物流とロジスティクスの違いをハッキリと認識するようになったのは、恥ずかしながら、つい最近のことです。物流雑誌、ロジスティクス雑誌の編集者として、これまで10年以上を過ごしてきましたが、長いことロジスティクスというコンセプトを、物流に毛の生えたものぐらいに考えていました。
どうもおかしいと気づき始めたのは、物流管理の“定石”とされる改革がことごとく失敗していくのを、いくつも目の当たりにするようになったからです。例えば在庫削減。その代表的な対策が物流拠点の集約です。物流管理の教科書には、分散していた在庫を一カ所に集めることで、安全在庫の水準が下げられると書かれています。
しかし、実際はどうか。多くの企業がこの教えに従って拠点の集約に動きましたが、本当に在庫が削減できたというケースは希です。集約によって物流拠点で保管している在庫の数は減っても、それだけ工場倉庫や取引先の在庫は増えている。つまり在庫の保管場所を物流拠点から工場や取引先に移しただけに過ぎないケースが少なくありません。
センター作業の改善や配送の効率化も、多くが空しい結果に終わっています。商品の売れ行きや取引先など、物流管理の前提となる条件は常に変化しています。いくら改善を積み上げたオペレーションでも、環境が変わればまたゼロからやり直し。それまでの努力が水の泡になってしまうーーそんな事態が頻繁に起きています。
本当に在庫を減らすには、拠点の数をいじる前に、販売と生産の仕組みを改革しなければなりません。また作業の効率化は、物流インフラとフローのムダを排除した後でなければ意味を持ちません。それがロジスティクスの常識です。ところが、従来の物流の教科書にはそんなことは全く書かれていません。
これまでの物流管理では常識とされてきたマネジメントが、ロジスティクスという視点では非常識になってしまう。両者の間にはそれだけ大きな隔たりがあります。過去の物流管理を、ロジスティクスという視点で洗い直した時、一体どんな評価になるのか。聞きたくもない結果が待っているかも知れません。
やむを得ない面もあります。ロジスティクスはもともと「兵站」という意味の軍事用語です。それがビジネス分野に転用され、本格的に経営管理に活用されるようになったのは、それほど昔のことではありません。少なくとも日本では高度経済成長時代、つまり市場規模が右肩上がりの成長を続け、生産しただけ売れた時代にはそれほど重要なコンセプトではありませんでした。
今は違います。多くの企業にとって、ロジスティクスの導入は避けることのできない大きなテーマになっています。とりわけ欧米のグローバル企業では、ロジスティクス管理の対象を自社だけでなく取引先まで広げたサプライチェーン・マネジメント(SCM)を、ビジネス活動上の最も重要な機能として位置付けることが一般的になっています。
ロジスティクスの分野において、残念ながら日本の取り組みは遅れています。定本と呼べる教科書もまだ存在しません。欧米の教科書も、そのままでは日本市場に適用できません。しかもロジスティクスの“定石”は日々進化しています。実務家たちは、手探りでロジスティクス計画を模索し、判断しなければならないのが実情です。
ロジスティクスの実務家には、常に最新の知識とノウハウが必要です。本誌「ロジビズ」は、実務家たちが日々のマネジメントで体験した具体的な事実のなかに、それを求めます。企業のロジスティクスを担う実務家たちが、どのような課題に直面し、それにどう取り組んだのか。その心の動きに至るまで詳細に報告します。
抽象論ではない、実際の経験から導き出されたナレッジは、同じロジスティクスの実務家にとって、何よりの糧となるはずです。日本に物流業界紙は数あれど、ロジスティクスの専門誌は「ロジビズ」だけです。ロジスティクスの知識とノウハウを共有するためのメディアとして、本誌が実務家の皆様のお役に立てたら幸いです。
LOGI-BIZ 編集長 大矢昌浩