績と在
庫情報をもとに毎週、調整を行いながら確定
していく。
これまでに、期間限定などを除く定番メニ
ューの九割以上の食材のメーカーが、「Ni
le」によって同社と情報を共有するように
なった。 メーカーによっては工場長が直接I
Dとパスワードを持って同社の在庫を画面か
ら検索しているところもあるという。
「メーカーのほうで在庫の動き方を見ながら
品切れが起こらないようにラインを組んでも
らえるようになり、変動があっても緊急に生
産を依頼しなくてよくなった。 配送センター
だけでなく店の在庫もわかるため、メーカー
も余分な在庫を持たず計画的に生産できるよ
うになり、流通在庫の削減に有効だったと思
う」と掘田本部長は指摘する。
トレーサビリティー実現へ
モスフードサービスでは今後、「Nile」
によるメーカーとの情報共有の高度化を図り、
さらに「Nile」と「Mariana」との情
報の連携を進めることによって、トレーサビ
リティーの実現をめざす考えだ。
現在「Nile」で行っているのは、モス
の販売・在庫情報をもとにメーカーが生産予
定情報を作成するところまでだ。 商品の入荷
にあたっては、モスがメーカーに対して「出
荷依頼情報」を送り、同時に配送センターの
「Mariana」にこの情報を「入荷予定情
報」として渡しておき、入荷時に配送センタ
ーで「入荷予定情報」をもとに検収を行って
センター管理
トレーサビリティー
トレーサビリティーの概念図
モスの基幹システム
原料履歴 生産履歴 物流情報 情報
情報
物流
MOS―Nile Mariana
生産者 メーカー 物流センター 店 舗
ハンディ端末でICタグを読み取る
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いる。 この時点で初めて入庫情報が確定する
という段取りだ。
今後は、「Nile」でメーカーに、生産予
定情報だけでなく、モスの出荷依頼情報に対
する入荷予定情報も作成してもらう。 さらに
その際、生産ロットや原材料などの履歴情報
も付与してもらう。 この情報を「GENES
IS」経由で「Mariana」に取り込むこ
とによって、生産・流通履歴の追跡管理が可能になる。 メーカーには商品のケースなどにRFID
タグをつけてもらい、配送センターでの入出
庫の際にタグを読み取りながら、タグのID
情報と履歴情報を紐付けして「Mariana」
と同様にシーネットのASPサーバーで管理
する。 「今まであったメーカーの生産予定を
管理する仕組みを使ってトレーサビリティー
システムを構築できる。 履歴のデータベース
も倉庫管理のASPサーバーに持つようにす
れば、一からシステムを新たにつくりあげる
必要はない」と堀田本部長は言う。
これまでは商品の賞味期限しか管理できな
かったが、この方法で「GENESIS」を
経由して「Nile」と「Mariana」の
連携をとることによって、どの製造ロットの
商品がどこの配送センターへ入荷し、どこの
店に出荷したかまで把握できるようになる。
「万が一の事態が生じてもただちに追跡す
ることが可能だ。 ただトレーサビリティーシ
ステムを導入する目的はむしろ、すべての情
報を見えるようにすることで流通に携わる企
業が襟を正し、事故が起こらないようにする
こと、つまり安全を担保することにある」と
堀田本部長は強調する。
牛肉で実証実験も
モスでは、ICタグによるトレーサビリテ
ィーシステム導入への第一歩として、昨年十
二月から今年の二月まで都内の直営三店舗で
牛肉の実証実験を行った。
オーストラリア産などの牛肉を国内の工場
でハンバーガーのパテに加工する際に、ケー
スごとにICタグをつけて、配送センターへ
の入出庫や店舗納品時にタグをリーダーで読
んで、産地の飼育情報などとともに流通履歴
を一元管理し、店内で消費者に情報を公開す
るという内容だ。 もっとも、このときの実験
はICタグの性能などを検証する狙いが色濃
かったため、今後もシステム構築に向けて実
験を継続する考えだ。
店舗での情報公開だけが目的なら、製造ロ
ット番号などからメーカーに直接問い合わせ
る方法もある。 また、納品履歴の管理ならバ
ーコードでもできる。
にもかかわらず、モスがあえてICタグの
活用を検討しているのは「検品やピッキング
作業など物流オペレーション上のメリットが
期待できる」(堀田本部長)と考えているか
らだ。 従って、通信距離が長く物流用途に適
したUHF帯の周波数が無線タグの通信用に
開放されることを導入の条件にしている。
同社では、今年度中にもメーカーから「N
ile」によって生産履歴情報を入手できる
体制を整える計画だ。 UHF帯の周波数帯の
開放をにらんで、来年度以降をめどにICタ
グによるトレーサビリティーシステムの稼動
をめざしている。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
構築するトレーサビリティーシステムの全体ネットワーク構成図
加工工場 IDCセンター
(輸出・輸入情報)
物流センター
(入出荷在庫情報)
店舗開店準備
(商品情報問い合わせ)
インターネット
トレーサビリティーサービス
トレーサビリティーサービス
Web-Mariana 運行管理サービス着荷マン
全国13センター インターネット インターネット
店舗納品
(商品到着情報)
インターネット
Web-Mariana環境 LISA環境
トレーサビリ
ティー用DB
物流用
DB
運行管理用
DB
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