ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年6号
再入門
調達物流など存在しない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

71 JUNE 2001 物流を「領域区分」すると いろいろ見えてくる 物流原価計算において「領域別計算」という分 野がある。
一口に物流といっても、その範囲は広 い。
物流コストの算定にあたっては、まずどの範 囲を計算するかを決める必要がある。
そのために 設定されている区分けが「領域区分」である。
顧客(ユーザー)に向かう物流は、調達物流、 社内物流、販売物流という三つの領域に分けられ ている。
調達物流とは、原材料や部品もしくは商品の調 達にかかわる物流である。
また社内物流と販売物 流とは、それがメーカーであれば工場で製品をラ インアウトして以降、顧客に届けるまでの物流の ことを指している。
これらの領域区分は以前からなされていたが、実 態 としてはあまり注目されてこなかった。
しかし ながら、このことは物流管理という点で極めて大 きな意味を持っている。
このように区分して物流 を考えると、物流とは何かということがいろいろ 見えてくる。
まずは社内物流と販売物流の区分から見てみる。
これらは、いずれも工場でつくられたものを顧客 に届ける物流だが、両者はどこで線引きされてい るのであろうか。
販売物流は「顧客からの注文を受けた後に動き 出す物流」と規定されている。
文字通り?物流サ ービス〞にかかわる物流である。
そして、社内物 流とはこれ以外を指しており、物流サービスを後 方から支援 する物流、つまり「社内の物流施設間 の移動および在庫保管に関する物流」のことを指している。
物流部門では管理できない 販売物流という領域 社内物流と販売物流は、その性格がまったく異 なる。
物流管理という点でいえば、社内物流は物 流部門にとって管理可能な分野だ。
だが一方の販 売物流は、物流部門には管理できない領域といっ てよい。
いわゆる物流システムが導入されるのが社内物 流の領域である。
物流システムについては後日、こ の連載の中で改めて取り上げる予定だが、簡単に 言えば、「在庫の配置と補充を適正に行うための仕 組み」である。
従って物流システムが導入される ということは、社内的なコントロールによってそ の効率性を維持できる体制 ができあがるというこ とを意味する。
これに対して販売物流は、社内の営業部門ある いは顧客の要求に全面的に規制される領域である。
基本的に効率性などを考える余地はない。
要求さ れた通りに届けることしかできない。
例えば、す ぐ送れと言われたら、五〇〇円の商品を宅配便な どで八〇〇円の運賃をかけても送らなければなら ない世界である。
ここで効率や採算などを引き合いに出してはい けない。
物流サービスにおいて、効率性は二の次 だからだ。
はじめに顧客ありきの世界なのである。
効率化という点で物流 部門にできることは、せい ぜい作業効率を上げることぐらいでしかない。
物流サービスに物流部門が中途半端に口出しを 調達物流など存在しない 湯浅和夫 日通総合研究所 取締役 第3回 販売物流を仕入れる側からみれば調達物流になる――。
そん な誤解がまかり通ってきた日本では、これまで本来の意味での 調達物流など存在しなかった。
顧客本位の物流サービスに振り 回されないためには、自ら調達物流コストを負担するという発 想の転換が必要だ。
JUNE 2001 72 すると、本来は責任を負えないコストについて責 任を負わされかねない。
かつて、物流部門から営 業部門に対して、物流コスト削減のために物流サ ービスの是正について協力を要請するということ が盛んに行われた。
だが、ほとんど実効をあげて いない。
営業部門としては、顧客にサービス是正をお願 いするなど決してやりたくないことだからである。
このような徒労に終わることはしない方がよい。
物 流サービスについては、それがどんな要求であっ ても、物流部門としては言われるままにやるのが 賢明な対応である。
ただし、物流サービスのコストについては、そ の責任の所在を明確にしておいた方がいい。
その コストは物流部門では責任を持てないからである。
こ うして責任を持てるコストと持てないコストを 明確に分けることが、物流コスト管理の第一歩に なる。
物流コストの削減は、それに責任を負っている 部門が行うのが常道だ。
つまり、物流サービスに かかわるコストは、営業部門が責任を持って管理 すべきものなのである。
物流管理において、こう した責任区分は極めて重要な意味を持っている。
このように、同じ顧客に向かう物流の中でも、社 内物流と販売物流は、責任および管理という点で はまったく異質の世界なのである。
本来の調達物流など わが国には存在しない さて、次に調達物流についてみてみよう。
前述 したように、調達物流とは原材料や部品、商品の 調達にかかわる物流をいう。
ただし、これについては少なからず誤解が存在する。
仕入れにかかわ る物流が調達物流だと簡単に決めつけている向き が少なくないのである。
これは、明らかに誤りである。
仕入れの物流と は供給側の「販売物流」である。
それ以外のなに ものでもない。
「販売物流と言っても、それを仕入 側から見れば調達物流じゃないか」などと言うの は詭弁に類するものだ。
それでは領域を区分する 意味がない。
実は、調達物流というものは、わが国には ほと んど存在しない。
本来の調達物流とは?調達する 側が自分のコスト負担で取りに行く物流〞をいう。
自分のコスト負担であるから、自ら効率よく調達 できる仕組みを構築しようとする。
これが調達物 流システムである。
このように理解しないと、調 達物流の意味はなくなってしまう。
すなわち調達物流とは、販売物流の対極に位置 するものなのである。
最終的な販売価格に物流コ ストが含まれているとはいえ、販売物流は実質的 には供給者側のコスト負担で行われる。
仕入れた ものは届けてもらって当たり前という取引慣行が 背景にある。
そして、届けてもらうにあたって仕 入れ側 はいろいろな要求を出す。
これが物流サー ビスである。
どんな届け方をしてもらっても仕入価格は変わ らないので、買う側の都合が前面に出てくる。
面 倒な需要予測などは行わず、平気で多頻度の発注 をかけてくる。
需要予測の不在を物流サービスで カバーしているのである。
こうして、ますます物 流サービスがエスカレートすることになる。
73 JUNE 2001 これに対して本来の調達物流では、調達にかか わる物流コストは買う側の負担になる。
それゆえ 部品や商品価格と、届けるために必要な物流コス トとは分離されて取引される。
海外からの部品調 達においてはすでに当たり前の取引方法である。
この場合、物流コストを少しでも低減するため に、買う側は物流コストが下がるような仕入れを 行う。
ここに物流サービスという概念はないため、 やみくもに多頻度で小口の発注などはしない。
需 要を予測し一定ロットで調達を行う。
つまり、販売物流と調 達物流の違いは「物流サ ービス」が存在するかしないかという点で明確に 区分されるのである。
たわいない仕組みだが 意味のある取り組み これまでの話でおわかりのように、「届けていく ら」という価格設定が当たり前のわが国の取引慣 行においては、調達物流など存在しなかったので ある。
ところが最近、この本来の調達物流が少しずつ 広がり始めている。
例えば、ある自動車メーカー は部品価格と物流コストを分離し、自ら部品調達 に回るという取引システムを動かしている。
また、 ある大手コンビニエンスストアでは、自社の流通 センターへの商品納入を、自社が手配した特積み 業者に集荷に回らせている。
あるディスカウント 業者も商品価格と物流コストを分離させ、自分で 取り に行くシステムを動かし始めた。
このように調達物流が拡大しつつある背景には、 物流コスト削減という目的がある。
仮に仕入価格 が一〇〇〇円の商品があって、そのうち商品価格が九〇〇円で、物流コストは一〇〇円だったとし よう。
商品の仕入れ価格は同じでも、自分で物流 を手掛けることによって物流コストを八〇円に下 げられれば、二〇円のコスト削減になる。
ここに 目をつけているのである。
誤解を恐れずに言えば、メカニズムとしてはた わいない話だ。
それなら販売物流においても効率 的な注文を出せばいいじゃないか、ということに なる。
しかし、そのような動機づけは、どんな注 文の仕方をし ても仕入価格が変わらない販売物流 ではありえない。
物流コストを自分で負担するようになって初め て、効率的に仕入れれば得をするという動機づけ が生まれるのである。
いずれにしろ、このような本来の調達物流の広 がりは、わが国の物流構造を一変させる。
物流サ ービスが無くなるからである。
このことは販売す る側にとってもいいことだ。
過剰な物流サービス に対応するため、懸命に物流センターを作る必要 などなくなる。
そもそも行き過ぎた物流サービス を前提に、高度な物流センターを考えること自体 に意味がない。
半日や一日早く届けたからといっ て、そこにはなんの付加 価値も生まれないのであ る。
環境対策が重要な課題になっているいま、これ を悪化させる一因になっている多頻度小口や緊急 納品などの「物流サービス」を根本から見直すこ とは全産業における責務である。
その見直しのき っかけに「調達物流」がなれば、それはそれで意 味のあることといえよう。

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