ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年8号
特集
中国的物流 中国物流マーケットの現状と将来性

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2002 26 WTO加盟のインパクト 中国の経済成長は外資系企業の進出がその原動力 となってきた。
日本をはじめ欧米の製造メーカーは、 安い労働力を求めて生産拠点を相次いで中国各地に 移管させた。
それによって、中国はいまや「世界の工 場」と言われるまでに至っている。
海外の技術力を習 得することで国内企業の競争力を高めるという狙いも あって、中国政府は製造業の受け入れに関して前向き に取り組んできたと言える。
しかしその一方で、外資系企業の進出にはいくつか の制限が設けられてきた。
例えば、外資系製造メーカ ーの場合、原則として製造品目に必要な部材のみが 輸入可能で、なおかつそれを基に生産した製品のみが 輸出可能、というルールがある。
認可を受けた品目・ 数量の範囲での輸出入しかできない「貿易権」と呼ば れる制約である。
そのため、この枠以外の品目の輸出 入を行う場合は、該当品目の輸出入権を持つ業者と の国内取引に依らなければならない(因みにこのよう な貿易商社は現段階では中国企業に限定されている)。
また、外資系企業はこれまで中国での国内販売も 制限されてきた。
実際には、傘型企業と呼ばれる投資 統括会社を設け、たとえ中国で生産していなくても自 社ブランド製品であれば国内販売を可能とするといっ た具合に、国内販売の自由化は段階的に進められて きた。
だが、例えばメーカーの場合、国内販売は自社 工場生産品目に限定され、なおかつその数量は三割ま で、というような規制が存在していた。
物流サービスに関する規制も厳しかった。
物流は国 内企業の保護という観点から「外資制限業種」に指 定されてきた。
原則として独資による物流企業の設立 は認められておらず、外資側の出資比率はマイノリテ 昨年12月、中国は懸案だったWTO加盟を果たし、名実ともに世 界経済の重要なメンバーの一員となった。
今後中国はグローバルスタ ンダードに準じた種々の制度やシステムを導入していくことになるが、 物流も例外ではない。
外資制限の撤廃等によって、巨大な物流マーケ ットをめぐる企業間競争は激しさを増すことが確実視されている。
日通総合研究所経済研究部大出一晴 研究主査 ィ(いくつかの例外事例があるにせよ)で、進出企業 側経営が主導権を握ることは難しい状況になっている。
しかし、こうした各種規制もWTO加盟によって大 幅に緩和される。
「貿易権」制度は三年以内に撤廃さ れ、自由な輸出入が可能になり、国内販売は「流通・ 小売業」に関する規制緩和で、チェーンストアや大規 模小売りといった業態進出も展望が開けた。
また、国 内流通に関する補助的サービスとして、レンタル、リ ース、エアクーリエ、フォワーディング、保管・倉庫 業務、宣伝、技術的テスト・分析、梱包も外資に開 放する方針が打ち出されている。
さらに、物流の分野では今後六年以内に一〇〇% 外国資本の市場参入を可能にすることが明言された (図1参照)。
貿易および国内販売の自由化、さらに 物流サービスそのものの規制緩和は言うまでもなく、 多くの物流企業にとって中国におけるビジネスを拡大 していくうえでのプラス要因となるであろう。
中国物流ビジネスの現状中国の物流インフラは過去一〇年で劇的に改善が 進んだ。
ただし、提供されている物流サービスの質的 レベルは、未だ日本に比べ劣っていると断じる向きも 多い。
そもそも中国は資本主義的手法が導入されつつ あるものの、本質的には共産主義の国家であり、日本 をはじめとする資本主義国が持っている物流に関する 概念やスタンダードとは異なったシステムが存在する ことを理解しておかなければならない。
共産主義の大きな特徴は「計画経済」である。
生 産は計画に沿って実行され、物流も貨物を計画通り に移動させることに重点が置かれる。
そこにはマーケ ットニーズ(実需要)に応じて物流を実行するという 概念は存在しない。
その結果、「計画」以外の物流に 中国物流マーケットの現状と将来性 第4部 27 AUGUST 2002 特 集 ついては「貨物を欲しい者(会社)が取りにいく」と いった「自家輸送」の発想が主流になっている。
小売業の物流を見てもその傾向は明らかで、「前店 後車」(自家用トラックで仕入先に商品を取りにいき、 店舗の裏の倉庫で在庫を持つ)というパターンが一般 的であった。
すなわち、物流は基本的には自身で行う ものであり、アウトソーシングしてコストを外部に支 払うという概念そのものがなかったのである。
仮に物流企業を利用する場合でも、委託先を選ぶ 基準はコスト重視で、サービスの品質に関しては「到 着すればよい」というレベルに過ぎなかった。
物流の 付加価値サービスに対するニーズは希薄で、たとえ付 加価値サービスが存在しても、そのサービスを加える ことでコストが高くなることを容認しない傾向が強か った。
このように、基本的な物流に関する概念の違いもあ って、中国進出を果たした外資系企業が求めるような サービスを提供できる物流企業はこれまで育ってこな かった。
しかし近年では、日本や欧米の物流企業のよ うに質の高いサービスを提供できる中国系物流企業の 存在も確認されるようになってきた。
中国の輸送モード別の現状 中国国内物流のキープレーヤーは鉄道と自動車(ト ラック)である。
自動車輸送はトンベースにおいては、 全輸送量の八割を占めているが、トンキロベースにお いては二割以下を占めるに過ぎず、主に近距離輸送を 担当してきた。
中国では一九七〇年代から八〇年代かけて、自動 車輸送は三〇〇キロメートルの範囲内を対象とし、そ れ以上の遠距離は鉄道が担う輸送モードの「棲み分 け」が政策的に行われていた。
しかしその後、自動車 輸送の分担距離は徐々に増加し、現在では一〇〇〇 キロ程度にまで伸長している。
従来鉄道で輸送されて きた貨物も自動車輸送にシフトされるケースが増加し ており、今後、ドアツードア輸送が可能な自動車輸送 が物流の主力モードになることが期待される。
?鉄道輸送 中国における鉄道輸送の使命は内陸部で生産され る石炭等の基礎資材を、消費地である沿海部に供給 することにある。
この物流は「北炭南運」「西炭東運」 と呼ばれる。
事実、鉄道輸送量の八割を石炭、鉄鋼、鉱 石といった基礎物資や化学肥料、穀物が占めている。
鉄道輸送では貨物を「計画貨物」と「計画外貨物」 に分け、「計画貨物」(石炭、石油、穀物、鉄鋼、鉱 石、農業生産用資材等が該当し、なかでも石炭の優 先順位が高い)を優先し、「計画外貨物」(工業製品、 副次的農産物等)は「計画貨物」輸送で余ったスペ ースを割り当てるのが原則である。
このような明確な貨物の格付けが一般商業貨物に対する輸送優先順位 を低いものとし、利用者にとっては使い勝手の悪いも のになっている。
例えば、 a 車両予約への不満 鉄道輸送は政府貨物の輸送計画をベースに一カ 月前に立案されるため、それに合わせて車両予約を 一カ月前に行う必要がある。
しかも輸送能力がタイ トなためスペースの確保が難しい。
b 定時性の問題 旅客列車の場合は運行ダイヤが存在しているが、 貨物列車の場合はダイヤが存在しない。
すなわち貨 物が発車数量に達した時点で発車となるため、数 量が満たされるまで駅で貨物が滞留してしまう。
ま た、ダイヤが存在しないこともあり、貨物がどのよ 一年以内に合弁企業の設立を許可(外資マジョリ ティ認める)。
三年以内に外資一〇〇%企業を許可 外国貿易港として開港しているもののみ (マーケットアクセス条件に合致するもの) ・外資四九%を越えない合弁企業が可能 ・加盟後三年以内に外資マジョリティの設立が可能。
六年以内に外資一〇〇%が可能 ・外資四九%を越えない合弁企業が可能 ・加盟後一年以内に外資マジョリティの設立が可能。
三年以内に外資一〇〇%が可能 ・外資四九%を越えない合弁企業が可能。
加盟後一 年以内に外資マジョリティの設立が可能。
三年以 内に外資一〇〇%が可能 ・加盟時に三年以上の経験があれば五〇%を超えな い合弁企業の設立が可能。
一年以内に外資マジョ リティの設立が可能。
四年以内に外資一〇〇%が 可能 ・最低資本金は最低一〇〇万ドル ・期間は二〇年を超えない ・一年以上の営業で支店設立が可能。
一箇所に資本 金十二万ドルを追加 ・五年後に追加(二つめ)の合弁企業の設立が可能。
ただし加盟後二年以内に期間を二年に短縮 外資マイノリティの合弁企業のみ可能 外資マイノリティの合弁企業のみ可能 外資四九%を超えない合弁企業のみ可能 図1 
廝圍浪談舛砲茲觧夏規制の緩和 通関業 梱包業 (海運) コンテナ ステーション ・デポ 海運 鉄道輸送 内航海運 代理店 自動車 輸送 フォワーディング 倉庫業 サービス 内 容 資料:WTOホームページより AUGUST 2002 28 うな状態にあるかトレースすることが困難。
c 空コンテナ回収問題 輸送能力が不足しているため内陸から空コンテナ が戻ってこない傾向がある。
そのために余分なコス トが掛かるケースも多い。
こうした利用者の不満を中国政府も認識しており、 市場経済への対応とサービスレベルの向上を図るため に鉄道輸送改革に乗り出している。
その改革の「目 玉」の一つとして、九七年一〇月には貨物列車のサー ビスレベルを旅客輸送のレベルにまで引き上げる政策 を打ち出した。
この目的実現のための具体策が「五定列車」である。
「五定」とは貨物列車の?発着駅、?ルート、?車両 番号、?発時間、?運賃――の五つの要素を確定す ることで定期性・定時性を確保しようとするものであ る。
「五定列車」により従来の貨物輸送の概念とまっ たく異なる定時輸送サービスを開始したことは高く評 価できる。
しかしながら、上海、天津等の港湾から内陸向けの 「五定列車」は運行されているが、内陸→内陸あるい は内陸→港湾といったルートは貨物量の確保が難しい。
スケジュール上は存在するものの、実際には運行され ていないダイヤもあるなど盤石とは言い切れないよう だ。
ただ運行便についてはスケジュール通りに発着し ていて、商業貨物輸送のサービス水準は高まりつつあ るという一定の評価を受けている。
?自動車輸送 従来、自動車輸送は道路インフラ整備の遅れや車 両品質の悪さから、定時配送やジャストインタイムと いった高付加価値サービスの達成度が低かった。
とり わけ長距離輸送になるとその傾向が顕著だった。
しか し、中国における自動車輸送は開放経済下において 大きく環境が変化し、輸送実績は伸び続けている。
輸送実績の伸長に寄与しているのは道路インフラ整 備である。
二〇〇〇年には高速道路の総延長は一万 六〇〇〇キロメートルに達した。
世界第三位の水準で ある。
今後も西部開発において道路インフラ整備のペ ースは持続されるものとされている(図2)。
道路インフラの充実とともに自動車輸送事業者の レベルアップが果たしている役割も強調しておくべき であろう。
共産主義体制の自動車輸送は自家用車両 による自己輸送が中心であったため、「業」としての 自動車輸送は未成熟であった。
しかし、開放経済の進展とともに、他人の需要に応 じて輸送を行う輸送業者の出現が始まり、八〇年度 中頃から九〇年代中頃にかけて、地方の「郷鎮企業」 等による運輸企業の設立ラッシュがみられた。
九〇年 代中頃以降は「競争」の激化により企業数や規模の 面での拡大傾向は落ち着き、現在では多角化や合併等の手段により、輸送をコアコンピタンスとしながら 配送、倉庫といった複合的業務を顧客に提供する企 業も現われている。
すでに沿海部では高品質をセール スポイントにする事業者が増加し、日本の「宅配便」 に相当する小口輸送サービスも提供され始めている。
中国市場向けトラックを現地生産するメーカーに対 するヒアリングでは、 ・一トンレベルの小型車両、大型車両、特殊車両の 生産が増えている ・従来はトラックであってもダブルキャビンで人間を 運ぶ機能も重視されていたが、現在では純粋な貨物 輸送機能を追求した車両を生産する傾向にある との回答が得られており、このことからも現地の物 流企業がサービスレベルの向上に前向きに取り組んで 出所:中国交通部ホームページ(http://www.moc.gov.cn/gaikuang/HIGHWAY)    ただし、2000年のみ『中国交通年鑑2001年版より』 図2 高速道路の延長  20,000 15,000 10,000 5,000 0 522 574 652 1145 1,603 2,141 3,422 4,711 8,733 11,065 16,314 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 (年) (単位:km) 29 AUGUST 2002 特 集 いる様子を垣間見ることができる。
自動車と鉄道の比較(上海港経由貨物) 以上、内陸輸送の両輪である鉄道輸送と自動車輸 送を概観したが、その競合状況を解説するためのケー ススタディとして、上海から南京、武漢、重慶までの 輸送リードタイムを比較してみた。
◆南京 九六年九月に上海〜南京間には高速道路が完成 し、上海〜南京はすでに一日以内でドア・ツー・ ドアのデリバリーが可能なエリアになっている。
完 全に自動車輸送圏と言えるだろう。
◆武漢 上海から南京を経由して道路が整備されており、 武漢までは十一トン超の大型車両での輸送が可能。
そのため所要日数も二〜三日と想定することがで きるため、日系荷主企業では自動車輸送を利用す るケースが増えている。
◆重慶 上海から武漢までの道路インフラが比較的整備 されてきたため、重慶も上海経由で自動車輸送が 想定できるエリアになってきた。
武漢までは十一ト ン超の大型車両で輸送し、その後八トン車等に積 み替える方式が採用されるパターンが広く浸透して いる。
所要日数は四〜八日程度と想定される。
今後の中国物流ビジネス 中国進出を果たした日系物流企業の主要顧客は日 系企業であることから、日中間の物流がその中核業務 であった。
しかし、WTO加盟による貿易権の撤廃等 の改革によって、顧客企業は調達・販売活動をグロ ーバルに行うと想定される。
今後、中国に進出した物 流企業に求められる機能はそうしたグローバル物流の ニーズに対応することである。
その一方で、中国国内の物流ネットワークづくりも 重要である。
これまでフォワーダー業務をコアビジネ スとしてきた日系物流企業の多くは、倉庫などのハー ドを併設したトータルな国内物流(あわせて国際物 流)を提供しようとしている。
しかし、中国国内での オペレーションに関して、外国企業である日系企業が 地場企業よりも競争力のあるコスト設定をできるかど うかは、はなはだ疑問である。
進出企業は日系物流企業に対して「中国価格での 日本並みのサービス」の提供を求める傾向が強い。
物 流業にとっても、従来の自前主義ではコスト競争力は 乏しいものになろう。
既に多くの日系物流企業では 「ライバルは日系物流企業でなく地場中国企業」とす る意見も出始めている。
日系物流企業にとって中国市場は確かに大きなマ ーケットであるが、それが即収益性に結びつくものではないようだ。
日本人の費用を含めた形で、「黒字化」 している日系企業は少数に過ぎないといわれている。
特に単純な物流サービスで地場企業とコストを競うこ とは、きわめて厳しいものなっている。
日系物流企業 の場合、高品質ゆえの対価を求めざるを得ないが、 ・日中間以外のグローバル物流を一元的に行う ・国際物流と国内物流をトータルで行うことでメリ ットを出す ・他社と差別化したネットワークやサービスを提供 する ・顧客のフレキシビリティをトータルで管理・運営 する といった独自性を持たなければ、生き残ることはで きない厳しいマーケットであると言えるだろう。
おおいで・かずはる83年3月慶應 義塾大学商学部卒。
同年4月日本通 運入社。
国際輸送事業部、米国日通 シカゴ海運支店等を経て、92年4月 より日通総合研究所に出向。
主に国 際物流に関する調査・研究を担当。
JIFFA国際複合輸送士資格認定講座 講師、JILS国際物流管理士資格認定 講座講師。
中国の物流に関する論文 として、「中国の物流事情と日系進出 企業の物流課題」(「輸送展望96年夏 号」=発行・日通総研)、「中国にお ける物流変化−1.鉄道輸送の変化、 2.自動車輸送の変化」(「流通問題研 究No.33、34」=発行・流通経済大 学流通問題研究所)などがある。
PROFILE

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