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AUGUST 2002 48
物流情報を基に返品率改善図る
九〇年代半ばに顕在化した出版不況が深刻
化している。 出版科学研究所によると戦後ず
っと拡大し続けてきた出版市場の売上規模は、
九六年の二兆六五六三億円(取次販売金額)
をピークに減少に転じた。 その後は五年連続
で減り続け、二〇〇一年には二兆三二四九億
円とすでにピーク時の一割減となっている。
中間流通業者として約三割のシェアを持つ
トーハンの業績も、業界全体と同じ軌跡を描
いてきた。 売上高は九七年三月期の七九七二
億円を境に減少に転じ、二〇〇二年三月期に
は六七八八億円(前期比三・一%減)まで落
ちこんでいる。 同期の経常利益こそ六四・七
億円(同一・一%増)を確保したものの、依
然として経営環境は厳しい。
この逆風下にあっても、同社は物流分野に
積極的な投資を続けてきた。 九四年にスター
トした経営計画では「物流体制の再構築」と
「新情報・流通ネットワークの強化」を掲げ、
これを実現する大型物流センターの整備を、
九六年と二〇〇一年の二
回にわたって計三〇〇億
円を費やして進めた。
まず九六年に、約一五
〇億円を投じて雑誌の返
品処理を効率化する「東
京ロジスティックスセン
ター」(東京LC、埼玉県
300億円を投じて物流拠点を整備
本のサプライチェーン刷新を図る
書籍取次大手のトーハンが計300億円を投じ
て、ITと自動化機器を駆使した2つの大型物
流センターを構築した。 そこから吸い上げる
「送品」と「返品」に関する情報を使って、雑
誌のサプライチェーン全体を一元的に管理す
る体制を整備。 これによって小売店からの返
品率を改善し、伝票レス、検品レスを普及さ
せようとしている。
トーハン
――SCM
ロジスティックス部の
森岡憲司マネジャー
もともとトーハンのホストコンピュータには、取引先ごとの送品(発送)データはある。
この送品データと、東京LCで吸い上げる返
品データを突き合わせることによって、小売
店ごとの雑誌の販売実績を、従来の手作業に
よる返品処理では考えられなかったほど迅速
に、しかも正確に得られるようになった。
こうして割り出した販売実績データは、す
ぐに出版社へと送られ次号の雑誌の?刷り部
数〞の適正化に利用する。 また販売面でも、
小売店ごとにトーハンが決める次号の雑誌の
?配本部数〞の調整に役立てる。 販売実績を
見ながら配本を適正化することで、出版業界
にとって長年の頭痛のタネの?返品率〞を改
善しようという狙いがある。
小売店への配本作業をより効率化するため、
二〇〇〇年には「雑誌配本システム」と呼ぶ
仕組みも立ち上げた。 同社ロジスティックス
部の森岡憲司マネジャーは、「東京LCの稼
働で取引先ごとの返品データを素早く掴める
ようになった。 これが定期的に発行されてい
る雑誌の?よりよい配本〞を実現するうえで
大きな武器になっている」と説明する。
返品による製配販の三方一両損
現在の日本の出版流通は、その特殊な商慣
行によって大量の返品発生が避けられない構
造になっている。 出版社が決める定価を流通
段階では崩さない?再販制度〞(再販売価格
維持制度)と、小売店で売れ残った本を取次
加須市)を稼働。 それまでは全面的に人手に
頼っていた作業を大幅に自動化し、同時に返
品情報を迅速にデータ化できる体制を整えた。
現在、東京LCでは、日本全国のトーハン
の取引先(小売店)から発生する返品雑誌の
約九割を処理している。 一日に持ち込まれる
雑誌の数は約一五〇〜一八〇万冊。 この膨大
な返品雑誌を自動化機器を駆使した作業ライ
ンで仕分け、その過程で、どこの取引先から、
どれだけの返品が発生したかを瞬時に電子化
する。 そして、これをトーハン本社のホスト
コンピュータに伝送することで?情報発信基
地〞としての役割を担っている。
49 AUGUST 2002
に返品できる?委託販売制度〞があるためだ。
本来、メーカーが小売り価格を固定化する
行為は独占禁止法で禁じられている。 だが公
正取引委員会が指定する一部の商品と、著作
物(新聞、書籍、雑誌、音楽CDなど)につ
いては、例外的に独禁法の適用除外が認めら
れてきた。 ここで賛否の分かれている出版物
の再販問題に深入りするつもりはないが、こ
うした制度が出版流通の現状を規定している
点だけはおさえておく必要があるだろう。
再販制度があるため、小売店はたとえ店頭
で本が売れ残っても、値引きして売りさばく
ことができない。 しかも再販制度が公式に認
められるはるか以前から、出版物の陳列機会
を増やす工夫としてこの業界には委託販売制
度が根付いていた。 つまり、現行の日本の出
版流通は、ある程度の返品の発生を前提にし
て成り立っているのである。
問題は、その返品率の水準にある。 業界全
体の二〇〇一年の雑誌の返品率は二九・四%。
書籍のそれは三九・一%だった。 この水準は、
俗に業界の許容範囲と言われる「雑誌二〇%
以内、書籍三〇%以内」という目安を大きく
上回っている。 なかでも雑誌の返品率につい
ては、一九五〇年代から長らく二〇%前後だ
ったのが、バブル経済の崩壊した後は毎年の
ように上昇を続け、九七年以降は二九%前後
で高止まりしている。
一見、書籍は雑誌より返品率が高いが、い
ったん返品されも改装して再び別の小売店で
35.0
30.0
25.0
20.0
返品率(%)
市場規模(億円)
28,000
25,000
22,000
19,000
出版市場の売上規模と雑誌返品率の推移
書籍
41%
月刊誌
44%
週刊誌
15%
2001年の
出版市場の内訳
※月刊誌とは週
刊の雑誌以
外でムックや
コミックなども
含む
91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01
売上規模
雑誌返品率
飛躍的に高まったことによって、従来は顕在化していなかった送品精度の粗さが浮き彫り
になってしまった。
事故率十万分の三件以内
それまでトーハンと取引先が、送品精度の
ある程度の粗さに目をつぶってきたのは「膨
大な物量を素早くさばく」ことを優先せざる
を得なかったためだ。 同社が発送している雑
誌の量は一日当たり五〇〇〜六〇〇万冊にも
上る。 ほぼ一五冊を一単位としてフイルムで
梱包しているため、実際に納品している荷姿
に換算すると一日に三二〜三三万個になる。
これだけ膨大な数の雑誌を、トーハンは全
国約二万六〇〇〇の取引先(書店やコンビニ
の店舗等)ごとに仕分け、納品している。 し
かも雑誌は発売日が決まっているためスケジ
ュールは常にタイト。 作業を全面的に人手に
依存していた従来のシステムでは、精度の追
求にはおのずと限界があった。
同社が九九年に打ち出した「上尾計画」は、
こうした送品面の課題を一気にクリアするも
のだった。 まず埼玉県上尾市に送品専用の大
型物流センターを新設し、従来は七カ所あっ
た送品拠点を四カ所まで集約する。 新センタ
ーでは自動化と作業工程の見直しを進めて、従
来とは桁違いの?事故率十万分の三件以内〞
という高い精度を実現する。
「キーワードは事故ゼロに匹敵する物流の実
現だった。 十万分の三という事故率は、一〇
〇〇万円分の
送り込みをか
けて三〇〇円
の誤差、つま
り週刊誌一冊
分の間違いし
か起こさない
ことを意味し
ている。 これ
を実現できれ
ば取引先(小
売店)として
は入荷時に一冊一冊検品する必要があるのか
という話になり、検品レスの実現につながる
はず」と森岡マネジャーは上尾計画の意義を
アピールする。
小売店の経営を圧迫している作業負担を軽
減できれば、トーハンにとっても大きな成果
が期待できる。 出版不況のさなかにあって取
次各社は熾烈な顧客争奪戦を続けている。 だ
がマージン率などの取引条件で差をつけよう
にも、本の定価の一割程度という取次の取り
分のなかでは大きな差はつけられない。 トー
ハンの思惑通り、小売店が荷受け時の検品作
業の廃止に踏み切れば、それは確実に取引先
の囲い込みにつながるはずだ。
だからこそ、東京LCと同規模の約一五〇
億円という巨費を投じて上尾計画を推進して
きた。 さらに同計画には、従来は拠点ごとに
固定していた作業分担の見直しも含まれてい
AUGUST 2002 50
販売されるケースが多いため、最終的に破棄
されるのは一割程度と言われている。 コスト
はかかっても最後には何らかの収入につなが
っているわけだ。 これに対して発売日の決ま
っている雑誌は、そうはいかない。 返品され
れば破棄して古紙化するしか手はない。
「返品は小売店、出版社、取次の三者にと
ってまったく付加価値を産まないにもかかわ
らず、コストだけを発生している。 小売店は
返品のための輸送コストを負担し、出版社は
多めに刷った雑誌を取次まで納品するコスト
を支払い、われわれ取次は小売店への納品コ
ストを負担している。 何とかして雑誌の返品
率を適正な値にする必要がある」と森岡マネ
ジャーは強調する。
この切実な課題を克服する切り札として、
トーハンが九六年に構築したのが前述した東
京LCだった。 ところが、いざ返品物流の高
度化にメドを付けてみると、また新たな課題
が浮上してきた。 今度は送品の精度、つまり
トーハンから取引先の小売店に送る事前出荷
データと、実際に取引先に納品される雑誌の
誤差が問題になったのである。
コンピューターに登録してある送品データ
は、トーハン自身が配本部数を決めている以
上、間違いようがない。 問題になったのは、コ
ンピュータの出荷指示に基づいて現場で仕分
け作業を行う段階でのミスだった。 作業手順
そのものは従来と同じだったのだが、皮肉な
ことに、東京LCの稼働で返品処理の精度が
トーハンの雑誌サプライチェーン
出版社(約一〇〇〇社)
印刷・製本会社
小売店(書店、コンビニなど二六〇〇〇店)
ホストコンピュータ
「雑誌配本システム」
物流センター
東京LC
西 台
戸 田
笹 目
上尾センター
製紙会社
雑誌物流
情報センター
た。 新設する上尾センターのレベルまで、既
存の全物流センターの作業レベルを高める。
そうすることで特定の物流センターに業務量
が集中したときに、余裕のある他センターに
作業を振り分けられる柔軟な作業体制を構築
するというものだ。
そのために雑誌送品の全作業を一元的に管
理する「雑誌物流情報センター」も新設した。
既存の物流拠点の一画に設置されたこのセン
ターでは、トーハン本社の「雑誌配本システ
ム」が弾き出す指示を、各物流拠点に振り分
ける役割を担っている。 従来のように、あら
かじめ役割が決まっている各センターごとに指示を出すのではなく、雑誌物流情報センタ
ーで作業内容の全体像を把握したうえで作業
分担を決めるという体制に変えた。
二〇〇一年六月に実際に上尾センターを稼
働したことによって、計画は現場での実行段
階へと移った。 その後は四カ所の作業拠点に
分散していた業務を、段階的に上尾センター
に集約。 今年二月に最後となる和光センター
の業務を移管したことで、トーハンが社内で
「雑誌一貫流通システム」と呼ぶ雑誌SCM
の仕組みが完成した。
ウエイトチェッカーで全量検品
今年三月から本格稼働した上尾セ
ンターには、作業効率を高めるための
工夫が随所に施されている。 なかでも
特筆すべきは、ミス率を一〇万分の三
以内に抑える切り札として、バラピッ
キングの工程に全面導入した重量検
品システムである。
従来の送品物流センターでの出荷
時の検品作業は?抽出検品〞と呼ば
れるものだった。 ピッキングした雑誌
の束のなかから、一部分だけを取り出
して作業者が目視による検品作業を
施すというものだ。 当然、この作業に
は多くの人手が必要になるため、全量
の約一割を検品するのが限界だった。
結果として従来のトーハンの雑誌の納
品精度は、「数字は公表できないが十万分の
三とは桁違いに悪かった」という。
新たに上尾計画で導入した検品の仕組みは、
次のようになっている。 バラピッキングのた
めの作業コンベヤは細長いU字型に流れてい
て、その周囲には二〇〜三〇人ほどの作業者
が担当する雑誌を傍らに置いて待機している。
作業ラインの一端で作業者が納品伝票をセッ
トすると、これがゆっくりとU字コンベヤに
よって流され、各作業者の前に伝票が流れて
きたときに伝票に自分が担当する雑誌があれ
ば指示通りの冊数をセットしていく。
また、U字型コンベヤの間にはもう一本、別
のコンベヤが一方通行で流れている。 納品伝
票に記載されたすべての雑誌のピッキングを
完了した時点で、最後のピッキングを担当し
た作業者が雑誌と伝票をワンセットにしてこ
の直線コンベヤへと押し出す。 すると、これ
が重量計(ウエイトチェッカー)へと流れて
いくという仕組みだ。
こうして重量計にピッキング済みの雑誌が
流れてくると、まず最初に重量計の上部に設
置されているスキャナーが、十数冊程度の雑
誌の最上面に置いてある納品伝票のバーコー
ドを自動的に読み取る。 そこにある情報から、
その梱包に収められるべき雑誌の理論上の総
重量をコンピュータが割り出し、同時に重量
計でピッキング済みの雑誌の実際の重さを測
る。 この差異を測ることによって検品を行う。
ここまでは重量検品システムの、ごく一般
51 AUGUST 2002
バラピッキングの作業ラインは計8本。 各ラ
インが1日に約8000件の受注を処理する
納品精度向上の切り札「重量検品システム」。
上部にスキャナーが付いていて伝票を読む
バラピッキングのU字ラインの一端で伝票
をセット。 伝票発行までのソフト力が重要
重量検品をクリアしたら自動でフイルム梱包
を施し、ソーターで運送会社別に仕分ける
用機器で正確に測っている。
ところが同じ号だけで何十万部と売れる一
部の週刊誌は、極めてタイトなスケジュール
で印刷していることもあって、複数の製本所
で作ることが少なくない。 このため同じ発売
日の、同じタイトルの雑誌であっても、微妙
に裁断の寸法が違って重量も異なるケースが
出てくる。 晴れか雨かによっても、雑誌に含
まれている湿度が違うために微妙に重量が違
ってくる。 つまり、雑誌の重量検品では、最
初に測定するマスターデータ自体にバラツキ
が発生してしまう可能性がある。
こうした事態が起こると、ピッキングで作
業ミスを犯していないにもかかわらず頻繁に
重量検品に引っ掛かってしまうことになる。 当
然、そうなれば出荷業務は滞り、大量の物量
を時間に追われながら処理する物流センター
にとっては致命的な状況に陥りかねない。
これを回避するためにトーハンでは、検品
の作業現場で、柔軟にマスターデータを変更
できるように運用を工夫している。 検品作業
者の近くにコンピュータの端末を設置し、バ
ラピッキングの作業ラインごとにデータを微
調整できるようにしたのである。
例えば、ある雑誌の重さがマスターデータ
と違うのであれば、同じ雑誌何冊かの平均重
量をとって再登録することも可能だ。 こうし
た工夫はトーハンが重量検品システムを使い
こなすために開発したオリジナルの仕組みの
一つで、特許も出願中なのだという。
AUGUST 2002 52
的な使い方といえる。 トーハンが重量検品を
使いこなすうえで独自の工夫を施しているの
は、この重量検品で引っ掛かったときの後処
理の工程だ。 検品に続く工程は、その結果に
よって三通りに分かれる。
一つは、無事に重量検品の工程をクリアし
たケース。 この場合はピッキング済みの本を
すぐに次工程へと回し、納品伝票とともに自
動でフイルム梱包と紐かけを施す。 そして自
動仕分け機で運送会社ごとに分け、あとは独
自開発した専用のカゴ車に積み付ければいい。
二つ目は、作業ミスによって重量検品に引
っ掛ってしまうケースだ。 実際の重量と理論
値に差異があってコンベヤが止まった場合は、
いったん対象となる雑誌の束をサブラインへ
と引き込み、そこで改めて目視による修正作
業を施す。 たいていは一部の雑誌の冊数が納
品伝票の指示より多いか、少ないことが原因
のため、これを担当者が手作業で修正してか
ら再びコンベヤ上へと再投入する。
このケースでは修正作業が発生した時点で、
ミスの再発を現場レベルで防止するために、修
正担当者が「何番さん、ミス発生」とマイク
で警告を発する。 警告文句はミスの発生状況
によって使い分けるように決まっていて、同
じ担当者によるミスが重なるようであれば徐々
に口調が厳しくなっていく。 最後は命令口調
にまですることで現場の緊張感を保ち、生産
性を維持しようという工夫である。
上尾センターの新井正英マネジャーは、「う
ちの重量検品の仕組みは、人間の作業には必ずミスが発生することを前提に構築してある。
いわばミスの発生を容認しながら、精度を高
めていける点がポイント」と説明する。
重量検品の落とし穴
とりわけ対応が難しかったのは、ピッキン
グ内容が合っているにもかかわらず、重量検
品で引っ掛かってしまう三つ目のケースだっ
た。 いわば重量検品システムが、誤った検品
をしてしまうケースである。
最近では重量検品の導入そのものは、さほ
ど目新しい話ではない。 しかし導入したはい
いが、思ったほどの効果を得られなかったと
いう話も少なくない。 検品精度を高めるため
に僅かの差異でも検出するようにしたら、ミ
スをしていないのに頻繁に引っ掛かってしま
った。 逆に誤差を大雑把に設定したら検品の
精度そのものが落ちた――。 こうした悩みは、
重量検品システムを導入したのに期待外れに
終ったというケースの典型的なものだ。
そもそも重量検品を使いこなすためには、前
提として、コンピュータで理論値を算出する
ための元データ、つまり個別の製品の重量や
サイズなどを正確に登録しておく必要がある。
とくに雑誌の場合は、発売号によって厚さや
重さが異なるため、その都度一グラム単位で
正確な情報を登録しなければならない。 現に
トーハンの上尾センターでも、毎日二〇〇〜
三〇〇冊入荷される雑誌の重量やサイズを専
53 AUGUST 2002
上尾センターには、バラピッキング作業の
ためのU字型のラインが全部で八本ある。 そ
れぞれのラインで一日に八〇〇〇件程度のピ
ッキングを手掛けており、各ラインで重量検
品に引っ掛かって修正する件数は数十件に上
る。 この仕組みを導入したことで、上尾セン
ターでは現在、「事故率一〇万分の三以内」と
いう計画値をほぼクリアできるようになった。
重量検品の仕組み以外にも、上尾センター
には最先端のマテハン機器が数多く導入され
ている。 大量に発生する一部の週刊誌(少年
マガジンや少年ジャンプなど)の発送作業に
使うロボットは、業界で初めての導入だった。
また、独自開発した「バラ自動発送機」もユ
ニークなマテハンだ。 ただトーハンには、す
べての作業を自動化するつもりはなかった。
あくまでも人手の作業と機械を組み合わせる
ことで、将来的な作業改善や環境変化への柔
軟性を確保しようとしている
今年三月に上尾計画が完成したことによっ
て、トーハンは、これまでライバルの日販に遅れをとっていた雑誌分野の物流効率化で、
一気に逆転できたと考えている。 「取引先か
らいただいている評価という意味では、こと
雑誌の物流ついては我々が先行している」と
森岡マネジャーも胸を張る。
伝票レス・検品レスを実現
トーハンが挙げる具体的な取引先(小売
店)のメリットとしては、物流センターの精
度アップで実現した「返品伝票レス」と「入
荷検品レス」による作業負担の軽減が大きい。
実際、上尾センターを見学して仕組みに納得
した一部の書店のなかには、すでに入荷検品
を廃止したところもある。 関西のある書店チ
ェーンも、梱包の数だけは確認するが、一冊
単位の検品まではしないという方針を打ち出
しているのだという。
もっとも、トーハンとしても、検品レスが
簡単に受け入れられるとは思っていない。 「卸
の言うことをすぐに信用する小売りなどいな
い。 しばらくは検証期間になる」と冷静に構
えている。 かつて東京LCの返品伝票レスが
軌道に乗るまでにも、かなりの時間を要した。
そのために東京LCでの返品処理の情報を、
二四時間いつでも取引先がファクスで確認で
きる体制を作ったぐらいだ。 今後は送品時の
検品レスについても、時間をかけて普及させ
ていく方針だ。
こうしてサプライチェーン上の重複作業を
なくしていくアプローチは、製配販が一体に
なってSCMを進めるうえで有効なステップ
であることは間違いない。 その主導権を中間
流通業者であるトーハンが担っていることも
理に適っている。
もともと出版流通にはSCMを進める前提
が豊富に揃っていた。 中間流通の寡占化が進
んでおり、しかも?配本システム〞によって、
小売店への納品部数を調整する権限を事実上、
取次が握っている。 ここに送品と返品のプラ
ットフォームとして大型物流センターを構築
し、サプライチェーン上の情報を一元管理で
きる体制を整えたのだから、理屈の上では返
品率を減らす条件は整ったことになる。
しかし、一般的なメーカーがSCMを実現
するうえで壁になる生産調整(つまり強制的
な減産)の権限までをトーハンが持つことは
難しい。 結局、最終的には、雑誌を作ってい
る出版社が自ら生産調整をしない限り、将来
的にも返品率は減らないはずだ。
雑誌ビジネスでは、一定の損益分岐点さえ
超えれば、あとは製作部数を増やしても紙代
と物流費ぐらいしかコストは増えない。 しか
も出版社としては、数多く並べればそれだけ
拡販を期待できる。 こうした状況下で、果た
して、出版社による自主的な生産調整が可能
なのかどうか。 トーハンの雑誌SCMの取り
組みは、現行の出版流通の枠組みの限界を見
極めるうえでも興味深い材料になるはずだ。
(岡山宏之)
重量検品には入荷時のデータ作
成が欠かせない。 サイズと重さ
を一冊ずつ測って正確に登録す
ることが欠かせない
『少年マガジン』のように一度
に数百万部を発送する作業を効
率化するため、業界で初めて専
用ロボットを導入した
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