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APRIL 2006 14
供給は減っている
国内のトラック運送会社の数は「物流二法」の施
行によって参入規制が緩和された一九九〇年以降、約
四万社から約六万社へ一・五倍に増加した。 営業用
トラックの登録車両台数も九〇年の約九〇万台から
現在は約一一〇万台にまで増えている。 需要が横這
いの状態で供給が増えれば当然、料金相場は下落す
る。 長引く運賃水準の低迷は、そう解説されてきた。
しかし、実際には運送会社と登録車両台数が増え
ているのとは裏腹に、営業用トラックドライバーの人
数は減り続けている。 国土交通省の資料によると、九
七年に約八九万人だった営業
用トラックのドライバー
数は、直近の二〇〇二年には約八一万人にまで減っ
ている。 つまり供給は一割近く減っているのだ。
ドライバーの採用ニーズ自体は旺盛だ。 労働者の過
不足状況を示す運輸・通信業の「D
.
I
.
」は二〇〇二
年二月に底を打った後、上昇し続けている。 今や労働
力を「不足」とする物流企業が圧倒的で、「過剰」と
する企業はほとんどない。 運輸業の人手不足は全産業
平均をもはるかに上回るレベルにある。
それに反してドライバーの賃金水準は下がっている。
月給と賞与を含めた一カ月当たりのドライバーの平均
賃金は、九七年の四二万六八〇〇円をピークとして、
昨年は三六万八二〇〇円まで下がった。 運輸労連の
調査によると、ドライバーの約半数は年収四〇〇万円
以下、年収三〇〇万円に満たないドライバーも一六%
あまりに上っているのが現状だ。
そ
れでも物流企業はドライバーの賃金を上げようと
はしない。 運賃が上がらないからだ。 バブル崩壊以降
の運賃相場の値下がりに対して、物流企業はドライバ
ーの賃下げで対応してきた。 相場が反転しないまま人
件費だけ上げれば逆ざやが発生してしまう。
かつてトラックドライバーは体力的にはキツいが、
それなりに稼げる商売の一つとして世間的には知られ
ていた。 その面影も今はない。 ドライバーの賃金水準
は既に限界まで下がっている。 キツイ、汚い、危険の
?3K〞に加えて、待遇面でも恵まれないとなれば労
働力が他の仕事に流れるのも当然だ。 今や人手
不足
は物流業界だけでなく産業界全体に波及している。 今
年の春闘では久しぶりに賃上げがメーンテーマになっ
ている。 他産業が賃上げを実施して労働力の確保に
動けば、そのしわ寄せは物流業界に向かう。
運送市場の需給は近く逆転する。 既にその傾向は昨
年から現れている。 図6は昨年一年間に、インターネ
ットを活用した求車求貨システムのトラボックスにア
ップされた登録情報件数の推移だ。 繁忙期の三月と十
二月はもちろん、閑散期も含め一年を通じて求車情報
が求貨情報を大きく上回っている。 「二〇
〇五年以降、
車両の足りない状況が顕著になり、現在までそれが続
いている」と同社の吉岡泰一郎社長は説明する。
トラックドライバーの派遣賃金も急騰している。 東
京圏でドライバー派遣を行うプラウドの石山光博社長
は「派遣ドライバーの賃金相場は三年前から年々上が
ってきてはいたが、とくに去年の末頃からは、いくら
時給を上げても人が集まらなくなっている。 そのため
現在は当社も仕事を常用ドライバーの派遣に絞り、ス
ポットの依頼は受けないようにしている」という。
賢い荷主の運賃政策
当面、景気の上昇は続きそうだ。 営業用トラックの
貨物輸送量も昨年の春から増加基調に転じている。 し
かしドライバーは枯渇している。 既に米国では軽油の
値上がりをキッカケとして中小運送会社の倒産や事業
ドライバー年収300万円時代
営業用トラックドライバーの賃金は1997年をピークに
して一貫して下がり続けている。 今やドライバーの2人に
1人が年収400万円以下、年収300万円以下も全体の16%
あまりに上っている。 その影響でドライバーの数自体が急
速に減ってきた。 (大矢昌浩)
第2部
15 APRIL 2006
撤退が相次いだことから、昨年春以降は、いかに協力
運送会社との結びつきを強めて安定輸送を確保できる
かが、荷主企業の物流マネジャーにとって喫緊の課題
になっている。
近く日本も同じ状況に陥る可能性が高い。 協力運
送会社の数は重要な検討課題の一つになる。 日本ロ
ジファクトリーの青木正一社長は「年間の支払い物流
費で二億円が一つの目安になる」と指摘する。 それ以
下の規模では、協力会社を一社に集約したほうが効
果的だ。 物流会社側から見ると年間二億円の売り上
げ
のある荷主であれば、専用の設備投資も可能になる。
それを分散すれば投資ができなくなる。 ボリュームデ
ィスカウントの効果も薄れる。
しかし支払い物流費が年間三億円を超える規模の
の荷主が一社に任せたままでいると「今度は協力会社
側があぐらをかいてしまう。 競争原理のないことによ
る悪影響のほうが大きくなる。 この規模になるとリス
ク分散も重要になってくるため、協力会社を複数に分けるよう指導している」と青木社長はいう。
運賃問題に詳しい物流コンサルティング会社のカサ
イ経営では、荷主企業から依頼された案件であっても、
適用している運賃が妥当性を欠くほ
ど低い水準にある
場合には、運賃の値上げをアドバイスすることがある
という。 もちろん必要以上の運賃の支払いは荷主とし
て管理怠慢の誹りを免れない。 しかし採算割れしてい
る運賃は長続きはしない。 無理を続ければ、そのしわ
寄せは結局、荷主に返ってくる。 そのリスクはかつて
ないほど高まっている。 破綻を避けるためには、荷主
企業側でも運送原価を把握しておく必要がある。 荷
主企業にとって運賃以上に重要な物流問題は少なく
ない。 ながらく値下げ要請一辺倒できた協力物流会
社との関係を再考する必要がある。
特集
25
20
15
10
5
0
−5
−10
図1 営業用トラックドライバー数の推移 図2 運輸・通信業D.I.の長期推移
(単位:万人)
02
年
01
年
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年
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年
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84
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80
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76
資料:国土交通省「陸運統計要覧」より 資料:厚生労働省「労働経済動向調査」より2004年2月に運輸業の単独区分が設置された
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年2月
11
月
8月
5月
05
年2月
11
月
8月
5月
04
年2月
不足(運輸業)
過剰(運輸業)
運輸業DI
全産業計DI
図3 運輸業労働者の過不足状況
46
44
42
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年
92
年
図4 ドライバーの平均賃金(賃金+賞与の1カ月平均)
特積み運送平均
一般運送平均
全体平均
(単位:万円)
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
12
月
11
月
10
月
9月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
1月
図6 トラボックス 求貨求車情報件数の推移
求車情報
求貨情報
(取扱件数)
資料:全日本トラック協会「トラック運送事業の賃金実態」より
資料:運輸労連
図5 ドライバーの年収
無回答 1.5%
701万円以上
1.6%
601〜
700万円
5.4%
301〜400万円
33.6%
300万円以下
16.3%
401〜500万円
24.2%
501〜
600万円
17.4%
(2005年)
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