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JULY 2002 24
早過ぎたSCM改革
――松下電器産業が作り上げてきた本社〜販社〜系
列店という流通モデルは、いわば日本企業のサプライ
チェーンの原型です。 日本の流通モデルは松下が作っ
たといっても過言ではない。 しかし近年のマーケット
の変化は、かつての松下の強みを、弱みに変えてしま
ったように思えます。
「まず前提として、実生活における家電製品の位置
付けというのがあった。 おっしゃる通り、そこで松下
は最適の流通モデルを作って大成功を収めました。 家
電業界で成功したモデルと言うより、日本のビジネス
モデルであり、世界に誇るべきビジネスモデルです」
「ところが、競争環境が変わった。 すると今度は皆
さんは全部を?負の遺産〞だと言う。 そうではないで
しょう。 ショップ店という系列網を持っているという
ことは、ものすごく大きな財産です。 それを全部、否
定したら、恐らく
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世紀のビジネスはすべてダメだっ
たということになってしまう」
「ただし、それだけではダメだという変化が起こった
のは事実ですから、このインフラをどのように
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世紀
型に衣替えするかというのが、松下の大きなテーマで
す。 物流もまったく一緒です。 従来のものは全てダメ
というのではなく、今あるインフラをどう
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世紀型に
変えるかが、我々の大きな課題です」
――少し古い話になりますが、御社は九〇年代の初め
にMTM(松下マーケットオリエンテド・トータルマ
ネジメントシステム)という取り組みをスタートしま
した。 これは日本企業としては極めて早い時期に実施
されたサプライチェーン・マネジメント(SCM)だ
ったと思います。 いま改めて振り返ってもらうと、松
下の社内ではこのMTMをどのように評価しているの
でしょう。
「まさに、MTMはSCMそのものです。 松下的S
CMと言ってもいい。 まだ当時はSCMという言葉は
使われていませんでしたが、考え方はまったく一緒で
す。 生産から最終の販売までを直結して、販売機会ロ
スをなくし、キャッシュフローを改善する。 当時の日
本では極めて画期的な取り組みでした」
「しかし、残念ながら、このMTMをもう一度、再
構築しなければならなかった。 理由は、それぞれの機
能別に取り組んでしまったからです。 生産の方から言
えば、リードタイムをどう短縮するか、在庫をどう圧
縮するかというのがあった。 流通側では、いかにして
市場の動きを掴むかが課題だった。 この生産と流通を
つなぐ機能が足りなかった。 サプライチェーンでいう
ところのチェーンになり得なかったんです」
――チェーンでつなぐという意識が不足していたとい
うことですか。
「いや、違います。 チェーンでつなぐという意識は
充分にあった。 しかし、当時は現在のようなIT(情
報技術)がありませんでした。 人間が介在してバトン
タッチをやっていた。 それはもう大変でした。 ITが
なかったというのは、やはり大きかった」
「それとね、成長期というのは、やはり部分最適な
んですよ。 当時の松下は事業部制だったわけですが、
事業部はそれぞれ自分たちにとって最高のことを考え
る。 営業は営業の立場で最高のことを考える。 しかも
同じ営業といっても、事業部の営業と、販売会社への
営業と、まさに第一線の営業がある。 全部つなげない
といかんわけですが、これが難しかった」
――現在ではITはあります。 しかし、ITで情報を
共有する体制さえできれば、それだけでSCMを実現
できるわけでもない。 部分最適に陥ってしまったとい
「日本屈指のインフラを活かす」
松下電器産業は97年から約4年間をかけて、グループの物流機
能を抜本的に見直した。 最終的に2001年10月に発足した松下ロ
ジスティクスに、すべての物流機能を統合。 同社をSCMを推進
するための戦略機能として位置付けている。 一連の改革を主導し
てきた田中宰専務に聞いた。
松下電器産業 田中宰専務
Interview
25 JULY 2002
特集 物流子会社
う経験は、どのように活かされているでしょう。
「ですから現在では、松下電器全体の構造改革を進
めるうえで、SCMを全社的なテーマとして掲げてい
ます。 改革の大きな柱です。 MTMでは達成できなか
った課題や意識がありますから、生産や営業に加えて
資材調達や物流も加えた一気通貫の組織で進めてい
ます。 そういう意味では、MTMというのは、当社が
SCMを進めていく上でものすごく大きな肥やしにな
っていることは確かです」
「MTMでも取り組んだことですが、一番大事なの
は小売店の動きをどう掴まえるかです。 ところが当時
の情報の加工能力は現在のように高くはありませんか
ら、もう手探りです。 それが今やITを使えば分析ま
で含めてできる。 そういう意味で、当時のMTMと、
いま取り組んでいるSCMでは戦略性が大きく異なる。
当時はコンシューマー製品だけが対象でしたが、現在
では産業機器からデバイスまで含めて、全社的に取り
組んでいるという違いもあります」
――松下は「創生
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計画」で事業部制を廃止し、生
産や販売といった各機能ごとに横串を刺すように組織
を再編しました。 その狙いを改めて教えてください。
「大きく言ったら、これも全体最適の追求です。 最
速で、最安の組織にしたいということです」
「ただし、もう一つ上の視点でいうとブランド戦略
というのがある。 従来、当社ではNブランド(ナショ
ナル)とPブランド(パナソニック)が競合していま
した。 本来であれば、鍋釜とオーディオではイメージ
は異なる。 鍋釜では安心とか安全、快適、信頼という
ものが問われる。 一方でオーディオなどは面白さとい
ったことが重要です。 この二つのブランド戦略を分け
て、鍋釜や掃除機、冷蔵庫の宣伝を『ナショナルブラ
ンド』に一本化すれば、統合戦略をとれるという発想
が一つあります」
「もう一つは機能の見直しです。 事業部制では、事
業部ごとに販売や営業といった機能をすべて持ってい
ました。 電池の営業がいて、アイロンの営業がいたわ
けです。 これによって当社は市場占有率を限界まで上
げてきたわけですが、もう時代に合いません。 商品も
営業もみんな統合して、そこに人も金も情報も宣伝も
持っていってしまう。 そうすれば、ものすごくコスト
を安くすることができますからね」
――伝統的な組織を見直すにあたり、社内ではかなり
大きな戸惑いがあったのでは?
「そりゃ、そうですよ。 僕が九七年にやったLEC
では、販売会社から量販店を外し、物流を外しました
から、『じゃあ、わしら販売会社って何なの?』と最
大の抵抗がありました(※松下は九七年に家電事業
本部のなかにLEC本部を設置し、家電専門店、量
販店、物流の三機能の管理体制を分けた)」
「事業部制の見直しにしても『営業も宣伝も金もなかったら事業部長はどうしまんねん』とね。 ですから、
まさにこの二つは破壊だったんです。
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世紀型に競争
環境が変わったんだから、まずは思い切って組織体制
を変えましょうということです」
戦略機能としての物流子会社
――一連の取り組みのなかで、松下にとっての物流子
会社の位置付けも大きく変わりました。 九七年一〇月
に全国八カ所に松下ロジスティクス・マネジメント
(LM)を作りましたね。
「当社には一次物流と二次物流というのがあったん
です。 一次物流とは、商流(販売会社)まで、つまり
全国に五〇数カ所あった倉庫まで商品を届けるための
物流です。 二次物流というのは、大阪LECや三重
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LECといった地域の販売会社がそれぞれに自前で持
っていた物流です。 当時は、販社が買い込んだ商品を、
顧客のところに運ぶという機能がありましたからね。
ところが、このやり方で在庫管理をすると?死に在
庫〞がものすごく出てしまう。 品切れも起こる。 そこ
で九七年に、LMという物流専門の子会社を全国八カ
所に作り、当時は全国に何十社とあった販売会社の二
次物流を人も資産も含めてここに集約したんです」
――すでに御社には松下物流という物流子会社があり
ました。 ところが、その松下物流も出資するかたちで
LMを作った。 その狙いが分かりません。
「松下物流という会社は一九六六年に発足したので
すが、最初は松下興産の倉庫業としてスタートしまし
た(※松下グループの不動産事業を担う松下興産の
倉庫事業部門が分離・独立した)。 長年、倉庫業とし
て、松下電器の商流(販売会社)の拠点まで商品を
運ぶ機能を担ってきました」
「全国八カ所にLMを設立してからも、ここまでを
松下物流が運び、これを受け取ったLMがもう一回配
達するという役割分担は変わらなかった。 つまり運ん
で荷役をするという同じ作業を、二つの会社がやって
いたわけです。 松下としては、この一次物流と二次物
流を早く融合する必要がありました」
「松下電器は二〇〇〇年九月に松下物流を(松下興
産から)買って一〇〇%子会社にしましたが、九七年
に松下物流の資本も入れてLMを設立したのは、実は
この予兆だったんです。 いずれ一次と二次を一本化し
た方がいいと思っていましたから、そこまで考えて資
本を入れさせてもらった。 やはり資本の論理というの
がありますからね。 それで、最終的には資本まで含め
て一つにしてしまったということです」
――全ては二〇〇一年一〇月に発足した松下ロジス
ティクスへの布石だったわけですね。 松下物流とLM
八社を統合して松下ロジを発足させたことで、松下の
物流機能はようやく一本化されました。 この物流子会
社にどのような役割を期待しているのでしょうか。
「
SCMというのは、メーカーに対していろいろな課
題提供をしています。 どこのメーカーにも『開発』、
『製造』、『販売』という三つの主要な機能があります
が、そこにSCMというのが出てきたことで、全く新た
な定義が生まれた。 この三機能に加えて、『資材調達』
と『ロジスティクス』という二つが入って、はじめてメ
ーカーのサプライチェーンができるという定義です」
「松下ロジスティクスは、保管したり、荷役したり、
配送するという物流会社から、まさにメーカーとして
のロジスティクス分野での戦略機能を担う会社になら
なければいけません。 ましてやインフラですからね。 ま
ったく新たな機能として生まれた、戦略分野を担うの
が松下ロジスティクスだと僕は考えています」
ロジスティクスは経営のベース
――松下電器グループの戦略策定まで松下ロジスティ
クスが担うということですか。
「戦略については、全社戦略のなかで松下電器のな
かの物流統括グループが策定します。 ただし、この組
織は、しょせん頭脳でしかない。 そのための受け皿と
して松下ロジスティクスがあるわけです」
「ロジスティクスというのは、人間がいて、車が走
らない限り、いくらITを活用してもどうにもならな
い。 現場にはコストだとか、値段をナンボにしてくれ
るのかという、もの凄い事実がある。 それを戦略的に
実行ができる部隊として、松下ロジスティクスを位置
付けています。 ここを統合戦略にしてしまうことで、
はじめて最速で、最安の仕組みができるんです」
国内家電営業・流通新体制
2001年3月まで
事業部
開発
製造
営業
家電・情報
営業本部
LEC本部※ 松下LEC 販売店
量販店
お客様
松下CE※
2001年4月から
事業部
開発
製造
家電営業本部
パナソニック
マーケティング本部
ナショナル
マーケティング本部
松下LEC 販売店
量販店
お客様
松下CE
※LECはライフエレクトロニクスの略
※※CEはコンシューマーエレクトロニクスの略
特集 物流子会社
27 JULY 2002
――いま物流子会社の多くが、大きな岐路に立たされ
ています。 事業者会社として親会社に利益面で貢献す
ることを重視する会社と、物流子会社自身の身を削っ
てでも親会社のサプライチェーンを高度化することを
追求する会社に分かれつつある。 松下ロジスティクス
は、どちらを重視しているのでしょう。
「当然、両面を持っていますが、事業を拡大して利
益を上げるよりも、ロジスティクスを通じて松下電器
の利益体質を強化するというのが最大の目的です」
「ただね、松下の一次物流と二次物流を統合したこ
とによって、松下ロジスティクスの持つ物流インフラ
はB
to
Bとしては日本で屈指、かつ独自のものになり
ました。 自らトラックを保有して、運送まで手掛けて
いますからね。 とくに二次物流については、全国の
隅々まで自社車両を走らせている。 ロジスティクス会
社の多くが、実運送を輸送業者に委託しているのとは
大きく違います」
「こうしたインフラを含めて他の荷主さんにサービ
スを提供できれば、互いに大変な合理化を進めること
が可能になります。 こちらはうんとコストが下がるし、
相手も安い値段でモノを運ぶことができる。 これは松
下のコスト競争力の強化にごっつい貢献をしますよ」
――外販比率三〇%を目指すというのは、親会社の
物流を効率化するうえでも不可欠ということですね。
「そういうことです。 とにかくコストを抜きにして
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世紀を勝ち抜いていくことはできません。 製品の単価
はどんどん下がっているのに、たいていの分野の合理
化はすでにかなり進んでいる。 ロジスティクスは残さ
れた宝の山ですよ」
――電機系の物流子会社は、みな同じような方向を
目指しています。 ここでの競争も厳しいのでは?
「結局、ソリューション能力ですよ。 配送を何とか
して欲しいとか、倉庫をなんとかして欲しいというの
であれば、それは日通さんに頼まれた方がいいのかも
しれない。 しかし、商流の抱える問題としては、販売
機会ロスというのが最も大きい。 そこまで含めて一緒
にやっていきましょうというときに問われるのはソリ
ューション能力です。 この差は、松下ロジスティクス
と物流専業者ではものすごく大きい」
「(物流子会社などの)競合企業との対決は、お客さ
んに近い二次物流の領域が多くなるはずです。 その点、
松下ロジスティクスは商流から分離したため、商流の
人間が豊富です。 商流を抜きにして、物流を解決しよ
うとしても限界がある。 課題の大半は商流側にありま
すからね。 とくにSCMでロジスティクスといえば、
商流と物流を一体にする必要があります。 ITはその
ために使うんです」
「確かに、一次物流を担っていたかつての松下物流
は、単なる物流子会社です。 松下電器の商品を販売
会社まで運んでただけですからね。 そこに二次物流を統合したことで、うんと商流を意識したソリューショ
ン会社に生まれ変わった。 これが松下ロジスティクス
の強みになります」
――最終的に松下ロジスティクスは上場を目指してい
るのでしょうか。
「いまのところは考えていません。 松下電器はもの
すごく大きな会社ですから、グローバルを含めたSC
Mを考えたときに、調達物流がまだ残っていますし、
海外からの持ち帰りをどう合理化するかという課題も
ある。 経営のベースであり、最大機能であるロジステ
ィクスを、松下の社内でどう機能させていくかが松下
ロジスティクスのテーマです。 将来的に外販が五割に
でもなったら、そのときに上場を考えればいい」
(※肩書きは取材時六月七日時点)
たなか・おさむ 1926年生まれ、63年関西
学院大学商学部卒業、同年松下電器産業入社、
82年北九州設備機器営業所長、88年人事部長、
91年MTT'93推進室長、93年企画室長、97
年常務取締役(特品営業担当、CS本部・クレジ
ット本部担当、ロジスティックスマネジメント
カンパニー担当を兼務)、98年(設備営業担当、
リサイクル事業推進担当を兼務)、99年専務取
締役、2000年(物流担当を兼務)、2001年
(官公庁・法人営業担当を兼務)
PROFILE
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