ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年8号
特集
中国的物流 国内配送網は誰が担う

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2002 22 中国型3PLの登場 中国で「物流」ブームが起きている。
大手メーカー が相次いで全社的な物流管理部門を新設。
これまで の大量生産方式を改め、SCMによる在庫の圧縮と 物流コスト削減に動いている。
同時に物流業界では社 名に「物流」の二文字の入った会社が、この数年の間 に中国全土に無数に誕生した。
今年一月に三洋電機との包括提携を発表して話題 をさらった中国家電最大手のハイアール・グループ (海爾集団)―― 同社は九九年に物流推進本部を設 立、それまで製品別事業部門に分散していた物流組 織を全社的に一元化した。
物流推進本部長を勤める 梁海山(リャン・ハイシャン)副総裁は、その狙いを 次のように説明する。
「それまで当社の社内には在庫や物流コストに関す る意識があまりなかった。
果たしてどれだけのコスト が物流に費やされているのか、把握することもできな い状態だった。
抜本的な組織改革によって対策を打っ た。
改革以降、当社の物流コストは毎年五%ずつ低 下し続けている」 物流推進本部の設立と同時に、「調達」「生産」「販 売」という各業務プロセスに応じた三つの物流子会社 を新設した。
発生した物流費を子会社が各事業部門 に請求する体制にして、コストを明確化した。
さらに、 この三つの物流子会社のうち、販売プロセスを担う青 島ハイアール物流は二〇〇〇年を機に本格的な3P Lにも乗り出している。
同社はハイアール・グループの販売物流インフラと して中国国内に四二カ所の配送拠点を持ち、自社車 両三〇〇台を含め計一万六〇〇〇台のトラックを供 給する能力を持っている。
青島の工場から中国全土に 日本企業による中国ビジネスは、従来の輸入型から、中国の国内 市場そのものを開拓する方向へとシフトしている。
そこで新たに直面 するのが国内物流網の問題だ。
今のところ本土には有力な中間流通 業者が存在しない。
果たして誰がそれを担うのか。
本誌編集部 配送するリードタイムは平均で四日。
沿岸部の大都市 なら当日配達も可能だという。
この供給インフラを親会社だけでなく、中国国内市 場におけるビジネス展開を狙う外資系企業にも提供す る。
既にハイテク機器メーカーのヒューレット・パッ カード(HP)、食品メーカーのネスレ、マレーシア 系の大手グロサリーメーカー・AFPなどの有力外資 を荷主として獲得した。
全国規模の中間流通業者が存在しない中国では、こ れまでメーカーは商物一体型の自家配送を余儀なくさ れてきた。
しかし、上海や大連などの大消費地ならと もかく、他の地方都市ともなると、一社単独では一定 の物量を確保することができない。
それだけインフラ の維持負担がかさんでしまう。
そのため世界ブランド を持つ外資系メーカーといえども中国全土にビジネス を拡大することは難しかった。
しかし、ハイアールの持つ国内最大規模の物流イン フラが利用できるとなれば話は変わる。
実際、中国の HPではそれまでコピー機一台を販売するのに一八〇 人民元(二七〇〇円)の物流コストが生じていた。
3 PLとしてハイアール物流に業務を委託したことで、 現在はそれが三分の一の六〇人民元(九〇〇円)に 低減されたという。
過去を振り返ると、中国市場におけるハイアールと 同様、戦後の日本でも松下電器産業を始めとする家 電メーカーは自社製品を全国に供給するため、自ら重 装備のサプライチェーンを構築した。
ただし日本の場 合、メーカーが作り上げたインフラはあくまでも自社 専用であり、それを流通プラットフォームとして他社 に開放するという発想はなかった。
これに対してハイアールは「物流子会社を設立した 当初から3PLとして展開していく計画だった。
これ 国内配送網は誰が担う 第3部 特 集 23 AUGUST 2002 からのメーカーはビジネスの比重を生産からサービス にシフトさせていく。
物流子会社の3PL化は、こう した流れに対応したものだ」という認識を持っている。
同社の中国型3PLに対するニーズは極めて大きい。
中国に進出した日系メーカーも多くが現在、そのビジ ネスモデルを、割安な中国製品を日本に輸入して販売 するという従来のユニクロ型から、中国国内での製品 販売にシフトしようとしている。
人口は日本の一〇倍。
GDPでも今や世界第七位にある中国は、生産拠点 としてだけでなく、マーケットとして見たときにも既 に十分、魅力的だ。
ただし、問題は中間流通だ。
ここ数年で中国の輸 出入インフラは格段に整備が進んだ。
しかし、国内流 通となると、外資系企業がオペレーションの詳細を把 握するのは容易ではない。
緩和が進んでいるとはいえ、 外資系企業に対する複雑な活動規制もまだ数多く残 っている。
各社とも信頼できるパートナーを渇望して いるが、既存の中国企業に条件を備えた企業は少ない。
ハイアール物流はその有力な担い手の一つとして期待 されている。
日系物流企業も中国ビジネスの新たなトレンドに敏 感に反応している。
三菱商事の東瑞峯国際物流事業 ユニット物流事業推進担当主席マネジャーは「これま での当社の中国における物流事業は、他の日系物流 子会社と同様、日中間の輸送や保税倉庫の手配に終 始していた。
しかし、今後は中国の国内市場における中間流通がカギになる。
中国には全国規模の卸がない。
当社はもともと卸。
他の日系物流企業とは違うアプロ ーチで国内市場に臨む」という。
具体的には中国市場での販売を望むメーカーから三 菱が商品を調達、中国市場の小売りチェーンに対して、 一括物流センター方式で商品を供給する。
既に上海 や大連などの大都市に現地法人を立ち上げ、一部で サービスを開始している。
大型の追加投資も現在予定 しているという。
「今後、中国で小売りチェーンが台 頭してくるのは間違いない。
十分、勝算はある」と東 主席マネジャーは意気込んでいる。
静岡県浜松に本社を置く遠州トラックは中国に進 出した日系企業の中でも最も早い時期に国内の物流 市場に参入した同分野のパイオニアだ。
同社は年商一 九八年から九九年にかけてハイアールは大 規模な組織改革を行った。
従来の商品別縦割 り組織を改め、新たに物流推進本部・商流本 部・資金本部・海外本部の四本部制を敷いた。
物流推進本部の役割はSCM。
それまでの大 量生産方式を改め、実需に応じた生産・調達 と納品リードタイムの削減を図った。
調達ではまずサプライヤーの数を二三三六 から八四〇に絞った。
同時に電子調達を開始。
中国の招商銀行と手を組み、受発注から決済 までインターネット上で処理できる体制を整 えた。
生産方法も多品種少量型に変更。
注文 を受けてから生産し、納品するまでのリード タイムを従来の三〇日から一〇日に短縮した。
一連の改革によって同社の中央倉庫の面積は 一五万平方メートルから二万平方メートルに 縮小された。
販売物流では物流子会社の3PL化による 外部荷主獲得を実現。
今夏には3PLビジネ スのプラットフォームとなる情報システムも 稼働する予定だという。
ちなみにハイアー ル・グループは基幹システムとして、二〇〇 〇年一〇月にERP最大手のSAPを導入し ている。
ハイアールのSCM 中国・青島にあるハイアールの物流センター。
近代的な設備に驚かされる AUGUST 2002 24 二四億円(二〇〇二年三月期)の中堅運送会社だが、 子会社の藤友物流サービスを通じて九三年に上海に 現地法人を設立。
その後、九六年に青島、北京、天 津。
二〇〇〇年には大連に現法を置き、トラックによ る混載輸送事業、日本式の路線業を中国本土で展開 している。
自社トラックで拠点間を結ぶ定期幹線輸送を、各 路線ともそれぞれ週二便運行。
発着時間を固定する ことで、安定的な小口貨物の「ドア・ツー・ドア」サ ービスを提供している。
青島を中心とした一部の路線 には食品用の保冷車も導入。
さらに今後は南通、杭 州、厦門、南京、武漢、広州にも現法を設立し、路 線ネットワークを拡充する計画だという。
同社で中国事業を指揮してきた落合岐良取締役は 「今でこそ中国国内の運送会社も似たようなサービス を手がけるようになったが、当社が事業を開始した頃、 中国に路線業は存在しなかった。
この分野は当社の独 壇場だ。
毎年、物量も増加している」と胸を張る。
とはいえ、路線業は一定の規模を確保しない限り利 益の出ないインフラビジネスだ。
しかも、競合相手は コスト競争力で勝る地元の運送会社。
これまでの事業 展開は決して楽なものではなかったはずだ。
そもそも 遠州トラックの中国ビジネスは「中国市場に佐川急便 を持ち込む」という発想がベースになっているという。
しかし、当の佐川急便は中国市場における物流ビジネ スに対して、遠州トラックとは異なるアプローチで臨 んでいる。
儲からない理由 今年五月、佐川急便は上海で宅配便事業を開始す ると発表した。
同社と住友商事、そして中国の大手 物流企業・上海大衆交通集団の三社による合弁で、上 海大衆佐川急便物流を設立。
九月をメドに営業を開 始する。
中国本土に初めて本格的な宅配便が導入さ れるとあって、同事業に対する周囲の注目度は高い。
ところが佐川急便の山本賢司執行役員国際事業部 長は「上海の宅配事業が成功しても、当社が中国全 土にネットワークを広げることはない。
上海のような 消費地エリア内の宅配事業であれば直接出資すること もあり得るが、全国展開ともなると、やはり地元企業 の領分だ。
外資の出る幕ではない。
当社が関わるとし ても、ノウハウやライセンスの供与という形にとどま る」という。
最大の理由はズバリ、儲からないからだ。
中国のよ うな広大な地域に、宅配ネットワークを敷くとなれば 大規模な投資が避けられない。
その結果、事業が成功 したとしても現状の法制下では、利益を中国の国外に 持ち出すことができない。
儲けは全て中国本土で再投 資するしかない。
すなわち投資リスクに見合うだけの リターンが期待できないのだ。
これは物流事業に限った話ではない。
メーカーや流 通業でも事情は同じだ。
現在、多くの日系企業が中 国国内市場向けのビジネスに先を争っている。
しかし 中国ビジネスのゴールがどこにあるのか。
実は明確な 答えが出せないでいるのが実情だ。
確かに外資の一〇 〇%出資による独資会社は徐々に認可されるようにな ってきている。
しかし、現法で上げた利益を日本で手 にするには現在は配当という形をとるしかない。
しか も配当には制限が設けられている。
マクロ的に見ると確かに中国は世界でも他に例を見 ない成長市場だ。
外資に対する優遇措置も充実して いる。
こうした甘い誘惑に誘われて、中国進出のラッ パを鳴らす日本企業のトップは後を絶たない。
しかし、 実際に最前線で中国ビジネスに携わっている現地駐在 遠州トラックでは、中国本土の路線事業のほか、アパレル製品の検針作業など流通加工も手掛けている 25 AUGUST 2002 特 集 員たちの多くは、現場を知らないトップの描くバラ色 のビジョンを、かなり冷めた目で眺めている。
某日系メーカーの駐在員は「中国政府や自治体は、 外資が投資をするところまでは親身になって対応して くれる。
何でもスムーズにコトが運ぶ。
ただし、その 後の対応は違う。
それが一番よく分かるのが撤退する 時だ。
参入した時の何倍もの手間とコストが発生する。
一円でも多く外貨を落とさせようと、あれやこれやと イチャモンを付けられる。
そのため撤退したくてもで きないという会社が少なくない」と漏らす。
日系企業が中国に進出する場合には、日本の設備 をそのまま中国に持ち込むことになる。
そこでは円が 投資される。
これに対して中国国内市場のビジネスで 手にすることができるのは当然、人民元だ。
回収のメ ドの立たない先行投資が、果たして本当に合理的な経 営判断といえるのか。
中国ビジネスに詳しいものほど 悲観的な意見を口にする。
問われるビジネスモデル 少なくとも日系物流企業にとって、中国国内の物 流市場は決して?おいしい〞商売にはなり得ない。
佐 川急便の山本執行役員は「当社は八八年に香港に現 地法人を置いて以来、中国本土を始め他の東南アジ ア諸国に次々に拠点を展開してきたが、狙いは全て日 本国内の宅配事業の強化にある。
中国ビジネスでも、 やはり日本の宅配事業が本丸だ」という。
実際、生産拠点を日本から中国本土に移した荷主 に対して佐川が提供しているメーンのサービスは、現 地の小口輸送でも単なる国際輸送でもなく、日本の 宅配便のネットワークを活用することで、荷主の既存 の物流センターを?中抜き〞するというソリューショ ンだ。
通常、中国の工場から日本の最終顧客に至る物流 は、「中国の工場」→「中国の港湾」→「日本の港湾」 →「日本の荷主物流センター」→「日本の物流業者 のセンター」→「日本の顧客」という流れになる。
こ れに対して佐川は、「日本の荷主物流センター」で行 う業務を「中国の港湾」に置いた自社の物流センター で処理する。
中国の工場で生産した製品を佐川が集荷。
現地の 港湾地区で宅配便用の出荷ラベルを添付し、そのまま コンテナに詰めて日本の宅配便のターミナルに送る。
日本の港にコンテナが着いた翌日には、最終ユーザー に納品できる。
これによって、ユーザーに納品するま でのリードタイムは実質四日〜六日短縮される。
同時に荷主は国内の物流センターの規模縮小、も しくは撤廃が可能になる。
中国の割安な人件費で出 荷処理ができるため、オペレーションのコスト自体も 下がる。
「中国人を使って日本語で書かれた出荷ラベ ルを間違いなく処理する現場のオペレーションは、そう簡単ではない。
現在の体制を作るまでには随分、時 間と手間がかかった」と山本部長はいうが、佐川にと っても本業の売り上げになる日本円のビジネスだ。
こうして佐川は中国物流にも自らの強みを活かした 独自のビジネスモデルを持ち込んでいる。
国内の宅配 便ネットワークを持たない他の日系物流企業が同じモ デルを踏襲することは難しい。
中国ビジネスを成功させるのに、一定の方程式は存 在しない。
日本市場の競争で敗れたものが中国に救い を求めても逃げ場はない。
日本市場でビジネスモデル を確立したものだけが、中国のパワーを活かすことが できる。
強いものが、より強くなる。
日本企業のサプ ライチェーンに中国が加わることで、企業間格差は一 層、広がっていくことになりそうだ。
佐川急便の山本賢司 執行役員国際事業部長

購読案内広告案内