ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年6号
特集
ホントの物流IT 社外に頼るとシステム投資は失敗する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2005 22 業務フローの整理がIT活用の大前提 ――松本さんが昨年十一月までロジスティクス部門の 責任者を務めていた花王は、一貫してソフトウエアの 自社開発にこだわっています。
「とくに自社開発にこだわっているわけではありま せん。
使いやすいパッケージがあるのであれば導入す ればいい、という主義です。
ただソフト屋さんが作っ たWMSとなると、これはちょっと違う。
自分たちの 業務に要らない機能が多かったり、肝心な部分はしっ くりこないなど、どうしても違和感がある」 ――ロジスティクス分野でITを使いこなすコツは? 「まず何よりも『業務フローの整理』からスタート する必要があります。
誰が、誰に、どのような指示を 出すのかという業務の流れを、最初に明確に描き出し ておかなければいけない。
具体的なフローは、その企 業が扱っている商品によって違いますが、システムの 導入手順そのものは同じです」 「最初に『業務フローの整理』があるからこそ、『シス テムの要件』が決まり、『システムの仕様書』も作成 できる。
ここに至って初めて、良いパッケージがある から導入しようとか、無いから自主開発しようという 話になるわけです。
重要なのは、最初にやるべき『業 務フローの整理』は自分たちにしかできないというこ とです。
コンサルタントやソフト屋さんにやってもら える仕事ではない。
しかし現実には、ここで間違いを 犯している企業が少なくありません」 ――たしかに自分たちで業務フローを整理できなけれ ば、良いシステムなどできるわけがありません。
「少なくとも私はそう考えています。
ところが多く の企業が、WMSを使っていないなんて時代遅れだと か、これさえ導入すれば効率化できるなどと言われて、 こうした手順を踏まずにシステムを導入してしまう。
これでは現場が混乱するのも当然です」 「結果として、膨大なお金をかけた情報システムが 使えないなどと言い出す始末です。
最悪なのは、表向 きは最新のシステムを導入しておきながら、実は昔の やり方のまま仕事をしているといったケースです。
何 かの機会にシステムからデータを引っ張り出そうとし てみたら、肝心なデータがなくて、初めて実態に気づ いたなどという笑えない話になってしまう」 ――なぜ、そんな単純な間違いを犯すのでしょうか。
「ロジスティクスでもITでも同じですが、こういう やり方で行こうと意思決定をする人たちが、業務の中 身を知らないからでしょうね。
だからソフト屋さんの セールストークに簡単に乗せられてしまう。
本来であ れば、ITにカバーできない業務をきちんとこなせる ことがシステム化の大前提になります。
つまり、IT を導入する以前に、やるべきことをちゃんとできてい るかどうかが失敗しないためのポイントです」時間短縮のために既製品を利用する ――花王ではWMSというのを意識していましたか。
「いや、少なくとも私自身はあまり意識していませ んでした。
あくまでも全体の仕組みの一部に過ぎなか った。
昔流にいうと、花王には『販社システム』とい う与信管理を含めた受発注のための仕組みがあります。
この仕組みの中で、物流センターにある在庫を引当て るという指示までやっていましたからね」 ――多くの企業が機能別に考えてしまう中で、なぜ花 王にはそのような考え方が可能だったのでしょうか。
「私たちが物流の仕事をはじめた九〇年頃、当時の 花王の副社長だった方が、『会社にはマーケティング の仕事とコーポレートの仕事しかない。
研究所も工場 「社外に頼るとシステム投資は失敗する」 イオン松本忠雄特別顧問 SCM管掌(多摩大学大学院 客員教授) ロジスティクス部門がITを導入するときには、事前に “業務フローの整理”をしなければいけない。
しかも利用 者自身がこれを手掛ける必要がある。
ここでコンサルタン トやITベンダーに頼ってしまう企業の多くは、システム投 資に失敗する。
(聞き手・岡山宏之) Interview 23 JUNE 2005 も物流も販売も、みんなマーケティングに含まれる』 と言っていました。
そういう社内教育を受けていたと うのもあるし、まあ花王という会社は当時から全体最 適のようなことを言っていましたからね。
一気通貫で やるというのが我々にとっても当然でした」 「企業というのは、従来より良い商品を、いつまで に市場に出すといった目標を常に持って動いています。
それを達成するうえで、生産は何ができる、物流は何 ができるといった話をしている。
そこを担当部門が 『いや私のところは‥‥』などと言っていたら話にな りません。
一緒になってやらざるを得ないんです」 ――花王と違ってイオンはかなりパッケージソフトを 使っています。
ITに対する考え方が異なる? 「そこは時間を短縮するためだと思います。
イオン はロジスティクスで他社と差別化しようと決断したわ けですから、それを早く実現するために既製品を使う のは理解できます。
ただ、こうした場合も、自分たち は、あくまでもITベンダーにオーダーを出すクライ アントだということを忘れてはいけません」 ICタグのコストは誰が負担するのか ――ICタグについてもお聞きしたいのですが、花王 にはバーコードだけで製品の履歴を遡る仕組みがあっ て、二次元バーコードすら使っていません。
「最終製品に何かキーになる識別番号があれば、あ とはデータベースを作ればいいだけですからね。
必要 な情報を瞬時に取り出せる外枠のシステムを作ること こそ重要です。
そこでキーになるのがJANコードだ けで十分かというと、食品のように製造ラインや製造 期日まで細かく管理する商品を扱うとなると、たしか に足りない」 「じゃあ、そういう情報を付加していく手段として 何があるかと言えば、さまざまです。
バーコードを二 次元に変えるという方法もあるし、それでも足りなけ れば二次元バーコードを二つ並べることだって可能で す。
そうした選択肢の一つとしてICタグがあるに過 ぎない。
現実には、わざわざ機械で読み取らなくても、 日付だとか、固有の識別番号を人間が目で読めるよう にさえしておけば、そこからヒモ付けして必要な情報 を溯ることができます。
どこの工場で、どんな処理を したのか、どういう経路で運んだのかまで分かる」 ――ただICタグの話で厄介なのは、米ウォルマート が本気でやろうとしている点です。
日本のメーカーも、 やらざるを得なくなるかもしれません。
「本当に実用化されて、そのコストを皆さんが受け 入れてくれるのであれば、日本でも使えばいいんです。
アメリカの場合は、シュリンケージなどでモノと情報 のズレがもの凄く発生している。
そこでの損失をIC タグを使って防ごうとしているのだから、彼らの場合 は投資してもムダではありません。
ところが日本では、そういうところに原資を求められない」 「ICタグを導入するのは結構ですが、そこで掛か るコストを、誰が、どのように負担するのかという話 です。
最終的には、お客さんが負担するしかない。
本 当にそれでいいのですか、ということですよ」 ――ロジスティクスの実務家は、ICタグの長所と短 所をきちんと経営陣に伝える必要がありますね。
「その人の考え方次第でしょう。
新しいことをやる のが自分の仕事だと信じている人だって沢山いますか ら。
たとえば、ある百貨店が、ICタグを使うと靴の 在庫の有無がすぐに分かるなどと言ってますよね。
そ りゃあ、そうでしょう。
でもね、いわゆるロケーショ ン管理さえきちっとやっていれば、余計なコストなど 掛けなくても分かって当然なんです」

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