ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年6号
特集
消える物流子会社 物流子会社大国の終焉

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2001 12 ?子会社切り〞が始まった 日本ほど物流子会社の乱立する国はない。
本誌の 推計では、国内の物流企業の全売上高のうち約三分 の一が物流子会社によって占められていると見られる。
しかも、その全てが親会社にとっての一次協力企業、 すなわち物流の元請け会社だ。
本来ならSCMの実 行部隊として重要な役割を果たすはずの存在だが、現 実には物流子会社の株式を全くの第三者に売却して しまおうとする親会社がこのところ増えている。
工業用ミシン最大手のJUKIは昨年、物流子会 社・東京重機運輸の株式の八七・五%を、五億二五 〇〇万円で富士 電機系の富士物流に売却した。
メー カーとしてコア・コンピタンスではない機能をグルー プ外に手放すことで、本業であるモノづくりに特化し、 同時に富士物流から物流改革の支援を受けることが 狙いだという。
(詳しくは二八ページ参照) JUKIと同様に物流子会社を売却することで、抜 本的な体質改善を図りたいと考える企業は今日、後 を絶たない。
しかし、大部分は買い手が見つからない。
物流子会社の実情に詳しい日本ロジファクトリーの青 木正一社長は「物流会社のM&Aはなかなか上手く いかない。
企業価値が不透明で値段 が付けられない場 合が多いからだ」という。
もちろん土地や建物などの資産については、型通り に数字を弾ける。
ところが物流業者の営業権をどう評 価するのかとなると算定が難しくなってくる。
売り上 げ規模は一つの目安になるが、買収後にも既存の荷主 を維持できるという保証はない。
「物流業者のノウハ ウは何より人に結びついている。
荷主との関係も同じ。
M&Aで肝心の人まで流出してしまえば、その会社は ノウハウと売り上げを失ってしまう」と青木社長は説 明する。
そのため子会社の経 営陣が親会社から株式を買い 取る「MBO(マネジメント・バイ・アウト)」とい う手法を用いて物流子会社を売却するケースも出始め ている。
日産自動車は今年、物流子会社二社の全持 ち株をMBOで放出した。
一月、自動車部品物流を 主体とするバンテックの株を手放したのに続き、五月 には車両輸送の日産陸送を売却した。
バンテックの奥野信亮社長は「カルロス・ゴーンの 改革が始まってすぐ、これで当社(バンテック)の売 り上げが減る。
このままでは雇用を維持できないと直 感した。
それならむしろ日産の看板を外してしまうこ と で、自動車業界の外部荷主を開拓しようと考えた。
幸いこのシナリオに外資系のベンチャーキャピタルが 乗ってきた」という(本誌四月号特集参照)。
同様に 日産陸送も社名から「日産」の二文字を外し、グルー プから完全に離脱する。
EMSが物流市場を変える昭和四〇年代以降、日本ではメーカーを中心とし た物流子会社の設立がほぼ一貫して続いてきた。
当初 は、高度成長時代の右肩上がりの経済下で常に売り 手市場となっていた物流サービスを安定して確保する ことが狙いだったと言われる。
それが次第に親会社の 余剰人員の受け皿としての色合いを増していき、利益 操作によって親会社の決算数字を調整するための道 具に利用されるようになっていった。
ところが二〇〇〇年三月期に日本の企業会計が従来 の単独決算から連結決算重視に移行したことで、子会 社を使った利益操作は全く意味 を持たなくなった。
そ れどころか企業グループ全体として業績が評価される ようになることで、これまで子会社に押しつけていた 第1部解説 物流子会社大国の終焉 日本の企業会計が連結決算重視に移行することで、物流子会社はその 役割を失う。
今後、物流子会社の再編・淘汰が進むのは必至だ。
しかし、 このことは既存の物流専業者の領域拡大を意味するわけではない。
親会 社から追いつめられた物流子会社のなかから、全く新しいビジネスモデ ルを持った強い物流業者が誕生する。
彼らは従来の特別積み合わせ事業 者に代わり、新時代の物流業界のリーダー役になる。
13 JUNE 2001 経営の?膿〞が一気に表面化してしまう。
親会社は従 来の子会社戦略を抜本的に見直す必要に迫られた。
さらにSCMの普及が、親会社に物流子会社の存 在意義を改めて問い直させる圧力となって働いている。
最適なサプライチェーンを構築するうえで、既存の物 流子会社は十分な競争力を持っていないのではないか。
子会社は柔軟なSCMの実現を阻む弊害になってい るのではないか、と疑問視 され始めているのだ。
ある大手消費財メーカーの物流子会社社長は「現 在、親会社がやっきになってSCMを進めている。
そ の 結果、受注生産へのシフトが進み、工場からユーザ ーへの直送が拡大するのは目に見えている。
中間流通 拠点は中抜きされ、当社の売上高はガタ減りする。
と くに保管料の収入は限りなくゼロになる。
それでも子 会社としては本体のSCMに協力するしかない。
本音 をいえばSCMが恨めしいよ」と漏らす。
しかし、SCMの本格化によって逆境に立たされて いるのは何も物流子会社だけではない。
かつてはメー カーにとって、それこそコア・コンピタンスだった工 場もまた苦しい立場に追い込まれている。
昨年、ソニ ーは国内工場のソニー中新田を従業員ごと外資に売 却 した。
買収したのはEMS(エレクトロニクス・マ ニュファクチャリング・サービス:電子機器製造受託 会社)の代表企業として知られる米ソレクトロン社。
九〇年代を通して毎年五〇%増以上の事業規模拡大 を続けてきた急成長企業だ。
EMSとは、製品設計から製造、そして物流までを 請け負う電機業界のアウトソーシング業者だ。
従来の OEM(相手先ブランドによる生産)とは異なり、生 産ラインをそこで働く従業員ごと一定期間、相手先に 貸与する形をとる。
このEMSを利用することで、メ ーカーは生産機能の制約から離れて、マーケティング と製品開発に特化できるようになる。
ソニーは今後も、世界各地の生産子会社の売却を 進める。
現在、世 界に約七〇カ所ある工場を二〇〇 二年度までに五五カ所以下に減らす計画だという。
残 る工場もEMS化を迫られる。
ソニーグループ以外の メーカーからアウトソーシングを請け負うことによる 独立採算を求められる。
従来のサプライチェーンがバ ラバラに解体されていく。
物流子会社だけが、こうした構造改革と無縁でいら れるはずはない。
ソニーロジスティックスの水嶋康雅 社長は「ソニーは今や市場競争力のあるサービスしか 要らないという考え方に立っている。
物流子会社を使 うことが、本当に有利なのかを見極めようとしている。
このまま何もしなければ、当社の売り上げはどんどん 減る。
実際、当社の新年 度の計画でも国内営業部門 は減少する。
もはや生きるか死ぬかだ。
他社より安く 良いサービスを提供できなければ我々が仕事をする意 味はない」という。
親会社のSCMを仕掛ける ソニーと同様、NECも今年四月、一〇〇%出資 の子会社として国内工場の効率化を支援する「NE C生産システム」を設立している。
同社と物流子会社 のNECロジスティクスが協力して、各工場の部材調 達や物流の共同化を支援する。
その先にあるのは、や はり工場のEMS化だ。
二年後をメドに国内の約十 工場を本体から分離して、五〜七工場をEMSに転 換する計画だという。
NECは九九年からSCMに本格的に着手した。
こ れを機に物流子会社政策も一変させた。
NECロジス ティクスの谷川紘取締役企画部長は「親会 社から見れ ば、これまで子会社は別会社ではあっても一事業部と 特集 「物流子会社は自分の価値に気が付 いていない」という日本ロジファクト リーの青木正一社長 NECロジスティクスの谷川紘取締役 は「大変だが、かつてなくやりがいの ある時代になった」と意欲を見せる JUNE 2001 14 変わらない存在だった。
極論すればこれまでの親子の 関係というのは?会社ゴッコ〞に近いものがあったと思 う。
しかし今は違う。
親会社から仕事がこなくなるこ ともあり得る真剣勝負の世界に入った」と説明する。
親会社がSCMを進めれば、一般に在庫が減り支 払い物流費も少なくなる。
必然的に物流子会社の収 入は減る。
それを承知で、NECロジは積極的に自ら の収入を「減らす」方向でSCMに取り組んでいる。
実際、この二年間で国内倉庫を半減させ た。
「むしろ親 会社にSCMを仕掛けたのが我々だったというほうが 当たっているかも知れない」と谷川取締役はいう。
もともとNECロジは親会社より一年早く、九八 年に構造改革に着手している。
その時にNECグルー プで発生している物流費、つまり自らの売上高を精査 していった結果、不要不急の部品のための倉庫が、サ プライチェーン上に膨大に存在することが明らかにな った。
SCMというなら当然、そこにメスを入れなけ ればならない。
親会社のNECグループでは、これまでも様々な形 でSCMをテーマとする改革を手掛けてきた。
しかし、 「本当にサ プライチェーンチェーン全体を視野におい たSCMを展開してきたかといえば、必ずしもそうで はなかった」。
子会社の構造改革は、サプライチェー ン改革の必要に迫られていた親会社の思惑とも一致し た。
そこから親会社とNECロジが並行してSCMを 進める流れができあがった。
NECロジの最大の課題は何より価格だった。
同 社に限らず大部分の物流会社は、基本的にコストに 一般管理費とマージンを乗せた費用を販売価格として 弾く。
他に選択肢のない親会社はその金額を支払うた め当然、物流子会社が赤字になることはない。
しかし、 そ れはまるで一種の公共事業であり、コストを下げよ うというモチベーションが働かない。
この価格意識を改め「市場価格からどれだけマイナ スできるかという発想で構造改革を行っている。
それ ができるかできないかで、当社が昔通りの物流子会社 のままで終わるのか、それとも自立した事業会社とし て生き残ることができるのかが決まる。
しかも先にモ デルを転換できた会社ほど、生き残りの確率は高くな る」と谷川取締役は考えている。
攻めに転じる物流子会社 既に物流子会社が親から完全な自立を果たす先行 事例も出始めている。
日立物流はその代表格だ。
同 社は他の物流子会社に先駆けて、3PLによる外部 荷主比率の拡大に努めてきた。
そしてついに今年三月 期決算では、売上高に占める親会社向けの割合が外 部荷主に対する3PL事業と逆転した。
さらに今後三年間で同社は、社内で「システム営 業」と呼んでいるITソリューションに強い3PL部 隊の人員を一〇〇人以上増強し、ハードにも五〇億 円を投じる計画だ。
これにより二〇〇〇年度決算で 六一六億円だった3P L部門の受注を三年後に九六 〇億円まで拡大する。
そのうち既に七〇%が現時点で ほぼ契約済みだという。
「(3PL事業には)高い授業料を払ってきたが、や っと収穫期を迎えた。
従来は投資が先行し、後から受 注がついてくるという流れだった。
それが今や投資そ のものに利益を生ませるノウハウを獲得できた。
新し いビジネスモデルができあがったと思う」と、同社の 伊藤治雄常務は説明する。
一方、アルプス物流はニッチなマーケットにターゲ ットを絞り、物流のプラットフォームを構築すること で自らのモデルを作り上げた。
かつては総合電子部品 15 JUNE 2001 メーカーである親会社の納品輸送だけを担う、ごく普 通の物流子会社だった同社は、社外から物流の実務 家を社長としてスカウトしたのを機にビジネスモデル を転換。
親会社の貨物をベースに業界内の共同物流 を展開することで、一〇%という経常利益率を誇る高 収益企業に変身した。
九五年には東京証券取引所の二部上場を果たし、そ の後も業績は順調に伸び続けている。
現在の同社の売 上高のうち、親会社のアルプス電気向けは一七・二% を占めるに過ぎない。
兄弟会社の東北アルプスとアル パインを合わせてもシェアは三七 %にとどまる。
いま だに株式の五〇%以上を親会社が保有する物流子会 社であることは事実だが、事業としては完全に自立し ている。
市場競争の洗礼を受ける ただし、日立物流やアルプス物流に続こうとする物 流子会社が、同じようにITを駆使した3PLやプラ ットフォームビジネスを真似ても、成功できるという 保証はない。
むしろ、二匹目のドジョウはいないと考 えたほうが賢明だ。
物流子会社はこれまで、親会社のサプライチェーン に必要な物流機能を確保するというアプローチでビジ ネスモデルを作り上げてきた。
これをSCM時代に相 応しいモデルに転換させるには、まず自社の強みがど こにあるのか、客観的に把握することから始める必要 がある。
その結果、思ってもみなかった「強み」を発見する こともあり得る。
ある老舗メーカーの物流子会社は極 めて優秀なドライバーを正社員として数多く抱 えてい た。
しかし、同社自身はそのことに気付かず、年々上 がっていくドライバーの人件費に頭を抱えているだけ だった。
社外のコンサルタントが、これに目を付けた。
同社 のドライバーを全くの第三者である医薬品メーカーの 配送に活用したのだ。
優れたサービスレベルに医薬品 メーカーは高い満足度を示した。
もともと運賃負担力 のある商品だけに、物流子会社側としても望ましい運 賃水準で取引することができた。
昨日までコストセン ターだった運送部門は外販の武器に様変わりした。
親会社はこれまで物流子会社を法人格上は別会社 であっても事実上、社内の間接部門として扱ってきた。
しかし、SCMを本格化させた今、 従来の姿勢を改め、 物流子会社を純粋なアウトソーシング先として改めて 値踏みするようになっている。
他社と比較され、市場 競争にさらされることから免れてきた物流子会社が、 初めて市場の洗礼を受けようとしている。
これを物流 子会社は脅威とするのでなく、チャンスに転換しなけ ればならない。
メーカー別に縦割りで存在する日本のサプライチェーンがマクロ的に見て非効率であることは誰の目にも 明らかだ。
今後、物流子会社の再編にメスが入るのは 避けられない。
物流事業の性格上、他の産業界のよう な分かりやすい形のM&Aは難 しいとしても、アライ アンスから始まり、徐々に資本を入れていくという形 の業界再編が確実に進んでいく。
欧米で3PL企業が台頭した背景には、既存の物 流業者の倒産ラッシュがあった。
基本的には同じ現象 が現在、日本の物流市場で静かに広がっている。
SC Mによる企業グループの解体の後には、新たなサプラ イチェーンの構築が待っている。
日本型3PL企業が 登場する土壌は整った。
窮地に立たされている物流子 会社こそ、その担い手として最も期待できる存在だ。
物流子会社はビジネスモデルの転換を急 げ。
特集 システム 国 際 環境 その他 国際営業 パート 関連会社 日立物流 システム営業 2,343 208 2,544 2,371 1,855 4,459 2,982 327 (人) (人) (億円/年) 143 ’00 ’03 ’00 ’03 ’00 ’03 65 252 75 1,537 −23 +1,984 +119 +2,116 +384 −516 +109 +10 +64 +344 +10 グループ人員計画 営業要員の増強 顧客受注の拡大 ●日立物流は3カ年計画で3PL事業の大幅な拡大を見込んでいる

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