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時計にらんで総出で検品
「いつも物流グループが総出になって、いった
ん封かんした段ボールをまた開けて、懸命に
なって検品のミスを探していた。 端で見てい
ても辛かったですからね。 私もよく手伝いま
したよ」と、中堅医薬品メーカー・マルホの
日下英治工場長は照れたように笑う。
大阪に本社を置く同社は製品の全てを滋賀
県の彦根工場で製造し、全国の主要医薬卸四
五社に販売している。 取り扱い品目数は一三
〇。 工場に隣接して立体自動倉庫を備えた配
送センターを設置している。 同センターでは
最大一日七三〇ケース、平均で二八〇ケー
ス・一二七〇行の注文を処理している。 医療品という特性から工場では、いかなる
場所でも土足厳禁。 衛生管理には常に神経を
とがらせている。 ミスが決して許されないの
は、物流グループにとっても同じだ。 誤出荷
率はゼロでなくてはならない。 そのため、物
流グループではこれまでバラピッキングした
商品を詰め合わせる段ボール箱については、三
重の検品体制を敷
いてきた。
まずピッキング時
の検品。 バラピッキ
ング・エリアには四
つのゾーン別に四人
の作業員を配置し、
各作業員が平均三
検品作業が納期遵守のネックに
独自の半自動化システムを開発
医療品を扱う配送センターにミスは許され
ない。 人手と時間をかけて検品を行っていた。
しかし、特積み業者に荷物を渡す締め時間は
午後7時30分。 これに遅れれば、納期を守れな
い。 検品の作業時間を大幅に短縮するために
独自の重量検品システムを開発した。
マルホ
――現場改善
マルホ彦根工場の
日下英治工場長
が揃い、全ての出荷業務が終了するのは、だいたい午後五時になる。 ただし、先述したように棚卸検品でミスが
発覚すれば、その後で余計な仕事をしなけれ
ばならない。 しかも、原因を発見するのに手
間取り、協力特積み業者の締め時間に間に合
わなくなれば、納期が守れなくなってしまう。
物流グループ総出の、ひいては工場長参加の
「ミス探し」がこうして始まる。
改善前の「誤検品率」は〇・〇一八%。 一
万回に約二回。 処理件数で割ると五日に一度
は、封かん後のミス探しが行われていた計算
だ。 「以前はピッキングから検品まで全て手作
業だったため、作業員の疲れや思いこみなど
からミスが多く、(納期の維持は)常に綱渡り
の状態でした」と物流グループの江崎裕志チ
ーフは振り返る。
卸先の納期に遅れたことは幸いにして一度
もなかったものの、明日も大丈夫という保証
はない。 事実、トラックの出発時間ギリギリ
まで検品ミス探しに追われることも少なくな
かった。 「来期は扱い品目数も増える予定。 今
の状態では万が一何か起こった場合、棚卸で
誤差が見つかった商品だけでなく、全ての商
品が出荷できなくなる」と、物流グループを
まとめる近藤保マネージャーの危機感は募っ
ていた。
重量検品システムの弱点
マルホでは従来から各グループ、個人それ
三アイテムのピッキングを担当する体制にな
っている。 作業員は?指図書〞に従い棚から
商品をピッキング。 商品を全て段ボールに詰
めた段階で、同じ作業員が指図書と照らし合
わせて全商品の検品を行う。 そして段ボール
の封かん時には別の担当者が再度、検品する。
最後にセンター内の全てのバラピッキング
用の在庫を棚卸して、結果をその日の作業前
に確認した初期在庫と比較する。 バラ商品の
初期在庫と出荷量を差し引いた残在庫の数量
が合えば、晴れて出荷となる。
問題は「初期在庫―出荷量=残在庫」とな
らなかった場合だ。 計算が合わないというこ
とは、ピッキングミスが発生したことを意味
している。 ミスを発見するために、数が合わ
なかった商品の入った全ての段ボールを開封
しなくてはならない。 この作業が負担だった。
彦根工場には毎日、午前一〇時半ごろから
数回にわたり、大阪の本社から受注データが
送られてくる。 最終の受注受付は午後二時一
五分。 全て当日に出荷する。 ケース単位の注
文とバラピッキングを詰め合わせた段ボール
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ぞれに毎年の具体的な活動目標を設定すると
いう制度を設けている。 二〇〇〇年度、物流
グループの江崎チーフは検品ミスをなくすこ
と、そして検品作業の平準化と検品作業者の
負担軽減を目標にした。 二〇〇〇年一〇月か
ら翌年四月にかけて、近藤マネージャーと連
日、改善活動の構成を練った。
段ボールを封かんする段階でのミスをなく
すために、重量検品システムが活用できるの
ではないかと考えた。 しかし、同社のバラピ
ッキングの段ボール箱には最大で一〇アイテ
ムが混載されていて、製品ごとの重量差が大
きい。 同じ段ボールに三キロの製品と一〇グ
ラムの製品が混合する。 三キロの製品にとっ
て一〇グラムの製品は誤差の範囲に入ってし
まう。 段ボール箱単位の重量で検品した時に
は一〇グラムの製品のピッキングミスを見逃
してしまう。
そこで江崎チーフはまず、重さで製品をグ
ループ化して詰め合わせ、重量差のバラツキ
を抑えることでウィークポイントをカバーす
る方法を検討した。 しかし、そうすると今度
は段ボールの数が増えてしまい、運賃コスト
が膨らむ。 作業時間も増す。 現実的な解決法
とは言えなかった。
一時は重量検品システムの導入を諦めよう
かと思った。 しかし、近藤マネージャーは「完
璧なシステムでなくてもいい。 目視(人手に
よる)検品が一部に残ることになっても、現
状よりも作業が楽になるだけでも意味がある」
改善リーダー、江崎裕志チーフ
にバーコードを印字した「出荷指図書(写真1)」
を段ボール一箱につき一
枚、作成する。 「出荷指
図書」には品名と製品番
号、個数等の基礎情報の
ほか「目視検査対象品
目」の欄を設けている。
この欄に丸印があるもの
については、重量検品後
に人手で検査を行う。
「出荷指図書」のバー
コードには、目視検査の
要不要のほか、重量検品
に使用する「下限重量
値」と「上限重量値」が
記載されている。 段ボール箱の重量がこの範
囲内であれば、正しく梱包されているとシス
テムは判断する。 範囲外の場合は重量検品シ
ステムに設置してあるストッパーが上がり、コ
ンベアと自動検品システムが一旦、停止する。
作業員は段ボールの全品目の個数を目視で検
査してミスを確認する。
また内容物に目視検品の対象となっている
アイテムがある場合には、重量が範囲内に収
まっていてもラインが自動的にストップする。
この場合、検品担当者は段ボールに貼付して
ある指図書に従って、丸印のある対象品の個
数だけを確認する。 設定値内で、目視対象品
がない場合にだけ、段ボールはそのまま緩衝
材詰め工程へ移動、封かんする。
重量検品の結果は「シグナルタワー」のラ
ンプが点灯する。 そのまま封かんしてよい場
合にはグリーンのランプ。 段ボールが設定範
囲を超す場合は赤いランプ。 目視対象品があ
るときは黄色のランプが、グリーンのランプ
とともに点灯する。 出荷指図書の貼付位置が
ズレてデータの読み込みができなかった場合
には白色のランプと、色分けされている。
江崎チーフは「昨年九月にこのシステムが
稼働したことで最終的な棚卸段階でミスが発
覚することは全くなくなった。 またこれまで
は全ての段ボールを目視検品する必要があっ
たが、今はそれが全体の二〇%にまで減った。
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と、江崎チーフの背中を押した。 ここから、自
動化システムと人手による検品を組み合わせ
た同社独自の重量検品システムが開発された。
システムのハードはアンリツ。 ソフトは日
本ソフト開発がパートナーだった。 このシス
テムで同社は今年五月、特許を取得している。
「出荷指図書発行装置、出荷検品装置、出荷
指図書発行プログラム、出荷検品プログラム
及びその記録媒体」の名称で特許を出願。 「目
視検品が必要という『あいまいな部分』を残
しているが、そのあいまいさを明確にし、臨
機応変に対応する」システムが特許庁の審査
員にも認められて、晴れて特許取得となった
という。 それが以下の仕組みだ。
半自動化で人手の検査を残す
まず本社から送られてくる受注伝票をもと
写真2 マルホの重量検品システム
写真3 重量が設定範囲外、もしくは目視検品対象品がある場合は、
人手で検品を行う
写真1 出荷指図書。 左端に黒丸があるものが目視検
品対象品
その結果、従来は三人がかりで行っていた作
業を二人で処理することができるようになっ
た。 コンベヤに段ボールが滞納することもな
くなった」という。
さらに今年の五月には、バラピッキング・
ゾーンにデジタルピッキング・システムも導
入。 ピッキングのミスが大幅に改善したこと
に加えて、段ボール当たり三〇秒でピッキン
グ処理が行えるため、「一日の作業時間が読
めるようになった。 この効果も大きい」と江
崎チーフは説明する。
同社の一連の改善成果は、日本ロジスティクスシステム協会の「物流改善事例大会二〇
〇二」でも発表された。 江崎チーフは社内で
も「改善大賞」を受賞、報奨金を授与された。
「この改善のおかげで、物流グループがかつて
ないくらいの存在感を持つようになった」と、
その効果に日下工場長も満足している。
重量データ武器に運賃値下げ引き出す
その後も物流グループの改善活動は続いて
いる。 マルホでは従来から省資源化包装の取
り組みを進めてきた。 一つ一つの梱包を簡易
化すれば、段ボールの総重量が軽くなる。 そ
こに目を付けた近藤マネージャーは、過去二
年間にわたり「配送運賃低減活動」を展開し
てきた。 協力運送会社に重量がどれだけ下が
ったかデータを提示し、運賃値下げを交渉し
たのだ。
「協力運送会社を説得するにはデータが不可
欠。 重量検品システムのおかげで、各段ボー
ルの重量のデータ化は簡単だった」と近藤マ
ネージャー。 協力運送会社の説得も成功し、
今期は約三〇〇〇万円の総運賃削減となる見
通しだと言う。 重量検品システムが物流グル
ープにもたらした、もう一つの大きな成果だ。
重量検品システムの微調整は現在も続いて
いる。 設定値内であるにも関わらず、エラー
が出る頻度が高ければ、商品を量り直し、ホ
ストデータの微調整を繰り返す。
今後の課題は「今以上にシステムの精度を
上げること」だ。 しかし、「売上二〇%アップ
が見込まれるこの先三年は現状のシステムで
対応できると思う。 それでも一〇年後、一五
年後には、今のシステムを白紙に戻してでも
違うことをしなければならないだろう。 あら
ゆる情報を仕入れて、対処法を見極めていき
たい」と、江崎チーフの目はすでに将来に向
いている。
(夏川朋子)
57 AUGUST 2002
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