ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2006年8号
特集
ICタブはどこまでいたか UHF帯ICタグの活用と課題

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2006 26 UHF帯電子タグの基本性能 日通総研では、UHF帯電子タグの基本的 な読取性能を確認するための実験を行った。
な お実験においては、読取距離(指向性が異な る二種類のアンテナとサイズが異なる二種類 の電子タグを組み合わせた)、電子タグを貼り 付ける対象物による読取性能、複数枚の電子 タグの一括読取性能――などの確認を行った。
また、実験を行った環境は電波暗室などの特 殊な環境ではないため、電波の反射や干渉な どの影響が含まれている。
■実験結果の概要■ ?アンテナと電子タグの組み合わせにより、最 大読取距離は一・五メートル〜四メートル 程度と変化する。
?アンテナ中心から直径一メートル程度の範 囲に位置する電子タグを読み取ることが可 能である。
?読取可能と想定される範囲内において、読 み取りができないポイントが断続的に発生 する。
?水や金属などを含む商品に電子タグを貼り 付けた場合、読取距離が短くなるなど読取 性能が著しく低下する。
?紙、木、プラスチックを遮蔽物とした時の 読取性能の低下はあまりみられず、段ボー ルなどの梱包資材による影響は少ない。
?人が歩く程度の速度であれば、二〇〜三〇 枚程度の電子タグを一括して読み取ること は可能である。
ただし、移動速度や電子タ グとアンテナの向きによっては、読取精度 は大きく変化する。
これらの実験結果から以下のような現状の 総括、評価ができると思われる。
第一に「読取距離」に関しては、UHF帯 電子タグは他の周波数帯の電子タグと比較す ると長くなっており、読取距離が必要な場面 においては優位性がある。
ただし、読取距離はアンテナの種類や電子 タグのサイズ、アンテナと電子タグの角度、な どにより大きく異なってくるため、実際に利 用する場面にマッチしたアンテナと電子タグの 選択が必要である。
第二に「読取範囲」に関しては、部分的に 電子タグの読み取りができないポイント(ヌル 点)が発生することがあり、また対象以外の 電子タグを読み取る場合もある。
これは床や壁あるいは周囲に存在する物体による電波の 反射や干渉によるものである。
実際の利用場面においては、電子タグを貼 り付けた商品とアンテナとの距離によっては、 読取漏れが発生する可能性があり、アンテナ の数や向き、アンテナの位置などを工夫する 必要がある。
第三に「金属による電波の反射や水分によ る電波の吸収」に関しては、UHF帯の電子 タグといえども避けられないものであり、金属 製品や食品などの水分を含む商品への利用を 検討する場合には、読取可能距離を十分に把 握する必要がある。
第四に「電子タグの一括読取性能」に関し UHF帯ICタグの活用と課題 UHF帯電子タグ(ICタグ)は読取距離や読取範囲、複数 同時読取性能の面で優位性がある。
そのため、物流分野で の導入が期待されている。
ただし、依然として読取精度な どに課題が残されたままだ。
こうした問題をどうやって克 服していくかが普及のカギとなる。
日通総合研究所 27 AUGUST 2006 ては、数十枚の電子タグを数秒間のうちに読 み取ることができる性能があることは確認され た。
しかしながら、移動速度が速くなると読 取漏れが発生することもあり、読取装置や電 子タグの性能だけでなく、アプリケーション側 でも対応が必要となるものと考えられる。
UHF帯電子タグに関する動向 UHF帯電子タグについては、二〇〇五年 四月に総務省が省令を改正したことにより、九 五二〜九五四メガヘルツの周波数帯の電波を 電子タグに利用することが認められた。
?構 内無線局の免許が必要であり、無線設備の常 置場所を届け出ること、?複数の電子タグ読 取措置から発信される電波の混信を防ぐ共用 化技術の基準が定められていないこと――な どの条件はあるものの、日本国内におけるU HF帯電子タグの実用化についての第一歩と なった。
さらに、二〇〇六年三月の省令改正により、 実用化に向けてさらに一歩踏み出すものとな った。
改正内容についての大きなポイントは 二つである。
一つ目は「共用化技術」の技術 条件が定められたことである。
これにより電子 タグの利用が想定される倉庫や物流センター などの現場において、複数の電子タグ読取装 置を設置することが可能になった。
二つ目は、低出力型電子タグ読取装置に関 する技術条件が定められたことである。
低出 力型(10mW)電子タグ読取装置については 構内無線局の免許が不要となるため、場所を 移動して使用するドライバー端末(ハンディ ターミナル)などへの利用も可能となった。
これらのUHF帯電子タグに関する省令改 正を受けて、日本国内においてもUHF帯電 子タグ関連機器の本格的な製品出荷が複数のメーカーから開始されるものとみられている。
またコスト面については、経済産業省が現 在推進している「響(ひびき)プロジェクト」 の成果が待たれるところである。
同プロジェク トはUHF帯電子タグのコストを一枚五円(電 子タグインレット:ICチップとアンテナを樹 脂フィルムにてパッケージした状態)とするこ とを目指しており、すでに試作品が公開され るなど本年中にもその成果が公表される予定 である。
物流業務への電子タグ利用の動向 電子タグとは、商品などの情報を記録した ICチップをつけて、電波や磁気で情報を読 み取るものであり、荷物や商品に取り付けて 識別するための荷札(タグ)として活用され る。
電子タグは、物流や流通における業務の 省力化・効率化、商品管理精度の向上、消費 者に商品情報を提供するためのトレーサビリ ティなどに役立つものとして期待されている。
電子タグは情報を読み取るために使用する 電波の周波数帯により、読取性能においてそ れぞれ異なる特徴がある。
日本国内で利用可 能な電子タグは主に四種類であり、?中波帯 (一二〇〜一三〇キロヘルツ)?短波帯(十 三・五六メガヘルツ)?UHF帯(九五二〜 九五五メガヘルツ)?マイクロ波帯(二・四 五ギガヘルツ)である。
中でも、UHF帯電子タグは読取距離が長 いこと、複数同時読取性能に優れていること、 などから物流分野に適しているものとして注 目を集めている。
短波帯の電子タグは、読取 範囲は広いが、読取距離は最大でも一メート ル程度である。
また、マイクロ波帯の電子タ グは、読取距離は一メートル以上であるが、電 波の直進性が強く広範囲に読み取ることはで きない。
UHF帯電子タグは、前記の二種類のタグ と比較して、読取距離と読取範囲において優 位性があり、一括読取性能の活用を含めて物 流分野での利用が期待されているが、その性 能は今回の実験でも確認することができた。
UHF帯電子タグは、すでに米国では大手 小売業ウォルマート社が検品や商品管理など の業務において導入を開始しており、国際的 にも物流業務における商品管理においてUH F帯電子タグを採用する動きが進んでいる。
日 本国内においても物流関連業務への活用事例 も出てきている。
ヨドバシカメラは入荷検品業務においてU HF帯電子タグを利用し、入荷検品業務の効 率化およびデータ管理精度の向上などを目指 している。
また、日通商事においては、輸出 梱包業務にUHF帯電子タグを採用しており、 出荷検品業務の効率化および検品精度の向上 などを目的として利用している。
UHF帯電 子タグの導入は、入荷(出荷)検品などの物 流関連業務における導入事例からもうかがえ るように、今後は日本国内においても増加し てくるものと予想される。
AUGUST 2006 28 UHF帯電子タグ活用への期待と課題 現在の物流現場では、商品や荷物の識別に おいてはバーコードの利用が主流となっている。
商品に付けられたJANコードや、カートン・ ケースに印刷されたITFコードなどは、入 出荷検品などの業務においても商品の識別に 利用されている。
また、宅配貨物などの送り 状には輸送履歴を把握するための固有の送り 状番号が付けられており、バーコードとして印 刷されている。
現在の商品識別の主流であるバーコードに 対して電子タグは以下のようなメリットが考 えられる。
・非接触による自動認識が可能 ・遮蔽物を透過して識別が可能 ・複数一括読取が可能 ・汚れやかすれに強く悪環境(耐水、耐油、耐 汚れ)でも動作可能 ・電子タグ一枚ごとに異なる識別番号を付与 することが可能 ・データの書き換えが可能 これらの電子タグのメリットを活かした、物 流分野における一括検品・在庫管理・資材管 理・ロケーション管理、通過履歴管理などの 業務における省力化・効率化の推進、SCM における商品の個体管理やシステム全体をま たがる一連のデータキャリアとしての利用など に大きな期待が寄せられている。
物流業務におけるUHF帯電子タグの活用 分野としては、パレット・ロールボックス・オ リコンなどのリターナブル容器など繰り返し利 用される輸送用資機材への活用が想定される。
これらの輸送用資機材に電子タグを取り付け ることにより、輸送用資機材の所在管理だけ でなく、輸送商品情報との紐付けによる商品 管理・輸送履歴管理への適用が可能となる。
また、電子タグの一括読取性能を利用し、パ レット積みされた商品のカートンなどに電子タ グを取り付けることにより、入荷時あるいは 出荷時における一括読取により検品業務の効 率化・省力化が可能になる。
いずれの場合に おいても、単なるバーコードとの置き換えだけ ではメリットが少ないため、データを有効活用 するアプリケーションの構築と電子タグの特 徴を活かした業務の見直しや再構築が必要と なろう。
しかしながら、物流現場での活用について は、実験の結果にも示しているように、いくつ かの技術的な課題を解決する必要がある。
第一の課題としては、電波の反射や干渉に より電子タグの読み取りが不安定になる現象 の解決が必要である。
想定している範囲内に おいても読み取りができない現状や対象外の 電子タグを読み取る現象は、商品や貨物の識 別精度を低下させるものであり、実用化に大 きな影響を与えるものである。
第二の課題としては、金属や水などを利用 した商品の読取性能低下への対策が必要であ る。
対象とする商品によっては電子タグを活 用することが困難となる。
しかしながら、電波 と素材という物理特性によるものであり、根 本的な解決は困難であるため、技術的な解決 だけでなく、利用者サイドにおける運用面で の対応が必要となる。
第三の課題としては、複数の読取装置を同 時に稼働する場合に必要となる「共用化技術」 の有効性の評価が必要である。
「共用化技術」 により電波の混信は防げるものとされているが、 「共用化技術」の導入により読取性能が低下す るなどの影響の有無が現時点で明確にはなっ ていないので、「共用化技術」に対応した製品 の動向に注目する必要がある。
第四の課題としては、低価格の電子タグが 求められていることである。
現時点では電子 タグのコストは一枚当たり数十円という水準 であり、コスト負担力のある商品への装着あ るいは再利用可能な場面に利用が限定される ことである。
物流業務全般へのUHF帯電子タグの導入については、なお解決すべき課題は残されてお り、全ての技術的課題の克服は現状では難し い。
しかしながら、現状においては運用形態 によりケース・バイ・ケースでそのメリットを 発揮しうる場面が想定されるため、個別的な 応用を通して全体的な利用拡大を目指してい くことが、現実的なUHF帯電子タグへの対 応と考えられる。
本稿は二〇〇六年七月に発行された「日通総 研ロジスティクスレポート(NO.4)」に掲載され たレポートを同社の許可を得て掲載したものです。

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