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FEBRUARY 2006 92
鉄道、船舶、トラックを利用した国際複
合輸送システムであるシベリア・ランドブ
リッジ(SLB)が再び活況を取り戻しつ
つあります。 二〇〇〇年以降、とりわけ韓
国や中国が利用に積極的です。 今回はSL
Bの現状と今後の展望について解説します。
シベリア鉄道の歴史
シベリア・ランドブリッジ(SLB)とは
シベリア鉄道を中心に船舶やトラックを利用
した日本・アジアと欧州・中近東・中央アジ
アを結ぶコンテナ輸送ルートを指します。 鉄
道、船舶、トラックといった異なる輸送モー
ドを使用する国際複合輸送システムで、従来
はシベリア・ランドブリッジと呼ばれていま
したが、近年はTSR(Trans-Siberian
Railway
)という言い方が一般的なようです。
TSRの中にはバイラテラルと呼ばれるロ
シア向け貨物と、ロシアを通過して欧州に輸
送される、いわゆるトランジット貨物があり
ます。 日本、あるいは韓国、中国からロシア
のヴォストーチヌイまで海上輸送し、ヴォス
トーチヌイからシベリア鉄道を利用して欧州、
中近東に輸送するのが代表的なルートです。
シベリア鉄道は一八九一年にシベリア開発
と極東の軍事強化を目的に工事がスタート。
一九一六年に完成しました。 三九年にはアム
ール川鉄橋部分を除いて全線複線化し、二〇
〇二年一二月には全線電化を完了しました。
シベリア鉄道は通常、モスクワ〜ウラジオス
トク間の九二八九キロメートルを指します。
軌間は全区間広軌(一五二〇ミリメートル)
を採用しています。
シベリア鉄道による国際輸送は六五年に北海道産の木材をフィンランドに輸送したのが
最初でした。 その際、ナホトカが積み替え港
として利用されました。 翌年には全ソ対外運
輸公団と日新が輸送契約を結び、シベリア鉄
道を利用した輸送における法的な整備がなさ
れました。
七一年には日本〜ナホトカ間に二隻のコン
テナ船による定期航路が開設されましたが、
七五年に積み替え港はナホトカからヴォスト
ーチヌイに移りました。 八五年にはコンテナ
輸送専用のブロックトレインの本格的な運行
がスタートしました。
日本発着のコンテナ輸送量は、イラン・イ
ラク戦争によるイラン向け海上輸送ルートの
封鎖などによって八三年にピークに達しまし
た。 ピーク時の日本発着のコンテナ輸送量は
十一万六八三TEU(西航・八万五九六二
TEU、東航二万三七二一TEU)に上り
ました。 しかし、その後は減少に転じ、二〇
〇四年の輸送実績は八六七八TEUにとどま
っています。
ソ連崩壊で輸送量は激減
八〇年代半ばから徐々に減少し、九〇年代に入ると輸送量が激減したのはソビエト連邦
崩壊後の混乱の影響です。 社会主義体制から
市場経済に移行する過程で、シベリア鉄道の
管理・調整機能が弱体化した結果、貨物の盗
難や紛失、事故が頻発するなど安全性と信頼
性が著しく低下しました。 輸送日数が不安定
になるとともに、分国によって税関手続きが
煩雑になったことが輸送量減少に拍車を掛け
たほか、欧州航路で競争が激化し、海上運賃
が大幅に下落して競争力を失ったことも響き
まし
た。
また、八五年のプラザ合意以降の急激な円
再注目されるシベリア・ランドブリッジ
《第11回》
国際物流の基礎知識
商船三井 森隆行
営業調査室主任研究員
RUSSIAN FEDERATION
IRAN
CHINA
JAPAN
AFGHANISTAN
NORWEY
GERMANY SWEDEN
POLAND
FINLAND
UKRAINE
KAZAKHSTAN
MONGOLIA
シベリア・ランドブリッジ・ネットワーク
93 FEBRUARY 2006
高を背景に、多くの日本企業が海外に生産拠
点を移管したため、日本発のコンテナ貨物そ
のものが減少し、日露間の定期航路の運航頻
度が減ったこともマイナス要因となりました。
前述した通り、二〇〇四年の日本発着のT
SR利用コンテナ量は八六七八TEUでした。
これに対して、韓国発着は十一万八六四五T
EU、中国発着は六万四〇八二TEU。 韓
国発着、中国発着はともに二〇〇〇年頃から
TSR利用コンテナ量が急伸しています。 ち
なみに二〇〇〇年の韓国発着のTSR利用コ
ンテナ量は四万九四〇〇TEU、中国発着は
わずか五六六TEUにすぎませんでした。
急増の背
景には、韓国からロシア向けに家
電製品や部品・原材料が大量に輸出されるよ
うになったことが挙げられます。 また、韓国
からは中央アジア向けにも工業部品や原材料
が輸出されています。 韓国企業はウズベキス
タンやカザフスタンに自動車や家電の生産拠
点を構えており、それらの工場向けに部品な
どを供給しています。
一方、中国各地で生産された衣類や日用品
の輸送は大連、天津、煙台から釜山経由でT
SRが利用されています。 ロシア向け消費財
の輸出も増加しています。 その中には中国に
進出した韓国企業による輸出も含
まれます。
近年のTSRの特徴としてバイラテラル
(ロシア国内向け)貨物の増加が挙げられま
す。 また、最近の海上運賃の上昇が中国、韓
国貨物のTSR利用を促しているとも言える
でしょう。
日本発着貨物の減少、韓国・中国発着貨
物の増加という構造変化を受けて、ヴォスト
ーチヌイ向け海上輸送の定期船サービスも大
きく変わりました。 現在、三〇隻のコンテナ船が就航しています。 このうち二〇隻(四社)
が釜山〜ヴォストーチヌイ間、二〇隻(五
社)が中国諸港〜ヴォストーチヌイ間に寄港、
日本〜ヴォストーチヌイ間は二隻(一社)の
みとなっています。
今後は日本発着も拡大へ
最後にTSRが抱えている課題について触
れておきましょう。 第一はインフラ不足です。
輸送力そのものの問題もありますが、ほかに
も例えば列車にコンテナを積む車両であるワ
ゴン(台車)不足が原因で、秋冬の繁忙期に
ヴォストーチヌイで荷役遅れが発生している
ことが挙げられます。
第二に東航の空コンテナ増加です。 西航と
東航の輸送量の割合は二〇〇二年に七六対
二四、二〇〇三年に八〇対二〇、二〇〇四
年に八四対一六となっています。 西航と東航
のアンバランスは年を追うごとに拡大する一
方です。
第三は価格競争力の問題です。 TSRは欧
州航路の運賃動向に左右されやすいという特
徴があるほか、ロシア鉄道では現在、運賃値
上げ論が巻き起こっ
ています。 また、チャイ
ナ・ランドブリッジなど他の輸送ルートとの
競合も念頭に置いておく必要があるでしょう。
TSRルートのさらなる飛躍のためには日
本企業の囲い込みが欠かせません。 韓国・中
国発着貨物のTSRルート利用は急増していますが、相変わらず日本発着貨物は低迷した
ままです。 日本企業の利用を促すには、輸送
日数の安定化を含めた信頼性を取り戻すこと
が必要です。
韓国・中国企業の多くがTSRを利用して
いること、さらにロシアへの投資が活発にな
っていることなどから、欧州航路の代替輸送
としてTSRが再び
注目を集めています。 ロ
シア経済の発展に伴いバイラテラル貨物の増
加も見込まれることから、数年後には日本発
着のTSRルート利用コンテナ輸送が大きく
伸びている可能性があるでしょう。
もり・たかゆき 1975年大阪商船三井船舶入社。
97年MOL Distribution GmbH社長、2001年
丸和運輸機関海外事業本部長、2004年1月より現
職。 主な著書は「外航海運概論」(成山堂)、「外航
海運のABC」(成山堂)、「外航海運とコンテナ輸送」
(鳥影社)、「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)など。
日本海運経済学会、日本物流学会、ILT(英)等会
員。 青山学院大学、長崎県立大学等非常勤講師、
東京海洋大学海洋工学部講師
2000 2001 2002 2003 2004
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
TSRの国別利用貨物量
データ:ERINA資料から
韓 国
中 国
日 本
TEU
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