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JUNE 2001 80
「ブランド・エクイティ」という概念がある。
メーカーの持つ商品などのブランドそのもの
を資産とする考え方である。 もちろんメーカ
ーだけでなく、小売業にもブランドはある。
ところが、現状を見る限り、ブランドは持っ
ていても「ブランド・エクイティ」という概
念の全く欠如した小売業者が、わが国には少
なくない。
小売業のブランドといえば店舗そのものも
そうだが、店舗固有の商品にブランドをつけ
ているものがある。 後者は、一般に「プライ
ベートブランド(=private brand
以下P
Bとする)」と呼ばれている。
分類によっては小売業が扱うPBをストア
ブランド(=store brand
以下SBとする)
として区別することがある。 卸売業などもP
Bを開発することがあるため、店舗固有のブ
ランドをSBとして、違いを明確にしようと
したものである。
例をあげれば、明治屋の?My〞ブランド
はPBであり、ダイエーの?キャプテンクッ
ク〞はSBということになる。
しかし、かつて西友が開発した?無印良
品〞のように、現在ではSBかPBかの判断
が難しいケースもあることから、本稿ではあ
えて厳密な定義にはこだわらず、小売店固有、
あるいはそれに準じたブランドをPBという
ことにする。
?運〞頼みの価格戦略
ところで、わが国の小売業の実態をみると、
安売りをする際に、コストを下げる仕組みを
構築することを志向するのではなく、調達先
となる卸やメーカーなどの取引先から、納入
価格の引き下げや協賛金の協力を得ることを
志向する企業が多いようである。
このやり方では必然的に、特売が実現でき
るか否か、すなわち取引先の協力を得られる
か否かはメーカー間の競争状況や、メーカー
の特定小売業に対する重視度に依存すること
になる。 従って、メーカー間の競争が厳しく
ない商品
や、メーカーに重視されていない小
売業者の場合は、大幅な値引きができないわ
けである。
従来のメーカーに依存した特売では戦略的
な特売ができない。 しかし、小売業者としては恒常的な価格訴求を行いたい。 となると小
売業者が自分の裁量で、常時安く販売できる
商品が必要になる。 こうして生まれたわが国
のPBは、一般にNBに比べて「価格は安い
が品質も劣る」商品として認知されることが
多い。 もともと安い商品を単に安く売るのだ
から当然、魅力はない。
これに対して
一〇〇円ショップのダイソー
やユニクロが成功したひとつの理由は、価格
以上の品質を提供しているというイメージを
消費者に想起させたからだろう。 こうした新
興勢力を真似て、百貨店や総合スーパーも、
一〇〇円ショップや自社企画商品販売専門店
のような商品開発をしている。 しかし、一〇
〇円ショップや専門店と百貨店では、もとも
との店舗の(ブランド)イメージが異なる以
上、PBに対して顧客が期待するものも異な
松原寿一
中央学院大学 講師
量販店のPBが売れない理由
PBとは本来、小売業者の戦略商品だ。 ところがわが国では、
明確な戦略のないままPBに手をつける小売業者が後を絶たない。
その結果、PBが「安かろう悪かろう」の単なる安売り商品と化
している。 それでは売れるはずがない。
第3回
流通戦略の新常識
81 JUNE 2001
ってくるということを彼らは見ていない。
本誌四月号で筆者は「流通外資がわが国に
おける店舗内のPB比率を高めていく」と記
した。 それは流通外資が他の国と同様に日本
でも価格訴求を恒常的に行うことが必至であ
ると予測されるからである。
また流通外資はPB比率を一気に拡大させ
るのではなく、「段階的に」高めていくだろ
うとも記した。 流通外資は自らの店舗ブラン
ドや業態が、日本の消費者に認知されるのに
従って、PB比率を拡大していくと考えられ
るからだ。
日本人はブランド志向が強
い。 ブランドが
認知されない状況でPBを販売しても、単な
る安物と思われかねない。 逆に店舗ブランド
が認知された段階で、PB商品を拡充すれば
割安商品という認識が高まる。 それが基本的
な認識になっている。
PBは業態を反映する
PBとは本来、自社の業態を反映したもの
でなければならない。 その典型が千葉県幕張
に2号店を出店した米国資本系大手小売り・
コストコのPBである「カークランド」であ
る。 業務用サイズやダース単位のシュリンク
包装品の形態をとる同店のPBは、ホールセ
ールクラブという業態に相応しい驚くような
大型サイズとなっている。
このようにPBとは本来、小売業にとって
の戦略商品であり、店舗業態や店舗ブランド
を代替すべきものなのである。 ところが日本
の小売業者にその認識は薄い。 PBを単なる
安
売
り
品
、
他業態のも
のまね品とし
て店舗に並
べているに過
ぎな
い小売業
が多い。 前号
で述べたよう
に、特売開
始日を自社
で戦略的に
設定できない
「運」任せや、
特売を乱発する「無策」ぶりは、PBについ
ても同様なのだ。
なぜわが国の小売業者は自社で決定できる
事項を不測的な要因に委ねたり、戦略的に活
用しようとしないのか。 もともと小売業が商
品開発に不慣れであるという以上に、そもそ
も小売業者は自社の業態について、真剣に考
えていないのではないか。 わが国の小売業者
と業態について話そうとしても、単に店の概
観、店内
レイアウト、販売方法、そして品揃
えといった話に終始してしまうのもそのため
ではないかと思える。
ブランド意識が欠如
実際、我が国の小売業者の戦略からは、他
の店や業態とどこが違うのか、どこを違うよ
うに見せたいのかという取り組みが見えてこ
ない。 逆に、少しでも調子の良い店や業態を
が出てくると、それを安易に取り込もうとす
る。 PB開発についても全く同じことが当て
はまるのである。
前述したようにPBとは小売業者の戦略商
品である。 それが業態と合致したものでなけ
れば、単なる安売り商品に堕してしまうこと
は避けられない。 ブランド・イメージに対す
る意識があ
まりに薄い、わが国の小売業者の
こうした体質は、これまで長年にわたりナシ
ョナル・ブランドをひたすら安く売ろうとし
てきたことに起因しているのだろう。
わが国でも、メーカーの場合、その是非は
ともかく、ブランド・イメージの低下を恐れ
るため、一般に大幅な割引販売を嫌う傾向に
ある。 しかし、多くの小売業にはその姿勢が
見て取れない。 そう言わざるを得ないほどP Bのブランド・イメージに対しても頓着がな
い。 PBのパッケージ、デザイン、企画の変
更が頻繁に行われているのはその証拠だ。
このことは百貨店についても同様である。
さすがに百貨店の場合、店
舗ブランド、いわ
ゆる「のれん」に対するこだわりは強いもの
の、これまで自社企画商品に対しても、積極
的な取り組みを行ってきたとはいえないだろ
う。
長い間、商品作りにこだわってこなかった
企業が、昨今のように競争が厳しい状況下に
なって、あわてて商品作りを行っても、果た
して消費者に支持される商品が生まれるので
あろうか、疑問に思う。 わが国の小売業者が
PBを戦略商品として意識するのなら、まず
は「ものづくり」にこだわることこそ必要で
あるはずだ。
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