ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年7号
ケース
マテハン--トリンプ・インターナショナル・ジャパン

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2006 32 新製品を毎週投入 ドイツに本社を持つトリンプ・インターナ ショナル・ジャパン(以下トリンプ)は、国 内二位の婦人下着メーカーだ。
婦人下着の国 内販売市場が年々縮小しているにもかかわら ず、トリンプは一九期連続で増収増益を重ね、 着実にシェアを伸ばしている。
売り上げの三 割を占める直営店チャネルの拡大が成長を牽 引している。
実際、〇五年の決算でも前年比 一五%増の直営店部門が不振の百貨店部門 をカバーした。
婦人下着の商品寿命は年々短くなってきて いる。
そのため直営店では新製品を毎週投入 し、補充せずに売り切る独自の販売戦略を展 開 している。
新製品の売り上げが失速し始め るタイミングで、次の新製品を投入し、売り 上げのピークを何度も作る。
その売り上げカ ーブをとって、同社では「八ヶ岳マーチャン ダイジング」と呼んでいる。
同社が主力とするブラジャーはアパレル製 品のなかでも群を抜いて品目数が多い。
サイ ズ展開が小刻みで、色展開もあるため一つの デザインで品目数は一〇〇SKU(ストッ ク・キーピング・ユニット:在庫管理の最小 単位)を超える。
とりわけ「八ヶ岳マーチャ ンダイジング」によるこまめな商品投入を特 徴とするトリンプでは、取扱SKUが三万四 〇〇〇に上っている。
その全てを同社唯一の国内物流拠点「トリ ンプ静岡センター(以下、静岡センター)」で 処理している。
九五年に約五〇億円を投じて 建設した自動化センターで、注文を受けてか ら出荷するまで最短二〇分で処理することが できる。
場所は東名高速道路掛川インターチ ェンジから約一五分に位置する。
日本列島の ほぼ中央に当たり、北海道から沖縄まで全国 どこでも出荷翌日の配送 が可能だ。
同センターができるまでは、東京と滋賀の 二拠点体制で、東京はプロパー商品、滋賀は バーゲン商品と、別々に管理していた。
売上高約三〇〇億円が見えてきたのを機に、拠点 を集約し在庫を一元管理する体制に改めた。
同時に自動倉庫や「マップカート」などのマ テハン、商品管理のコンピュータシステムを 導入し、受注翌日出荷だったリードタイムを、 当日出荷に短縮した。
二〇億円投じて物流施設を強化 しかしその後、直営店の出店拡大などで物 量が増加し、センターの処理能力も限界に達 していた。
九五年度二七六億円だった売上高 が〇三年度には四七七億円に達し、五〇〇億 マテハン トリンプ・インターナショナル・ジャパン デジタルピッキングシステムを導入 作業スピードを2倍にして物量増に対応 受注後最短20分で出荷する自動化センターを95 年に稼働させた。
しかしその後、物量とアイテム 数の増加によってセンターの処理能力は限界に。
センターの規模を拡大すると共に、マテハン機器 を活用してオペレーションを改善した。
作業効率 は従来の倍になり、平均4時間にもおよんでいた 残業がほとんどなくなった。
トリンプ静岡センターの 天川義雄工場長 33 JULY 2006 円突破も目の前に迫っていた。
それに対応するため、〇三年にセンターを 増築して機能を増強することを決定。
センタ ーの隣接地を購入し、四万八八五平方メート ルの敷地を確保すると共に、マテハンメーカ ーを対象にコンペを行った。
プロジェクトのパートナーはダイフクに決 めた。
「従来の仕組みで動いているときに、問 題点として挙がったのがものすごくあった。
それを全て洗い出し、ダイフクさん、そして 当社から物流課の他にITの担当者も加わっ て、とにかく話し合った。
約一年かけて、増 築棟のレイアウトや新しい仕組みを詰めて い った」と、トリンプ静岡センター物流課の松 浦清治課長は振り返る。
それまで同センターでは、ピースピッキン グの処理を全てデジタル式のピッキングカー トで処理していた。
特定の場所で作業指示デ ータを読み込む必要があり、動線にムダがあ った。
また、ピッキングの棚も一つのSKU に一つの棚しか割り付けられなかったため、ピッカーが一カ所に集中して通路が混雑し、 作業がスムーズに行われないなどの課題があ った。
新センターでは、ピッキングの間口を従来 の二万二二〇〇からほぼ倍の四万五五七六に 増やした。
収容 能力を高めるために、入荷し た商品を保管しておくケース用自動倉庫の規 模も二倍にした。
クレーン六台・十二列を追 加してクレーン十二台・二四列になり、保管 できる箱の数が一六万箱になった。
新しく追 加した自動倉庫はクレーンの動きも速く、従 来の一・五倍の速さで箱を出し入れできる。
搬送速度の向上により、全体で一日約一万箱 を入出庫できるようになった。
ピッキング作業には、従来のカートピッキ ング方式に加えて新しくデジタルピッキング システム(DPS)を導入した。
カートピッ キング方式では、ピッカーは作業内容が表示 されるモニター付きの カートを押して移動し ながら作業を行う。
ピッキングする商品間の 移動に時間が掛かる。
DPSでは、ピッカーはピッキング棚の前 に立ち、目の前の棚からピッキングを行う。
作業者一人がそれぞれ縦三段、横十二列の計 三六アイテムを担当する。
移動に時間が取ら れないため、新製品や売れ筋商品、バーゲン 品など、まとまった数量で出荷される商品を 効率よくピッキングできる。
一時間あたりの 処理枚数はカートピッキングの一五〇枚〜一 八〇枚に対し、DPSは約二倍の三五〇枚〜 三六〇枚だ。
入荷した商品を保管する自動倉庫とは別に、 出荷する商品の一時保管のためにも専用の自 動倉庫を導入した。
指定納期に余裕のある注 文を前もってピッキングしておき、出荷日ま で一時保管しておく。
「バッファー倉庫」と呼んでいる。
従来は、先行作業済みで出荷待 ちの箱をパレットに載せて平積みしておき、 出荷日が来たら手作業で出荷ラインに投入し ていた。
バッファー倉庫の導入で、出荷日が 来ると該当の箱が自動的に出荷ラインに送ら れるようになった。
最新のマテハン設備を導入 入荷から出荷までのフローは以下の通り。
商品はSKUごとに梱包された箱で入荷する。
この時点で検品はしない。
入荷した箱を一個 単位でベルトコンベアに載せ、自動倉庫に搬 物流課の松浦清治課長 550 500 450 400 0 98 99 00 01 02 03 04 05 4.5 4.0 3.5 0 4.62 4.57 4.22 3.78 3.78 3.84 3.77 3.93 3.78 394 395 402 417 442 477 510 524 (年度) 売上高(億円) 図1 売上高と物流経費率の推移 物流経費率(%) JULY 2006 34 ピッキング済みの箱は、コンベアに載せて出 荷準備の工程に送る。
一方、カートピッキングエリアのカートに は、無線LANで情報システムとつながった ハンディターミナルが搭載されている。
コン ベアで流れてきたピッキング用の空箱に貼付 されたジョブナンバーをハンディでスキャン すると、カートの正面に取り付けられた液晶 画面に作業リストと、ピッキングを行う棚の 位置が図で表示される。
ピッカーは指定の場所にカートを移動し、 指示された商品をピッキング、商品のバーコ ードをスキャンして箱に投入する。
商品や数 送。
その過程で、自動計測器によって重さと 大きさを自動的に計測 する。
工場出荷時に貼られたラベルのバーコード をコンベアに取り付けられたセンサーが読み 取り、入荷すべきアイテム・数量と照合して 箱の中の数量に過不足がないかチェック。
軽 すぎて数量不足の疑いがある場合は、確認用 のラインに送られ、開封して検品する。
問題 なしと見なされた箱には、センター内の管理 に用いるバーコードラベルが貼られ、自動倉 庫に保管される。
受注データ(=出荷指示データ)は、本社 システムから静岡センターに随時送られてく る。
出荷用の箱は四種類ある。
受注内容に応 じ、自動製函機が適切な箱を組み立てる。
受 注〜出荷を一貫して管理する「ジョブナンバ ー」を印字したバーコードラベルが箱に貼付 され、コンベアを伝ってピッキングエリアへ。
ピッキングエリアは、ピッキングの作業方 式によって二つに分かれている。
まとまった 数量の商品を出荷する箱はデジタルピッキン グエリアへ、単品単位で商品を出荷する箱は カートピッキングエリアに送られる。
デジタルピッキングエリアのコンベアにピ ッキング用の空箱が流れてくると、コンベア に取り付けられた読み取り 機がジョブナンバ ーを読み取り、棚の表示器にピッキングすべ き数量が点滅する。
ピッカーは、表示されて いる数だけ商品をピッキングし、箱に投入。
表示器のボタンを押して作業完了を確定する。
図2 入荷〜受注〜出荷の流れ 箱サイズ計測 管理用ラベル貼付 自動倉庫入庫 保 管 受 注 自動製函 受注データ ラベル貼付 値札・伝票発行 ピッキング 自動封緘 出 荷 入 荷 値札・伝票投入 値札付け 入荷した箱は、専用の機械で重さと大きさを自動計測(写真左)。
コンベアを伝って自動倉庫に搬送(同 中)。
自動倉庫の入出庫は、1日1万箱が可能(同右)。
写真1 各工程でマテハン設備を活用 35 JULY 2006 量に誤りがあれば、この時点で画面にエラー メッセージが表示されるので、あとから再確 認作業を行う必要はない。
作業リストのピッ キングが完了したら、コンベアに載せて出荷 準備の工程に送る。
出荷準備の作業者は、あらかじめ受注デー タに基づいて発行された百貨店や量販店の専 用値札と伝票を、ピッキングが完了して流れ てきた箱に入れる。
そのうち商品に直接値札 を付ける必要がある箱は、値札付けの工程に 送る。
出荷準備が整うと、専用の機械で自動 封緘され、出荷ラインに送られ る。
配送は主に佐川急便に委託している。
出荷 バースには佐川急便専用の搬出口が二つある。
常にトラック二台が待機し、出荷ラインに送 られてきた箱が滞留することなく次々と積み込まれる。
デジタルピッキングの活用が課題 増築と設備の増強で作業効率が上がり、そ れまで平均で四時間、ピーク時には五、六時 間行っていた残業が大幅に減った。
現在は、 ほぼ定時の八時間稼動で出荷作業を完了でき るようになっている。
「だが、当初予定していた能力はまだ出し 切れていない。
設備の能力もあるが、運用を する側、使う側の問題がある。
モノの配置で あるとか、どこでどう作業するだとか、そう いう点でまだマッチしていないところがある ので、運用を続けながら調整をかけているの が実情だ」と静岡センターの天川義雄工場長 は言う。
そのなかでも一番 の課題が、新しく導入し たDPSの活用だ。
直営店の「アモスタイル」 では毎週木曜日を新商品の発売日にしている。
その前日と前々日の火曜日と水曜日にセンタ ーではDPSをフル稼動して、一時間に三五 〇枚〜三六〇枚のピッキングを行っている。
だが、その他の曜日はDPSの稼働率が下が る。
DPSの効果は、商品当たりの数量がまとまってこそ発揮できる。
DPSとカートピ ッキングをどう使い分けるのか、見極めが難 しく、試行錯誤が続いている。
取材を行ったのは木曜日で、空の棚が目に 付 いた。
松浦課長はそれを指さして「これが こうやって遊んでいるのは一番よくない。
も ったいない。
それでも導入した当初は八時間 で一〇万枚だった出荷能力が現在は一四、五 万枚まで上がった。
DPSがうまく稼動すれ ば、目標にしている一日当たり二〇万枚出荷 は実現可能だ」と意気込んでいる。
(森泉友恵) ? ピッキング用の箱に貼付された 「ジョブナンバー」をスキャン。
? カートの正面に取り付けられた液晶 に作業リストが表示される。
?指示された商品をピッキング。
?商品のバーコードをスキャンして箱 に収める。
写真2 デジタルピッキングシステム(DPS)での作業の様子 ピッカーは1人で縦3 段×横12列の計36ア イテムを担当。
数字が 点滅する商品を、表示 された数量どおりにピ ッキングする。
写真3 カート式ピッキングでの作業の様子

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