ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年6号
keyperson
フレームワークス 田中純夫 社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

1 JUNE 2005 KEYPERSON 物流IT市場の輪郭 ――日本の物流IT市場は、どのよ うな輪郭を持っているのでしょうか。
「ちょうど九〇年代の中頃を境にし て、その前と後では大きく違っていま す。
当社の創業は九一年ですが、当 時は物流現場にシステムと呼べるよう なものは、ほとんど入っていませんで した。
あったとしても経理システムの 延長で、在庫管理といっても実態と しては事務処理のためのシステムでし た。
輸配送は協力物流会社への請求 書発行システムに過ぎませんでした。
現場のオペレーションに役立つような ものではなかったわけです」 「時代が変わったのは『ウインドウ ズ '95 』が登場してからです。
それま でソフトウエアというのは、IBM やNECや富士通といった特定メー トウエアが固有メーカーの専用であ ることから、ベンダーがメーカーの下 請けになってしまっていたんです。
特 に日本の場合はハードメーカーの力 が強く、当社のような独立系のベン ダーが育ちにくかった」 「当社自身それまでは下請けに甘ん じていたところがありました。
ところ が九四年に渡米してみると、向こう では独立系のベンダーが大資本のハ ードメーカーと互角にビジネスを展 開している。
それを見て、いずれ日 本にもそういう時代が来ると考えて、 当社もパッケージの開発に本腰を入 れるようになりました」 ――しかし当時の日本には物流のパ ッケージ市場など確立されていませ んでした。
「その通りです。
開発していた当時 は誰が買ってくれるのか、全く分か っていなかった。
いずれ日本の物流 IT市場もパッケージの時代になる という確信はあったけれど、お客さ んの具体的なイメージはなかった」 ――その後、実際に日本でもパッケ ージを使う企業が増えて、御社を始 め独立系のソフトウエアベンダーが 台頭してきました。
しかし、ITバ ブル崩壊によって市場はまた違った フェーズに入ったようです。
「ここ五年ぐらいの動きとしては、E RPパッケージを導入した後の不整 合が目立つようになってきた。
パッ ケージの良いところと悪いところが分 かってきた。
その課程では鳴り物入 りで世に出たものの、実際には使え ないというパッケージも出てきて、淘 汰が行われた」 ――ITバブルの崩壊の影響は? 「日本の場合、物流系のソフトウエ アベンダーが上場したのは当社が初めてで、それも二〇〇四年六月です からバブルはとっくに終わっていまし た。
その点、アメリカは日本より先 行して、eコマースなどと並んでロ ジスティクスが投資家に注目され、い くつもの会社が上場しました。
その 後、バブルが崩壊して一回も黒字を 出せないまま買収されてしまうケー スなどまで出た。
しかし、そうした虚 業的な投資ブームと物流IT市場の カーのハードに固有のものだった。
『ウ インドウズ』が出てきたことで、特定 メーカーに依存しないで開発できる 環境がようやく整った」 「それとほぼ同じ時期に日本の大企 業 で E R P ( Enterprise Resource Planning:統合業務パッケージソフト) の導入が始まりました。
基幹業務の システムを手作りするのをやめて、パ ッケージを使うようになった。
その後、 若干のタイムラグがあって物流系も、 もはや手作りではないだろうという認 識が出てきた。
つまり『ウインドウ ズ』の登場を境にして、パッケージソ フトのマーケットができたんです」 ――となると九五年以前の物流IT 市場というのは? 「実態としてはハードのおまけのよ うな市場でした。
投資金額自体もハ ードとソフトでは一ケタ違った。
ソフ フレームワークス 田中純夫 社長 THEME 「 パ ッ ケ ー ジ ベ ン ダ ー の 時 代 は 終 わ っ た 」 物流IT市場はパッケージソフトの時代を経てソリューション の時代に入った。
必要な情報技術は既に出揃った。
パッケージ自 体の良し悪しにも、もはや大差はない。
情報の活用方法やシステ ムの安定性など、運用ノウハウに差別化要因は移っている。
(聞き手・大矢昌浩) JUNE 2005 2 構造変化は同時並行で進んだだけで、 動きとしては別物と考えた方がいい」 ――それでもITバブル崩壊までの 物流IT市場は分かりやすかった。
一 人の発明家が画期的なソフトウエア を開発し、そこにお金が集まって市 場を席巻するという構図がはっきり していました。
それと比べると今の物 流IT市場は見えにくい。
パッケー ジソフトの時代を過ぎた今、物流I T市場は何を軸にして動いていると 考えればいいのでしょう。
「当社の事業は現場の役に立つシス テムを作ろうというところから始まっ て、その方法が途中で手作りからパ ッケージに変わっていった。
それでは パッケージの次には何が起こるのだ ろうと、仕事の枠組みについて改め て考えてみたことがあります」 「パッケージという商品はコモディ ティ化(製品の市場価値が低下し、一 般化すること)が避けられません。
い くら画期的な製品を開発しても、す ぐに他社が追いつき差別化できなく なってしまう。
その結果、価格競争 に陥る。
そうだとすれば当社は単な るモノ売りでは生き残れない。
単に パッケージを販売するのではなく、パ ッケージと他の機能を組み合わせる、 あるいは運用する技術を提供してい く。
そこに我々の付加価値を求めて いこうと思い至りました」 ――コモディティ化しようが、数を売 ることに専念するという選択肢は? 「確かに経理システムの分野などに は、そうしたベンダーも存在します。
しかし物流では難しい。
経理の仕事 は基本的なやり方が決まっている。
業 種や会社によって多少のバリエーシ ョンはあるにしても、違いは一定の 幅に収まる。
それに対して物流は常 に新しいやり方が出てくる。
むしろ 他社と違うやり方をとることに価値 がある」 「もちろん物流の中にも汎用化でき る部分はあります。
入出庫一つとっ ても色々なオペレーションがあります が、それをいくつかの固まりに分類 することはできる。
そのためプレハブ 住宅のように大まかな骨組みだけを 予め用意しておいて、後は現場で大 工さんが顧客の要望 を聞いて加工するとい うやり方はできる」 ――そのアプローチは 外資系のWMSベン ダーと少し違いますね。
外資系ベンダーは、で きる限りたくさんのひ な形を予め用意して、 カスタマイズしないで 導入することを良しと する。
「プレハブ住宅でも欧米メーカーと 日本メーカーではアプローチが違う そうです。
欧米メーカーは材料も工 法も標準化して、テンプレートで全 て処理する。
日本のプレハブメーカ ーは、材料や工法を顧客に合わせて 使い分けている。
双方に一長一短が あります。
そのバランスの取り方が各 社のノウハウになるわけです」 ――WMSと3PLとはどのような 関係にあるのでしょう。
外資系ベン ダーの多くは欧米市場では3PLを パートナーにして事業を伸ばしまし た。
ところが日本の場合、3PLと WMSベンダーのパートナーシップ はあまり表面化していない。
「日本の3PLはいまだ自称3PL の域を出ていない。
3PLといいな がら作業の請け負いにとどまってい る。
システムを含めたソリューション を荷主企業に提案するような段階に なっていないことが大きいと思います。
日本の大手の物流企業は、たいてい グループ内にシステムハウスを持って いますが、その業務範囲も個別のシ ステム構築にとどまっています」 ――欧米でも当初、3PLは社内に システム部門を設けていましたが、そ の後、システム部門をアウトソーシ ングする形に変わっていった。
「日本の物流会社系のシステムハウ スもWMSは持っています。
しかし 彼らは、どうしても親会社のビジネ スに振り回されてしまう。
目先の案 件を処理するのに追われて基礎研究 まで手が回らない。
そのため汎用性 のあるソフトウエアが作れない。
汎用 性のあるWMSを作るにはどうして も基礎研究が必要になります。
実際、 当社は研究開発費に売上高の十数% をつぎ込んでいる」 ――何の基礎研究なんですか。
「完全にテンプレート化して、それ に顧客の業務を合わせてもらうとい うアプローチはとらないけれども、一 つひとつのブロックは共通モジュール として作っておく。
そのブロックを作 るために基礎研究が必要になる。
と ころが親会社を持つ場合には、必要 な機能をできるだけ安く作れという 田中 純夫(たなか・すみお) 1957年生まれ。
鈴与グループを経て、91 年にエクゼ(現フレームワークス)を設立。
物流システムの開発事業を開始。
2001年、 社名をフレームワークスに変更。
2004年 6月、東京証券取引所マザーズ市場に上場。
2004年秋、藍綬褒章受章。
KEYPERSON 3 JUNE 2005 話になってしまう。
他にも売るため に製品に汎用性を持たせるという開 発ができなくなってしまう」 ――しかし、それでは親会社を持つソ フトウエアハウスは、いつまでたって も外販ができない。
「だからアメリカの3PLはシステ ム部門を外に出していったわけでし ょう。
第三者になれば、親会社以外 にも売らなければならないため、シス テム部門も必死になって勉強する。
親 会社の業務範囲を超えてビジネスチ ャンスを開拓しようとする」 システム子会社も淘汰される ――同じ動きが日本でも起きる? 「日本は世界にも例のない物流子会 社大国だけれども、同時にシステム子 会社大国でもある。
それが今後は親 会社から切り離されていくはずです」 ――それも物流子会社と一緒ですね。
しかし、システム系子会社の再編と いう話はあまり聞かない。
「これまでは親会社がシステム子会 社の生産性を、はっきりと把握でき ていなかったからでしょう。
日本企 業のシステムの多くは手作りで補修 を繰り返してきた結果、何がどうな っているのか誰にも分からなくなって しまった。
調べてみたら二〇年間、基 本的なシステム設計が変わっていな いというケースなどザラにあります。
それをこれまでは十把一絡げにIT と括っていたため、生産性も仕事の 境界線も見えなかった」 「しかし今後はそうしたシステム子 会社も存在価値が問われていく。
手 作りのシステムを捨ててERPを導 入すると、これまでやってきたことの 生産性が結果的に分かってしまうん です。
システムもそうだし、物流でも そうです。
ERPを入れることで課 題が顕在化する。
そこからERPの アフターマーケットとしてWMSの 市場が形成されているという側面も あります」 ――ERPの導入は日本でも大手企 業では一段落したようです。
ERP のポストマーケットとしてのWMS 市場も一段落するのでは。
「ERPの導入とWMSの導入には タイムラグがあります。
WMSに関 してはむしろこれから成長期を迎え るところです。
また大手企業に続い て現在、中堅以下の企業にもERP の導入が拡がっています」――ERP以外の要因はどう影響す るのでしょう。
その一つとして、シス テムを複数の企業で共同利用するA SP(Application Service Provider ) は次世代のシステムの形だとして一 時期ずいぶん持て囃されま したが、物流分野では結 局ほとんど普及していませ ん。
またICタグも話題先 行で実用化には至っていな い。
「ASPに関して当社は しばらく静観するつもりで す。
現在、ASPと呼ばれ ているシステムの多くはデ ータを共有するだけの携帯 電話レベルの機能しか持っ ていない。
それならいつで も実現できますが、たいし たメリットもない。
少し技 術的な話になりますが、プ ログラムそのものを必要に応じて呼び 出す形でないと、本来の意味でのA SPとはいえない。
それも技術的には 可能なんです。
技術的には今や何で もできるといっていい。
しかし、まだ ビジネス上の必要性自体が薄い」 「それが本当に必要とされるのは、グ ローバル・ロジスティクスの管理精 度が上がり、ICタグの活用が本格 化した時だと考えています。
そのた めの基礎研究は当社も続けています。
実際、アメリカに拠点を構えている 家電メーカーの案件ではRFIDの 実用化にも取り組んでいます」 ――技術面で言えば、ソフトウエア 自体の出来不出来は今やあまりなく なっているように思えます。
「確かに表面的な機能には大きな違 いはありません。
一時的に機能面で 違いがあっても、すぐに他社もキャ ッチアップする。
画面デザインもすぐに真似できる。
しかし裏側にある技 術、見えない部分にはまだまだ差が あります。
トラブルを起こさないとい う安定性やインターネット環境への 対応などです。
しかしそれはソフトウ エアのスペックをいくら比較しても分 からない。
結局、導入した現場がち ゃんと動いているのか、実績を見る しかない。
そこは物流の特殊性かも 知れません」 フレームワークス SSAグローバル シーネット ダイフク マンハッタン アソシエイツ 村田機械 内田洋行 日立物流ソフトウエア その他 金額 シェア 前年対比 金額 シェア 前年対比 2003年度 2004年度 400 400 235 130 60 35 32 30 448 1,770 22.6% 22.6% 13.3% 7.3% 3.4% 2.0% 1.8% 1.7% 25.3% 100.0% 80.0% 181.8% 106.8% 118.2% 200.0% 87.5% 106.7% 75.0% 109.3% 110.6% 500 500 250 140 150 30 28 40 552 2,190 22.8% 22.8% 11.4% 6.4% 6.8% 1.4% 1.3% 1.8% 25.5% 100.0% 125.0% 125.0% 106.4% 107.7% 250.0% 85.7% 87.5% 133.3% 123.2% 123.7% ●WMSパッケージ出荷金額(メーカー出荷 単位・百万円) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 メーカー名 合  計 ミック経済研究所調べ

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