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JULY 2001 18
八五〇億円の拠点投資
九八年五月、ジャスコは世界の有力物流業者一二
六社に手紙を出した。 イオングループの新たな物流構
想に対して、パートナー企業として参加する意志があ
るかどうかの打診だった。 国内の主だった有力物流業
者に対しても、ライバルのイトーヨーカ堂と関係の深
い日本通運以外すべて声をかけた。
ジャスコは中期経営課題として、グローバルなチェ
ーンストア間の競争を勝ち抜き、世界大手一〇社「グ
ローバル
10
」入りを果たすことを目標に掲げている。
そのためにまず、ロジスティクス機能を整備する。 具
体的には全国に一二〇カ所以上あるグループの物流
拠点を、三年後に一九カ所三九施設に集約する。 こ
れによって年間一四〇億円の物流コストの削減を見
込む。
新体制では、ジャスコが自ら管理する物流の領域を
大幅に拡げる。 従来はセンター出荷から店舗納品まで
だった管理範囲を、センター入荷から店舗納品までに
拡大する。 そのためには従来の卸に変わって、中間流
通機能を担うことのできるパートナーが不可欠だった。
また物流拠点のほとんどを新設することになるため、
投資総額は八九〇億円に及ぶ。 その九割以上をパー
トナーとなる物流業者に自らのリスクで負担してもら
う必要があった。
物流業者への呼びかけに対して、六六社からコンペ
参加の返事が届いた。 そこで次の段階では、より詳細
な情報を開示し、各社に提案を求めた。 その後も、ジ
ャスコの質問に対して物流業者が回答するという交渉
を重ね、担当者との面談を繰り返しながら候補企業を
絞り込んでいった。
今回の物流プロジェクトを先導してきたジャスコの
高橋富士夫物流統括部長は「信用調査はもちろんの
こと、サードパーティ・ロジスティクス(3PL)事
業者としての能力を見極めるため、候補先企業と付き
合いのある荷主のところにヒヤリングに行くといった
作業を重ねた」と説明する。
コンペ開始から一年を経た九九年半ばには、パート
ナー候補は六社に絞り込まれた。 日立物流、センコー、
日本トランスシティ、福山通運、ニチレイ、日本水産
だ。 従来からジャスコと付き合いのある物流業者ばか
りだった。 物流プロジェクトチームは、この六社によ
る分業という選択に傾いていた。
ところが、それから一年半ほどの間、パートナー選
びは足踏みを続けることになる。 六社による分業とい
う構想に、岡田元也社長がなかなか首を縦に振らなか
ったためだ。 複数事業者の利用によってリスク分散を
しようとするプロジェクトチームの方針とは逆に、岡
田社長はパートナーを一社に絞ることによるスケール
メリットを重視していた。 プロジェクト・メンバーは、あらためて六社の担当
者との折衝に臨んだ。 しかし「さんざん説得したが、
ドライと低温の両方のセンター業務を手掛けた経験が
ないなどの理由で、一手に引き受けてくれそうなパー
トナーはいなかった」(高橋部長)。 八〇〇億円を超す
投資額の大きさも、物流業者が尻込みする一因になっ
たようだ。
二〇〇一年一月、こうした状況を受けて、ようやく
岡田社長も六社による分業体制を正式に承認した。 そ
の後、プロジェクトは一気に動き出した。 すでに全体
構想に先行するかたちで走り出していた関東と仙台の
コンペでは、仙台の常温施設をセンコーが、低温施設
をニチレイが落札。 また、関東の常温施設については
福山通運が担うことに決まった。
徹底検証 ジャスコの物流改革
ジャスコが大手消費財メーカーを相手に本格的な直接取引を開始し
ようとしている。 在庫型の物流センターを全国に配置し、工場から直
接商品を補充。 センターでピッキング・仕分けを行い、一括して店舗
に納品する。 これに合わせて、商品価格と物流費も分離する。 欧米型
のビジネスモデルは果たして日本にも根付くのか。
本誌編集部
Report
「直接取引を70%まで
持っていきたい」とジ
ャスコの岡田元也社長
19 JULY 2001
さらに今年二月には、残り全国一七カ所の拠点に
ついてのパートナーを決めるコンペを開催。 その結果、
今回のセンターのなかで最大規模となる大阪センター
を含む計七カ所を日立物流が落札した。 他にセンコー
と福通がそれぞれ計三カ所を確保し、日本トランスシ
ティは中部を引き受けることになった。
こうしてパートナー六社の役割分担が決まったとき
には、九七年にジャスコ社内で物流プロジェクトが発
足してから、すでに四年余りが経過していた。
派手な記者会見の陰で
今年五月二八日、仙台駅前のホテルでジャスコは
新聞、テレビなどのマスコミ各社を招いて大がかりな
記者会見を開いた。 新たな物流構想の第一号センタ
ーとして六月四日に稼働する「イオングループ仙台R
DC(リージョナル・ディストリビューション・セン
ター)」の披露会見だった。
会見開始の午後一時三〇分になると、数十人の記
者とテレビカメラが見つめるなか、岡田社長ほかパー
トナー企業の首脳陣が会場に入ってきた。 まず正面席
にジャスコの岡田社長、古谷寛専務、松井博史常務
の三人が着席。 その両翼を固めるようにパートナー企
業のトップが席に着いた。
向かって左側には、日本水産の垣添直也社長、日
本トランスシティの鍋田雅久社長、福山通運の小丸
成洋社長、日立物流の福士英二社長の四人。 中心に
位置するジャスコ首脳陣をはさんで、右側にはセンコ
ーの小池洋社長、ニチレイの手島忠社長の二人。 そし
て今回の物流システムの利用者であるメーカーを代表
してカルビーの新谷俊平専務が座った。
会場の後方には、今回の取り組みを五年前から支
援してきた米コンサルティング会社、カート・サーモ
ン・アソシエイツ(KSA)のジェリー・ブラック日
本代表の顔もあった。 壇上にいる各パートナーにとっ
ても、皆が一同に顔を合わせるのは、この日が初めて
だった。
冒頭、岡田社長がジャスコの新たな物流構想につい
て挨拶した。 「ジャスコの将来を考えるとき、今回の
総合物流システムと、その結果としての直取引という
のは必然です。 (中略)今後、中期的には直取引の比
率を五〇%以上、まあ私としては七〇%ぐらいまで持
っていけるのではと考えています」と述べ、既に加工
食品一九社、日雑六社の取引額上位計二五社に直接
取引を打診していることを明らかにした(二三ページ
囲み参照)。
続いて、パートナー企業各社のトップにマイクが渡
された。 各社の社長は、ジャスコとの付き合いの経緯
や、今回の物流構想に対する所感をそれぞれ五分ほど
披露した。 それからマスコミ関係者との質疑応答へと
移ったが、出席した記者の多くがもっとも興味を示した話題は、岡田社長の言及した直接取引の進捗状況
についてだった。
記者「直取引に反対しているという味の素やハウス
食品との関係は今後どうなるのでしょうか」
岡田「どうもなりませんよ。 別に当社の店頭からハ
ウスさんの商品が消えるわけではありません」
記者「卸を使うということですか」
岡田「それが先方のお考えだと思います」
記者「ジャスコさんとしては卸経由の納品を容認す
るということですか」
岡田「容認するも何も、それはしょうがないですか
らね。 これからもっと話をしていかなければな
りませんが、現在のところこの二社については
特集 小売り物流のカラクリ
今後3年間で構築する全国物流センター配置図
札幌RDC/XD/PC
北東北XD/PC
秋田XD/PC
仙台RDC/XD/PC
新潟XD/PC
信州XD/PC
北陸XD/PC
西東海XD/PC
中部NXD/RDC/XDPC
大阪NDC/NXD/RDC/XD
京都XD/PC
西部RDC/XD/PC
四国XD/PC
中国RDC/XD/PC
東東海RDC/XD/PC
関東NXD/RDC/XD/PC
山形XD/PC
沖縄RDC/XD/PC
九州
RDC/XD/PC
2002年稼働
2001年
6月稼働
2003年稼働 2004年稼働
NDC(ナショナル・ディストリビュション・センターの略)
NXD(ナショナル・クロスドック・センターの略)
季節商品並びに商品回転率の遅い商品等全社的
に在庫を集中した方が効率的な商品の保管と全
国のクロスドック・センターを経由して全国の
店舗に商品を供給
商品在庫保管機能は有さず、全国に供給する経
由形商品を集約し、全国のクロスドック・センター
を経由して全国の店舗に供給
RDC(リージョナル・ディストリビュション・センターの略)
XD(クロスドック・センターの略)
商品回転率の速い商品の保管と担当エリアの店
舗に担当エリアのクロスドック・センターを経
由して商品を供給
商品の在庫保管機能は有さず、NDC/NXD/RDC
からの供給商品と所在エリア商品の荷受けと店配送
PC(プロセス・センターの略)
生鮮食品の製造加工並びにインストアー商品の
原料を併設のクロスドック・センターを経由し
て供給
展開施設のタイプ
JULY 2001 20
基本的な考え方がまったく違うということです」
記者「引き続き説得はするわけですか」
岡田「そうですね。 ただ、やはり企業の基本的な考
え方が違うということはありますから、そこは
折り合いを付けなければならないと思います。
ただ私は、この取り組みから得られるベネフィ
ットを見れば、必ず変わってくるだろうと考え
ています」
別の記者の「どの施設をどの物流パートナーが担当
するのか」という質問に対して、岡田社長は「物流セ
ンターについては後ほど詳しく説明します」と返答し
た。 しかし、その後の説明でも、パートナー企業の具
体的な担当施設や投資額など、個別の案件に関する
情報開示はなかった。
そこで本誌は、日を改めて各パートナー企業に個別
に取材を申し込んだ。 しかし、その大半は「まだ発表
段階で、正式な契約を交わしていないため答えられな
い」の一点張り。 契約の細部の詰めはこれからで、パ
ートナー企業がまだ契約書に判を押してはいないこと
が分かった。
ジャスコからパートナー企業への手数料の支払いは、
互いにリスクとメリットを分け合う狙いで、一部を固
定費として扱い、それ以外は商品の通過金額に一定
のマージン率をかける形で支払われる。 その料率など
は物流業者の投資額によっても変わるため、一律では
ない。 ジャスコが「一〇年以上」と公表している契約
期間についても、物流業者にとっては「一一年と一五
年では大違い」(物流業者)だ。 他にもセンターでの
実際の在庫量など、未確定な部分が多い。
コンペに勝ち残ったとはいえ、物流パートナーたち
に安心感はない。 記者会見には出席したものの、実際
の契約までにはいくつもの課題が残されている。 いっ
たん動き出してしまえば、ジャスコとは互いに引くこ
とのできない関係になる。 巨額の投資を伴う案件だけ
に、慎重にならざるを得ないようだ。
欧米型モデルを導入
イトーヨーカ堂のように明確なドミナント戦略をと
ってこなかったジャスコは、「いわば日本全体をドミ
ナントとみなし、物流部門にとってはありがたくない
出店の仕方を続けてきた」(高橋部長)。 その結果とし
てできあがった現在のネットワークは、全体最適とは
程遠い状態にある。
一例を挙げると、岡山県内には「ジャスコ(GM
S)」が三店、「メガマート(ホームセンター)」が四
店、それにスーパースーパーマーケット(SSM)と
呼ばれる大型食品スーパーの「マックスバリュー」が
四店ある。 この合計十一店舗のために物流センターを
同じエリアに三カ所構えている。 業態ごとに出店計画
と物流を管理してきたため、拠点が分散してしまった。
こうした現状をいったん白紙に戻して、全く新しい
ネットワークを作り上げようとしたのが今回の物流プ
ロジェクトだった。 これと並行して、社内にはITプ
ロジェクトも組織された。 店頭と物流センターをつな
ぐ情報システムの抜本的な見直しがテーマだ。 「当時
の言い方ではECR(効率的な消費者対応)、今風に
言えばまさにSCMの取り組みだった」と高橋部長は
振り返る。
今回のジャスコの物流改革は、二段階に分けて考え
ると理解しやすい。 まず最初に理想的な物流ネットワ
ークを整備する。 具体的にはメーカーと小売りの間に
一カ所しか中継点のないサプライチェーンを一気に構
築してしまう。 そして、売れ筋商品はメーカーから直
この度、ジャスコ様の
東北全域をテリトリーと
する「仙台物流センタ
ー」を担当することにな
りました。 このセンター
では、商品の受け入れか
ら検品、店舗別の仕分け、
各店舗への配送まで、東北地区の物流業務全
般をお引き受けします。 弊社がチェーンストア
物流事業に参入したのは、15年ほど前にホー
ムセンターのケーヨーさんとの取り組みを関東
地区でスタートしたのがきっかけです。 この分
野の業績は毎年二桁台で伸びています。 今後
も従来の物流機能以外に、クロスドックDC
機能、受発注業務、在庫補充、売り場提案等
のマーチャンダイジング機能などを付加して業
務領域を拡げていくつもりです。 (談)
センコー
小池洋社長
「チェーンストア向け業務を拡大する」
6月27日から稼働する、
仙台での低温倉庫のクロ
スドッキングとプロセス
センターの2つを担当し
ます。 今回のジャスコさ
んの物流構想は、我が国
の大手流通業としては初
めての取り組みです。 実現しようとしている物
流品質の高さと、コスト競争力の二点におい
て、非常に画期的なものと承っています。 かな
り以前からしっかりと構想を作られてきたわけ
ですが、私どももそこに参加させていただき、
全社を挙げて、最大かつ最高の成果を挙げら
れるよう努めてきました。 イオングループの物
流が品質・コストの両面において、世界一流
の競争力を持つものになるよう微力を尽くし
てまいりたいと思います。 (談)
ニチレイ
手島忠 社長
※肩書きは取材時点(5/28現在)
「画期的な構想に全社を挙げて取り組む」
21 JULY 2001
接調達する。 回転の低い商品は専用センター(大阪
NDC)を全国に一カ所だけ設けて、そこから全店舗
に納品する。 もしくは卸を利用するという形をとる。
さらに次のステップでは、物流機能を商流から分離
する。 新たな物流システムの稼働によって自ら中間流
通をコントロールできる強味を活かし、現在は一体化
している商品原価と物流コストを分離するようメーカ
ーに迫る。 そして現在の「店着原価制度」を見直し、
「メーカー(工場)渡し原価制度」へ移行。 これによ
り物流と商流のそれぞれに競争原理が働く仕組みを導
入する。
物流コストの透明化を調達先に求めると同時に、ジ
ャスコ自らも会計制度を見直す。 新たな勘定科目とし
て「物流費」を設定して、販売管理費のなかに埋もれ
ていた物流費を表に出す。 ただし、「新たに稼働する
センターから順次導入していき、三年間は既存の会計
システムと並行して走らせる」(高橋部長)ことにな
るため、実現は早くても三年後になる。
一連の計画は、日本のGMSとしては前例のない
取り組みだけに周囲に大きな波紋を呼んだ。 「ジャス
コの取り組みは卸ビジネスの一つの方向性を示唆して
くれるはず」と期待を寄せる大手卸の担当者がいる一
方で、商品の回転率によって調達チャネルを使い分け
るという施策に対して、直接取引への移行であり、本
格的な「卸中抜き」だと警戒する声も多い。
しかし、ジャスコの高橋部長は「すでに卸さん自身
も、メーカーから直送した方が有利なものは別ルート
で扱っている。 それなら我々が直接仕入れた方が安い
商品について、メーカーから買うようにしてもいいは
ずだ。 今後はこうした商品の扱いを増やしていくため、
当社の全体の仕入れ額に占める卸経由の割合は確か
に減るだろう。 しかし、卸から仕入れる商品の絶対額は横這い程度にとどまるはず。 中抜きという話ばかり
が強調されるが、それが狙いではない」と反論する。
経営目標である「グローバル
10
」入りは、企業規模
の飛躍的な拡大を意味している。 メーカー直接取引の
比率が増えたとしても、協力卸に一方的に負担を押し
つけるつもりはないというわけだ。
反発するメーカーと卸
実は今回の物流構想には、すでに五年以上前から
実施している先行事例がある。 九六年に加工食品メ
ーカー二三社を集めて四日市でスタートさせたプロジ
ェクトだ。 このときジャスコは、商品の回転率ごとに
調達チャネルを使い分けるという手法を、はじめて本
格的に試みている。
特集 小売り物流のカラクリ
ジャスコの新・物流構想のプロダクト・フロー
店舗
店舗
XD
企業
グループ
XD
PC
(SS含む)
メーカー
・
ベンダー
(海外含む)
NDC
スロー
ムーバー
RDC
ファースト
ムーバー DSD
(パン等)
地域
商品
麺
豆腐等
ジャスコさんには千葉
県で以前の扇屋ジャスコ
さんの共同配送、北関東
地域ではミニストップさ
んの共同配送をお任せい
ただいています。 今回の
イオングループさんとの
取り組みは、我々にとっても流通分野のソリ
ューション・ビジネスの集大成と考えてます。
プロバイダーの1社としてのみならず、本日ご
出席のパートナー各社と連携・協力してこの
プロジェクトを成功させたい。 積極的な物流
の合理化提案、サービスレベルの向上に務め
ていきたいと考えています。 当社は約240人い
るロジスティクス・ソリューション部隊をさら
に増強し、ジャスコさんの案件に対応する組
織も作っていく考えです。 (談)
日立物流
福士英二 社長
「流通分野の3PLの集大成」
ジャスコ様とは東京
の深川の物流センター
で、もうずいぶん長い
間、お取り引きさせて
いただいています。 10
数年前から深川のセン
ターでジャスコ様との
お取り引きを始めて以来、全国でも数カ所で
展開してまいりました。 私どもの会社は従業
員が27,000人近くおり、車両は16,000台で全
国に300近いターミナルを持っています。 と
にかくロープライスで、そして今の時代の変
化にどう対応していけるかということを、ジ
ャスコ様とともに考えていきたい。 そして、
今回の物流システムが早く完成できるように
一生懸命がんばっていきたい。 そう思ってい
ます。 (談)
福山通運
小丸成洋 社長
「とにかく低コストの仕組みを作る」
JULY 2001 22
この取り組みで回転率の高い商品については、まっ
たく卸の手を借りずに、実質的に「直接取引」できる
仕組みを構築した。 物流センターを在庫型として、在
庫のコントロールを各メーカーが行うVMI(Vender
Managed Inventory:
ベンダーによる取引先在庫管理)
を採用。 商品調達についても、物流パートナーである
日本トランスシティがメーカーを集荷に回る体制を組
んだ。
もっとも、この四日市のケースは厳密にはメーカー
との直接取引ではない。 このとき参加したメーカー各
社は、「四日市エリアだけを特別扱いはできない」と
主張して、卸経由の商品供給という?原則論〞を譲
らなかった。 そのためジャスコは、帳簿上は卸を経由
させて、実際に一%強のマージンを卸に支払うことで、
ベンダー側を納得させた。
今回のジャスコの物流構想で、直接取引の打診を
受けた加工食品・日用雑貨品メーカーは、実はこの
四日市での取り組みに参加したメーカーが大半だ。 そ
のためメーカー側にとっても寝耳に水という話ではな
かった。 それでも「なぜ直接取引の実現をそんなに急
ぐのか」という疑問の声はメーカーから漏れ聞こえて
くる。
実際、日雑メーカーの六社はジャスコとの取引に基
本合意したとされるものの、加食メーカーについては
最大手の味の素が離脱。 ハウス食品も不参加を表明
している。 残る一七社も取材時点で参加態度を鮮明
にしているのはカルビーだけで、離脱するメーカーが
他に現れないという保証はない。 物流センターの披露記者会見の席上でジャスコの岡
田社長に「当社とは考え方の合わないメーカー」と名
指しされた味の素は、「最近では卸も高度化を図って
おり、十分に機能している。 コストも安く、当社とし
ては今は卸を使うのが最適と判断している」(味の素
広報部)と歩み寄る姿勢は見えない。
メーカーにとって最大の懸念は在庫負担の問題だ。
欧米では小売りの物流センターに入った時点で、商品
の所有権が小売りに移る。 米国のウォルマートとP&
Gの取り組みにしても、センターの在庫補充を管理す
るのはP&Gだが、在庫の所有権は納品した時点でウ
ォルマートに移している。
しかし今回、ジャスコは、メーカーに所有権を持た
せたまま自社センターに在庫を置かせようとしている。
在庫型センター
(D/C)
《メーカー在庫》
センター使用料
:2.5%
※2期以内
通過型センター
(T/C)
《店別仕分け》
センター使用料
:3.5%
加工食品
メーカー
23社
(直接物流)
その他加食
メーカー
3百数十社
(卸物流)
プライベート
ブランド
(卸物流)
菱食
加藤産業
一括配送
(日本トランスシティ)
取引メーカー ジャスコ中部物流センター
(日本トランスシティ)
ジャスコ42店舗
店舗
店舗
店舗
店舗
店舗
ジャスコの新・物流構想のモデルケース(四日市にて 96年〜)
取りに行く物流
(日本トランスシティ)
帳合のみ
卸経由
約3割
約3割
約3割
ジャスコさんとは20年
位前から私どもの大阪の
関係会社を通じて、お取
り引きさせていただいて
きました。 最近では、私
どもが大阪に新設した枚
方物流センターで衣料品
関係を、また四日市では食品とドライの方で
長い間やらせていただいています。 今度、我々
が与えられた中部RDCでは愛知・静岡・三
重・岐阜の全域をカバーし、通過貨物の量は
2000億円以上を予定しています。 これにとも
なう土地の取得や、ジャスコさん専用の物流
センターの建設などをめぐってジャスコと具体
的な詰めを行っています。 2002年の8月頃には
全部できあがって、実際に運営をできるように
する予定です。 (談)
日本トランスシティ
鍋田雅久 社長
「通過貨物量2000億円をまかなう」
(さきほど仙台のセン
ターを見学して)これか
ら日本の商売は変わって
いくなと感じました。 量
販店さんなどの魚売場と
いうのは大変、難しい仕
事になってきている。 魚
は世界中の産地から集まってきます。 しかし、
魚の販売にグローバル・スタンダードはありま
せん。 地域だとか季節によってその独自性を
創造できる大変、意味のあるカテゴリーです。
これを構築することが、間違いなく小売業と
しての繁栄のカギであろうかと思います。 この
独自性と、グローバル・スタンダードとして通
用する今回の物流構想の組み合わせが、私は
日本における勝利の方程式になるのではない
かと考えています。 (談)
日本水産
垣添直也 社長
「日本の商売は変わっていく」
23 JULY 2001
「ジャスコの取り組みは、在庫リスクをすべてメーカ
ーにかぶせる。 自分は在庫を持たず、全国のDCにメ
ーカー在庫を持たせて、これを隣接するTCから出荷
することで欠品が出ない仕組みを作ろうとしている」
と加工食品メーカー幹部は指摘する。
卸からの反発も簡単には収まりそうにない。 回転率
の低い商品の取引だけを迫られる卸が、すべての商品
を一手に担うことを前提に設定した従来のマージン率
のまま、商品の供給を請け負うとは考えにくい。 実際、
ジャスコと卸の間でのマージン率の折衝は、まだ詰ま
っていない模様だ。
こうした綱引きが長引くほど、拠点投資を負担する
物流パートナーのリスクは増える。 在庫政策の方針が
固まらなければ、センターの運営コストを試算できな
いまま、手数料率などの契約を詰めていかなくてはな
らなくなる。 とりわけジャスコが今回、回転率の低い
商品在庫を全国一カ所に集約する大阪の拠点につい
ては、在庫管理のやり方次第でパートナー企業の役割が大きく変わりかねない。
今回の改革でジャスコがチェーンストアとしてロジ
スティクス機能の充実に本腰を入れ始めたことは評価
できる。 商品価格と物流費の分離も、日本の中間流
通の閉鎖性や不透明な商慣行を打破するうえで大き
な意味を持つはずだ。 しかし、リスクとオペレーショ
ンの全てをベンダーや物流業者に依存すれば、いずれ
はそのツケがジャスコ自身に返ってくる。
実は、発表された物流パートナー六社の他に、ジャ
スコの物流子会社であるフードサプライジャスコも全
国七カ所でプロセスセンターの業務を担うことが決ま
っている。 同社は今後、どれだけの役回りを演じるの
か。 またジャスコ本体は、どのような機能を担うのか。
行方が注目される。
「物流パートナーの存在が一番大きい」
ジャスコ
岡田元也 社長
いよいよ「イオン総合物流システム」の第一号セン
ターが、ここ仙台でオープンします。 最初の構想が固
まってから既に五年経ちましたが、米国のカート・サ
ーモン・アソシエイツ(KSA)とジャスコの間で議
論を交わしながら、ビジョンを作り上げて、ようやく
今日に至りました。
ジャスコの将来を考えるとき、今回の総合物流シス
テムとその結果としての直取引というのは必然です。
新たな物流システムには、最新のソフトウエアや設備
など多くの特徴がありますが、なんと言っても最大の
特色はサービスプロバイダーと称する物流パートナー
の存在です。 彼らの協力を得られたのが一番大きい。
これから全国に一九拠点三九施設のセンターを構築
し、専門店を除くイオングループのほぼ全ての業態を
カバーしていきます。 しかし、私どもがセンターを作
ったり運営するわけではありません。 ジャスコは研究
を重ねてきた結果として、仕様書、センターの機能、
デザイン、キャパシティなどの情報を提供し、それを
パートナーに作っていただく。 そして専門家として運
営もしていただき、
効率を追求してい
ただく。 それがメ
ーカーさんにとっ
ても、我々にとっ
ても、双方にメリ
ットをもたらすこ
とになります。
こういったこと
を第三者のサービ
スプロバイダーに
お願いして、明ら
かに機能分担をし
ていくことが、商習慣に至るまで色々なメリットをも
たらすと確信しています。 それこそがイオン総合物流のもっとも根本的な考え方でもある。 サービスプロバ
イダー六社の方々が早い段階から私どもの構想に賛同
していただいたことが、今回ここにたどり着くことの
できた最大の理由だろうと思います。
さらに二番目として、いわゆる直取引に賛同してい
ただく取引先様、メーカー様の存在があります。 これ
は大変、大きな変革を日本の商習慣に引き起こすわけ
ですが、大局的に見ればそれは必然の方向だろうと思
います。 取引先様、メーカー様にとっては大きな問題
であるにもかかわらずご賛同をいただきました。 これ
まで私どものお取り引き様、加工食品で一九社、日雑
関係で六社をお誘いして話をしてきました。 それぞれ
カテゴリーごとに取引先上位の方々にお願いしている
わけですが、日雑関係については仙台のセンター稼働
とともに六社ともスタートすることになります。
加工食品関係につきましては、仙台センターのスタ
ート時にすべて合意していただいているところと、ま
た基本的に合意していただいてはいるものの開始の時
間やタイミングに問題があるという企業があります。
ただ一九社のうち二社、味の素さんとハウス食品さん
は考え方がまったく違うということです。 いろんな部
分で意見が違いますが、私はいろんな考え方があって
構わないと考えています。 これから時間をかけて話し
合っていくつもりです。
今後、中期的にはこの直取引を五〇%以上、まあ私
としては七〇%ぐらいまではもっていけるのではない
かと考えています。
新しいセンターの導入で、ジャスコの現在の非効率
な物流ネットワークが集約されます。 私どもは、これ
で現実にスタートしました。 これから日本の小売業に
押し寄せる変化を先取りしたわけですが、これによっ
てお客様にもたらされるメリットというのは非常に大
きなものがあると思っているところです。
(談)
2001年5月28日 仙台での記者会見にて
|