ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年6号
特集
物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 物流ABCが拓くマネジメント

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

物流ABCが拓くマネジメント JUNE 2003 12 物流ABCとは何か ◆コストは活動を最適化する管理指標 物流管理において物流コストの把握が重要であ るというのは異論のないところであろう。
物流コス トがわからないようでは物流管理などできない、と いう言い方をすることもある。
しかし、改めて考え てみたい。
物流コストは一体、何のためにつかむ のだろうか。
物流コストを下げるために物流コストをつかむ、 あるいは物流コストを管理するためにつかむ、とい うのはいずれも正しい答えではない。
物流コストは 物流活動の結果であり、結果を管理することはで きないからである。
管理するというならば、その対象はコストでは なく物流活動そのものである。
物流活動を管理す るために物流コストをつかむ、これが正しいとらえ 方である。
つまり物流管理における物流コストと は、物流活動を数字で見えるようにし、最適化し ていくための管理指標なのである。
◆使えないから従来は把握されなかった 物流活動の管理指標としての物流コストといっ たが、実はこれまでの物流コスト算定方法では、管 理指標として使える形で物流コストをつかむこと はできなかった。
冒頭で述べたように、物流コス トをつかむことの重要性は過去にも繰り返し語ら れ、その正確な算定基準や算定マニュアルが公的 機関から何度も提示されている。
だが現実には、多 くの企業が未だマニュアルどおりに物流コストを つかんではいない。
その理由は?つかんでも使えないから〞という ことに尽きる。
明確な目的を持たずに、?まずつか んでみる〞という姿勢でコストを算定しても、そ の数字はおよそ使いようがない。
物流コストをつ かんでいない企業が正しいというつもりはないが、 収穫の少ないことはあえて行わないというのは、あ る意味で合理的な判断だった。
◆管理指標としてコストをつかむには 物流コストを物流活動の管理指標として使うた めには、物流コストを管理対象となる活動別につ かむ必要があり、ここで登場するのが物流ABC である。
物流ABCによる算定を行うことではじ めて、使える形で物流コストをつかむことができる。
ABCとはActivity-Based Costing の頭文字を とったもので、日本語としては「活動基準原価計 算」と訳されている。
その特徴は文字通り、活動 (アクティビティ)をベースとして物流コストを算定するところにある。
これまでの物流コスト算定は、活動別ではなく 投入要素別の算定が基本となっていた。
投入要素 別の算定とは、例えばセンターの作業者の人件費 がいくらとか、利用している機械の償却がいくら というように、使っている要素ごとに発生してい るコストをとらえる算定方式である(図1)。
この投入要素別計算では、コストを把握しても、 そのままでは物流管理に使うことができない。
仮 に人件費が五〇〇万円かかっているとわかったと しても、これをどうすればどのくらい減らせるのか が全くわからないからである。
コストをつかんでも、 コスト削減の手がかりをつかめないという意味で 使えないのである。
今年4月、中小企業庁は物流ABCを使った「物流コスト算定・効 率化マニュアル」を公表した。
マイクロソフトの「Excel」ベースで 作動するコスト分析ソフトと解説書を、同庁のウエブサイトから無 料で入手できる。
同マニュアルの策定作業にも携わった日通総合研 究所の内田明美子氏に、物流ABCの可能性とソフトの機能を解説 してもらう。
内田明美子 日通総合研究所 経営コンサルティング部 コンサルタント 13 JUNE 2003 ◆アクティビティ原価と単価を見る コスト削減の手掛かりを得るためは、この五〇 〇万円が、どんな活動に、どれだけ投入されてい るのかを知る必要がある。
例えば梱包作業にいく ら、値札を貼る作業にいくらという形でコストが わかると、物流活動の実態がかなり見えてくる。
こ れがアクティビティ別のコストであり、物流AB Cでは「アクティビティ原価」と呼んでいる。
このアクティビティ原価をもう一歩進めて、「梱 包一箱の活動費がいくら」「値札を一枚貼る活動費 がいくら」という形にすると、コスト発生のメカニ ズムをさらに明快にとらえることができる。
そして、 作業の生産性を改善すると人件費をどの程度減ら せるとか、梱包資材費の単価は下げられるだろう といったように、例えば梱包コストを下げる余地 を具体的に検討することが可能になってくる。
こ の単位あたりのアクティビティコストのことを「ア クティビティ単価」と呼ぶ。
物流コストを、アクティビティ原価とアクティ ビティ単価でとらえることで、コスト低減策を数 字を使って具体的に検討できるようになる。
これ が物流ABCの最大の特徴といえる。
物流ABCコスト算定・効率化マニュアル ◆物流ABC算定ソフトを無料配布 今年四月一日、中小企業庁は「物流ABC ( Activity-Based Costing )準拠による物流コスト 算定・効率化マニュアル」を公表した。
同マニュ アルには、物流ABCによるコスト分析を、広く 普及している米マイクロソフト社の表計算ソフト 「 Excel 」のシート上で簡単に行える算定ソフトが 含まれている。
ソフトとあわせて「マニュアル活用のためのガイ ド集」も用意された。
PDFファイルで提供され るこのガイド集は、ソフトの解説のほかにも、「物 流ABCによる効率化事例集」や「用語集」など、 物流ABCを理解するうえで役立つ内容となって いる(図2)。
同庁のホームページから無料でダウ ンロードすることが可能だ。
また、このマニュアルとソフトは、日通総合研 究所の湯浅和夫常務取締役を委員長とする検討委 員会によって策定された。
テレビや新聞紙上でも たびたび取り上げられ、多方面から高い関心を集 めている。
◆物流ABC導入の負担を取り除く 近年、物流ABCへの関心は確実に高まってい る。
日通総研でも昨年ぐらいから物流ABCに関 するコンサルの問い合わせが増えてきた。
多くの 企業が従来の取り組みの延長上で行う物流合理化 や効率化に限界を感じ、物流管理に何らかの科学 的手法を取り込んでコストを削減したいという意 識を持つようになっている。
これまでも物流ABCの有効性は広く知られて いた。
だが実際に導入して物流管理に役立ててい るのは、ごく一部の大企業に限られている。
たい ていの企業は新しい手法を取り込むことに負担を 感じ、時間やコストを割く余裕がないといった理 由で導入を見送ってきた。
また、導入を試みた企業 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 ・伝統的原価計算は投入要素別にコストを把握する。
こ れに対し、ABCでは活動に投入要素別原価を集めて、 活動別の原価を計算する。
・コストの合計はどちらの方法で計算しても同じである。
図1 ABCの特徴 伝統的原価計算 ABC 人件費 スペース費 設備機器費 消耗品費 合計 ¥○○○,○○○ 入荷 ピッキング 梱包 流通加工‥‥ 合計 ¥○○○,○○○ 図2 中小企業庁「物流ABC準拠による物流コスト算定・効率化マニュアル」の全体像 物流コスト算定・ 効率化ソフト 物流コスト算定・ 効率化ガイド 内 容 物流ABCおよびこのマニュア ルの特徴などの説明 入力すべきデータや、データの とり方についての説明 ソフトの操作についての説明 算定結果の見方や、物流効率化の 方法、効率化効果の試算方法につ いての説明 物流ABCおよびマニュアルに関 する用語集 マニュアル活用時のトラブルに ついての回避方法 物流ABCを応用して物流を効率 化した事例集 マニュアルの概要 入力データ準備ガイド 操作ガイド 算定結果活用ガイド 用語集 FAQ 物流効率化事例集 算定編 データ編 検討編 JUNE 2003 14 でも、アクティビティ設定などのノウハウ不足のた めに、実際に活用しやすいようにコストを算定す ることができず、算定結果を実務に活かしきれて いない例が少なくない。
このほど中小企業庁が公表したマニュアルは、物 流ABCの導入に伴うこうした負担や障害を取り 除くという意味で、たいへん画期的なものである。
物流ABCに関する知識がない人でも、ソフトの 画面が示す手順通りに数字を入力していけば、簡 単に物流ABCの手法に則ったコスト算定ができ るように作られている。
また、一般的な物流施設を想定したアクティビ ティ候補が示されており、「作業時間の短縮」など 共通のコスト低減策をシミュレーションする検討 メニューも用意されているため、初めて算定する 人でも有効な算定結果を得ることが可能だ。
「AB Cは役に立つ」というのを実感できるように工夫 されている点も、このマニュアルの大きな特徴とい える。
物流ABCコスト算定の流れ 物流ABCのコスト算定は物流拠点ごとに行う。
算定期間は一カ月が妥当だ。
つまり単価という意 味では、一カ月間の平均単価を出すことになる。
以 下、ソフトの構成に沿って、物流ABC算定の実 務の流れを解説していく(図3)。
◆アクティビティを設定する 最初のステップはアクティビティの設定である。
アクティビティはABCで原価を集める対象であ るが、「作業」と読み替えても構わない。
具体的な 設定方法としては、物流拠点で実際に行っている である。
算定対象とした拠点で実際にかかってい るコストを、月単位で、投入要素別ごとに集計す る必要がある。
同種の投入要素は一かたまりのグループとしてと らえる。
ソフトでは「人」、「スペース」、「機械設 備」、「資材消耗品」の四つに大きく区分している。
さらに「人」は給与格差に応じて「社員」、「パー ト・アルバイト」などに分ける。
機械設備や資材 消耗品も実際のモノ別に分けるのが原則である。
そして投入要素別月間コストは、各投入要素に ついて発生しているすべてのコストを合算する。
人 であれば給与・賞与、賃金、福利厚生費、教育研 修費など、機械設備であれば減価償却費、修繕費、 保守点検費などを合計することになる。
作業を洗い出し、 アクティビティ として設定して いくことになる。
このアクティ ビティの設定が、 物流ABC算定 の成否を分ける 重要なポイント になる。
算定結 果を管理に使お うとすると、ア クティビティが 細かすぎても粗 すぎても使いに くい。
また、有 効な分析を行う ためには、「受注 頻度に応じてピッキング作業のコストが増える様 子を明らかにしたい」といった個別の狙いに応じ て、作業を区分したアクティビティを設定するテ クニックも必要になる。
中小企業庁が公表したソフトでは予め、一般的 な物流拠点で効率化を検討する場合に過不足のな いレベルのアクティビティが候補として示してある。
このため候補の中から自社の拠点で行っている作 業を選んでいくというやり方で、アクティビティの 設定を行えばいい。
もちろん、候補にないオリジ ナルのアクティビティを設定することも可能だ。
◆投入要素別コストを算定する 次のステップは投入要素別の月間コストの算定 図3 ソフトにおける物流ABCコスト算定の流れ 入力データの準備 入力画面 算定結果 アクティビティの設定 物流センターの 経理データ 作業に関わる 実測データ 出荷伝票 選択 □ □ □ □ □ □ □ □ 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 アクティビティ 入荷 ケース荷受け・検品 ピース荷受け・検品 大物荷受け・検品 コンベア格納 フォークリフト格納 台車・手荷役格納 大物格納 ※※※※※※※※※※※※ 定 ケース ピース 2人作 コンベア 入荷品 台車ま 大物を 作業時間の調査 1000 1001 1003 1005 1006 1007 2000 アクティビティ 入荷 ケース荷受け・検品 大物荷受け・検品 フォークリフト格納 台車・手荷役格納 大物格納 保管 合 計 1日平均 作業時間 パート・アルバイト1 物流花子 1日目 2日目 1日目 作業時間(単位:分) 作業 100 80 150 110 80 60 3日目 パー 作業時間の調査 1000 1001 1003 1005 1006 1007 2000 2001 2001 3000 アクティビティ 入荷 ケース荷受け・検品 大物荷受け・検品 フォークリフト格納 台車・手荷役格納 大物格納 保管 平置き保管 ラック保管 出荷 処理量 ケース入荷量 大物入荷量 フォーク移動ケース(コンテナ)数 台車・手荷役移動ケース(コンテナ)数 大量入荷量 平置き保管ケース数 ラック保管ケース数 単位 ケース ピース ケース ケース ピース ケース ケース 数量 1日目 4,400 150 300 1,400 150 25,000 10,000 4,400 150 300 1,400 150 25,000 10,000 2日目 投入要素別原価の入力 投入要素 1.投入要素「人」 月間コスト 750,000 1,500,000 200,000 正社員 パート・アルバイト 外部委託(管理者) 外部委託(作業者) 上記以外の投入要素があればこのセルに直接 記入し右欄の「投入」ボタンを押して下さい 上記以外の投入要素があればこのセルに直接 記入し右欄の「投入」ボタンを押して下さい 給与・賞与、 給与・賞与、 委託費 委託費 算定すべて 投入要素 2.投入要素「スペース」 月間コスト 算定すべて アクティビティ原価 2,299,268円 699,591円 260,042 82,087 127,413 160,144 69,905 392,115円 252,500 110,000 3,750 7,500 35,000 3,750 625,000 ケース ピース ケース ケース ピース ケース 2.4円/ケース 21.9円/ピース 17.0円/ケース 4.6円/ケース 18.6円/ピース 0.4円/ケース 月間処理量 数量 単位 アクティビティ単価 1処理量当たり単価 1000 1001 1003 1005 1006 1007 2000 2001 入 荷 ケース荷受け・検品 大物荷受け・検品 フォークリフト格納 台車・手荷役格納 大物格納 保 管 平置き保管 15 JUNE 2003 ◆作業ごとに配賦基準を調査する 配賦基準とは、投入要素別のコストをアクティ ビティに配賦するための数字で、配分比率と言い 換えてもよい。
各投入要素の使用量から求めるこ とができる。
すなわち、人であればアクティビティ ごとの作業時間、スペースであれば実際の使用面 積を実測して、これを構成比に直すことによって 算出する。
「ピースピッキング」というアクティビティを例 にとるとこうなる。
仮にこの作業に「パート・アル バイト」の総労働時間の二〇%が投入されている のであれば、パート・アルバイトの月間コスト× 二〇%の金額を「ピースピッキング」に配賦する。
同様にピースピッキングのために利用しているスペ ースや機械設備の費用も、使用比率に応じて配賦 していく。
そして全投入要素の配賦金額を足し合 わせたものが、ピースピッキングのアクティビティ 原価ということになる。
アクティビティ別の作業時間は、測定日を決め て実測する。
各作業者に担当するアクティビティ を何分ずつ作業したか、作業日報をつける要領で 記録していってもらう。
人員配置が比較的固定さ れていて、作業時間を配置人数から推計できるよ うな場合は、班長や管理にあたる人が推計した値 を用いてもかまわない。
◆最後に処理量を調査する 最後にアクティビティ原価を「処理量」で割っ て、アクティビティ単価を算定する。
ここでいう 処理量とは、各アクティビティを一カ月間でどれ だけ処理したかという量で、その単位はアクティ ビティごとに異なる。
「ケースピッキング」ならば受注ケース数、「ピース ピッキング」ならば受注ピース数が処理量になる。
では、ピッキングリストの仕分けや箱作りなどを行う「ピッキング準備」アクティビティの場合はどう だろうか。
このアクティビティの作業時間は、受注 量よりも受注頻度に比例して変わると考えられる ので、「受注行数」を処理量とするのが妥当だ。
いずれにしても、対象となるアクティビティのコ ストが何に比例して増えるのかを検討し、最もよ く比例するものを処理量とする。
ちなみに中小企 業庁のソフトでは、選択肢にあげたアクティビテ ィについては、何を処理量にするかを予め設定し てある。
処理量のデータは物流現場のどこかに必ず存在 している。
ただし多くの場合、整理された形には なっておらず散逸しているはずだ。
場合によっては、 入荷伝票や受注伝票からピース数、ケース数を拾 い出して集計したり、想定を交えて計算したり、最 後は実際に動かしたパレット枚数を数えるとか、箱 に詰めた数を数えるといった実測が必要になるか もしれない。
そもそも処理量データは、単に算定のために必 要な数字だから取るというものではない。
現場で 毎日何ピースのピッキングが行われ、何枚のシー ルが貼られ、何箱の梱包作業が行われているのか。
こうした数字は物流管理において最も基本的な数 字だ。
処理量や作業時間をつかむのにたいへんな 労力を要するようでは、物流管理を的確にできて いなことを自ら証明しているともいえる。
作業時間や処理量の調査方法については、詳細 な説明がガイド集にある。
これをベースとして散 逸しているデータを整理し、取りやすくする仕組 みをつくること自体が、物流管理の改善につなが るのである。
◆ともかく一度ソフトで算定してみる 中小企業庁のソフトでは、一連の入力指示と計 算を「Excel 」の計算機能とマクロ機能を用いて自 動的に行う。
ユーザーは前述したようなABCの 算定手順に詳しくなくても、画面が求める数字を 入力し、ボタンを押していくだけで算定結果を得 ることができる。
作業時間や処理量の調査は三日間行って平均値 を取ることとしているが、一日分のデータがあれば 最低限の算定は可能だ。
粗くてもいいから、ひと とおり算定して結果をみることができるようになっ ているわけである。
実は、これは物流ABCの導入を成功させるう えで大切なポイントだ。
はじめから何もかも精緻 なデータをとることにこだわってしまうと、算定の 途中で息切れしてしまい、算定結果にたどりつか ないという状況に陥りかねない。
これに対して一度ひととおりの算定を経験して しまえば、あとで必要な部分だけをより精緻なデ ータに差し替えていくことは容易だ。
ソフトにデー タを入れ直せば計算結果が自動的に更新されるた め、それまでの作業も無駄にならない。
最初から 精緻なデータをとるよりも、そのほうがずっと効率 がいい。
ABCが拓く物流管理の新展開 物流ABCを算定する結果として得られるアク ティビティ原価やアクティビティ単価は、物流効率 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 さらに人件費の七〇円/箱は、別 の観点から五・二五分/箱×時給 八〇〇円 というように単位あたり の作業時間と単価に分解すること もできる。
これらのデータはすべて、 ABC算定過程での入力データを換算して導き出 せる数値である。
現場作業を実際に効率化するための指標として 使えるのは、五・二五分/箱という単位あたりの 作業時間である。
そして、これが主要なアクティ ビティであれば、単位あたりの作業時間を一秒縮 めただけでも大きなコスト低減効果を得られるこ とになる。
ソフトの「検討編」の中には、算出された単位 JUNE 2003 16 化に直接役立つ指標として物流管理に活用するこ とができる。
ここではソフトの検討メニューをベー スとした具体的な活用の可能性を紹介する(図4)。
◆アクティビティ原価で無駄を読む アクティビティ原価は物流拠点内で行っている すべての作業について、いくらかかっているのかと いう月間コストを示す。
実際にこの作業を実施し てみると、意外な作業に高いコストがかかってい るのに気づかされることがある。
ある倉庫の算定結果では、「納品伝票の作成」と いうアクティビティが原価の高さで第一位となっ た。
この倉庫では納品伝票作成に先立って行う在 庫確認業務にかなりの手間がかかっていたのだが、 その手間が入出荷作業のような本来業務を超える 大きさになっていたのである。
管理者にとっては 驚くべき発見だった。
また、「清掃・片付け」というアクティビティが 意外なほど上位にきた例もあった。
算定にあたっ て、社員の手すき時間をこのアクティビティに入 れたために原価が高くなったのだが、そもそも社 員にそれだけの手すき時間があること自体、管理 者としては見逃せない事実であろう。
このように アクティビティ原価をながめていくと、今まで漠 然としか見えていなかった無駄が、数字で具体的 に見えるようになるのである。
「ピッキング」や「梱包」のような本来業務のア クティビティが上位にきた場合は、これらの業務 が効率化によるコスト低減効果の大きい主要なア クティビティであることを確認できたことになる。
徹底的に効率化を検討するべき対象が絞り込まれ たわけだ。
この徹底的な効率化検討において有効 なのが、アクティビティ単価である。
◆作業時間をアクティビティ単価で短縮 アクティビティ単価は各アクティビティを一単 位処理するのにかかるコストのため、投入要素別 にみることができる。
例えば、「段ボール梱包」ア クティビティの単価が一五〇円/箱だったとして、 これは人件費が七〇円/箱、段ボールの費用が六 〇円/箱というように分解することが可能だ。
図4 ソフトにおける物流効率化のための検討メニュー 人の効率化を 検討する スペースの効率化 を検討する 機械設備の効率化 を検討する 資材消耗品の効率 化を検討する 物流サービスの 改善を検討する 輸送費の低減を 検討する 顧客別コストの 低減を検討する 社員やパート等をどのように使っているかアクティビ ティごとに把握し、以下の可能性を検討します。
?作業時間を短縮する ?投入要素を切替える スペース使用量をアクティビティ別に把握し、個別に 低減余地を検討します。
あわせて、スペース単価の低 減余地も検討します。
フォークリフト、ラックといった各種機械や設備を各 アクティビティにどれだけ使っているかを把握したう えで、使用量および単価の低減余地を検討します。
段ボール、パレットといった資材および消耗品を各ア クティビティにどれだけ使っているかを把握したうえ で、使用量および単価の低減余地を検討します 物流サービスにかかっているコストを把握したうえで、 以下の条件変更による効率化を検討します。
?受注頻度を低減する ?返品を低減する ?流通加工を有償化する 貸切トラック、積合せ輸送等の輸送手段をどのように 使っているかを把握したうえで、以下の2つのコスト 低減可能性を検討します。
?トラック台数を削減する ?貸切・自家トラックの余裕スペースを活用する 顧客別に物流サービスの格差をふまえた物流コストを 算定します。
その上で以下の検討を行います。
?顧客別の採算を分析する ?物流サービスの条件変更を検討する ?時間短縮による人件費 低減余地 ?切替えによる人件費低 減余地 スペース費の低減余地 機械設備費の低減余地 資材消耗品費の低減余地 物流サービス改善による 物流施設内活動費の低減 余地 ?台数削減による輸送費低 減余地 ?余裕スペース活用による 輸送費低減余地 ?顧客別採算分析 ?物流サービス変更によ るコスト低減余地と採 算変化 メニュー 検討のポイント 得られる結果 図5 ソフト「作業の無駄な時間を検討する」画面 標準時間を入れると無駄な時間のコストを自動計算する コード 分類 アクティビティ名 標準作業 時間(秒) 1処当たり 作業時間 無駄な 作業時間 月間処理量 人件費単価 (円/時間) コスト 数量 単位 低減余地 1001 1003 1005 1006 1007 3001 3002 3003 3004 3005 入荷 入荷 入荷 入荷 入荷 出荷 出荷 出荷 出荷 出荷 ケース荷受け・検品 大物荷受け・検品 フォークリフト格納 台車・手荷役格納 大物格納 ピッキング準備 ケースピッキング ピースピッキング 大物ピッキング ケース目視検品 6.64 72.00 48.00 12.86 60.00 2.50 31.80 9.00 80.00 1.95 110,000 3,750 7,500 35,000 3,750 30,000 50,000 100,000 3,750 50,000 ケース ピース ケース ケース ピース 行 ケース ピース ピース ケース 763 763 763 763 763 803 763 763 763 30.00 27.00 18.00 4.80 28.60 53.54 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 法〞だった。
物流ABCを理解し、算定結果にた どり着くまでにはかなりのエネルギーが必要だし、 物流管理への導入は専門のコンサルタントの手を 借りなければ難しいという実情もあった。
ところが今回公表された中小企業庁の物流AB Cマニュアルを利用すれば、パソコンさえあれば誰 でも容易に物流ABCを体験できる。
そして実際 に算定結果を得て、コスト低減の余地をシミュレ ーションすることができる。
物流ABCの導入に 際して多くの企業に二の足を踏ませてきた障害が、 一気に解消されたことになる。
私も開発チームの一員として、このマニュアルが 物流ABCの普及に先鞭をつけ、ひいては数字を ベースとしたマネジメントが物流に根づく起爆剤 となることを願ってやまない。
※中小企業庁「物流ABC準拠による物流コスト 算定・効率化マニュアル」ダウンロードサイト http://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/ (動作環境:Windows98 以上) 17 JUNE 2003 あたりの作業時間に対して?標準時間〞を計測し、 その差分を短縮可能な余地としてコスト低減でき る金額を試算する画面もある(図5)。
ここでいう 標準時間には、手待ちやアイドルタイム無しで連 続的に作業を行った場合の平均作業時間をあてる。
つまり、作業手順などは変更せずに、作業をやっ ていない時間を極小化した場合のコストをシミュ レーションすることができるわけだ。
◆物流サービスのコストを明らかにする 物流に関わる取引条件(物流サービス)は、物 流コストに大きな影響を与える。
多頻度少量の納 品や、流通加工といった物流サービスの提供が増 えれば、コストが上昇することは言うまでもない。
物流ABCの算定結果を使うと、物流サービス の変化による物流コストの変化を明確にとらえる ことができる。
物流サービスレベルの上昇という 事象を、単価の高いアクティビティの処理量が多 くなるという形で数値化できるためだ。
ソフトでは「受注頻度」、「返品量」、「流通加工」 という三つの取引条件に着目し、これらの条件に 応じたコスト比較ができるようになっている。
一 例を挙げると、受注頻度に比例してコストが増え る「ピッキング移動」アクティビティを設定し、「注 文一行あたりピッキングコスト」を求めるようにな っている。
この単価に処理量(注文行数)をかけてやれば、 同じ注文量で、受注行数を現在よりも減らした場 合の作業コストをシミュレーションすることができ る。
返品、流通加工についても同様に、条件が変 わった場合のコストシミュレーションを、単価を 算定して処理量を変化させることで行えるように してある。
◆顧客別採算分析が拓く新たな可能性 さらにソフトでは、処理量を顧客別にとることによって、顧客別の物流サービスレベルの違いを ふまえた?顧客別物流コスト〞を算定することも 可能だ。
この顧客別物流コストを顧客別粗利と比 較して顧客別の採算を試算すると、驚くべき結果 が出てくることが少なくない。
顧客の順位は、売上金額だけで見ていたときと は全く入れ替わってしまう。
お得意さまと思って いた顧客が実はほとんど儲かっていなかったという ことも珍しくないのである。
物流サービスは物流コスト低減をすすめるうえで 最大の制約条件である。
しかしこれまでは、物流 管理において物流サービスを変える検討が行われ たことはほとんどなく、物流活動の所与の条件と して捉えざるを得なかった。
物流サービスの水準 や取引条件の適正度を測り、判断する材料がなか ったためだ。
顧客別物流コストを把握することで、顧客別の 採算という判断基準から物流サービスの是非を検 証するという新たな道が開ける。
むろん、物流サ ービスを実際に変えるのは簡単ではない。
だが顧 客別物流コストの把握は、物流コスト低減の新た な領域を開き、従来の延長上にはない物流コスト 低減の可能性を拓く。
その意味で画期的な第一歩 といえる。
◆おわりに 物流ABCの有効性は、すでに広く認知されて いる。
しかし、実態としては?知る人ぞ知る技 うちだ・はるこ1987年慶應義塾大学 経済学部卒業。
日本債券信用銀行(現あ おぞら銀行)を経て98年日通総合研究所 に入社。
現在、経営コンサルティング部 コンサルタント。
物流ABC導入コンサル ティング等に携わる。
著書に『手にとる ようにIT物流がわかる本』(共著、かんき 出版)ほか。

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