ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年5号
ケース
名糖運輸||労務管理

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2001 74 名糖運輸の躍進が続いている。
左記の 図1を見れば明らかなように、売上高は 右肩上がりで推移。
退職給与引当金の一 括償却の関係で、二〇〇〇年三月期こそ 赤字を計上したが、それを除けば、利益 も毎年きちんと確保している(図2)。
ま もなく発表される二〇〇一年三月期決算 では連結営業利益が前期比三六%増の一 八億円に達すると見られている。
株式市場での評価も高い。
最近でも株 価は一〇〇〇円台で安定している。
創業時からの悲願である東証一部上場も射程 圏内に入ってきたようだ。
「ポンコツトラックばか りだった小さな運送屋 がよくここまで成長した な、と正直そう思う」と 小島邦敏常務は感慨深 げに振り返る。
パート・アルバイトの 有効活用が同社の高収 益体質を支えている。
数 年前から従業員の欠員 補充は原則としてパー ト・アルバイトなど臨時 雇用社員で賄い、コス トを抑えている。
二〇 〇一年三月期の人件費 総額は、売上高が増え ているにも関わらず、前 年比一・五%減で終わ 月次損益で管理職の給与を査定 コスト意識の高い現場づくりを実践 定温物流大手の名糖運輸は営業所長など管理職 を対象に月次損益をベースにした業績評価制度を 導入している。
利益目標に対する達成率や事故発 生件数で評価点を算出し、業績手当を支給する仕 組み。
業績手当は評価点によって毎月変動する。
同じ役職でも最大9万円の差が生じる計算だ。
利 益が評価の軸となるだけに管理職のコスト意識は 高く、それが業績にも反映されている。
名糖運輸 ||労務管理 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 00 年3月期 99 年3月期 98 年3月期 97 年3月期 96 年3月期 95 年3月期 94 年3月期 93 年3月期 92 年3月期 91 年3月期 90 年3月期 89 年3月期 図1 売上高の推移 (百万円) 12,363 13,920 16,981 19,855 22,221 24,275 27,865 28,725 30,630 31,733 31,916 34,476 日に三回の店舗配送のうち、二回は社員 がハンドルを握り、残りの一回はアルバイ トのドライバーに任せるなどシフト組みに も工夫を凝らしている。
儲けを出せば報酬は惜しまない こうしたコスト意識の高さは本社だけで なく、グループ会社や末端の物流現場に も浸透している。
特に神経を尖らせている のは営業所長、次長など課長職以上 の管理職クラスの社員だ。
名糖運輸 グループでは管理職一六〇人を対象 に月次損益をベースにした業績評価 制度を導入している。
これが社員に コスト意識を植え付けるのに一役も 二役も買っているのだという。
三〇年以上も前に採用したという この業績評価制度の基本コンセプト は極めてシンプルだ。
「儲けを出せば、 報酬は惜しまない」である。
先々代 の社長である田中久夫氏が創業以来、 長らく業績の低迷していた同社の再 建に向けた起爆剤の一つとして、社 員のやる気を喚起しようと発案した 制度で、その後、改訂に改訂を重ね、 現在に至っている。
ここで営業所長のケースを挙げて、 その仕組みを簡単に説明しておこう。
営業所長の毎月の業績評価表は大 きく分けて「?目標利益達成度」、 「?月次計画書」、「?事故及び車両 75 MAY 2001 った模様だ。
物流センターの作業員に限らず、ドラ イバーについても臨時雇用化を進めている。
「主力のコンビニエンスストア向け配送業 務は毎日決まったコースを走るルート配送 なので、きちんと教育さえすれば契約社員 やアルバイトのドライバーであっても何ら 問題はない」と小島常務は説明する。
社員に残業させないように、例えば、一 管理」――の三項目で構成されている。
「?目標利益達成度」は、月次損益と年 度累計損益の目標達成率で評価点が決ま る。
月次損益の満点は五〇点、年度累計 損益の満点は三〇点。
次ページ図3で示 した計算式でそれぞれ達成率が算出され、 そのパーセンテージによって評価点が弾き 出される。
物流センターを運営するA営業所長は 年度当初に今年二月の月次損益を四〇四 万六〇〇〇円の黒字と計画した(当初予 算)。
これを上期が終わった段階で四四 八万九〇〇〇円に上方修正した(実行計 画)。
ところが、実際には三八三万三〇 〇〇円の黒字しか出せそうにないため、 二月に入る前に計画を再び見直した(営 業計画)。
この三つの数字からA営業所長の二月 の目標値は四〇六万七〇〇〇円と設定さ れたが、実際には三〇六万九〇〇〇円の 黒字で終わってしまった。
その結果、A営 業所長の達成率は七五%で、二八点が加 算された。
続いて「年度累計損益」。
これは前年度 の累計実績をベースに達成率が算出され る(計算式は図3を参照)。
A営業所長の 前年度の累計損益は二六四一万一〇〇〇 円の黒字だった。
今年度はこれを上回る ペースで、すでに前年より六〇七万五〇 〇〇円多い利益を上げている。
その結果、 達成率は一二三%で、満点の三〇点が加 00 年3月期 99 年3月期 98 年3月期 97 年3月期 96 年3月期 95 年3月期 94 年3月期 93 年3月期 92 年3月期 91 年3月期 90 年3月期 89 年3月期 図2 経常利益・当期利益の推移 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 (億円) 経常利益 当期利益 MAY 2001 76 算された。
二番目の項目の月次計画書は「ほとん どの管理職が問題なく満点を取れる」(小 島常務)、いわばサービス項目である。
本 社側が指定する営業計画書、営業報告書 の提出期限を遵守した場合は五点が与え られ、遅滞の場合は〇点。
さらに「業務 遂行上、問題点がなかったかどうか」を上 司がチェックして、一〇点、五点、〇点 の三段階で点数をつける。
A営業所長は いずれの項目についても問題がなく、満点 の一五点を獲得した。
三番目の「?事故及び車両管理」は、営 業所の稼働トラック台数と事故発生件数 が採点の基準となる。
無事故の場合は満 点の二〇点。
事故を起こした場合は、そ の件数や被害額に応じて、一五点、一〇 点、五点、〇点と減点される仕組みにな っている。
無事故を続けると、一〇点を 限度に点数が加算される。
仮に事故を起 こしたとしても事故報告書の提出が一カ 月以内であれば五点が加算される。
A営業所長は無事故で二〇点。
事故報 告の義務もなく、自動的に五点が加算さ れ、二五点だった。
以上三つの項目をすべてクリアした場 合の満点は一三〇点。
一方、最低点は四 〇点である。
営業所長、副所長クラスは 獲得点数に一〇〇〇円を乗じた金額、次 長クラスは獲得点数に八五〇円を乗じた 金額がその月の業績手当として支給され る。
営業所長、副所長 クラスの業績手当の最 高額は十三万円、最低 額は四万円。
月に九万 円の差が生じる計算だ。
ちなみに、A営業所長 の今年二月の合計点は 九八点で、九万八〇〇 〇円の業績手当が支給 された。
名糖運輸ではこの業 績評価制度を効果的に 運用するため、毎年一 月から三月にかけて行 われる次年度の予算作 りに相当な時間を費や している。
まず、全国 の営業所長は当年度の 取扱物量、売り上げ、 人件費、管理費などの 実績から、次年度の月 次損益を計算して計画 書をまとめ上げ、本社に提出する。
次に、岩城利幸社長がすべての計画書 を精査し、問題点があれば、再び営業所 長に戻す。
この作業を何度も繰り返して 年度予算を固めている。
目標を達成でき なければ毎月の業績手当が減額されるた め、見栄を張った無理な予算は組めない。
逆に、減額を避けるため控えめな予算計 画が提出された場合は本社、そして岩城 社長が見直しを求める。
「この仕組みが機能しているので、無理 のない実行可能な予算が組める。
実際に 動き出すと月ごとに微妙な誤差は生じる が、それも修正して毎月の計画書の中で 報告するよう義務付けている。
業績評価 点は誤差を認める計算式になっているた め、対象者も納得しているはずだ」と小島 常務は説明する。
図3 業績評価表 営業所長用 A 98,000 77 MAY 2001 利益を出す現場のコツ 実際に、各営業所長はどんなことに注 意して利益の出る現場づくりを進めてい るのだろうか。
名糖運輸の子会社である アイソネットラインの皆藤陽子東京センタ ー所長は「利益目標達成のポイントは大 きく分けて二つある」と披露する。
一つ目は人件費を変動費化することだ という。
皆藤所長が切り盛りする東京セ ンターでは、原則として欠員補充はパート タイマーやアルバイトで賄う。
二〇代、三 〇代の学生や主婦を戦力化している。
し かも、闇雲に臨時雇用化を進めているわ けではなく、仕事量の季節波動に応じて、 フレキシブルに人材を確保している。
「例えば、仕分け作業であれば、作業員 一人当たりの一日の仕分けケース数を算 出するなど作業効率を常に把握しておけ ば、受注数に対して過不足なく人の補充 ができるようになる」と皆藤所長は解説す る。
二つ目のポイントは作 業ミスや事故で発生する 無駄なコストを抑えるこ と。
一般的に、作業経験 の浅い作業員が多い物流 センターではミスや事故 が起こる可能性が高いと いわれているが、同セン ターではそれを教育に時 間を掛けることでカバー している。
「四、五年前まで、難 しい作業は社員にしか任 せられないという固定概 念があったが、時間を掛 けて教育すれば、パート やバイトでも能力に差は ないということが分かっ た」と同センターの松本 啓一次長は力説する。
また、昨年六月にはISO9000シ リーズ取得に向けたプロジェクトを発足。
三月中旬に申請するまでの約九カ月間を かけて、センターの作業マニュアルを作り 込んだ。
新人はこのマニュアルを熟読し、 約一〜二週間の研修を経てからでないと、 現場で働けないという社内ルールを設け た。
作業マニュアルが統一されたことで、 指導者の違いで仕事のやり方がおのおの 違うという状況が改善されるため、さら にミスや事故が減るのではないか、と期 待している。
こうした現場のコスト意識の高さが名 糖グループの経営の安定性につながってい ることは間違いない。
今回紹介したアイソ ネットラインの東京センターはほんの一例 にすぎない。
同社の営業所長はそれぞれ独 自の手法やアイデアで利益確保に努めて いる。
トップダウンではなく、ボトムアッ プ型の組織で高収益体質を維持している 点が同社の強みだ。
そして、現場のコスト 意識の高さは利益で査定される業績評価 の仕組みに起因している。
どうやってこのような組織風土を作り 上げてきたのか。
小島常務に尋ねたが、 「利益を出さなければ給与が減る。
生活が 掛かっているから、管理職はみんな必死 なのだろう。
本社は特に指導していない」 と、返ってくるのはあっさりとした答えの み。
企業秘密というより、それが本音の ようだ。
(刈屋大輔) アイソネットラインの東京センター

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