ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年8号
ケース
ブリヂストン――商物分離

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AUGUST 2002 58 厄介な荷扱いと遅れた物流管理 タイヤは荷扱いが特殊な製品だ。
ある程度 の重量と体積がある上に丸いため、段ボール 箱などの梱包材には入れず裸の状態で流通し ている。
しかも中空のため重ねると不安定に なってしまい、大量に運ぶ際には特殊なラッ クが欠かせない。
「最近でこそ機械を使う工夫 もしているが、基本的に一本ずつ人間が取り 扱う必要がある」とブリヂストンの物流子会 社、ビーエス物流の井上聰専務はタイヤの製 品特性を説明する。
世界三大タイヤメーカーの一画を占めるブ リヂストンともなると、物流センターで管理 すべきタイヤ製品のアイテム数は約七〇〇〇 (新車用と二輪用なども含む)にも上る。
素人 目には同じように見えるが、トレッドパター ンが違ったり、わずかにサイズの異なる製品 が大量に並んでいる。
新品のタイヤの表面に 赤や黄色のカラフルな線を入れてあるのも、実 は似たようなサイズのタイヤを見分けるため の管理上の工夫の一つなのだという。
さらにタイ ヤは、きちん と管理さえし ていれば一年 や二年で品質 が劣化する製 品 で は な い 。
最近でこそ製 全国10カ所に物流拠点を整備し 販社在庫をメーカーにシフト 販売会社が管理していた製品在庫を順次、 メーカーが設置した「地区倉庫」に引き上げて 販社在庫を約4割圧縮した。
同時に、それまで は販社の計画の積み上げで作っていた販売予 測を、物流部主導で作成するように変更。
最 初に物流部が全国レベルの販売予測を作り、 その枠内で各地の予測値を調整することによ って需給調整の高度化を図った。
ブリヂストン ――商物分離 「次は地区倉庫の在庫を減らす」と ブリヂストンの真隅徹物流部長 じた。
そこにバブル経済の崩壊が重なりブリヂストンの単体売上高も頭打ちの状態になっ た。
そして九三年十二月期には、急速な円高 で輸出が低迷したこともあって前年より一割 以上も売上高が落ちこんでしまった。
この状況に危機感を持ったブリヂストンの 経営陣は、徹底的な業務の合理化に乗り出し た。
物流も例外ではなかった。
これを機に同 社は商物一体の仕組みの見直しに着手すると ともに、物流管理体制の刷新を図った。
九五 年に数百人に上る転籍者と出向者によってビ ーエス物流を設立したのも、物流効率化の一 環だった。
小売店への直送化の推進 ブリヂストンの国内物流は大きく三つのカ テゴリー、「新車向け」、「補修市場向け」、「輸 出向け」に分かれている。
このうち「新車向 け」の物流管理では、国内の自動車メーカー の工場に製品を納めている。
JIT(ジャス トインタイム)の納品が不可欠で、タイヤメ ーカーが共同で借りている中間物流拠点や、 組立メーカーの運営する物流拠点を使うケー スが多い。
基本的に完成車メーカーの管理下 にあるため、ブリヂストンの物流部の出番は 少ない。
これに対して「補修市場向け」と「輸出向 け」については、国内の物流管理をブリヂス トンがすべてコントロールする必要がある。
と りわけ「補修市場向け」、つまり国内の新車向 品の先入れ先出しを意識するようになってい るが、食品のようにシビアな鮮度管理を問わ れてきたわけではない。
こうした製品特性は、 タイヤの物流管理を他の消費財に比べて進ん でいるとは言い難い状態に長らく置いてきた。
国内最大手のブリヂストンといえども、事 情は同じだった。
同社は国内九カ所のタイヤ 工場で製品を作り、これを全国数万店のタイ ヤ販売店を通じて売っている。
従来のブリヂ ストンは、末端の販売店への製品供給を、原 則として系列の販売会社を通じて行っていた。
いわゆる?商物一体〞の仕組みを基本として いた。
このような管理体制は、どうしてもコスト 意識の甘さにつながる。
協力輸送業者が自社 製品のユーザーであることも、ブリヂストン が真っ向から物流効率化に取り組むのを難し くする要因だった。
しかし、九〇年台の半ば になると、もはやそうした余裕はなくなった。
九〇年を境に、それまで右肩上がりで増え 続けていた日本国内の四輪車(乗用車用、ト ラック・バス用)の出荷台数は減少傾向に転 59 AUGUST 2002 け以外への製品供給の効率化は、近年、ブリ ヂストンの物流部門がとくに力を注いできた テーマだった。
そもそもブリヂストンが国内シェアを約五 「タイヤの輸送には、それなりの ノウハウが必要」とビーエス物 流の井上聰専務 ブリヂストンのタイヤの物流フロー (工場内倉庫) 国内工場九カ所 新車向け ストックポイント ブリヂストン直営2カ所 あとは車両メーカーの指定 国内自動車メーカー (生産ラインなど) 小売店 一般タイヤ店 カー用品店など 補修市場向け 輸出向け 地区倉庫 全国10カ所に製品を フルラインで保管 販売会社 輸出基地 (バンニング) 港頭バンニング コンテナ ヤード 在来船 社は物流効率化に本腰を入れたのだが、その柱の一つが、販社が売ることに専念できる体 制の構築、つまり?商物分離〞の推進だった。
もっとも、メーカーであるブリヂストンか ら、販社を通さずに小売店へ製品を直送する ためにはクリアすべき課題が少なくなかった。
「国内九カ所のタイヤ工場はそれぞれ作ってい る製品が違う。
これを各工場から小売店に直 送しようとすると、販売店にとってはあっち こっちから納品車両を受け入れなければなら なくなってしまう」(ブリヂストン生産物流本 部の真隅徹物流部長)。
商物分離を進めるた めには、販社の物流機能をきちんと引き継ぐ 必要があった。
そのために同社は、全国各地にメーカー直 営の?地区倉庫〞を設置する方針を打ち出し た。
それまで同社の物流部が管理していたの は工場倉庫がメーンで、これ以外には、工場 のないエリアでのみ中間流通拠点を構えてい たに過ぎない。
この体制を抜本的に見直し、 中間流通をメーカーが管理する体制に改めよ うというのである。
ブリヂストンの補修市場向けタイヤのアイ テム数は、たまにしか出荷しない特殊な製品 まで含めれば三〇〇〇〜三五〇〇ある。
新設 する各地の地区倉庫には、補修市場でのタイ ヤ販売の九八%をカバーできる約二〇〇〇ア イテムの製品を常備して、小売店への納品を 一回で済ませる。
さらに販社在庫を地区倉庫 に引き上げ、メーカーが一元的に管理するこ とによってサプライチェーン上の在庫水準を 適正化するという狙いもあった。
販売部門の後押しで直送化にメド 九五年に一カ所目となる地区倉庫を彦根工 場内に設置し、それから数年で矢継ぎ早に拠 点を増やした。
だが当初は思惑通りには進ま なかった。
地区倉庫を設置する以前から、ブ リヂストンには工場倉庫から小売店への直送 を一部で手掛けてきた実績があった。
ただし 最低発注ロットが四〇本と多かったこともあ って、その割合は補修市場向けのわずか七% に過ぎなかった。
地区倉庫を整備し始めると同時に最低ロッ AUGUST 2002 60 割にまで高めることができたのは、日本中に 張り巡らせた販売網の存在が大きかった。
同 社は一〇〇%出資の販売会社だけでも全国 に十数社を持ち、資本関係のない会社まで含 めると五〇弱の系列販社を持っている。
それ ぞれの販社は一〇カ所程度の営業所を持って いるため、営業拠点の数は全国約四五〇カ所 を数える。
こうした系列の販売会社は、それぞれ「コ ックピット」や「タイヤ館」、「ミスタータイ ヤマン」などのブランドでタイヤ販売店を展 開しており、その数は全国で約一二〇〇店舗 になる。
これに加えて自動車用品店やサービ スステーションまで含めれば、ブリヂストン 製のタイヤを扱っている小売店の数は全国で 数万店にも上るのだという。
こうした小売店の要望に応じて製品を供給 するため、九〇年代半ばまでブリヂストンの 販社では物流機能を持つ?商物一体〞が当た り前だった。
全国九カ所のタイヤ工場で作っ た製品を、併設する工場倉庫から販売会社へ と出荷。
それぞれの販社が製品在庫を持つこ とによって、小売店の望むきめ細かいニーズ に応えるというビジネスモデルだった。
だが、このビジネスモデルが強みを発揮で きたのは、ブリヂストンの売上高が右肩上が りで伸びていた時代の話だった。
九〇年代に 入って業績が伸び悩むと、同社の在庫水準も じわじわと悪化。
そして九三年には業績急落 がブリヂストンを見舞った。
これを契機に同 タイヤ工場で作られた製品は自動で専用ラックに積み付けられ、こ れをフォークリフトで工場倉庫へと格納する トを十二本まで引き下げたのだが、二年後の 九七年になっても直送化率は十二%までしか 伸びなかった。
「販売会社にしてみれば、や はり心配だった。
メーカーにオーダーしたも のが本当に翌日、お客さんのところに届くの かが彼らの最大の関心事だった」(ビーエス 物流の井上専務)ためだ。
確かに過去には、販社から発注を受けたの に、工場倉庫に製品がなくて対応できないケ ースがあったのも事実だった。
だからこそ販 社は自ら物流機能を拡充して、在庫も持つと いう道を選択するようになった。
直送化の伸び悩みは、いわばブリヂストンの物流に対す る信用の問題だった。
ただし、ブリヂストンとしても物流部門の 体質改善には取り組んでいた。
九五年に物流 子会社を設立したのも物流改革の一環だった し、同じ時期には物流管理の情報システムの 刷新も行った。
従来は工場倉庫から販社に運 ぶ物流のためのシステムだったのを、工場倉 庫から地区倉庫に補充するシステムへと変更。
日本国内のモノの動きを把握できる体制を整 えていた。
にもかかわらず、直送 化率は伸び悩んでいた。
そこで物流部は九八年に一計を 案じた。
主力販社の一つであるブ リヂストン東京販売を舞台に、半 ば強引に成功事例を作り上げてし まったのである。
「このときは販社 で物流に携わっていた人間を、先 に引き抜いてしまった。
あらかじ め販社には運べない状態を作り、そ れでも販売業務には支障がないこ とを証明した」と物流部の真隅部 長は振り返る。
かなりの力技だったが、この一 件をきっかけにブリヂストンの販 売部門の姿勢が変わった。
実績を 認めた販売部門が自ら率先して販 社に直送化を働きかけ始め、これ によって一気に直送化が進み始め た。
その後の直送化率は、九八年末に二〇% 超、九九年に三〇%超とトントン拍子に伸び 続けた。
すでに現在では四割弱にまで高まっ ている。
「われわれメーカーの物流部門が販社と話し をするときの相手は物流の責任者になる。
だ が直送化のような枠組みを作ろうとしたら、こ ちらの販売部門の人間から販社の販売責任者 に話をして、そのうえできちっと製品を供給 できる体制を構築することが欠かせない。
結 局、販売部門の人達の物流に対する認識が変 わったことが大きかった」(同)。
ブリヂストンはその後も毎年のように地区 倉庫の整備を続け、二〇〇一年九月には土地 と建物に一七億円を投じて岡山に自前センタ ーを作った。
全国一〇カ所目となる同センタ ーを稼働したことで、当初、ブリヂストンが 描いていた地区倉庫のインフラ整備はほぼ完 了した。
次は本命の在庫減らし 現状で約四割という直送化率からもわかる 通り、ブリヂストンは完全な商物分離を追求 してきたわけではない。
「地区倉庫から販売店 までの納品は一日一回が限界。
立ち寄ること ができる販売店の数も一日に一〇カ所ぐらい までしか増やせない。
直送化はある程度の物 量がなければできない」ためだ。
それでも直送化の推進によって、販社が抱 えていた在庫は約三割減り、販社の負担する 61 AUGUST 2002 昨年10月に稼働した全国10 カ所目となる地区倉庫、岡山 物流センターでは中四国およ び兵庫をカバーしている。
保 管能力は乗用車タイヤ換算で 約30万本 ブリヂストンの地区倉庫は荷 扱いを容易にするため平屋が 基本。
延べ床面積13,500m の平屋物件となると営業倉庫 では見つけにくいため自前で 投資している イズ別の配分をしていくようにすれば日本全 国の数字はそんなにぶれない」(ビーエス物流 の井上専務)。
こうして情報の流れを変え、物流子会社の 設立によって作業管理の見直しを計り、地区 倉庫のためのインフラも整備した。
サプライ チェーン全体の在庫削減を進めるお膳立ては 整ったといえる。
あとは地区倉庫の在庫をい かに減らしていくかが問われている。
ブリヂストンの物流部としては、滅多に出 荷しないサイズのタイヤの管理レベルを高め、 小さいロットの製品をどう運ぶかを当面は検 討していく方針だ。
「地区倉庫の在庫でも頻 繁に出るサイズについては、すでに〇・二カ 月分程度でしかない。
一・五カ月とか一・六 カ月というレベルで在庫を持っているレアサ イズのタイヤを何とかする必要がある」と真 隅部長は強調する。
本音では、物流管理のレ ベルを飛躍的に高めるためにもアイテム削減 にまで一気に踏み込みたいところだが、これ はそう簡単な話ではない。
実はブリヂストンの物流部は、昨年末にか けがえのない人材を失った。
一連の物流改革 を主導し、「物流から生産を変える」ことを明 言してきた石崎英克常務(当時)が現職のま ま急逝したのである。
真隅部長は、まるで自 分を奮い立たせるかのように言った。
「石崎だ ったら一気に生産への具申までしたかもしれ ない。
だが私の立場では、まず自分の足元か ら進める必要がある」 (岡山宏之) AUGUST 2002 62 物流コストを約四割減らすことができた。
同 時に、大口販売店の在庫を地区倉庫に引き上 げることでサプライチェーン全体の在庫を一 元的に管理しやすい体制も整った。
しかし、当初からの狙いの一つだった在庫 水準の適正化については、まだ多くの課題を 抱えたままだ。
在庫が減るどころか地区倉庫 をs本格稼働したことで、ブリヂストンの在庫 水準は増えてしまっている。
「販社を安心させ るために、『地区倉庫の在庫を厚めに持つから、 販社の在庫は減らしてくれ』という言い方を 我々はしてきた。
実際、一時的な対策として、地区倉庫の在庫水準を厚めに持つようにした」 ことが大きかった。
次のステップでは、地区倉庫に置くべき安 全在庫を見極めて、在庫水準を適正化する必 要がある。
そのために同社は九六年に物流部 のなかに「受注センターユニット」を設置し、 従来は各販社で受けていた系列販売店からの 注文業務をすべて集約している。
販社から本 社の物流部門に受注業務を移管し、管理をし やすい体制を整える狙いだった。
さらに、このときブリヂストンは販売予測 の作り方も根本的に変えている。
それまでは 販社ごとに置かれていた担当者が販売予測を して、その積み上げで国内の販売計画を作っ ていた。
だが、このやり方では販売担当者の 希望的観測が入ってしまうため、「必ず予測値 を確定値が上回ってしまう」という欠点があ った。
そこで販社主導で作っていた予測を、ブ リヂストンの物流部門が中心になって作るよ うに変更した。
九六年からは、まず最初に「受注センター ユニット」の担当者が、製品グループごとに 全国規模の販売予測を作る体制にした。
「タ イヤの販売シェアは、そう大きく変動するも のではない。
例えば乗用車であれば、日本全 国でこの程度は売れるという前提が成り立つ。
そしてあるサイズの乗用車タイヤの販売が伸 びれば、他の乗用車タイヤの販売は落ちるは ず。
最初にまず大枠を決め、その範囲内でサ 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 0.90 0.80 0.70 0.60 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 ブリヂストンの売上高と在庫の推移 棚卸資産回転期間(カ月) 単体売上高(億円) (年) 有価証券報告書より本誌が作成

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