ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年8号
特集
中国的物流 中国でも電子部品のVMIを担う

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2002 30 国内物流の五割が中国流出 ――九五年に中国に進出したきっかけは何だったので しょう。
「当社の親会社のアルプス電気が中国に生産拠点を 作ったときに依頼されたのがきっかけだ。
生産拠点の 物流をサポートするために一緒に進出してくれという 話だった。
ただ初めの頃は日本でやっている電子部品 の総合物流とは違い、かなりシンプルなサービスだっ た。
それが現在では日本と変わらないレベルにまで高 度化している。
当社の中国国内の拠点もすでに六カ所 まで増えた」 ――それだけ日本国内の電子部品の物流マーケットが 縮小しているということでは。
「基本的に日系企業の中国進出は、まずセットメー カーから始まった。
次に我々の顧客である電子部品メ ーカーも、日本での生産をやめて東南アジアや中国で 生産するようになった。
その結果、日本で発生してい た電子部品の物流も五割くらいが中国に移ってしまっ た。
もちろん価格の高い電子部品や、高い技術力を必 要とする電子部品は今後も国内に残るはずだ。
だから、 悲観はしていない。
しかし国内の電子部品の物流需要 が減っていくことは間違いない」 「少なくとも国内の電子部品の物流需要が今後、急激 に増えていくことはあり得ない。
これを見越して、国 内ではすでに人員整理などのリストラを実施した。
そ のため今年四月からの業績はすこぶるいい。
ただ、こ のような状況では新規の売り上げが大きく伸びるはず がない。
いま日本で我々がすべきは電子部品の物流に おけるシェアをこれまで以上に高めることだ。
当社と してはまず一二〇〇社という現在の顧客数を、一三 〇〇社くらいにまで引き上げる必要がある」 ――中国への物流企業の進出は、ライセンスの取得な ど簡単ではなかったのでは? 「天津の合弁会社は、中国側の開発会社であるTED A(中国天津経済技術開発区)と一緒に作った。
し かし、TEDAは単なる投資会社で物流のことをまる で知らなかった。
結局、当社が一から作る必要があっ たのだが、海上貨物と航空貨物のフォワーディングの ライセンスを一年で取得できたのは幸運だった。
当時、 合弁会社で海上貨物と航空貨物の両方のライセンス を持っていたのは、恐らく当社だけだったはずだ」 「上海では外高橋保税区内に独資(外国企業の一〇 〇%出資)で倉庫会社を設立した。
資本金は六億円。
土地を六〇〇〇坪購入し、三年前に二〇〇〇坪の倉 庫を建設した。
すでに七割のスペースは埋まっていて、 今年中には一杯になるはずだ。
現在、この倉庫の隣接 地に三〜四階建ての倉庫を建設する計画を進めてい る。
完成すれば三〇〇〇〜四〇〇〇坪の規模になる 予定だ」「この上海の会社は天津のライセンスを使うかたち で事業を展開している。
実は当社は、それ以前にも上 海に支店を出していた。
上海で合弁会社を設立するこ とも考えたのだが、なかなか事業をスタートするため のライセンスが下りなかった。
やむなく天津の会社の 分公司(支店)の形式をとった」 ――天津の合弁会社は、具体的にはどういうプロセス を経て立ち上がったのでしょう。
「まず中国政府がある地域を開発して、これを管理 委員会と呼ばれる組織が管理する。
彼らは、進出した 企業に対して土地を売却する役目を担っている。
独資 が認められていない場合は、管理委員会を通じてまず 土地に出資するという手順になる」 ――広東省にも拠点を構えていますね。
こちらは、ど 「中国でも電子部品のVMIを担う」 国内の電子部品の物流で圧倒的な強さを誇るアルプス物流が、 中国でも同じビジネスモデルを展開している。
セットメーカーの JIT納品に対する要請は中国でも変わらない。
コスト競争の厳 しい川下の販売物流を避け、“世界の工場”を縁の下から支える ことで事業拡大を狙う。
アルプス物流 長迫令爾 会長 Interview 31 AUGUST 2002 特 集 ういう経緯だったのですか。
「広東省の投資会社の総経理(社長格の社員)に誘わ れて、二〇〇〇年に会社を設立した。
ちょうど天津と 上海で物流会社を立ち上げていた時期だったため最初 は断ったのだが、その投資会社があっさりにライセン スを取得したというので話に乗ることにした。
当時は まだ近鉄エクスプレスも日本通運もライセンスを取れ ていなかったからチャンスだと考えた」 「この七月九日に三〇〇〇坪の倉庫が完成した。
大連 でも四月八日にライセンスが下りた。
九月には通関の ライセンスも下りる。
一〇月から本格的な営業展開が 可能になるはずだ。
他に当社は無錫にも事務所を置い ている」 中国ビジネスで儲けるコツ ――中国では外国企業が一〇〇%出資で事業を行う のは難しいとか、現地の都合で無理難題をふっかけら れることも多いという話を耳にします。
「確かに面倒なことが多いのは事実だ。
抜け道とし て貿易会社を設立するというやり方もあるが、基本的 には合弁のかたちをとらなければ進出は難しい。
しか し日系企業と組むと往々にして配当金がいいから、相 手側がなかなか権利を手放そうとしない。
これがやっ かいだ」 「また保税区内に拠点を構える倉庫会社であれば、独 資での事業展開も可能だ。
当社が上海に作った一〇 〇%出資の会社では、トラックを一五台保有して無 錫までデイリーで配送業務を行っている。
あるとき法 律が変わって、トラックを一〇台以上持っていなけれ ば免許を取り消すという話になった。
慌ててトラック を増やした。
ところが結局、法改正は実施されなかっ た」 ――そもそも中国での物流ビジネスはきちんと利益が 出るものなのでしょうか。
いろいろと取材をしてみる と懐疑的にならざるを得ません。
「上海で約二年間やって利益が出ることがわかった。
当社の海外部門の営業収入は、二〇〇二年三月期で二 五億円くらいになった。
これが今後一、二年の間に、五 〇億円にまで拡大すると見込んでいる。
大連と広東省 の拠点が本格稼働すれば、そのくらいは当然の数字だ」 「最近の日本経済の動きを見ていると、将来的にも 日本に電子部品メーカーが戻ってくる可能性はなさそ うだ。
だから当社は中国で電子部品に特化した総合 物流事業を強化する。
我々が日本で成功したのは、部 品メーカーとセットメーカーの中間に物流拠点を設置 して、集荷と配送センターを担ったからだ。
そのため の仕組みを一〇年くらいかけて作ってきた」 「その結果、電子部品業界で当社を利用している企 業の数を、全体の七五%くらいにまで高めることがで きた。
中国でも同じ戦略で電子部品の物流プラットフォームをつくる。
そのためにも、今後はネットワーク をより密度の高いものにしていく必要がある」 ――具体的には、どのようなネットワークを目指して いるのですか。
「当社はたまたまアルプス電気と一緒に中国に進出 した。
だが多くの部品メーカーは今、中国の内陸に向 かって進出し始めている。
我々は日系部品メーカーの 中国進出分布図とセットメーカーの進出分布図を持 っている。
今後は双方の点を結ぶかたちで拠点を設置 していきたい」 「基本的には、すでに進出済みの大連、天津、上海、 広東省などの拠点を効果的に結びつけるかたちで、こ こに枝葉をつけていく。
エリアとしては上海を中心と する華東地区を中心に考えている。
倉庫と集配用の アルプス物流は日本と全く同じ仕 組みで上海の倉庫を運営している AUGUST 2002 32 拠点があと一〇カ所くらいは必要だ。
最終的に中国に どのようなネットワークを構築すべきなのかは、まだ 考えている最中だ」 ――新たに構築する拠点は現地法人(有限公司)の形 式で増やしていくのですか。
「現地法人ではなくて、分公司(支店)形式で増や していく。
そのためにも全国ライセンスが必要だ。
近 鉄エクスプレスが強いのは中国の全国ライセンスを持 っているから。
全国ライセンスをどういうルートで取 得するかが、我々の課題だ」 「現在、海上貨物と航空貨物の両方のライセンスを 持っている物流業者は、主だったところでは当社以外 には日通と近鉄ぐらいしかない。
日通は海上貨物と航 空貨物のライセンスをそれぞれ別会社で持っているし、 近鉄は一社で持っている。
海上貨物だけであれば約三 〇社がライセンスを持っているが、海上貨物をめぐる 競争は非常に厳しい。
フォワーディング業務もほとん ど儲からないと聞いている」 ――中国で物流ビジネスを展開していくうえで規制や インフラなどの弊害は感じませんか。
「現状ではほとんど感じていない。
高速道路も立派 なものだ。
中国の急速な経済発展には、正直なところ 驚いている」 ――中国ビジネスで利益を出すための秘訣は? 「まず一つは社員を現地化すること。
日本人ばかり では、とても無理だ。
例えば天津では、日本人一人の 人件費負担が現地スタッフの七〇人分に相当する。
中 国には人材が揃っているので、教育さえきちんとすれ ば何の問題もない」 「さらに当社の場合は、日本で使用している電子部 品の総合物流管理システムをそのまま中国に持ち込ん でいる。
これを使うことで他社なら五〇人のスタッフ が必要な業務を、その半分でオペレーションできてい る。
そのため、当社にはコスト競争力がある。
だから 中国ビジネスの利益率も高い」 ――中国の現地スタッフの教育は、どうしているので しょう。
「日本に呼んで三カ月間の研修を受けさせてから中 国に帰している。
彼らは日本人よりも手先が器用だし、 覚えも早い。
ただ昔の日本の物流業界と同じで大卒が 集まらないという点では人材面の課題もある」 「もっとも例外もある。
上海に復旦大学という超エ リート大学があるが、この間そこから女性が一人、う ちに入社してくれた。
彼女は日本で研修を受けた後、 上海でフォワーダー業務をやっている。
中国でビジネ スを拡大したかったら、現地の人を教育してリーダー になってもらうことが不可欠の条件になる」 ――中国で電子部品に特化して物流サービスを提供し ている企業は、アルプス物流以外にもあるのですか。
「特化しているのは当社しかいない。
当社以外で電 子部品の物流をやろうとする会社は、ことごとく失敗 している。
完成品の物流は誰にでもできる。
しかし電 子部品の物流は作業が細かうえ、複雑な作業が欠か せない。
管理システムを持っている企業も少ない。
製 品を管理できるシステムはあっても、電子部品に特化 したシステムを用意している企業となるとほとんどな い。
そもそも調達物流を経験している物流企業そのも のが少ない。
だから失敗する企業が後を絶たない」 セットメーカーの要求は日本市場と同じ ――最近の中国への日系電子部品メーカーの進出状況 に変化はありますか。
「この一年間で日系電子部品メーカーの中国進出は 一気に加速している。
すでに日本にある部品メーカー 33 AUGUST 2002 一六〇〇社のうち七五%が進出済み、もしくは進出 を検討中と聞いている」 ――さらに中国国内でも生産のシフトが進んでいます。
セットメーカーや部品メーカーの多くが、生産拠点を 香港などの華南地区から、上海などの華東地区に移 動していますね。
「正確に言うと、これまでメーカーは広東省に工場 を構えていた。
そこで生産した製品をいったん香港に 輸出し、そこから日本もしくは欧米、さらに再び中国 国内に運んでいた。
ところが昨年十一月のWTO(世 界貿易機関)への加盟などによって中国国内で保税 輸送ができるようになると、香港を経由する意味がな くなった。
いったん香港に輸出する分だけ経費がかか るため、既にそのようなことはやらなくなっている」 「香港は存在理由そのものを失いつつある。
すでに 香港の失業率は七%くらいにまで上昇している。
コン テナの取り扱い実績も落ち込んでいる。
これからは華 東地区が中心になっていくはずだ。
当社が華東地区を 中心に拠点を増やしていく必要があると見ているのも そのためだ」 ――荷主の移動は、御社の顧客構成にも影響を与える のでは? 「向こう一年以内に、当社の中国での顧客の七割は 電子部品関係になる見込みだ。
電子部品メーカーはセ ットメーカーからVMI型のJIT納品をすることを 迫られている。
部品メーカーは中国国内に在庫拠点を 持つ必要が出てきている。
その倉庫を提供するのが当 社の役割だ」 「こんな事例がある。
部品メーカーが広東省で作っ た部品を、セットメーカーが大連渡しで調達するとい うケースだ。
セットメーカーの要請に、部品メーカー は対応せざるを得ないが大連には在庫拠点がない。
我々が運営する共同使用のVMI倉庫を使うことで、 部品メーカーはコストを抑えることができる」 ――現在、中国系の電子部品メーカーから調達してい るセットメーカーは多いのでしょうか。
「あることはあるが、日系メーカーは日系の部品メ ーカーから調達するケースが多いようだ。
他方、中国 企業は中国企業から調達している。
日本のセットメー カーが満足するような製品を中国系の電子部品メーカ ーが供給するまでには、あと五、六年は掛かるのでは ないか」 ――となると日系のセットメーカーは現在、中国でど のような物流を展開しようと考えているのかがわかり ません。
「現状では主要部品は日本から調達している。
しか し将来的には、これを中国製に切り替えたいと考えて いる。
それともう一つ、日本国内の調達と同じように VMI型にすることで無駄な部品在庫を抱えないよう にしている。
オーダーから一日、または数時間以内に生産ラインに部品を投入しろという厳しい条件も課し ている。
過去一〇年間にわたって外販のVMIを手 掛けてきた当社にとっては、強みを発揮できる状況が 生まれている」 ――中国で最大規模のソフトウエア会社「東軟集団」 と 一 緒 に 、 W M S (Warehouse Management System )を拡販する計画があるようですね。
「中国のNEUソフト(東軟集団)と共同で会社を 立ち上げて、調達物流用の倉庫管理システムを外販 する。
資本金は二〇万ドルで折半出資する。
新会社 はソフトを提供する会社で、販売はNEUソフトが担 当する。
アルプス物流はロイヤリティーをもらうとい う契約だ。
中国国営企業や家電メーカーなどに販売し ていく計画だ」 特 集 大手電子部品メーカー・アルプス電気の物流子会 社、1964年設立、2002年3月期の連結売上高 333億円、親会社の貨物をベースに電子部品の共 同物流を手掛けて急成長し、95年には東証二部 上場。
ここ数年は海外展開を積極化している。
中 国へは95年に初進出。
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