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JUNE 2005 20
月額四〇〇円の格安トランクルーム
物流センターや倉庫の空スペースを自宅の「押し入
れ」代わりに使ってもらうトランクルームサービス。
従来は一定のスペースを間借りしてもらうことが利用
の条件となっていたが、最近では荷物一個からでも保
管を受け付けるケースが増えている。 市場が伸び悩ん
でいるのを受けて、物流各社はユーザーにとって利用
しやすいサービス・料金体系などを打ち出すことで、
新たな需要を喚起し、トランクルームの稼働率を高め
ようとしている。
全国各地に計十三万五〇〇〇平方メートルものス
ペースを用意してトランクルーム事業を展開している
日本通運もそのうちの一社だ。 もともと同社のトラン
クルームサービスは海外転勤者など法人顧客をメーン
のターゲットにしたスペース貸しが中心だった。 しか
し、ここ数年は「海外転勤の減少などに伴い、引越件
数が頭打ちになるにつれ、トランクルームにも空スペ
ースが目立つようになってきた」(海運事業部の志村
信仁課長)。 そこで今年四月からは新たに個人顧客を
対象にした荷物一個からでも利用できるサービスを提
供している。
新サービスは「ネットインクローゼット」。 同社の
川崎海運支店が独自に開発、販売している。 東京、神
奈川、千葉、埼玉の一都三県限定のサービスで、一
カ月の保管料金はカートン(段ボール箱)の大きさに
よってSサイズ四〇〇円、Mサイズ五〇〇円、Lサイ
ズ六〇〇円に設定した。 ユーザーはプラス「出し入れ
時の送料」で利用できる。
保管スペースは川崎市の「東扇島国際物流センタ
ー」内に用意した。 同センターのワンフロア(延べ床
面積約三〇〇〇平方メートル)に専用ラックを設置
して、そこに荷物を格納している(写真)。 トランク
ルーム内の温度は一五〜二〇度、湿度は五〇〜六〇%
で一定に保たれており、スペース貸しの従来サービス
に比べ品質面でも遜色はない。
利用の申し込みはインターネットのみで受け付けて
いる。 ユーザーはまず「ネットインクローゼット」の
ホームページにアクセスして会員登録を済ませ、日通
から専用カートンを受け取る。 続いて自宅で衣料品や
日用雑貨などをカートンに梱包。 日通に荷物の集荷を
依頼する。 日通は「ペリカン便」のネットワークを使
ってユーザー宅に荷物を取りにいき、川崎の物流セン
ター内に用意されたトランクルームに格納する、とい
う仕組みだ。 ユーザーは荷物の出し入れをインターネ
ットを通じて指示できるほか、料金の支払いをクレジ
ットカードでネット決済できる。
第三者が剥がすとカートンに跡が残る「封印シー
ル」も開発した(写真)。 物流センターでは入荷時に、
荷物に蓋をしているクラフトテープ部分にクロスさせ
るかたちで同シールを貼付している。 それによってユ
ーザーのプライバシーを守ったり、荷物の中身の紛失
に絡むトラブルを回避するのが狙いだ。
「従来のスペース貸しが伸び悩んでいるのは料金負
担が重いためで、トランクルームのニーズそのものが
縮小しているわけではない。 もう少し手軽に利用でき
るサービスを提供すれば、空スペースは埋まるはずと
見ていた」と川崎海運支店の鳴嶋猛管理課長。 料金
を低く抑えるため、例えば、利用の申し込みや料金決
済をネット上に限定し、顧客との電話でのやり取りな
どをなくすことで、管理コストを掛けないような仕組
みにしている。
販売開始から約二カ月が経過したことで、「ネット
インクローゼット」の認知度は徐々に高まり、それに
Case Study《ICタグ》――日本通運
新サービスのロケーション管理に活用
今年4月にトランクルームの新サービスを開始した。
従来のスペース貸しではなく、荷物1個からでも保管を
受け付けるのが特徴だ。 顧客から預かった荷物には入荷
時にICタグを貼付。 物流センター内のロケーション管理
などに役立てている。 (刈屋大輔)
第3部WMS とICタグの導入事例
21 JUNE 2005
伴い引き合いも増えてきているという。 現在、取扱量
は数百個程度にとどまっているが、川崎海運支店では
二〇〇五年度中に一万個まで伸ばしたい考えだ。
ICタグで保管場所を特定
これまでトランクルームサービスの利用者は海外転
勤者などが圧倒的に多く、保管期間も半年〜三年程度
と長期に渡るケースが多かった。 そのため、物流セン
ターでは荷物の出し入れが、ほとんど発生しなかった。
これに対して、新サービスでは?押し入れ感覚〞で利
用してもらうことをセールスポイントにしている。 そ
れだけに、従来よりも荷物の出し入れが頻繁に行われ
ることが予想された。
しかもサービスの小口化でユーザー数は数倍に膨れ
上がる。 さらに正午までの引き取り申し込みに対して、
翌日にはユーザー宅に荷物を届ける必要がある。 もと
もと?保管在庫型〞だった商売を、出し入れが繰り
返される?回転の早い〞商売に見直すことによって、
物流センターでは「入出荷作業の迅速かつ正確な処
理が求められるようになった」(鳴嶋課長)という。
そこで物流センターでは荷物の入荷からロケーショ
ン管理、そして出荷までのオペレーションのコントロ
ールにICタグを活用することにした。 作業の流れは
こうだ。 まずセンターに到着した荷物にカートン番号
(ユニーク番号)を入力したICタグを貼付する。 次
に荷物を空いているラックに格納していくわけだが、
その際にラックのロケーション番号(バーコードを利
用)をハンディ型リーダーでスキャンしてカートン番
号と紐付けしてから荷物を格納する。 これで入荷作業
は完了だ。
続いて出荷作業。 最初にユーザーから引き取り指示
がインターネット経由で寄せられる。 この情報をもと
にカートン番号を割り出し、ピッキング作業をスター
トする。 作業員はハンディに表示されたロケーション
番号に従ってラックに移動し、対象となる荷物をピッ
キングする。 最後に荷物からICタグを取り外し、ペ
リカン便の送り状を貼付して出荷準備が整う。
ちなみに使用しているのはオムロン製のカードタイ
プのICタグ(写真)で、電波の周波数は一三・五
六メガヘルツ。 一枚一〇〇円と高価だが、データの書
き換えが可能で、物流センターでは何度も繰り返し利
用することでコスト負担を抑えている。
ICタグは期待通りの成果をもたらしてくれた。 作
業員はピッキングの対象となる荷物が保管されている
ロケーションに迷うことなく辿り着けるようになった。
その結果、ユーザーからの引き取り指示を受けてから
出荷準備を終えるまでの作業をスピーディーに処理で
きている。
もっとも、今回構築した入出庫管理システムはその
運用形態を見るかぎり、データキャリアをICタグではなく、バーコードに置き換えても十分に対応できる。
それでも敢えてICタグを採用したのは「ICタグに
はどのようなメリット、デメリットがあるのか、そし
て物流現場の改善に本当に役立つのかどうかを見極め
るための社内実証実験という意味合いもある」(東京
国際輸送支店情報システムセンターの荒尾孝志課長)
という。
日通が、実際に動いているサービスの中でICタグ
を使うのは今回が初めて。 「ネットインクローゼット」を
通じて得られる検証データをもとに、今後は他部門で
もICタグ導入の可能性を探っていきたい考えだ。 新
サービスはトランクルーム事業の新たな収益の柱とし
て期待されていると同時に、社内では初のICタグ実
用例としてその成果に大きな注目が集まっている。
1つのラックに複数のユーザ
ーの荷物を格納する
ロケーション表示ではバーコ
ードを活用
カートンに跡が残る「封印
シール」を開発した。 紛失
に絡むトラブルを回避する
のが目的
オムロン製のICタグ。
価格は1枚100円
ICタグをスキャンしてカー
トン番号とロケーション番号
を紐付けする
ICタグの周波数は13.56MHz。
リーダーを数十センチまで近
づけて読み取る
●東扇島国際物流センター内のトランクルーム
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