ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年8号
値段
日立物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2006 44 3PLが収益率改善に寄与 メリルリンチ日本証券では、日立物流の利 益成長ドライバーは引き続き「システム物流」 (=3PL事業)になると考えている。
同社 の過去三年間の営業利益は「システム物流」 の拡大が奏功して年率二一%の伸びを記録し た。
現在、「システム物流」の新形態として セールスを強化している「物流プラットフォ ーム」(業種別共同物流システム)事業によ る売り上げ増や、外注費の抑制などを見込め ることから、今後も利益拡大の余地はあると 見ている。
利益成長の原動力となったのは、?長年に わたる3PL事業での実績、?精緻なデータ の収集・分析能力やコスト管理能力、?トッ プマネジメントのリーダーシップ││などで あった。
親会社である日立製作所および日立 グループ各社の生産拠点が海外に移転するの に伴い、国内物流が低迷することを懸念し、 同社は早い時期から外販営業を強化。
同業他 社に先駆けて3PL事業を中心とした経営に 軸足を移した。
日本の産業界に3PLの概念 が浸透する以前の八〇年代後半から、外資系 メーカーの流通加工業務を受託するなど「シ ステム物流」の前身となる「トライネット」 事業に力を注いできたという経緯がある。
その後、一〇年以上にわたって「システム 物流」事業を展開することで習得した物流デ ータ(顧客や業種ごとの物流波動など)を活 用したローコストオペレーション体制の確立 や、本社機能のスリム化などを通じて、徹底 したコスト管理やコスト抑制を実践してきた。
これによって同社は物流品質と価格の両面で 同業他社に比べ優位なポジションに立ち、受 注拡大に成功した。
もともと「システム物流」で実績のあった 山本博巳社長のトップマネジメントの下、同 社は「システム物流」の拡販を進め、業界内 では「3PLの日立物流」として広く認知さ れるようになった。
その山本社長は今年六月 末の役員改選で相談役に退き、代わって鈴木 登夫氏が社長に就任した。
鈴木新体制には、 「システム物流」のさらなる収益率改善はも ちろん、同業他社に比べ相対的に出遅れてい る国際物流事業の売り上げ成長や、余剰キャッシュを活用した資本政策の転換などを期待 している。
強気の中計目標は達成可能か メリルリンチ日本証券では、日立物流の二 〇〇七年三月期の営業利益を前期比九・四% 増、同九・五億円増の一一一億円(売上高 営業利益率は〇・一ポイント増の三・七%) と予想している。
営業増益の要因は「システ ム物流」における既存顧客での増収、情報シ ステム部門の反動増(前期は評価損を計上) などであろう。
また、期中に「システム物流」 の新規案件の受託に漕ぎ着ければ、さらなる 利益の上積みが見込める。
第23回 土谷康仁 メリルリンチ日本証券 シニアアナリスト 日立物流 3PL事業が利益成長の原動力 余剰キャッシュの使い方が課題 日立物流の好業績を支えているのは3PL ビジネスだ。
3PLに経営の軸足を置くかぎ り、安定した利益成長が期待できる。
当面の テーマは余剰キャッシュをどう活用していく か。
市場では業界再編に向けてM&Aを積極 化することが期待されている。
45 AUGUST 2006 同社の短期業績は「システム物流」の安定 的な利益成長に支えられ、大きく変動しにく いことが特徴の一つである。
それが投資家に 安心感の持てる会社という印象を抱かせてい る。
ただし、中期的な利益成長ポテンシャル (潜在力)について言及すれば、同社の見通 しにはやや甘さがあるとの指摘も少なくない。
同社は今年四月に「二〇一〇年ビジョン」 を発表した。
その中で二〇一〇年度の経営目 標として売上高五〇〇〇億円(このうちM& Aなどで七〇〇億円)、営業利益二五〇億円 (営業利益率五・〇%)を掲げている。
また、 今後五年間の設備投資は過去五年間の累計 額である六四〇億円を大きく上回る一〇〇〇 億円を予定。
物流センター面積を二〇〇五年 度の六二万坪から一〇六万坪に拡張する計画 である。
二〇〇六年三月期実績は売上高二八五七 億円、営業利益一〇二億円だった。
これに対 して目標数値は売上高で実に一・八倍(年率 十二%成長)、営業利益で二・五倍(同二 〇%成長)の水準に相当する。
M&Aによる 増収、強気な設備投資計画、顧客ターゲット の多様化など成長要因は多いものの、現時点 では達成可能性について判断を下すのは困難 である。
日本の3PL市場ではここ数年、トラック 運送事業者をはじめコンサルティング会社な どの参入が相次いでいる。
プレーヤーの数が 増えて受注競争が激しくなってきたことを受 けて、市場で取引される3PLの料金は下落 傾向にある。
このような環境下でも、果たし て同社が3PLビジネスにおいて競争優位性 を維持し続けることができるのか。
それが懸 念材料の一つとなっている。
メリルリンチ日本証券ではこうした背景か ら、同社の営業利益が過去三年間は年率二 一%で成長したのに対して、今後三年間は年 率九%程度の伸びにとどまると見ている。
こ の予想に反するかたちで、同社がさらなる利 益成長を達成するためには、外注費を抑制す ることや、複数荷主の貨物を共同配送・共同 保管するため固定費の抑制につながる「物流 プラットフォーム」事業の強化が有効である と考えている。
「物流プラットフォーム」事業の売上規模 はまだまだ小さいものの、新規顧客の開拓は 順調に進んでいるように見受けられる。
今後 は設備投資と顧客件数増加による収益率改善 に着目していきたい。
業界再編に積極的な関与を もう一つの注目点は余剰キャッシュの活用 である。
一般にトラック運送会社の株主資本 比率は四〇〜五〇%と、海運の三〇%前後、 鉄道の一〇〜二〇%という水準に比べ相対的 に高い。
これに対して日立物流の場合、二〇 〇七年三月期には株主資本比率が六三%と 同業他社の水準を大きく上回ることが予想さ れている。
余剰キャッシュが生じているのは、これま で有効な投資案件が不足していたためと見ら れる。
今後は物流業界の再編に積極的に関与 すること、つまり余剰キャッシュをM&Aな どに振り向けていくことに期待したい。
トラック運送業界におけるM&Aには、労 働集約型産業であるため雇用者増加が人件費 負担増につながったり、組織風土の違いから経営統合が難しいといった課題がある。
実際、 過去に成功例はほとんどない。
それだけに、 同社が優位な立場をキープできる、あるいは 顧客層が重複しない異業種との連携などを進 め、業界再編の中での新機軸を作り出してほ しいものである。
日立物流の過去10年間の株価推移

購読案内広告案内