ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年6号
特集
物流コンサルガイド 3PL系コンサルの実力

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2006 14 佐川急便のヒモなし提案 今年五月某日、東京・新橋の貸会議室。
銘柄米「あ きたこまち」や加工米を産直販売する大潟村あきたこ まち生産者協会は、新たな物流システムの開発委託 先を選別するコンペの説明会を開催した。
会を仕切っ たのは佐川急便のサプライチェーン・ロジスティクス 事業部だ。
今年三月にコンサルティング契約を結んで 以来、あきたこまちの業務改革をサポートしている。
あきたこまちの大越均常務は「新米の出荷が本格 化する今年一〇月までに新たな受発注システムを構築 するところまでがコンサルティングの第一フェーズ。
一〇月以降の第二フェーズでは、ネット通販の強化な どを支援してもらう。
その後も佐川さんにはパートナ ーとして長くつ き合ってもらうつもりだ」という。
現在の年商は約六〇億円。
年間の支払い物流費は 約四億円。
年間二五万俵分にあたる米を全国約五万 人の個人会員と七二〇〇社の法人会員に直送してい る。
そのほとんどに従来はヤマト運輸の「宅急便」を 利用してきた。
現在の物流システムも「宅急便」の利 用を前提にヤマトシステム開発が構築したものだ。
しかし、ここ数年の経営環境の変化は、創業以来 蜜月を続けてきたヤマトとの関係に影響を与えている。
あきたこまちの顧客層は従来の一般消費者から、外食 チェーンや病院、チェーンストアなどに拡大している。
中ロット以上の荷物 が主体となる企業間物流をヤマト は得意としていない。
加えて「宅急便」の配送リード タイムも、「地元の秋田発関東向けに関しては、ヤマ トは他社より半日遅い。
本来なら配送方面別に宅配 会社を使い分けたいところだが、現在の物流システム は、ヤマト以外の宅配会社には対応できない仕組みに なっている」と大越常務はいう。
同社は大手チェーンストアをはじめとした大口法人 需要の拡大と、研がずに炊ける「無洗米」や発芽玄 米などの機能性加工米の強化によって、今後は年率 二〇%ペースの売上増を見込んでいる。
受注処理件 数の増 加および企業向けB to B物流に対応した新た な仕組みの構築が急務となっていた。
その手助けを佐川に求めた。
〇五年五月、あきたこ まちは、B to Bの配送を佐川に移管した。
その担当 営業マンから、同社のサプライチェーン・ロジスティ クス事業部の紹介を受けた。
〇五年三月に新設した ばかりの部署で、一般のコンサルティング会社と同様 に、派遣するコンサルタントの人月単位でフィーを請 求することになるが、従来の提案営業とは異なり完全 に中立的な立場で荷主の業務構築を支援するという。
実際 、同事業部のクライアントには、物流実務では 全く佐川とつながりのない荷主も珍しくない。
関西に 本社を置く中堅医薬品販売業者もその一つだ。
ホー ムページ経由で相談を受け、面談後にコンサルティン グ契約を締結。
同事業部が販売実績データを分析し て、在庫の配置を見直すことで、在庫の半減を実現し た。
その後も同社のサポートは続けているが、物流実 務での取引はない。
冒頭のコンペでも、ヤマトシステム開発をはじめパ ートナー候補となるシステム開発会社一〇社が同事業 部のアドバイスによって選ばれているが、そこに佐川 系は入っていない。
同事業部でこの案件を指揮 してい る上村聖コンサルティング・グループ上席コンサルタ ントは「我々の立場を誤解されるのを避けるため、あ えて当社のグループ会社を候補に加えることは避けた。
宅配便に関しても我々が当社を勧めることはしていな い」と説明する。
今のところ同事業部のコンサルティングフィーは相 3PL系コンサルの実力 有力3PLが物流コンサルの事業化を進めている。
荷主か ら物流アウトソーシングを受託するための営業手段というだ けでなく、コンサルティング報酬そのものを新たな収入源と する動きが拡がっている。
そのための専門部隊を設置するケ ースも増えてきた。
(大矢昌浩、刈屋大輔) 特集 15 JUNE 2006 場よりも若干安く設定されている。
事業として、それ ほど大きな収益が見込めるわけではない。
しかし、ひ も付きの提案では結局、クライアントの信頼は得られ ない。
それよりもコンサルティングの実績を積み上げ ることで、3PLとしてのブランド力を向上させるほ うが、最終的には物流業務の受託にもプラスに働くと いう判断だ。
既に、あきたこまちは今年五月、B to Cの配送の 一部もヤマトから佐川に切り替えている。
さらに新た に構築するシステムでは、ヤマトだけでなく佐川を含 めた他の運送会社との連携が容易になる。
あきたこま ちの大越常務は「もちろんヤマトさんとは今後もずっ と お付き合いしてもらうつもり。
しかし当面は新シス テムの稼働を挟んで、佐川さんに委託する分が増える ことになるだろう」という。
ソリューション磨く日通総研 こうしたアプローチを最も早くから行ってきたのが、 日本通運グループの日通総合研究所(=日通総研)だ。
物流・ロジスティクス分野の調査・研究や、梱包・ 包装といった物流技術の開発を手掛けるシンクタンク として設立された同社が、荷主向けのコンサルティン グサービスに進出したのはおよそ二〇年前。
本誌連載 陣の一人、湯浅和夫氏が日通総研時代に経済研究部 内に立ち上げた「企業物流研究室」が、のちに「経営 コンサルティング部」として独立し、現在に至ってい る。
実績は豊富だ。
同社の場合、「相談に訪れるクライアントの大半は ソリューションの提案と実際のオペレーションの管理 をセットで提供することを求めてくる。
そうしたニー ズに応えている当社はコンサルティングファームとい うよりも、むしろ3PLとして機能していると言える かもしれない」と経営コンサルティング部の山田健部 長は説明する。
実務が伴う案件の場合、日通本体は 企画の段階から高度な専門知識を持った担当者をプ ロジェクトチームに派遣するなど日通総研を全面的に バックアップしている。
しかしその場合でも、委託先 として必ずしも日通が選択されるとは限らない。
「例えば『日通の色がつくと困る』という要請があ ったり、日通の物流インフラそのものがクライアント のニーズに合致しない場合には他の 物流会社の機能を 利用するケースも少なくない」と山田部長はいう。
ここ数年、日通総研に相談に来るクライアントのニ ーズには変化が見られるという。
日通総研がこれまで 得意としてきたのは物流ABC(活動基準原価計算) の導入や物流センターの動線設計といった現場系のソ リューションだった。
実際にクライアントから寄せら れる案件も従来はこうした機能別の改善を求める内容 が圧倒的に多かった。
ところが、近年は「サプライチェーン全体の再構築」や「グローバルベースでのロジスティクスの仕組 みづくり」といった、より広い守備範囲を要求される 戦略系の案件が増加しつつある。
それに伴い、日通総 研では 物流現場に強い日通出身のコンサルタントに加 え、生産管理やマーケティング、財務といった物流以 外の領域を専門とするコンサルタントの育成や新規採 用を急いでいる。
佐川のサプライチェーン・ロジスティクス事業部で も十二人のコンサルタントのうち、八人がコンサルテ ィング会社や外資系荷主企業など社外から招いた中 途入社組が占めている。
逆に有力物流会社からコンサ ルティング企業に転職するケースも増加している。
コ ンサルタントと3PLの業務範囲がクロスオーバーし てきたのに伴い、人材の流動化も進んでいる。
佐川急便の上村聖コン サルティング・グルー プ上席コンサルタント 日通総研の山田健経営 コンサルティング部部長 システム開発会社向けの説明会で、大潟村あきたこまち 生産者協会の事業モデルを説明する涌井徹社長

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