ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年7号
ケース
国分――物流拠点

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2005 28 稼動一年半でセンター機能を刷新 食品卸最大手・国分の物流は、変化への柔 軟な対応が身上だ。
同社にとって最先端の汎 用物流拠点である「神奈川流通センター」(神 奈川県厚木市)が、その姿勢を端的に象徴し ている。
このセンターは、稼働からわずか一 年半でおよそ半分のスペースを汎用型から専 用型に転用してしまった。
「神奈川流通センター」は、二〇〇三年九 月に座間と新厚木にあった二つの物流拠点を 統合して誕生した。
延べ床面積一万四四〇〇 平方メートルの庫内には、デジタルピッキン グシステムや無線ピッキングカート、無線ハ ンディターミナルなど、国分の汎用拠点とし ては最先端の機能が揃っている。
稼働時には 三十二企業・約八〇〇店の量販店とコンビニ エンスストアに対応する大型センターとして、 神奈川エリアを広く担っていた。
それが、一年余りで業務内容を大幅に見直 したのは、あるコンビニチェーンが施設から 出ていったからだ。
空いたスペースを埋める ため、国分は別の大手コンビニチェーンの専 用センターを誘致。
新しい荷主との折衝を昨 秋からスタートして、今年四月から五月中旬 にかけて段階的に新体制に移行した。
コンビニチェーンの中間流通を担うという 点では従来と変わらないが、汎用型か専用型 かで国分にとっての意味は大きく異なる。
セ ンター内の汎用エリアの商品が国分の資産で 変化に柔軟に対応する物流が強み 今年10月に次世代システムを稼働 創業300年近い老舗企業の国分は、典 型的な“日本の問屋”だ。
欧米流の理詰め の管理とは一線を画しながら、事業環境 の変化にしたたかに対応してきた。
最近 では取引先のニーズに応えるために物流 機能の高度化を進めている。
今年10月に 埼玉県八潮で稼働する大型汎用センター が、次世代施設のモデルになる。
国分 ――物流拠点 29 JULY 2005 あるのに対し、専用エリア内の商品は荷主やその取引先の資産だ。
同じ建物内でありなが ら同一商品を両エリアで保管しなければなら ず、スペース効率の悪化が避けられない。
新 体制に移行後、汎用部分で約九〇〇〇アイテ ム、専用部分で約四〇〇〇アイテムを扱って いる商品のうち、かなりのアイテムが重複し ている模様だ。
商品の所有権が異なるため、資産管理にも 気を使う。
現状ではセンター内の防火壁を汎 用エリアと専用エリアを隔てる境界としてい るが、これを閉め切ると風通りなど作業環境 が悪化してしまう。
こうした弊害を避けなが らセキュリティを高めるために、シャッター の部分に網(ネット)を張ることなども検討 中なのだという。
新たに誕生した専用エリアの管理は、国分 ではなく、荷主であるコンビニチェーンと契 約した物流事業者が手掛けているため、その 物流事業者の専用オフィスもセンター内に新 設した。
汎用センターの一部を専用センター に転用するためには、こうした新たなコスト 負担が避けられなかった。
しかも今回のセンター機能の見直しに際し て、既存の汎用センターは二四時間・三六五 日稼働で動かし続ける必要があった。
一部の 体制が変わるからといって、一日たりとも作 業を止めることはできない。
現場では、既存 業務の生産性を維持しながら、新たに専用セ ンターを立ち上げることが求められた。
「結局、作業を夜間に集中せざるをえなか った。
こうした時間帯に少しずつ全体のレイ アウトを変えていった。
スペースを作っては 商品を仮置きし、それによって空いたエリア で新しい機能を立ち上げるという作業の連続 だった」。
国分の高橋和仁神奈川流通センタ ー長はそう述懐する。
ライバルとは対照的な物流管理長らく食品卸業界のトップに君臨してきた 国分と、近年これを急追している業界二位の 菱食とでは、物流インフラに対する考え方が まるで違う。
菱食は九〇年代を通じ「RDC ―FDCネットワーク」と呼ぶ汎用型の物流 網の全国展開に取り組んできた。
物流を卸に とっての差別化要因として捉え、機能の高度 化に取り組んできた(本誌二〇〇四年十一月 号ケーススタディ参照)。
その菱食も時代の変化には逆らえず、九三 年から相鉄ローゼンとの一括物流を本格化す るなど専用センターの構築にも注力してきた。
もっとも、その際にも物流機能を武器に商流 を確保するという意識が強く、本音では、汎 現状で最先端の汎用センター 専用化した作業ラインの一部 汎用エリアのピッキング作業 1階で飲料をケースピッキング ■「神奈川流通センター」では半分を専用エリアに転用した 2階 1階 1、2階とも、この 部分を専用セン ターに転用した 国分の高橋和仁神奈川流通 センター長 用型の物流機能こそ卸が注力すべき役割と考 えてきたフシがある。
ある意味では、中間流 通の?あるべき姿〞を追求するのが、菱食の 一貫した姿勢といえる。
これに対して国分には、こうした分かりや すい物流ネットワークの展開方針が見当たら ない。
あくまでも顧客である小売業のそのと きどきのニーズに合わせて、自らの物流のあ り方を柔軟に変えていく。
よく言えば、欧米 流の?あるべき論〞に振り回されないのが国 分の物流に対する姿勢だ。
それだけに冒頭で述べた神奈川流通センタ ーの機能変更についても醒めた見方をしてい る。
「仕方のない話だ。
?お母さん倉庫〞を作 れば、そこから?子供〞がどんどん育ってい き独立していく。
そうなれば、また別の?子 供〞を入れて育てていけばいい。
それが私の 考えている汎用母船型の倉庫だ」と国分の物 流部門を統括する山本栄二取締役は語る。
こうした考え方には、国分が歩んできた歴 史が少なからず関係していると思われる。
一 七一二年に土浦に醤油製造工場を設けて創業 したときから、国分は東京(当時の江戸)の 日本橋に店舗を構えていた。
一八八〇年に食 品問屋として再出発するが、一九三一年には 日本橋に旧本社ビルを落成。
現在の本社ビル の所在地が「東京都中央区日本橋一の一の 一」であることでも分かるように、国分は常 に日本の商業の中心地で活動してきた。
いわ ば日本的な?商人〞を地で行く存在だ。
かつての国分は典型的な大卸だった。
多段 階の流通が一般的な日本において、大卸は、 卸に商品を販売してきた。
つまり自ら小売店 に商品を配るのではなく、二次卸や代行店に 任せてきた。
近年のチェーン小売業の急成長 を受けて、国分が小売店に直接、商品を届け る割合も格段に増えたが、長い時間に培われ た?体質〞は、そう簡単には変わらない。
菱食も、一九七九年に三菱商事系の食品 卸四社が合併してスタートした頃には、大卸 の体質を色濃く残していた。
それがどんどん 変化し、今や大半の商品を小売店に直接届け るようになっている。
だからこそローコスト で商品を配る仕組みが欠かせず、このニーズ が大規模な「RDC ―FDCネットワーク」 の構築にもつながった。
菱食がこのように変 化したのは、四半世紀前に合併によって誕生 したとき、まったく新しい仕組みづくりに取 り組んだことが大きかった。
国分も積極的にM&Aを進めてはきたが、 合併企業の多くは数十億円規模の卸。
地場の 卸が国分グループに加わったという関係が大 半だ。
主導権はあくまでも国分にあり、それ によって国分全体の仕組みを見直すことはな かった。
こうしたケースでは、情報システム こそ国分仕様に統一するが、物流拠点は合併 前のまま使い続けるのが一般的だった。
一〇月に次世代の汎用拠点を稼動 現在、国分の物流拠点は全国におよそ一七 〇カ所ある。
このうち専用センターが約五〇 カ所で、残り約一二〇カ所は専用センター以 外だ。
この一二〇カ所の中には神奈川流通セ ンターのような大型汎用センターもあれば、 グループ企業が商物一体で運営している倉庫 も含まれていて、全体を一つのネットワーク として管理しているわけではない。
そもそも従来の国分には、グループ全体の 物流を一元的に管理するという発想そのもの が希薄だった。
傘下のグループ企業が個別に 物流を手掛けてきただけでなく、国分本体の なかでも支店レベルで別々に物流を管理して きた。
しかし、この体制を二年前の組織変更 の頃から修正しはじめた。
二〇〇三年三月に国分は本社内に「物流 統括部」を発足した。
それまで管理本部に所 属していた物流部門を、営業本部の中に移管。
物流を営業と一体化して、なおかつ全国レベ ルで統括的に見ていく姿勢を打ち出した。
物 流統括部のスタッフは総勢二十数人の小所帯 のため、実務まで細かく管理することはでき ないが、以前の国分にはない変化だった。
さらに今年一月には、この物流統括部の中 JULY 2005 30 国分の山本栄二取締役物流 統括部長 31 JULY 2005 から、首都圏エリアだけを切り出して「首都 圏物流部」を発足。
首都圏に二六カ所あった 汎用拠点を統廃合して、一六カ所まで減らす 計画を推進している。
最大二万平方メートル 程度の大型汎用センターを四、五カ所作り、 これを補完する五〇〇〇平方メートル程度の センター一〇カ所余りで首都圏全域をカバー しようという構想である。
なかでも注目すべきは、今年一〇月に埼玉 県八潮市で稼動予定の大型汎用センターだ。
この施設で国分は、神奈川流通センターなど で培ってきた汎用拠点のノウハウを大幅に刷 新した「次期物流システム」を稼動する。
過 去には積極的に活用してこなかったマテハン をかなり導入し、同時に新たなWMS(倉庫 管理システム)も稼働させる。
山本取締役は八潮市の新センターの狙いを 次のように解説する。
「これまで当社の物流 は、労働集約的にやってきた面が多々あった。
それでも作業精度は高かったが、あくまでも 人に頼ったものでしかなかった。
今後はマテ ハンや情報システムを使って、人に頼らなく ても精度を担保できるようにしていく必要が ある。
一番のポイントは作業の標準化だ」 過去の国分の営業組織は、酒販系の支社、 量販店に対応する支社、コンビニエンス系の 支社という具合に、業態ごとに管理を分けて いた。
なかでも酒販系の支社は?商物一体〞 で動いていた面があった。
これを八潮の新セ ンターでは、物流を切り離して扱う。
さらに 二〇〇三年に業務提携した酒類卸の廣屋など、国分以外の企業の業務も取り込む。
ここで確 立したノウハウを、今後の大型汎用センター のモデルとして横展開していく計画だ。
専用センター向け「3OD」の将来 汎用センターとはまったく切り離して運用 している、専用センターの刷新も大きな課題 だ。
国分は九四年から「3OD」(One Order One Delivery )と称するコンセプトを掲げて、 専用センターを運用してきた。
これはドライ グロサリーや菓子、酒類の、一回のオーダー 分を一回の配送でまかなうというものだ。
日 用雑貨など国分が直接手掛けていない商品に ついてはTC(通過型)で処理する。
まだ明確な方針は決まっていないが、この コンセプトの刷新も国分にとっては大きな課 題だ。
「将来的にはエリア単位で複数企業の 物流を担える仕組みも検討したい。
企業同士 が競争をしている現状ではまだ無理だが、や はり五店舗ぐらいの小規模チェーンに対して はドミナント化して運ぶという方向性もあり えると考えている」(山本取締役) 実は「3OD」を掲げて専用センターの受 託を本格化した九〇年代後半の国分は、専用 型と汎用型とは別に?業態別センター〞とい う三タイプ目の物流拠点も展開していた。
こ のタイプの拠点は、量販店やコンビニエンス ストア向けといった業態に特化して複数の企 業を手掛ける。
かつては一〇〇〇平方メートル程度の小分 けエリアで、約八〇〇店(複数企業)のコン ビニをまかなう極めて生産性の高いセンター が存在した。
ところが、利用企業が次々に専 用センターを作って独立した結果、業態別セ ンターは事実上ほとんどなくなってしまった。
今では汎用型に飲み込まれた格好だ。
とは言 え、卸の存在意義を発揮しやすい物流拠点だ けに、専用センターの将来的なコンセプトと して再び展開することも考えられる。
また、国分の専用センターとしては、大手 取引先の西友(ウォルマート)が来夏に埼玉 県三郷市で稼動する大型センターからも目が 離せない。
国分は、この施設の構内作業を一 ■3OD(一括物流)システムの概要 取引先小売事業者 カテゴリー別 一括納品 発注・検収情報EDI 仕入確定情報伝送 発注 商品補充EDI 補充納品 ASN情報 納品(一括・店別) 発注情報 店 舗 3ODセンター DC機能 TC機能 DC取引先 TC取引先 JULY 2005 32 手に引き受けることが決まっている。
具体的 にどのような役割を担うのかはまだ公表され ていないが、同社の今後の物流に対する考え 方を見極めるうえで注目すべき施設だ。
寡占化の遅れた日本ならではの強み 多くの人たちにとって国分は、菱食などシ ステム志向の強い卸売事業者に追い上げられ ているだけの守旧勢力に見えるかもしれない。
だが現実は、そうではない。
たとえ国分が売 上高トップの座を競合他社に譲ることになっ たとしても、日本の流通に対する同社の影響 力は当面、弱まらないと思われる。
競合他社と比較したときの国分の強さは、 独立系(民族系)、老舗、オーナー系、非公 開企業といったキーワードに注目すると理解 しやすい。
現在の食品卸の売上上位企業の顔ぶれをみ ると、菱食や伊藤忠食品のように総合商社の 系列企業が目立つ。
大手小売りチェーンが大 手総合商社と関係を強化する動きも顕著で、中間流通から小売りに至るサプライチェーン の系列色が強まっている。
そうした中にあっ て独立独歩を貫く国分は、独立系であるがゆ えの強さを持っている。
小売業の世界では?帳合い〞という言葉が 一般的に使われている。
簡単に言えば、小売 事業者が、どこの卸(もしくは取引先)から 商品を仕入れるのかという取引関係を指す。
中間流通の機能が業種ごとに細分化されてい る日本では、大手量販店などは数百、数千も の帳合いを維持している。
地場の豆腐屋のように、特徴のある売場を 形成するうえで欠かせない取引先も少なくな い。
このため帳合いの数が多いこと自体が問 題なわけではないが、加工食品のように、ど こから仕入れても変わらない商品についても 複数の帳合いを維持しているケースが目立つ。
たとえば大手食品卸一社から仕入れれば済む ものを、あえて国分、菱食、伊藤忠食品など 複数卸から仕入れている。
取引先を集約した方がスケールメリットが 働きそうに思えるが、小売りの立場では、過 去からの付き合いや、複数の取引先を競わせ ることによる効果を捨てきれない。
このため、 ごく一部の例外を除けば、帳合いを一本化し ようとはしてこなかった。
もっとも最近では、経済合理性を追求する ために帳合いを集約しようという動きが強ま っているのも間違いない。
そしてこの場合に は、総合商社の系列色の強い卸同士を併存さ せるよりも、国分のような独立系と組み合わ せる傾向がある。
つまり国分の立場では、ある小売業にとっ てシェア一位の取引先に選ばれなくても、顧 客を満足させられる機能さえ持っていれば、 自分たちが完全に外される可能性は低いとい う読みが成り立つ。
ここに独立系で圧倒的な トップ企業の国分ならではの強みがある。
また、三〇〇年近い社歴を通じて培ってき た全国規模の商売のネットワークも競合他社 には真似できない。
国分は、地場の卸や、中 堅規模の小売事業者と強固なパートナーシッ プを築いている。
オーナー経営の多い中小食 品スーパーとの長年にわたる取引は、経済合 理性だけで説明できる関係ではない。
株式を公開する必要のない資本力も見逃せ ない。
国分は今年度、物流分野で約九〇億円 の投資を予定しているが、よほどの大型買収 でも考えない限り、今後も未公開企業のまま で困らないと思われる。
しかも国分一族が率 いるオーナー企業のため、いったん方針の変 更が決まれば一丸で進む強さがある。
現在の日本では、食品分野のプレイヤーの 寡占化が遅れている。
だからこそ国分のこう した強さが光る。
このような現実が変わらな い限り、国分の優位性も揺らぎそうにない。
国分は今後、物流分野でどのような手を打っ てくるのか。
まずは一〇月に稼働する八潮の 汎用拠点に注目したい。
(岡山宏之) ■大手食品卸の売上規模    企業名 売上高 系列 1 国分 13,221 独立 2 菱食 12,674 三菱商事 3 日本アクセス 8,171 伊藤忠商事 4 伊藤忠食品 5,361   〃 5 三井食品 ※5,221 三井物産 6 加藤産業 5,002 独立 (単位:億円) ※2005年3月期の目標値

購読案内広告案内