ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年6号
特集
ホントの物流IT ウォルマートICタグ導入の影響

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2005 12 ウォルマートICタグ導入の影響 ウォルマートのICタグ導入実験が着々と進んでいる。
日本企 業を含め取引への影響を恐れるメーカーは否応なく付き合わさ れている。
投資による効率化メリットはない。
むしろコスト増 を招いている。
その一方で3PLや物流ITベンダーには新たな派 生市場が見えてきた。
(大矢昌浩) 振り回されるサプライヤー 二〇〇五年に入って米国ではサプライチェーンの巨 人たちによるICタグの導入実験が本格化している。
ウォルマートを筆頭にターゲット、アルバートソン、 ベストバイなど、有力小売業者が相次いで活用実験を 本格化。
納品する全てのケースとパレットに、従来の バーコードラベルに加えて指定したICタグを貼付す ることを義務付けている。
米国防総省の大規模プロジ ェクトも一月からスタートした。
一連の事情に詳しい米SSAグローバルのカシュア ル・ヴィアスRFID担当ソリューション・マネジャ ーは「ウォルマートの実験は現時点では上手くいって いる。
今の段階で実現できているのは労務費の削減と 欠品の低減だ。
彼らはICタグの活用によって今後五 年間で八三億ドルのコスト削減を計画しているが、企 業規模を考えれば現実的といえる数字だろう」と説明 する。
ウォルマートが期待するICタグの導入効果の内訳 は、スキャン検品をなくすことによる人件費の削減だ けで六七億ドル。
他に欠品の低減効果が六億ドル。
紛 失(シュリンケージ)が五億七五〇〇万ドル。
トラッ キングの自動化と在庫の可視化による在庫削減効果 が四億八〇〇〇万ドルだ。
これらは全て商品の単品ではなく、パレットとケー スにICタグを貼付するだけで実現できると考えられ ている。
当初、計画されていた単品レベルのICタグ 活用はプライバシー保護の問題や技術的な課題から、 今や現実的ではないと目されている。
それでも日本と 違って米国の大手チェーンストアではピース単位の物 流がほとんど発生しない。
物流オペレーションの効率 化という点ではパレット/ケース単位でも機能する。
しかも米国では欠品の約二五%が、在庫はあるのに、 その場所が分からないという理由から生じているとい う調査結果が出ている。
ICタグによって在庫の場所 をリアルタイムに把握できれば問題は一気に解決する。
流通過程での盗難など、いわゆるシュリンケージも日 本とは比較にならないほど大きい。
パレットとケース 単位でもICタグを実用化すればチェーンストアには 確かに大きなメリットがありそうだ。
ただしサプライヤー側は当面、メリットを享受でき そうにない。
現状ではICタグが利用されているのは、 サプライヤーの出荷時点からウォルマートの物流セン ターの入荷時点まで。
次のステップがウォルマート店 舗内。
その次がサプライヤーで、サプライヤーのサプ ライヤーまでが対象になるのは、さらにその先のステ ップになる。
サプライヤーが負担するタグの価格は現在、一枚五 〇円前後。
それをパレットとカートンの数だけ購入し、 別に書き込み/読み取り機などの周辺機器を用意す る必要がある。
オペレーションの負担も増す。
通常の 出荷処理とは分けてウォルマートに納品する商品だけ 出荷時にICタグを貼付しなければならない。
そこまでやってもサプライヤーには直接的な投資リ ターンがない。
理論的にはサプライチェーンの可視化 によって、将来はサプライヤー側でも在庫やオペレー ションコストの削減が実現できるとされているが、そ の通りになる保証はない。
そのため実験に参加してい るサプライヤーのうち、かなりの数が実は自分ではI Cタグに投資していない。
P&GやジレットなどICタグの活用に積極的な大 手メーカーの動きが大々的に伝えられる影に隠れては いるが、有力顧客の要望は断れないので実験には参加 するものの、できる限り投資を避けて、プロジェクト 第2部 13 JUNE 2005 が失敗した時のリスクを抑えようとしているメーカー も少なからず存在する。
ICタグ実験に派生市場 そうした企業を対象に、ICタグのオペレーション を代行する専門の3PL企業も登場し始めている。
そ の一つが米国テキサス州に本社を置くDCロジスティ クスだ。
もともとチェーンストアの物流センター運営 をメーンにしてきた地場の3PL企業だが、ウォルマ ートのICタグ導入実験を機に、ICタグの物流オペ レーション代行を前面に押し出して、メーカーや卸に 荷主層を拡げている。
荷主はウォルマート納入分だけをDCロジスティク スに委託することで、ICタグ用の設備投資を避け、 既存の物流オペレーションを維持することができる。
もっとも、それによってサプライヤーの在庫は分散し、 サプライチェーン上の階層は一つ増える。
究極のSC Mを目指したウォルマートの個別最適が、現状ではサ プライチェーン全体の効率を悪化させている。
それでも派生市場は拡がっていく。
3PLと同様に 物流ITベンダーにとっても、ICタグブームは新た なビジネスチャンスとなっている。
WMSベンダーと してはマンハッタン・アソシエイツがこの分野では先 行している。
同社のラリー・フェラー マーケティング営業本部 マーケティング本部長は「現在、米国では約四〇〇社 がICタグの実験を行っている。
そのうち一〇%程度 が当社のWMSを使っている。
ウォルマート向けでも サラ・リーを始め、現在九社と取り組んでいる」とア ピールする。
ケースやパレットだけでなく、単品にICタグを貼 付する取り組みでも同社は実績を持っている。
アクセ ンチュアの主導でファイザーやグラクソ・スミスクラ インなどの医薬品大手十二社が実施している単品レベ ルのICタグ活用プロジェクトには、主に同社のWM Sが用いられているという。
同プロジェクトは、偽造薬が出回るのを防ぐことを 目的に、消費者に医薬品の流通履歴情報を開示する ことを求めた「ペディグリー法」をきっかけとしてい る。
同法はいったん成立したものの、書類手続きの煩 雑さから実施を延期されていたが、ICタグの登場に よって改めて実施が検討されるようになった。
「店頭 在庫のステータス把握としては現状で最も進んだ取り 組みだ。
しかも今後は一般食品にも拡がっていくと考 えられている」とフェラー本部長は説明する。
同社に限らず、WMSベンダー各社は現在、IC タグの活用実績をアピールするのに懸命だ。
物流IT の最新トピックとしてユーザーの関心が高いことに加 え、株式市場向けのIRの点でもICタグは格好の 材料となっている。
ITバブルの崩壊以降、米国のWMS市場は低迷 している。
米調査会社のARCアドバイザリーグルー プによると、二〇〇三年のWMS市場規模は前年比 で二・七%縮小した。
パッケージだけの売り上げでは 六・九%のマイナスだ。
i2テクノロジーズやマニュ ジスティックスなど計画系のパッケージに至っては市 場自体が既に衰退期に入ったと目されている。
低迷す る物流IT市場の救済策としてもICタグは期待さ れているのだ。
ICタグの活用によってコスト削減を実現したチェ ーンストアは、今後いっそう強力な存在になっていく。
それに派生して3PLや物流ITベンダーにも新たな 市場が生まれている。
メーカーを始めとしたサプライ ヤーだけが現状では割を食っている。
マンハッタン・アソシエイ ツのラリー・フェラー マ ーケティング営業本部マー ケティング本部長 米SSAグローバルの カシュアル・ヴィアス RFID担当ソリュー ション・マネジャー 大手向け ERP 中堅向け ERP PDM CRM SRM OLAP ETL WMS 連結会計 EPM 保全管理 SCP EC (BtoC) BtoB、EAI、 BPM ●基幹業務パッケージライフ・サイクルポジショニング 導入期 資料:ミック経済研究所 成長期 成熟期 衰退期 売上高規模

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