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75 OCTOBER 2002
マテハンのハードの導入は極力減らし、マンパワ
ーとITを上手に活用する。 それが現在の物流投資の
トレンドです。 ハードの導入を避ける最大の理由は
柔軟性を失うからです。 実際、センター作業の効率
化を進めていく上で、既存のハードが制約になって
いるケースは驚くほど多い。 さる大手企業の物流セ
ンターで、導入してから全く動いていないというマ
テハン機器を見たこともあります。 少し動かしてみ
たけれど、使いにくいので止めたという話ではなく、
10年以上にわたり本当に一度も動いていない。 文字
通りホコリをかぶっている状態でした。
廃棄するにもお金がかかるので、そのまま放置し
ているのです。 とくに自動倉庫のような大型のマテ
ハン設備は、物流センターの構造と一体になってい
ることが少なくありません。
撤去したくても、建物を壊
さない限り撤去できない。
仕方がないので、ほとんど
動かない“死に筋”に近い在庫を自動倉庫に保管す
るといった対処療法でゴマかすしかありません。 自
動倉庫が非常に高価な物置と化してしまうわけです。
こうした事態にしばしば直面するようになり、日
本企業の物流投資に対する発想が変わってきたのは
90年代半ばくらいのことです。 それまではバブル時
代の余波もあって、ハード偏重が目立っていました。
まだ右肩上がりの成長を思い描いていたユーザーに
対してベンダーは、物流現場のような3K(キツイ、
汚い、危険)職場を人手で処理していたら、いずれ
間に合わなくなると説得していました。
もちろん、当時だって投資効果はキチンと計算さ
れていました。 ただし、試算はあくまでも現在と同
じ商品構成のまま物量が伸びていき、人件費の伸び
も従来通り続くという前提に立っていました。 とこ
ろが実際にはその後、人件費は上がらない。 むしろ
下がっていく。 また現場スタッフの正社員からパー
ト社員への転換。 アウトソーシングの活用などが拡
がっていく。 さらにはユーザーの見込みと違って物
量は減り、商品構成まで変わってしまう。 これだけ
前提条件が狂えば当然、試算は破綻します。
その一方で、現在もマテハン機器を有効に活用で
きている物流センターだって、たくさんあります。 と
くにコンビニや大手加工食品卸などでは投資が効果
を発揮しています。 こうした流通の川下は、川上と
比較して業務内容が長期的に安定しています。 同じ
ようにメーカーであっても、中長期的に需要が安定
し、予測の立てやすい補修部品の供給などであれば、
人手で処理するよりマシンを使ったほうが効果的で
ある場合が少なくありません。
しかし、同じメーカーでも販売物流のほうでは、
それまで全く予想していなかった商品や新しいチャ
ネルを相手にすることになる可能性が今日、どんど
ん大きくなっています。 さらに3PLともなると、
常に荷主の顔ぶれが変わることを想定しなければな
りません。 こうした企業では、柔軟性の低い重装備
なマテハン機器の導入は
大きなリスクになってし
まいます。
もともと日本は欧米に
比べて極端に多頻度小口化が進んでいます。 そのた
め例えばデジタル・ピッキング・システムでも、当
初は欧米から輸入されたものが、日本では独自の発
展を遂げました。 ハード自体は変わらなくとも、い
かに運用してマンパワーを活かすかという視点で進
化していったのです。
多頻度小口化は世界に先行して日本市場で起こっ
ている現象です。 海外市場でも徐々に同じ傾向が見
られるようになっています。 物流だけでなく生産分
野でも、最近は、セル生産方式のようにマンパワー
を上手く使って需給変動に対応しやすい体制を作る
ことが求められるようになっています。
もともとハードの進化には限界があります。 自動
倉庫のクレーンの速度が10年前と比較して、それほ
ど速くなったわけではありません。 それよりも運用
面を工夫する。 その意味では日本企業が本来、得意
とするところで勝負できる時代になってきたと言え
るのかも知れません。
マテハン投資はペイするか?
重装備なハードの導入は柔軟性を失う
運用の工夫でマンパワーの活用を図れ
たなか・すみお 物流企業系システムハウスを経て、91年に独
立。 エクゼを設立し、社長に就任。 製造・販売・物流を統合する
サプライチェーンシステムのソリューションプロバイダーとして
活動。 2001年10月に「フレームワークス」に社名変更
フレームワークス 田中純夫社長
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