ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年7号
特集
クロネコヤマト解剖 路線便だけではニーズを満たせない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2006 20 共同配送に市場を奪われた ――なぜ特積み事業は儲からなくなってしまったので しょうか? 「ここ数年は特積み事業に限らず、区域も含めたト ラック運送事業全体の収益力が落ち込んでいるわけで すが、理由は簡単です。
運賃が低下しているからにほ かなりません。
国内の貨物輸送量はこの一〇年間、ほ ぼ横ばいで推移している。
これに対してトラック運送 事業者の数は右肩上がりで増え続けている。
輸送の需 要に対して供給量が増えているわけですから、当然運 賃は下がっていきます」 「中でも特積みの落ち込みの 度合いが激しいのは、特 積みが提供してきたサービスがコストや品質の面で市 場のニーズにそぐわなくなってきているためだと見て います。
品質面に言及すれば、特積みは貸し切りに比 べ積み替え作業の回数が多い分だけ、貨物にダメージ の加わる可能性が高い。
集荷から配達までのリードタ イムもターミナル拠点を経由するため、どうしても貸 し切りに劣る。
特積みはパッケージ化された物流シス テムであり、お客さんにはこうした様々な制約条件に 眼を瞑ってもらうことが利用の前提となっています。
これに対して現在、お客さんが強く 求めているのは自 社のSCM戦略などにマッチするオーダーメイド型の 物流システムです」 ――物流の多頻度小口化が加速しています。
こうした 傾向は特積みにとってむしろ追い風なのでは? 「特積みのマーケットを川上と川下に分けて考えて みてください。
川上とはメーカー〜卸〜小売りで、川 下とは小売り〜消費者です。
多頻度小口化の恩恵を 受けている特積み会社はこのうち川下に強い会社、つ まり宅配便を主力とするヤマト運輸や佐川急便といっ たプレーヤーだけです。
ご承知の通り、宅配便のマー ケットは依然として高い伸び率を示しながら拡大を続 けています」 「一方、川上でも小口での出荷が増えていますが、そ れらがすべて特積み会社に流れているわけではない。
現実には区域業者が展開している共同配送サービスに マーケットを奪われているのが実情です。
共同配送は 同じ積み合わせ輸送でも、混載する荷主の数が少ない 分、特積みよりも品質の高いサービスを提供できます。
パッケージ化されているとはいえ、共同配送はどちら かといえばオーダーメイド型に近いため、お客さんに 支持される」 ――規制緩和で区域業者による積み合わせ輸送が認め られるようになりました。
そのことは特積み会社 にと って大きなインパクトでしたか? 「一部の区域業者は昔から積み合わせ輸送をしてい ました。
日本の規制緩和は市場の実態を後追いしてい るにすぎません。
規制緩和によって区域業者の積み合 わせ輸送に加速度がついたという意味では特積み会社 に影響があったのかもしれない。
ただし、規制緩和で 流れが一変したという認識はありません」 「区域業者はものすごい数が存在しているわけです から、中にはかなり安い運賃でお客さんに積み合わせ 輸送を提供するプレーヤーも出てくる。
お客さんから してみれば、自分たちの要求スペックに合せ てくれな い特積みのサービスよりも、運賃が安くて融通も利く 区域の積み合わせ輸送を利用したほうがいいという話 になります」 アセット型3PLで勝負する ――特積み会社が競争優位を発揮できるマーケットの 範囲は徐々に狭まってきています。
「路線便だけではニーズを満たせない」 第一貨物 武藤幸規社長 特積み不振の原因は提供するサービスが品質やコスト 面で市場のニーズにそぐわなくなってきたためだ。
荷主は 特積みのようなパッケージ化された物流システムではなく、 自社のSCM戦略に合ったオーダーメイド型の物流シス テムを求めている。
(聞き手・刈屋大輔) 路線便の陳腐化と次の一手 21 JULY 2006 「特積みネットワークという汎用型の物流システム をいくら売り込んでも、もはやお客さんは受け入れて くれない。
お客さんが一〇〇〇社あれば、一〇〇〇通 りの物流ニーズがある。
それにきちんと耳を傾けて、 最適な物流の仕組みをそれぞれに提供できるようにな らなければ、特積み会社は今後生き残っていけないで しょうね。
ネットワークありきの商売が通用する時代 は終わった。
とくに我々のような中堅クラスの特積み 会社は、ネットワークの充実している大手に正面から ぶつかっても勝負にならない」 ――第一貨物は特積み事業と並行して比較的早い時 期から3PL事業の育成 に力を注いできました。
「3PLは文字通り個々のお客さんのニーズに合っ た物流の仕組みをオーダーメイドで提供していくサー ビスです。
一般に3PLでは輸配送ネットワークや倉 庫といった物流インフラを自社で抱えるよりも、お客 さんのニーズに応じてその都度最適な物流インフラを 調達・活用する、いわゆるノンアセット型が有利だと されている。
確かに減損会計の導入などが義務付けら れたこともあり、自社でインフラを維持することは物 流会社にとって財務的なリスクとなりつつあります」 「それでも当社はあえてアセットを持つことにこだわ って3PLを展開していくつもりです。
大手や物流子 会社、総合商社などがノンアセット型で攻め てくるの に対して、当社は彼らとは逆の発想、つまりアセット を持っていることを武器に勝負したい。
ただし、当社 の物流の仕組みにお客さんのニーズを当てはめてもら うという意味ではない。
お客さんのニーズに合わせて カスタマイズした物流システムを構築したうえで、例 えば特積みのネットワークに載る貨物があれば、それ は特積みで処理するといった具合に、汎用化できる部 分は徹底的に汎用化していくアプローチです」 ――お客さんからしてみれば、安いコストで時間通り に貨物が目的地に到着しさえすれば、輸送に特積みが 使われようが、貸し切りが利用 されようが、実はあま り関係がない。
「お客さんの関心事は約束したコストダウンを実現 できるのかといった結果のみです」 ――アセット型にこだわる理由は? 「トラック運送会社である以上、ドライバーや車両 を抱えて苦しいながらも事業を続けていくことに美学 を感じないといけない。
キザっぽく言えば、アセット 型にこだわるのはトラック運送会社の経営者としての ロマンです。
現業部分を他社にアウトソーシングする だけの物流会社は本来、物流会社とは言えないと思い ます。
オペレーションを任せていた会社がある日突然 消えてなくなったら、我々はもちろんお客さんも困っ てしまう。
日々のオペレーションの責任を担保すると い う意味からも、物流会社はある程度のアセットを自 社で持っておくべきです」――共同配送などを通じて区域に浸食された中ロット 貨物のマーケットを奪い返そうと、特積み会社が連携 して「ボックスチャーター事業」をスタートしました。
ヤマト主導で、その後日本通運や西濃運輸も加わった 同事業に、第一貨物も参画することになりました。
「当社はFC(フランチャイズ)として『ボックス チャーター』をセールスするほか、東北地区の南三県 (山形、宮城、福島)の配達業務を担当する予定です。
この商品に対してどのくらいのニーズがあるのかは未 知数ですが、サービスメニューの一つとして用意して おくべきだと判断しました。
過去 を振り返っても特積 み各社が連携して何か事業を成功させたという事例は 皆無に等しい。
それだけに今回の取り組みはきちんと 軌道にのせて、お客さんの期待に応えたいですね」 PROFILE むとう・ゆきのり 1967年慶應義塾大学商 学部卒。
ブリヂストンを経て太平興業に入社。
88年、第一貨物社長に就任。
日本路線トラ ック連盟会長などを歴任。
図 商業貨物をめぐる市場競争の変化 〈90年まで〉 〈90年以降〉 メーカー 卸 小売り 佐川急便 特積み(路線) 佐川急便 VS ヤマト 特積み 特積み VS 貸切り (共同配送) 特積み VS 佐川 VS ヤマト 貸切り (区域) 30 500 2,000 4,000 10,000 メーカー 卸 小売り 30 500 2,000 4,000 10,000 貨物のサイズ(kg) 貨物のサイズ(kg) 特積みマーケットに宅配と共配が攻め込んできた 貸切り (区域) 特 集

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